突然の腹痛や血便といった症状が現れる出血性腸炎。大腸からの出血を特徴とする疾患です。
出血性腸炎、あるいは出血性大腸炎とも呼ばれるこの病気は、適切な知識と迅速な対応が求められます。
この記事では、出血性腸炎の症状、原因、検査、治療法、そして日常生活での注意点について、詳しく解説します。
出血性腸炎とはどのような病気か
出血性腸炎は、主に大腸の粘膜に出血や炎症が生じる病気です。多くの場合、突然発症し、腹痛や血便などの症状を起こします。
この病名は、症状の印象から名付けられた側面があり、医学的には感染性腸炎や虚血性大腸炎など、原因によって細かく分類される疾患群の一部です。
出血性腸炎の基本的な定義
出血性腸炎は、大腸粘膜における急性の炎症と出血を主徴とする症候群を指し、主な出血は下部消化管である大腸から起こり、血便として現れます。
原因は多岐にわたりますが、細菌感染や薬剤性、血流障害などが考えられます。適切な診断と原因に応じた治療が重要です。
下血と血便の違いについて
肛門から血液が出てくる消化管出血の症状として下血と血便があり、主に出血部位によって区別します。
下血は肛門からの血液の排出の総称として使われる場合もありますが、一般的には食道、胃、十二指腸といった上部消化管からの出血をさします。一方血便は小腸や大腸といった下部消化管からの出血が肛門から排出されるものです。
出血性腸炎は主に大腸からの出血であるため、血便が主な症状となります。
出血部位による便の色の変化
出血部位 | 便の色・性状 | 主な原因疾患例 |
---|---|---|
上部消化管(胃・十二指腸など) | 黒色便(タール便)、吐血 | 胃潰瘍、十二指腸潰瘍 |
小腸 | 暗赤色便、黒色便 | 小腸腫瘍、メッケル憩室 |
大腸 | 鮮血便、暗赤色便 | 吐血性腸炎、大腸がん、潰瘍性大腸炎 |
腸炎が起こる部位と特徴
出血性腸炎における炎症の多くは、大腸、特にS状結腸や下行結腸に好発し、便が滞留しやすく、細菌感染の影響を受けやすいことや、血流が比較的乏しい領域であることが関係していると考えられます。
炎症の範囲や程度によって、症状の強さや出血量が異なり、広範囲に炎症が及ぶと、より重篤な症状を呈することがあります。
出血性腸炎を引き起こす主な原因
出血性腸炎の発症には、様々な要因が関与していて、原因を特定することは、治療法を選択する上で非常に重要です。主な原因としては、細菌やウイルスによる感染、特定の薬剤の使用、そして大腸の血流障害などが挙げられます。
細菌やウイルスによる感染
食中毒の原因となる細菌やウイルスが、出血性腸炎を引き起こす代表的な原因です。病原体が腸管内で増殖し、毒素を産生することで、腸粘膜に炎症やびらん(ただれ)、潰瘍を形成し、出血を伴うことがあります。
特に、腸管出血性大腸菌(O157など)、カンピロバクター、サルモネラ菌などが原因菌としてよく知られていて、ウイルス性ではノロウイルスなどがあります。
代表的な原因菌とウイルス
原因微生物 | 主な感染経路 | 特徴的な症状 |
---|---|---|
腸管出血性大腸菌(O157など) | 汚染された食肉(特に牛肉)、生野菜 | 激しい腹痛、水様性下痢、血便、HUS(溶血性尿毒症症候群)のリスク |
カンピロバクター | 加熱不十分な鶏肉、飲料水 | 発熱、腹痛、下痢(粘血便を伴うことあり)、ギラン・バレー症候群のリスク |
サルモネラ属菌 | 鶏卵、食肉、ペット(爬虫類など) | 発熱、腹痛、嘔吐、下痢(時に血便) |
ノロウイルス | カキなどの二枚貝(生食)、感染者の吐物・便 | 突発的な嘔吐、下痢、腹痛、発熱 |
感染性腸炎は、時に集団発生することもあり、食品の取り扱いや衛生管理が重要です。
薬剤の副作用による影響
特定の薬剤、特に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や一部の抗生物質などが、副作用として腸炎を起こし、出血を伴うことがあります。NSAIDsは、胃だけでなく腸の粘膜も障害する可能性があり、長期服用や高齢者では注意が必要です。
抗生物質は、腸内細菌叢のバランスを崩し、特定の菌(クロストリジウム・ディフィシルなど)の異常増殖を招くことで偽膜性腸炎という特殊な腸炎を起こすことがあり、吐血性腸炎の一因となり得ます。
虚血性腸炎との関連
虚血性腸炎は、大腸への血流が一時的に悪化することで、腸粘膜に炎症や壊死が生じる病気です。
高齢者や動脈硬化、糖尿病、便秘などの基礎疾患を持つ人に多く見られ、突然の腹痛とそれに続く下痢、血便が特徴的な症状で、出血性腸炎の症状と非常に似ています。
虚血性腸炎も出血性腸炎という広い枠組みの中で捉えられることがあり、特に左側結腸に好発します。
虚血性腸炎のリスク因子
- 高齢
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 慢性的な便秘
その他の稀な原因
稀な原因として、放射線治療の晩期合併症としての放射線性腸炎、特定の膠原病に伴う血管炎、アレルギー性の腸炎などが出血性腸炎の症状を呈することがあります。
また、大腸憩室からの出血や、大腸がん、ポリープなどの腫瘍性疾患も血便の原因となるため、鑑別が重要です。
出血性腸炎の代表的な症状
出血性腸炎の症状は、原因や炎症の程度、範囲によって異なりますが、いくつかの共通してみられる代表的な症状があります。症状に気づいた場合は、自己判断せずに医療機関を受診することが大切です。
突然の腹痛とその特徴
多くの場合、出血性腸炎は突然の腹痛で発症し、腹痛の部位は、炎症が起きている大腸の場所によって異なり、下腹部痛、特に左下腹部痛が多い傾向にあります。
痛みは、持続的な鈍痛から、間欠的に強まる疝痛(さしこむような痛み)まで様々です。排便によって一時的に痛みが和らぐこともありますが、根本的な解決にはなりません。
鮮血便や血性下痢
腹痛に続いて、あるいはほぼ同時に、血便や血性下痢が現れることが出血性腸炎の最も特徴的な症状です。
出血部位が大腸であるため、血液は比較的鮮やかな赤色(鮮血)であることが多いですが、出血量や腸管内での滞留時間によっては暗赤色になることもあります。
便全体に血液が混じる場合や、便の表面に血液が付着する場合、あるいは血液のみが排出される場合など、性状は多様です。
便の色や性状の変化に注意
便の状態 | 考えられる出血の状況 | 吐血性腸炎との関連 |
---|---|---|
鮮紅色の血液が混じる便 | 肛門に近い大腸下部からの出血 | 典型的 |
暗赤色の血液が混じる便 | 大腸上部や小腸からの出血、または大腸下部でも出血量が多い場合 | あり得る |
粘液と血液が混じる便(粘血便) | 腸粘膜の炎症が強い場合 | 感染性腸炎などで見られる |
発熱や吐き気、嘔吐
感染性の出血性腸炎の場合、発熱を伴うことがよくあり、38度以上の高熱が出ることもあり、全身の倦怠感を伴います。
また、腸の炎症や刺激により、吐き気や嘔吐といった症状が現れることもあり、症状は、脱水を起こす原因ともなるため注意が必要です。
全身症状としての倦怠感や脱水
下痢や嘔吐、発熱が続くと、体内の水分や電解質が失われ、脱水状態になることがあり、脱水は、口の渇き、尿量の減少、皮膚の乾燥、めまい、立ちくらみなどの症状を引き起こし、重症化すると意識障害に至ることもあります。
また、炎症や出血による貧血、栄養吸収の低下などから、強い倦怠感や疲労感を覚えることもあります。
出血性腸炎の症状、特に急な腹痛と血便が見られた場合は、軽視せずに速やかに医療機関を受診してください。
出血性腸炎が疑われる場合の検査と診断
出血性腸炎が疑われる場合、医療機関では症状や経過を詳しく聞き取る問診に加え、原因を特定し、治療法を決定するためにいくつかの検査を行います。出血性大腸炎の診断においても同様のプロセスを踏みます。
問診で確認する重要な情報
医師はまず、患者さんから症状について詳しく聞き取ります。
いつから、どのような症状(腹痛の部位や性質、血便の色や量、回数、発熱の有無など)が現れたのか、症状の経過、食事内容、最近の海外渡航歴、服用中の薬剤、既往歴、アレルギーの有無などを確認します。
問診で伝えるべきポイント
- 症状が始まった正確な日時
- 腹痛の場所、痛みの種類、強さの変化
- 便の色、量、回数、血液の混じり方
- 発熱、嘔吐、吐き気の有無とその程度
- 症状が出る前に食べたもの(特に生ものや加熱不十分なもの)
- 最近の旅行歴(特に海外)
- 服用している薬(市販薬、サプリメントも含む)
- 過去にかかったことのある病気や手術歴
血液検査でわかること
血液検査は、全身の状態を把握し、炎症の程度や貧血の有無、脱水の兆候、腎機能などを評価するために行い、白血球数やCRP(C反応性タンパク)の上昇は炎症の存在を示唆し、赤血球数やヘモグロビン値の低下は出血による貧血を示します。
また、原因によっては特定の抗体価を調べることもあります。
血液検査の主な評価項目
検査項目 | 評価する内容 | 吐血性腸炎での変動例 |
---|---|---|
白血球数 (WBC) | 炎症や感染の指標 | 感染性の場合に上昇しやすい |
CRP (C反応性タンパク) | 炎症の強さの指標 | 炎症が強い場合に高値を示す |
ヘモグロビン (Hb) | 貧血の指標 | 出血が多い場合に低下する |
電解質 (Na, K, Cl) | 脱水の評価 | 下痢や嘔吐で異常値を示すことがある |
便検査の目的と内容
便検査は、出血性腸炎の原因特定、特に感染性腸炎が疑われる場合に重要です。便中の細菌培養検査を行い、原因となる細菌(カンピロバクター、サルモネラ菌、腸管出血性大腸菌など)を特定します。
また、ノロウイルスなどのウイルス抗原検査や、特定の毒素(腸管出血性大腸菌のベロ毒素など)を検出する検査も行われることがあり、潜血反応だけでなく、便中の白血球の有無も炎症の指標です。
大腸内視鏡検査(下部消化管内視鏡検査)の重要性
大腸内視鏡検査は、肛門から内視鏡を挿入し、直腸から盲腸までの大腸全体の粘膜を直接観察する検査です。吐血性腸炎の診断において非常に有用で、炎症の部位、範囲、程度を正確に評価できます。
出血部位の確認や、必要に応じて組織の一部を採取(生検)して病理検査を行うことで、確定診断や他の疾患(大腸がん、潰瘍性大腸炎など)との鑑別に役立ちます。
ただし、症状が非常に強い急性期には、穿孔のリスクなどを考慮し、実施時期を慎重に判断します。
出血性腸炎の治療方法について
出血性腸炎の治療は、原因、症状の重症度、患者さんの全身状態などを総合的に判断して決定します。基本的には、腸管を安静に保ち、水分や電解質を補給し、症状を和らげる対症療法が中心です。
安静と水分補給の基本
軽症の場合は、自宅での安静と経口での水分補給が基本です。
スポーツドリンクや経口補水液など、電解質をバランス良く含んだ飲料が推奨され、食事は、消化の良いものから少量ずつ開始し、徐々に通常の食事に戻していきます。刺激物や脂肪の多い食事は避けましょう。
絶食による腸管安静
症状が強い場合や、嘔吐が続く場合、出血が多い場合には、一時的に食事を中止し(絶食)、腸管を休ませることが必要です。
絶食中は、点滴によって水分や栄養を補給し、腸の炎症を鎮め、回復を促します。絶食の期間は、症状の改善具合を見ながら医師が判断します。
薬物療法の内容
症状を緩和したり、原因を除去したりするために薬物療法を行います。使用する薬剤は、原因や症状によって異なります。
抗菌薬の使用
細菌感染が原因であると特定された場合、または強く疑われる場合には、抗菌薬(抗生物質)を使用し、原因菌の種類や薬剤感受性を考慮して、抗菌薬を選択します。ただし、ウイルス性腸炎には抗菌薬は効果がありません。
また、腸管出血性大腸菌感染症の一部では、抗菌薬の使用が症状を悪化させる可能性も指摘されており、慎重な判断が必要です。
整腸剤や止痢剤
腸内細菌叢のバランスを整えるために整腸剤を使用することがあります。下痢止め(止痢剤)については、細菌や毒素の排出を妨げる可能性があるため、特に感染性腸炎が疑われる場合には慎重に使用します。
自己判断での使用は避け、医師の指示に従うことが大切です。
鎮痙剤や解熱鎮痛剤
腹痛に対しては鎮痙剤、発熱や頭痛に対しては解熱鎮痛剤を使用することがありますが、症状を一時的に抑えるものであり、根本的な治療ではありません。
特に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、腸粘膜障害を悪化させる可能性があるため、使用には注意が必要です。
薬剤治療の選択肢
薬剤の種類 | 主な目的 | 使用時の注意点 |
---|---|---|
抗菌薬 | 原因菌の除去 | 原因菌の特定、薬剤耐性、副作用 |
整腸剤 | 腸内環境の改善 | 比較的副作用は少ない |
止痢剤 | 下痢症状の緩和 | 感染性腸炎では慎重投与 |
鎮痙剤 | 腹痛の緩和 | 対症療法であり原因治療ではない |
入院治療が必要となるケース
以下のような場合には、入院による治療が必要となることがあります。
- 脱水症状が強く、経口での水分補給が困難な場合
- 出血が多く、貧血が進行している場合
- 高熱が続く、または全身状態が悪い場合
- 激しい腹痛が持続する場合
- 高齢者や乳幼児、基礎疾患を持つ人で重症化のリスクが高い場合
- 腸管出血性大腸菌感染症などで、合併症(HUSなど)のリスクがある場合
入院治療では、点滴による水分・栄養補給、厳重な経過観察、必要に応じた集中的な治療を行い、医師が入院の必要性を判断した場合は、その指示に従うことが重要です。
出血性腸炎の予防と日常生活における注意点
出血性腸炎、特に感染性のものは、日常生活での注意によってある程度予防することが可能で、また、再発を防ぐためにも、日頃からの心がけが大切です。出血性大腸炎の予防についても共通する点が多くあります。
食中毒予防の基本的な考え方
食中毒は出血性腸炎の大きな原因の一つで、食中毒予防の三原則、つけない・増やさない・やっつける、を意識することが重要です。
食品の適切な取り扱い
- 購入した食品(特に肉や魚などの生鮮食品)は、速やかに冷蔵庫や冷凍庫で保存する。
- 調理前や生肉・生魚・卵を触った後、食事の前、トイレの後には、石鹸で丁寧に手を洗う。
- 生の肉や魚を切った包丁やまな板は、使用後すぐに洗い、熱湯消毒や漂白剤で消毒する。他の食材への交差汚染を防ぐ。
- 野菜もよく洗う。
十分な加熱調理
多くの食中毒菌は熱に弱いため、食品の中心部まで十分に加熱することが予防に繋がり、特に肉料理は、中心部の温度が75℃で1分間以上加熱することが目安です。
調理済みの食品を保存する場合は、室温に長時間放置せず、速やかに冷蔵庫に入れ、再加熱する際も十分に温めましょう。
食中毒予防のための加熱温度目安
食品・調理 | 推奨される中心温度 | 加熱時間目安 |
---|---|---|
肉類(ハンバーグなど) | 75℃以上 | 1分間以上 |
二枚貝(カキなど) | 85~90℃ | 90秒間以上 |
魚介類 | 中心部まで火が通る | – |
手洗いの徹底と衛生管理
手洗いは、感染予防の基本中の基本です。外出先から帰宅した時、調理や食事の前、トイレの後、動物に触れた後などは、石鹸と流水で丁寧に手を洗いましょう。アルコールベースの手指消毒剤も有効です。
また、キッチン周りの衛生管理も重要で、調理器具やふきん、スポンジなどを清潔に保つことを心がけます。
薬剤性の腸炎を避けるために
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの薬剤を服用する際は、医師や薬剤師の指示をよく守り、自己判断で長期間使用したり、量を増やさないようにしましょう。胃腸が弱い方や高齢者の方は、事前に医師に相談することが大切です。
抗生物質を服用する際は、処方された期間、用法・用量を守り、途中で勝手に中止しないでください。
ストレス管理と免疫力の維持
過度なストレスや疲労は、免疫力を低下させ、感染症にかかりやすくなる可能性があります。十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけ、ストレスを溜め込まないように工夫することも、間接的に出血性腸炎の予防に繋がります。
規則正しい生活習慣を維持し、体の抵抗力を高めることが重要です。
出血性腸炎と症状が似ている他の消化器疾患
出血性腸炎の症状である腹痛や血便は、他の様々な消化器疾患でも見られることがあり、正確な診断のためには、鑑別が重要です。
潰瘍性大腸炎との違い
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびまん性の炎症や潰瘍が生じる原因不明の慢性疾患です。症状として、持続的な下痢、粘血便、腹痛などがあり、吐血性腸炎と似ています。
しかし、潰瘍性大腸炎は慢性的に再燃と寛解を繰り返す点が特徴で、多くは直腸から連続的に口側へ広がる炎症が見られ、診断には大腸内視鏡検査と生検が不可欠です。
クローン病との比較
クローン病も原因不明の慢性炎症性腸疾患ですが、消化管のどの部位にも炎症が起こりうる点が潰瘍性大腸炎と異なり、口腔から肛門まで、非連続的に深い潰瘍(縦走潰瘍や敷石像)を形成することが特徴です。
腹痛、下痢、血便、体重減少、発熱などの症状が見られ、診断には内視鏡検査、画像検査、生検などを総合的に判断します。
炎症性腸疾患の比較
特徴 | 出血性腸炎(主に感染性・虚血性) | 潰瘍性大腸炎 | クローン病 |
---|---|---|---|
発症様式 | 急性 | 慢性(再燃・寛解) | 慢性(再燃・寛解) |
主な病変部位 | 大腸(左側結腸が多い) | 大腸(直腸から連続性) | 全消化管(非連続性) |
主な症状 | 腹痛、血便、発熱 | 粘血便、下痢、腹痛 | 腹痛、下痢、体重減少 |
虚血性大腸炎との鑑別点
虚血性大腸炎は、前述の通り出血性腸炎の一因ともなり得ますが、感染性腸炎などとは原因が異なります。
高齢者、動脈硬化の基礎疾患を持つ人に多く、突然の強い腹痛で発症し、その後排便があり、続いて血便が見られるという典型的な経過をたどることがあります。
大腸内視鏡検査では、特徴的な区域性の粘膜虚血所見(縦走する発赤やびらん、蒼白な浮腫状粘膜など)が確認できます。
症状発現の様子の違い
- 虚血性大腸炎: 突然の腹痛 → 排便 → 血便
- 感染性腸炎: 下痢、腹痛、発熱が先行または同時に出現し、その後血便が見られることがある
ただし、非典型的な経過をたどることも多く、総合的な判断が必要です。
大腸がんや大腸ポリープの可能性
血便は、大腸がんや大腸ポリープといった腫瘍性疾患のサインである可能性も考慮しなければなりません。このような疾患による出血は、少量で持続的な場合が多く、便潜血検査で陽性となることがあります。
出血性腸炎のような急性の激しい症状を伴うことは比較的少ないですが、急性腸炎の症状によって腫瘍からの出血が隠れたり、偶然合併したりすることもあります。
大腸内視鏡検査は、これらの疾患の早期発見にも繋がるため、特に40歳以上の方や血縁者に大腸がんの既往がある方は、定期的な検診も検討しましょう。
よくある質問 (Q&A)
出血性腸炎に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。ただし、個々の状況によって対応が異なる場合があるため、具体的な治療や判断については、必ず医師にご相談ください。
- 出血性腸炎は自然に治りますか。
-
軽症の感染性腸炎や一過性の虚血性腸炎の場合、安静と適切な水分補給、食事療法で自然に軽快することもあります。
しかし、症状が強い場合や、細菌感染の種類によっては抗菌薬が必要な場合、あるいは重症化するリスクがある場合は、医療機関での適切な治療が必要です。
自己判断せずに、血便や強い腹痛がある場合は医療機関を受診してください。
- 出血性腸炎は他の人にうつりますか。
-
出血性腸炎の原因が細菌やウイルスなどの感染によるものである場合、感染源となった病原体は糞口感染(便の中に排出された病原体が、何らかの経路で口に入り感染する)などで他の人にうつる可能性があります。
特にノロウイルスや腸管出血性大腸菌などは感染力が強いため、家庭内や集団生活の場では、手洗いの徹底、タオルの共用を避ける、患者さんの便や吐物の適切な処理などの感染対策が重要です。
- 出血性腸炎を繰り返さないためにはどうすれば良いですか。
-
原因によって異なり、感染性の場合は、食中毒予防の基本(十分な加熱、手洗い、衛生管理)を徹底することが最も重要です。
薬剤性が原因であった場合は、原因薬剤の使用について医師とよく相談し、代替薬の検討や必要最小限の使用に留めるなどの対策が必要です。
虚血性腸炎の場合は、基礎疾患(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)の管理や、便秘の改善、禁煙などが再発予防に繋がります。
- 食事はいつから普通に戻せますか。
-
症状が改善し、医師の許可が出てから、消化の良いもの(おかゆ、うどん、白身魚、豆腐など)から少量ずつ開始します。下痢や腹痛が再燃しないか様子を見ながら、徐々に食事の量や種類を増やしていきます。
脂肪の多い食事、香辛料などの刺激物、アルコール、食物繊維の多い野菜などは、回復期には避けた方が良いでしょう。
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