膵臓にポリープが見つかると、多くの方が不安を感じるでしょう。
この記事では、膵臓のポリープとは何か、その種類や症状、そして診断に用いられる内視鏡検査について、できる限りわかりやすく解説します。膵臓の病気は早期発見が大切です。
膵臓のポリープとは何か
膵臓は胃の後ろ側にある長さ15cmほどの細長い臓器で、消化液である膵液の産生や、血糖値を調節するホルモン(インスリンなど)の分泌という重要な役割を担っています。
膵臓にできる「ポリープ」という言葉を聞くと、大腸ポリープや胃ポリープを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、膵臓にもポリープ様の病変が発生することがあります。
ポリープの基本的な定義
一般的に「ポリープ」とは、粘膜などの体表面からきのこ状に隆起した病変の総称です。良性の場合もあれば、悪性(がん)の場合、あるいは将来的にがんに変化する可能性のあるものも含まれます。
膵臓の場合、多くは液体が溜まった袋状の構造物である「嚢胞(のうほう)」や、膵管内にできる隆起として認識されます。
膵臓にできるポリープの特徴
膵臓にできるポリープ様病変の多くは、実際には「膵嚢胞性病変(すいのうほうせいびょうへん)」と呼ばれる、液体成分を含んだ袋状のものです。
膵臓の組織内に液体が溜まって形成され、一部には、膵管(膵液が流れる管)の中に乳頭状に盛り上がるタイプ(膵管内乳頭粘液性腫瘍:IPMNなど)もあり、これらが広義のポリープとして扱われます。
膵嚢胞性病変の主な種類
嚢胞性病変の主な種類 | 特徴 | 悪性化のリスク |
---|---|---|
膵管内乳頭粘液性腫瘍 (IPMN) | 膵管内に粘液を産生する腫瘍が乳頭状に増殖 | タイプにより異なる(高いものもある) |
粘液性嚢胞腫瘍 (MCN) | 主に中年女性の膵体尾部に発生、厚い壁と内部に隔壁を持つ | 悪性化の可能性がある |
漿液性嚢胞腫瘍 (SCN) | 小さな嚢胞が多数集まって蜂の巣状に見えることが多い | 悪性化は稀 |
なぜ膵臓のポリープが注目されるのか
膵臓のポリープ様病変が注目される主な理由は、一部が膵臓がんの前がん病変(がんになる前の状態)であったり、すでにがんを含んでいたりする可能性があるためです。
膵臓がんは早期発見が難しく進行も速いため、前がん病変の段階で発見し、適切に対処することが非常に重要になります。
ポリープと癌の関係性
全ての膵臓ポリープ様病変が癌になるわけではありません。しかし、IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)やMCN(粘液性嚢胞腫瘍)のように、種類によっては癌化するリスクを持つものがあります。
膵臓ポリープの種類と特徴
膵臓に発生するポリープ様病変、特に嚢胞性病変にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴や注意すべき点が異なります。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
IPMNは、膵管(膵液の通り道)の中に、粘液を産生する腫瘍細胞が乳頭状(きのこ状)に増殖する病気です。
発生する場所によって、太い主膵管にできる「主膵管型」、細い分枝膵管にできる「分枝膵管型」、両方にまたがる「混合型」に分類されます。
主膵管型や混合型は分枝膵管型に比べて癌化のリスクが高く、また、嚢胞の大きさ、壁の厚さ、内部に結節(固形成分)があるかなども悪性度を判断する上で重要な所見です。
IPMNの分類とリスク
IPMNの型 | 主な発生部位 | 癌化リスクの傾向 |
---|---|---|
主膵管型 | 主膵管 | 比較的高い |
分枝膵管型 | 分枝膵管 | 主膵管型より低いが、注意深い経過観察が必要 |
混合型 | 主膵管と分枝膵管 | 比較的高い |
粘液性嚢胞腫瘍(MCN)
MCNは、膵臓にできる粘液産生性の嚢胞性腫瘍で、9割以上が中年以降の女性に発生し、多くは膵臓の体部または尾部(膵臓の真ん中から左側)に見られます。
特徴的なのは、卵巣様の間質( ovarian-like stroma)と呼ばれる特殊な組織を嚢胞の壁に持つことです。通常、単房性(袋が一つ)または多房性(複数の袋が集まった形)で、厚い線維性の被膜に覆われています。
MCNも癌化のリスクがあるため、発見された場合は慎重な評価が重要で、嚢胞が大きいものや、壁に厚みがあるもの、内部に充実性の結節があるものは注意が必要です。
漿液性嚢胞腫瘍(SCN)
SCNは膵臓にできる嚢胞性病変の一つで、多くは良性で、内部に漿液(さらさらした液体)を満たした小さな嚢胞が多数集まって蜂の巣状(ハニカムパターン)を呈することが特徴的です。
マイクロシスティックタイプと呼ばれる形態が典型的ですが、時に単一の大きな嚢胞(マクロシスティックタイプ)として見つかることもあります。
SCNは癌化することは極めて稀とされており、症状がなければ経過観察となることが多い病変ですが、他の悪性度が高い嚢胞性病変との鑑別が大切です。
その他の稀なポリープ様病変
上記以外にも、膵臓には稀な種類の嚢胞性病変や腫瘍性病変が発生することがあります。例えば、神経内分泌腫瘍の一部が嚢胞変性を起こしたり、リンパ管腫、奇形腫などが膵臓に発生することもあります。
また、炎症の結果として生じる仮性嚢胞(炎症性嚢胞)も、画像上は嚢胞性病変として捉えられ、腫瘍とは異なり、膵炎などの後に形成されることが多いです。
膵臓ポリープの症状
膵臓のポリープ様病変は、初期の段階では自覚症状がほとんどないことが多いのが特徴です。そのため、健康診断や人間ドック、他の病気の検査などで偶然発見されるケースが少なくありません。
初期症状は現れにくい
多くの膵臓ポリープ様病変、特に小さな嚢胞性病変は、初期には特有の症状を起こしません。膵臓は体の深い部分にあるため、小さな変化ではなかなか症状として感じにくいのです。
症状のなさが膵臓の病気の発見を遅らせる一因で、症状がないからといって安心せず、リスク因子がある方や、検診で指摘された方は、専門医の指示に従って精密検査や経過観察を受けることが重要になります。
進行した場合に見られる症状
病変がある程度進行したり大きくなったりすると、以下のような症状が現れることがあります。症状は膵臓のポリープ様病変だけでなく、膵臓がんなど他の膵臓疾患でも見られることがあるため、注意が必要です。
腹痛や背部痛
みぞおち周辺の腹痛や、背中の痛み(特に左側)は、膵臓の病変が大きくなって神経を圧迫したり、膵管の閉塞により膵炎を起こしたりすることで生じることがあります。
持続的な鈍い痛みや、食事とは関係なく起こる痛みが特徴的です。
黄疸(おうだん)
皮膚や白目が黄色くなる黄疸は、膵頭部(膵臓の右側、十二指腸に近い部分)にできた病変が胆管を圧迫し、胆汁の流れが悪くなることで起こり、同時に、尿の色が濃くなったり(褐色尿)、便の色が白っぽくなったりすることもあります。
黄疸は比較的早期に現れることもある重要なサインです。
体重減少や食欲不振
明らかな原因がないのに体重が急に減ったり、食欲がなくなったりすることも、膵臓の病気が進行した場合に見られる症状です。
消化液である膵液の分泌が悪くなることによる消化吸収不良や、病変そのものによる体力の消耗などが関係していると考えられます。
その他の症状
上記以外にも、吐き気、嘔吐、糖尿病の急な発症や悪化、慢性的な下痢なども、膵臓の異常を示すサインである可能性があります。このような症状が続く場合は、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。
症状と病変の進行度
症状 | 考えられる原因 | 注意点 |
---|---|---|
腹痛・背部痛 | 病変による圧迫、膵炎の合併 | 持続性、部位に注意 |
黄疸 | 胆管の圧迫・閉塞 | 皮膚・白目の色、尿・便の色を確認 |
体重減少・食欲不振 | 消化吸収不良、全身状態の悪化 | 原因不明の場合は特に注意 |
症状がない場合の発見経緯
膵臓のポリープ様病変は無症状のまま、他の目的で行われた検査で偶然発見されることが非常に多いです。
- 健康診断や人間ドックの腹部超音波検査(エコー検査)
- 他の病気(例:胆石症、肝臓病など)で受けたCT検査やMRI検査
検査で膵臓に異常な影や嚢胞が見つかり、精密検査を勧められるという流れが一般的です。
膵臓ポリープの原因とリスク因子
膵臓のポリープ様病変、特に膵嚢胞性病変が発生する明確な原因は、まだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が発生に関与している可能性が指摘されています。
明確な原因は不明な点も
多くの膵臓ポリープ様病変は、なぜ特定の個人に発生するのか、直接的な原因は特定できていません。
遺伝子の変異が関与していると考えられているものもありますが、それがどのようにして起こるのかについては、まだ研究が進められている段階です。生活習慣や環境要因など、複数の要素が複雑に絡み合って発症に至ると考えられています。
考えられるリスク因子
いくつかの研究から、以下のような因子が膵臓ポリープ様病変(特に一部の膵嚢胞性病変や膵がん)の発生リスクを高める可能性が示唆されています。
喫煙習慣
喫煙は、膵臓がんの最も確実なリスク因子の一つとして知られていて、喫煙により体内に取り込まれる発がん性物質が膵臓に影響を与え、細胞の異常を起こす可能性があり、また、一部の膵嚢胞性病変の発生にも関与しているという報告もあります。
肥満や糖尿病
肥満や2型糖尿病も膵臓の病気のリスクを高めることが知られていて、特に糖尿病は、膵臓がんの症状として現れることもあれば、膵臓がんのリスク因子となることもあり、相互に関連しています。
インスリン抵抗性や慢性的な炎症が影響していると考えられています。
慢性膵炎の既往
長期間にわたる膵臓の炎症である慢性膵炎は、膵管の構造変化や膵石の形成などを起こし、膵臓がんのリスクを高め、また、IPMNなどの嚢胞性病変の発生母地となることもあります。アルコールの多飲や胆石などが慢性膵炎の原因です。
膵臓疾患の家族歴
血縁者(特に第一度近親者:親子、兄弟姉妹)に膵臓がんや特定の膵嚢胞性病変(例:IPMN)の患者さんがいる場合、本人も同様の病気を発症するリスクが一般よりも高いです。
主なリスク因子と影響
リスク因子 | 関連する可能性のある膵臓病変 | 簡単な説明 |
---|---|---|
喫煙 | 膵臓がん、一部の膵嚢胞 | 発がん物質による細胞障害 |
肥満・糖尿病 | 膵臓がん、一部の膵嚢胞 | インスリン抵抗性、慢性炎症 |
慢性膵炎 | 膵臓がん、IPMN | 持続的な炎症による組織変化 |
家族歴 | 膵臓がん、IPMN | 遺伝的素因の可能性 |
遺伝的要因の可能性
特定の遺伝子の変異が、膵臓ポリープ様病変や膵臓がんの発生に関与していることがわかってきていて、家族性膵がんや遺伝性膵炎症候群など、特定の遺伝的背景を持つ家系では、膵臓疾患のリスクが著しく高まります。
また、IPMNなどの病変においても、特定の遺伝子変異(GNAS遺伝子、KRAS遺伝子など)が高頻度で見つかることが知られています。
膵臓の内視鏡検査の概要
膵臓のポリープ様病変が疑われたり、より詳しい情報が必要と判断されたりした場合、内視鏡を用いた検査が行われます。
膵臓は体の奥深くにあるため、通常の内視鏡(胃カメラや大腸カメラ)では直接観察することができないため、特殊な内視鏡や技術が用いられます。
内視鏡検査とは
内視鏡検査は、先端に小型カメラとライトがついた細長い管(内視鏡スコープ)を体内に挿入し、消化管や周辺の臓器を直接観察したり、組織の一部を採取(生検)する検査です。
膵臓の検査においては、口から挿入するタイプの内視鏡が主に用いられます。
膵臓検査で用いられる主な内視鏡
膵臓の精密検査で中心的な役割を果たすのは、主に以下の二つの内視鏡検査です。
超音波内視鏡(EUS)
EUSは、内視鏡の先端に超音波(エコー)装置が搭載された特殊なスコープを用いる検査です。口から内視鏡を挿入し、胃や十二指腸まで進め、そこから膵臓に超音波を当てて観察します。
消化管の壁越しに膵臓を至近距離から観察できるため、体外からの腹部超音波検査よりもはるかに詳細な画像が得られ、膵臓の小さな病変の発見や、病変の内部構造、周囲の血管との関係などを評価するのに非常に有用です。
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)
ERCPは、口から十二指腸まで内視鏡を挿入し、十二指腸乳頭部という胆管と膵管の出口から細いカテーテル(管)を膵管や胆管に挿入し、造影剤を注入してX線撮影を行う検査です。
膵管の形や狭窄、拡張、膵石の有無などを詳しく調べることができます。また、膵液を採取して細胞の検査(細胞診)を行ったり、膵管内にできた狭い部分を広げたり、結石を取り除いたりする治療も同時に行うことが可能です。
膵臓検査における内視鏡の種類と特徴
検査法 | 主な目的 | 特徴 |
---|---|---|
超音波内視鏡 (EUS) | 膵臓の形態観察、組織採取 (FNA) | 高解像度の画像、低侵襲で組織採取可能 |
内視鏡的逆行性胆管膵管造影 (ERCP) | 膵管・胆管の造影、膵液採取、治療的処置 | 膵管の詳細な評価、治療も可能だが合併症リスクあり |
各検査方法の目的と役割
EUSとERCPは、それぞれ異なる情報を提供し、補完的な役割を果たします。
EUSは主に膵臓実質の病変(腫瘍や嚢胞など)の形態や性状を詳細に評価するのに優れ、ERCPは膵管系の異常(狭窄、拡張、結石など)を評価したり、膵液を採取して細胞レベルでの診断を行うのに適しています。
どちらの検査を行うか、あるいは両方を行うかは、患者さんの状態や疑われる病気の種類によって専門医が判断します。
内視鏡検査による診断の流れ
膵臓のポリープ様病変に対する内視鏡検査はいくつかの段階を経て実施され、ここでは、超音波内視鏡(EUS)や内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を用いた一般的な診断の流れを説明します。
検査前の診察と説明
まず、担当医による診察が行われ、これまでの病歴、現在の症状、他の検査結果(血液検査、CTやMRIなど)が確認されます。
その上で、内視鏡検査の必要性が判断され、検査の具体的な内容、目的、手順、予想される所要時間、麻酔の方法、そして可能性のある偶発症(合併症)について詳しい説明があります。
超音波内視鏡(EUS)による観察
EUS検査では、鎮静剤を使用して患者さんがリラックスした状態で検査を行い、内視鏡を口から挿入し、食道、胃を経由して十二指腸まで進めます。胃壁や十二指腸壁越しに、先端の超音波装置を使って膵臓全体を詳細に観察します。
ポリープ様病変(嚢胞や腫瘍など)の位置、大きさ、形状、内部の構造(壁の厚さ、隔壁の有無、充実性部分の存在など)、周囲の血管や臓器との関係を評価します。
EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)
EUSで病変を観察する際に、悪性が疑われる場合や、より詳しい診断が必要な場合には、EUS-FNAという手技が行われることがあり、これはEUSガイド下に、内視鏡の先端から細い針を刺し入れて、病変部から直接細胞や組織を採取する方法です。
採取した検体は病理検査に提出され、良性か悪性か、どのような種類の細胞で構成されているかなどを詳しく調べられます。
EUS-FNAのポイント
項目 | 内容 | 意義 |
---|---|---|
手技 | EUSで観察しながら病変に針を刺し組織を採取 | 確定診断に近づける |
対象 | 充実性腫瘍、嚢胞性病変の壁や内部の充実部分 | 良悪性の鑑別、種類の特定 |
利点 | 体外からでは困難な部位からの組織採取が可能 | 比較的低侵襲 |
ERCPによる膵液採取や組織採取
ERCPは、主に膵管の異常を評価するために行われます。EUSと同様に鎮静下で内視鏡を十二指腸まで挿入し、膵管の出口(十二指腸乳頭)からカテーテルを膵管内に進め、造影剤を注入してX線透視下に膵管の走行や形態を観察します。
IPMNなどで主膵管の拡張や狭窄が疑われる場合などに有用です。
検査中に膵液を採取したり、膵管内から直接細胞や組織をこすり取ったり(擦過細胞診・生検)、細い鉗子で組織を採取したりすることもあります。
検査後の結果説明
検査が終了し、鎮静剤の効果が薄れて患者さんの状態が安定したら、担当医から検査結果が説明されます。
EUS-FNAやERCPで組織や細胞を採取した場合は、病理検査の結果が出るまでに数日から数週間かかるため、後日改めて詳しい結果説明が行われます。
内視鏡検査の準備と注意点
膵臓の内視鏡検査(EUSやERCP)を安全かつ正確に行うためには、いくつかの準備と注意点があり、検査の質を高め、偶発症のリスクを低減するために非常に重要です。
検査前の食事制限
検査前に胃や十二指腸の中を空にしておくことにより、内視鏡の視野が確保され、安全な操作が可能です。通常、検査前日の夕食は消化の良いものを早めに済ませ、その後は絶食になります。
検査当日の朝も絶食で、水分(水やお茶など、指示されたものに限る)も検査の数時間前からは制限されることが一般的です。
一般的な食事制限
タイミング | 食事・飲水 | 理由 |
---|---|---|
検査前日夕食 | 消化の良いものを午後9時頃までに | 胃内の残存物を減らす |
検査当日朝 | 絶食(水分は指示に従う) | 安全な検査視野の確保、誤嚥防止 |
服用中の薬に関する注意
日常的に服用している薬がある場合は、事前に必ず担当医に申し出てください。
血液をサラサラにする薬(抗凝固薬や抗血小板薬:ワーファリン、バイアスピリン、クロピドグレルなど)を服用している場合は、EUS-FNAやERCPの際に組織採取や処置を行うと出血のリスクが高まるため、一時的に休薬が必要です。
休薬の判断は、病状や検査内容によって専門医が行いますので、自己判断で中止したり継続しないでください。また、糖尿病の薬についても、絶食に伴う低血糖のリスクがあるため、調整が必要な場合があります。
検査前に医師に伝えるべき主な薬剤
- 血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬、抗血小板薬)
- 糖尿病の薬(インスリン注射、経口血糖降下薬)
- その他、日常的に服用している全ての薬(サプリメントも含む)
検査当日の流れ
検査当日はます検査着に着替え、点滴のためのルートを確保し、検査室に入ったら、血圧計や心電図モニターなどを装着し、全身状態を管理しながら検査が行われます。
通常、喉の麻酔(スプレーやゼリー)を行い、その後、鎮静剤を静脈注射して検査を開始します。検査中は意識がぼんやりとした状態になるため、苦痛は大幅に軽減されます。
検査時間は、検査内容によって異なりますが、EUSで30分~1時間程度、ERCPでは1時間~2時間程度かかることが一般的です(EUS-FNAや治療的処置を行う場合はさらに時間がかかることも)。
検査後の安静と生活上の注意
検査終了後は鎮静剤の影響が残っているため、回復室で1~2時間程度安静にして様子を見て、意識がはっきりし歩行などが安定してから帰宅です。鎮静剤を使用した当日は、車の運転や危険な作業、重要な判断を伴う仕事などは避けてください。
食事は、喉の麻酔が切れてむせ込まないことを確認してから、医師の指示に従って開始し、通常は消化の良いものから少量ずつ摂ります。
ERCP後は、膵炎などの偶発症が起こる可能性があるため、腹痛や発熱などの症状に注意し、何か異常を感じたら速やかに医療機関に連絡することが大切です。
検査後の一般的な注意点
項目 | 注意内容 | 期間の目安 |
---|---|---|
安静 | 回復室で1~2時間 | 検査当日 |
運転・危険作業 | 控える | 検査当日 |
食事 | 医師の指示に従い、消化の良いものから | 検査当日から翌日 |
偶発症の観察 | 腹痛、発熱、嘔吐などに注意 | 検査後数日間 |
よくある質問
- 膵臓のポリープは必ず癌になりますか。
-
全ての膵臓のポリープ様病変が癌になるわけではなく、漿液性嚢胞腫瘍(SCN)のように、ほとんど癌化しない良性のものも多くあります。
一方で、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)や粘液性嚢胞腫瘍(MCN)のように、癌化するリスクを持つタイプもあります。
そのため、発見されたポリープ様病変の種類や大きさ、形態などを詳しく調べ、癌化のリスクを評価し、経過観察や治療方針を決定することが重要です。
- 内視鏡検査は痛いですか。苦しいですか。
-
膵臓の内視鏡検査(EUSやERCP)は、多くの場合、鎮静剤を使用して行います。鎮静剤を静脈注射することで、検査中はうとうとした状態になり、苦痛や不快感を大幅に軽減できます。
ほとんどの方が、検査中のことをあまり覚えていません。また、検査前に喉の麻酔も行います。
- 検査時間はどのくらいかかりますか。
-
超音波内視鏡検査(EUS)のみであれば、通常30分から1時間程度です。EUS下穿刺吸引法(EUS-FNA)を行って組織を採取する場合は、さらに15分から30分程度長くなります。
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は、診断だけであれば1時間程度ですが、膵管内の結石除去やステント留置などの治療的処置を行う場合は、1時間半から2時間以上かかることもあります。
- 検査後、すぐに普段の生活に戻れますか。
-
検査後は、鎮静剤の影響がなくなるまで、通常1~2時間程度、回復室で安静にしていただきます。意識がはっきりし、安全に歩行できるようになったら帰宅できます。
ただし、鎮静剤を使用した当日は、車の運転、自転車の運転、危険を伴う機械の操作、重要な契約などは避けてください。食事は、検査終了後医師の指示に従って、通常は数時間後から消化の良いものから開始できます。
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