突然の激しい腹痛や下痢に襲われると、何か重い病気ではないかと不安になります。冷や汗が出るほどの痛みや、何度もトイレに駆け込む状況は、本当につらいものです。
この記事では、なぜ急性の腹痛と下痢が起きるのか、主な原因を探り、ご自宅でできる初期対処法から、血便が見られる場合など、医療機関を受診すべき危険なサインまで、わかりやすく解説します。
激しい腹痛と下痢を起こす主な原因
急に起こる激しい腹痛と下痢の多くは、胃腸の感染症や食中毒が原因ですが、それ以外にもストレスや生活習慣、あるいは他の病気が隠れている可能性も考えられます。
感染性胃腸炎(ウイルス・細菌)
いわゆるお腹の風邪、と呼ばれる状態の多くがこれにあたり、ウイルスや細菌が口から体内に入り、胃や腸の粘膜で増殖して炎症を起こすことで、腹痛、下痢、嘔吐、発熱などの症状を起こします。
ウイルス性胃腸炎の特徴
ノロウイルスやロタウイルス、アデノウイルスなどが主な原因で、特に冬場に流行しやすく、人から人へと非常に感染しやすいのが特徴です。症状は、突発的な吐き気や嘔吐から始まり、その後、水のように大量の下痢や腹痛が続きます。
発熱を伴うこともありますが、細菌性に比べると高熱にはなりにくく、潜伏期間は原因ウイルスによりますが、1日から3日程度です。
主なウイルス性胃腸炎の原因
| ウイルス名 | 主な感染経路 | 症状の特徴 |
|---|---|---|
| ノロウイルス | 汚染された食品(特に二枚貝)、患者の吐物・便 | 突発的な嘔吐、激しい水様便、腹痛 |
| ロタウイルス | 患者の便、経口感染 | 白っぽい米のとぎ汁のような便、発熱、嘔吐 |
| アデノウイルス | 飛沫感染、経口感染 | 下痢、腹痛、発熱(比較的長引くことも) |
細菌性胃腸炎の特徴
カンピロバクター、サルモネラ菌、腸管出血性大腸菌(O157など)、病原性大腸菌などが原因となり、夏場の食中毒の原因となることが多いですが、年間を通して発生します。ウイルス性に比べて腹痛がより激しく、高熱が出やすい傾向があります。
また、腸の粘膜が深く傷つくことで、粘液や血液が混じった便(粘血便・血便)が出ることがあるのも特徴です。潜伏期間は菌の種類や摂取した菌量によりますが、数時間から数日と幅があります。
食中毒
細菌やウイルス、あるいは産生する毒素に汚染された食べ物や飲み物を摂取することで発症し、原因となる物質によって、症状が出るまでの時間(潜伏期間)や症状の強さが異なります。
多くの場合、腹痛、下痢、嘔吐を伴い、食べたものが原因であるため、同じものを食べた複数人が同時に発症することも珍しくありません。
食中毒の原因となる主な細菌
| 細菌名 | 主な原因食品 | 症状の特徴 |
|---|---|---|
| サルモネラ | 卵(生・加熱不足)、鶏肉、うなぎ | 激しい腹痛、下痢、発熱、嘔吐 |
| カンピロバクター | 鶏肉(生・加熱不足、鶏レバー刺しなど) | 下痢、腹痛、発熱、血便、倦怠感 |
| 腸管出血性大腸菌(O157など) | 牛肉(生・加熱不足、ユッケなど)、井戸水 | 激しい腹痛、水様便、鮮血の混じる血便 |
細菌以外にも、キノコやフグなどの自然毒、化学物質によっても食中毒は起こりますが、急性の腹痛と下痢という点では、細菌やウイルスが原因となることが多いです。
ストレスや生活習慣の乱れ
精神的なプレッシャーや不安、過労、睡眠不足、不規則な食生活、アルコールやカフェインの過剰摂取などは、自律神経のバランスを乱します。
自律神経は腸の動き(ぜん動運動)をコントロールしているため、バランスが崩れると腸が過剰に動いたり、痙攣したりすることがあり、急な腹痛や便意、下痢が起きます。これが慢性的に続く状態が過敏性腸症候群(IBS)です。
下痢型の場合、試験や会議の前など、特定の状況で症状が出やすくなる傾向があります。腹部の膨満感(お腹が張る感じ)やガスを伴うことも多いです。
その他の原因
上記以外にも、急性の腹痛と下痢を起こす原因はいくつかあります。特定の薬剤、特に抗生物質(抗菌薬)は、腸内の良い菌(腸内細菌叢)のバランスを崩してしまい、下痢を起こすこと(薬剤性腸炎)があります。
また、特定の食物に対するアレルギー(食物アレルギー)や、乳製品に含まれる乳糖をうまく分解できない乳糖不耐症の人が牛乳などを飲むと、腹痛や下痢を起こし、急な冷えによって腸が刺激されて動くこともあります。
まれですが、虫垂炎(盲腸)や大腸憩室炎(大腸の壁にできた小さなくぼみに炎症が起きる病気)の初期症状として、腹痛や下痢が現れることもあるため、痛みの場所がはっきりしている場合や、痛みが持続・悪化する場合は注意が必要です。
血便を伴う腹痛と下痢の危険性
血便(便に血液が混じること)は、消化管のどこかから出血していることを示す、非常に重要なサインです。
激しい腹痛や下痢と共に血便が見られる場合、単なる胃腸炎ではなく、腸に炎症や潰瘍、あるいは血流障害などが起きている可能性を考えます。

潰瘍性大腸炎
大腸の粘膜に原因不明の炎症やただれ(びらん)、潰瘍ができる病気で、若い世代での発症が多く、主な症状は、粘液と血液が混じった便(粘血便)や下痢、腹痛です。重症になると、発熱や体重減少、貧血などを伴うこともあります。
症状が落ち着いている時期(寛解期)と、悪化する時期(活動期)を繰り返す特徴があり、長期的な管理が必要で、診断のためには大腸内視鏡検査(大腸カメラ)で腸の粘膜を直接観察することが重要です。
クローン病
潰瘍性大腸炎と同じく炎症性腸疾患の一つですが、口から肛門までの消化管全体に炎症が起こりうる病気で、特に小腸の終わりから大腸にかけて好発します。
潰瘍性大腸炎が粘膜の浅い層の炎症であるのに対し、クローン病は腸の壁の深い層まで炎症が及ぶ(全層性炎症)ことが特徴で、主な症状は腹痛、下痢、血便、体重減少、発熱などです。
肛門の周りに痔ろうなどの病変(肛門病変)を合併することも多く、若い世代での発症が多く、診断には内視鏡検査や画像検査(CT、MRI、バリウム検査など)が必要になります。
虚血性腸炎
腸に血液を送る動脈の血流が一時的に悪くなることで、大腸の粘膜に炎症や潰瘍、壊死が起こる病気です。
背景に動脈硬化(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)や便秘(強くいきむことで腸の内圧が上がり、血流が悪くなる)がある高齢者に多い傾向があります。
典型的な症状は、突然の激しい腹痛(特に左下腹部)から始まり、その後、下痢、そして鮮血または暗赤色の血便(出血)です。
多くは一時的な血流障害であり、安静と点滴などで改善しますが、まれに腸が壊死して緊急手術が必要になることもあります。
血便を伴う主な疾患の比較
| 疾患名 | 主な症状 | 好発年齢 |
|---|---|---|
| 潰瘍性大腸炎 | 粘血便(持続・反復)、下痢、腹痛 | 20代〜30代 |
| クローン病 | 腹痛、下痢、血便、体重減少、発熱 | 10代〜20代 |
| 虚血性腸炎 | 突然の激しい腹痛、その後の下痢、血便 | 高齢者(動脈硬化リスクのある方) |
感染性腸炎による血便
細菌性胃腸炎の中でも、カンピロバクターや腸管出血性大腸菌(O157など)、サルモネラ菌の一部、赤痢菌などは、腸の粘膜をひどく傷つけるため、血便を起こすことがあります。
高熱や非常に激しい腹痛を伴うことが多く、O157の場合は、後に溶血性尿毒症症候群(HUS)という重篤な合併症(腎不全や意識障害など)を起こす危険性があるため、注意が必要です。
腹痛と下痢が起きたときの自宅での対処法
急な腹痛や下痢に見舞われた場合、まずは体を休め、脱水症状を防ぐことが最も重要です。胃腸に負担をかけないように、水分補給と食事に注意を払いましょう。

安静にする
下痢や腹痛は体力を大きく消耗させるので、無理に仕事や学校へ行こうとせず、できる限り横になり、体を休めてください。楽な姿勢をとり、リラックスすることが大切です。
お腹を湯たんぽやカイロなどで温めると、腸の異常な動き(ぜん動)が和らぎ、痛みが楽になる場合がありますが、もし虫垂炎などの強い炎症が起きている場合は、温めることでかえって炎症を悪化させる可能性もあります。
痛みが強くなるようであれば、すぐに温めるのをやめましょう。
水分補給の方法
下痢や嘔吐は、体から水分だけでなく、ナトリウムやカリウムといった重要な電解質(ミネラル)も一緒に排出してしまい、脱水症状を起こします。
脱水症状のサインには、強い口の渇き、尿の量が減る・色が濃くなる、皮膚や唇の乾燥、めまいや立ちくらみ、ぐったりして力が入らない、などがあります。 脱水を防ぐために、こまめな水分補給が何よりも大切です。
ただし、一度に大量に飲むと、胃腸が刺激されて吐き気や下痢を誘発することがあるので、コップ1杯の量を一気に飲むのではなく、スプーンやペットボトルのキャップで一口、二口程度を、5分から10分おきに、根気よく続けるのがポイントです。
乳幼児や高齢者は脱水症状に陥りやすいため、周囲の人が注意して水分補給を促す必要があります。

どのような飲み物が良いか
単なる水やお茶だけでは、失われた電解質を十分に補給できません。最も適しているのは、水分と電解質、適度な糖分がバランスよく配合され、体に吸収されやすいように調整された経口補水液(OS-1やアクアサポートなど)です。
薬局やドラッグストアで購入できますが、もし手元にない場合は、スポーツドリンクを水で半分程度に薄めたものや、湯冷まし1リットルに対して塩3g(小さじ半分)と砂糖40g(大さじ4杯半)を溶かしたものでも代用できます。
自宅での水分補給に適した飲み物
| 飲み物の種類 | 適している理由 | 注意点 |
|---|---|---|
| 経口補水液 | 水分・電解質の吸収効率が最も良い | 塩味が独特で飲みにくい場合もある |
| スポーツドリンク(薄めたもの) | 電解質と糖分を補給できる | 糖分が多いため薄めることが推奨される |
| 湯冷まし、麦茶 | 水分補給の基本 | 電解質はほとんど補給できない |
食事の注意点
症状が激しい間、特に吐き気があるうちは、無理に固形物を食べる必要はありません。胃腸を休ませることを最優先にし、水分補給に専念してください。
吐き気が治まり、少し食欲が出てきたら、胃腸に負担のかからない、消化の良い食べ物から始めます。
まずは重湯(おもゆ)や具のないスープから試し、問題なければおかゆ(全粥)、柔らかく煮込んだうどん、すりおろしたリンゴ、豆腐、白身魚(たら、かれいなど)、鶏のささみ(ほぐしたもの)などを、少量ずつ、よく噛んで食べましょう。
消化の良い食べ物
- おかゆ(重湯から三分粥、五分粥、全粥へ)
- うどん(柔らかく煮込み、油揚げなどは避ける)
- すりおろしたリンゴ、バナナ
- 豆腐、茶碗蒸し、白身魚(煮魚など)
避けるべき食べ物
以下の食べ物は、消化に時間がかかったり、腸を刺激したりして、胃腸に負担をかけるため、症状が改善してもしばらくは避けるべきです。
- 脂っこいもの(揚げ物、炒め物、ラーメン、バター、生クリーム)
- 刺激物(香辛料、コーヒー、アルコール、炭酸飲料)
- 乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト※)
- 食物繊維の多い野菜(ごぼう、きのこ類、海藻類、こんにゃく)
※ヨーグルトは乳糖不耐症の人は下痢の原因になりますが、症状が完全に落ち着いた後に腸内環境を整える目的で少量から試すのは良い場合があります。
自己判断で薬を飲むことの危険性
急な腹痛や下痢でつらいとき、すぐに市販薬に頼りたくなるかもしれませんが、自己判断での薬の使用は、かえって症状を悪化させたり、重大な病気の発見を遅らせたりする危険性をはらんでいます。
下痢止めの使用について
下痢は、体内に侵入したウイルスや細菌、産生した毒素を、体外へ排出しようとする体の重要な防御反応です。市販されている下痢止めの中には、腸の動き(ぜん動運動)を無理やり止めてしまうタイプのものがあります。
もし細菌性腸炎(特にO157などの病原性が強いもの)や食中毒の際にこれを使用すると、原因となる菌や毒素が腸内に留まり、排出されなくなってしまいます。
回復が遅れるだけでなく、毒素が体内に吸収されやすくなり、溶血性尿毒症症候群(HUS)のような命に関わる重篤な合併症を起こすリスクが高まります。高熱や血便を伴う下痢の場合、下痢止めの使用は絶対に避けるべきです。
鎮痛剤の使用について
腹痛を和らげるために市販の鎮痛剤を使いたくなるかもしれませんが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれる系統の薬は、胃や腸の粘膜を荒らす副作用があり、炎症や潰瘍を悪化させる可能性があるので、注意が必要です。
さらに重大な危険性として、痛みを一時的に抑えてしまうマスキング効果があります。
もし腹痛が、虫垂炎(盲腸)や腸閉塞、腸穿孔(腸に穴があくこと)といった緊急手術が必要な病気の前兆だった場合、鎮痛剤によって痛みが紛れてしまい、病院での診断が遅れる原因となります。
診断の遅れは、腹膜炎などを引き起こし、命に関わる事態につながりかねません。
市販薬使用の注意点
| 薬の種類 | 注意すべき理由 |
|---|---|
| 下痢止め (腸の動きを止めるタイプ) | 細菌や毒素の排出を妨げ、重症化させる危険がある |
| 鎮痛剤 (NSAIDs) | 胃腸の粘膜を荒らす。重篤な病気の痛みを隠蔽する |
医師の指示なく抗生物質を飲むこと
そもそも、急性の下痢の多くはウイルス性が原因であり、抗生物質(抗菌薬)はウイルスには全く効果がありません。
自己判断で抗生物質を飲むことは、不必要な薬を飲むことになるだけでなく、腸内にいる良い菌まで殺してしまい、腸内細菌のバランスを大きく崩します。
かえって下痢が長引いたり、薬剤耐性菌(抗生物質が効かない菌)を生み出す原因になったりし、 抗生物質が原因でクロストリジウム・ディフィシル腸炎(偽膜性腸炎)という特殊な腸炎を起こし、重症の下痢や血便をきたすこともあります。
細菌性腸炎が強く疑われる場合でも、どの菌にどの抗生物質が有効かは医師の診断と検査に基づいて判断されるべきで、以前処方されて残っていた抗生物質などを自己判断で飲むのは非常に危険です。
すぐに医療機関を受診すべき危険なサイン
ほとんどの急性の腹痛や下痢は、安静と水分補給、食事療法によって数日で自然に改善に向かいますが、中には命に関わる重篤な病気や、緊急の処置を必要とする状態が隠れていることがあります。

症状の目安
ご自身やご家族の状態を注意深く観察し、当てはまるものがないか冷静に確認しましょう。
激しい腹痛が続く
「経験したことがない激しい腹痛」、「お腹を抱えて動けない、冷や汗が出る」、「痛みが時間とともによくなるどころか、だんだん強くなる」、「お腹全体に痛みが広がる」、「歩くとお腹に響いて痛い」などは、単なる胃腸炎ではない可能性が高いです。
虫垂炎(盲腸)、腸閉塞(腸が詰まる)、腸穿孔(腸に穴があく)、大動脈解離(腹部の太い血管が裂ける)など、緊急手術が必要な病気の可能性があります。

血便(鮮血・暗赤色・黒色便)
便に血が混じる状態は、消化管からの出血を示し、血便の量が多い場合はもちろん、少量でも、あるいは一度だけでも、見過ごすべきではありません。
特に、黒くてドロドロした便(タール便)は、胃や十二指腸からの出血を示唆し、出血量が多い場合もあるため危険です。虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、感染性腸炎、大腸がんなど、原因を特定する必要があります。
血便の色と疑われる出血部位
| 便の色 | 状態 | 考えられる出血部位 |
|---|---|---|
| 鮮血(真っ赤) | 便の表面に付着、または便器が赤くなる | 肛門、直腸、大腸下部(虚血性腸炎、痔など) |
| 暗赤色(赤黒い) | 便と混じっている、イチゴジャム状 | 大腸の奥(感染性腸炎、炎症性腸疾患など) |
| 黒色便(タール便) | 黒くドロドロしている、特有の臭い | 胃、十二指腸(胃潰瘍、十二指腸潰瘍など) |
高熱や意識障害
38.5度以上の高熱が続く、あるいは悪寒(寒気)や震えを伴う場合は、細菌が血液中に入り込む菌血症や敗血症といった重篤な感染症の可能性があります。
また、ぐったりして動けない、呼びかけへの反応が鈍い、意識がもうろうとする、意味不明な言動がある、といった場合は、重度の脱水や敗血症、O157による合併症(脳症)などが疑われ、極めて危険な状態です。
嘔吐が止まらない・水分が全く摂れない
食べ物だけでなく、飲んだ水分もすべて吐いてしまう状態が続くと、急速に脱水症状が進行します。特に乳幼児や高齢者は、体内の水分量がもともと少ない、または予備能力が低いため、短時間で重症化しやすい傾向があります。
口から水分が全く摂れない場合は、点滴による水分補給が必要になるため、早めに受診しましょう。
その他の危険なサイン
以下のような症状も、緊急性が高い病気のサインである可能性があります。
- お腹が板のように硬くなる(触るとカチカチ):腸穿孔などによる腹膜炎の疑い
- 呼吸が苦しい、冷や汗が出る、胸の痛みを伴う:心筋梗塞や大動脈解離の可能性
- めまいや立ちくらみがひどい、脈が速い:脱水や出血によるショック状態の始まり
- 症状が48時間(2日)以上たっても全く改善しない、または悪化している
医療機関ではどのような検査や対応をするか
医療機関を受診すると、医師はまず症状の原因を特定し、重症度を判断するために、問診、診察、そして必要な検査を行い、結果に基づいて、処置や治療方針を決定します。
問診と診察
医師は、いつからどのような症状があるか(腹痛の場所や性質、下痢の回数・色・性状、血便の有無、嘔吐、発熱など)を詳しく伺います。
また、症状が出る前に何を食べたか(食事内容)、同じものを食べた人の症状、最近の海外渡航歴、周囲での感染症の流行状況、持病(高血圧、糖尿病など)、普段飲んでいる薬、アレルギーの有無なども、原因を探るための重要な情報です。
その後、お腹の音を聞き(聴診)、お腹を触って(触診)、痛みの場所、お腹の張り具合、筋肉の緊張(硬さ)、しこりがないかなどを確認します。
血液検査
血液を採取し、体の中で何が起きているかを調べ、白血球数やCRP(C反応性タンパク)の値からは、炎症の強さや細菌感染の可能性がわかります。
電解質(ナトリウム、カリウム、クロール)や腎機能(BUN、クレアチニン)の値からは、下痢や嘔吐による脱水の程度を評価し、血便がある場合は、貧血の有無(赤血球数、ヘモグロビン値)も確認します。
血液検査で主に確認する項目
| 検査項目 | わかること |
|---|---|
| 白血球数・CRP | 体内の炎症や細菌感染の強さ |
| 電解質 (Na, K, Cl)・腎機能 | 下痢や嘔吐による脱水の程度、腎臓への影響 |
| 赤血球・ヘモグロビン | 血便や長期の不調による貧血の有無や程度 |
便検査(便培養)
下痢の原因を特定するために、便の一部を採取して検査し、ノロウイルスやロタウイルス、アデノウイルスなどは、迅速検査キットを用いて15分程度で結果がわかる場合があります。
細菌性腸炎(サルモネラ、カンピロバクター、O157など)が疑われる場合は、便を培養して菌を育てる検査(便培養)を行い、結果が出るまでに数日かかります。
血便の場合は、便に血液が混じっているかを改めて確認する検査(便潜血検査)も行います。
画像検査(レントゲン・超音波・CT)
腹痛の原因が単なる腸炎ではないと疑われる場合(痛みが局所的で強い、お腹が張っているなど)、画像検査を行います。腹部レントゲン検査では、腸閉塞(腸ガスの異常な溜まり)や腸穿孔(腸の外への空気の漏れ)の有無を確認します。
腹部超音波(エコー)検査は、体に負担がなく行え、虫垂炎や胆石、腸のむくみ(腸炎の程度)などを評価するのに役立ちます。
腹部CT検査は、より詳細な情報を得ることができ、虫垂炎や憩室炎、虚血性腸炎、腸閉塞の原因、さらには大動脈の病気など、緊急性の高い病気の診断に非常に有用です。
点滴や処方
診察や検査の結果、脱水症状が強いと判断された場合や、嘔吐が続いて口から水分が摂れない場合は、点滴(静脈内輸液)を行い、水分と電解質を直接血管に補給することで、脱水状態を速やかに改善させます。
処方される薬は、原因と症状に応じて異なり、腸内細菌のバランスを整える整腸剤が処方されることが多いです。
吐き気が強い場合は制吐剤(吐き気止め)、発熱や痛みがつらい場合は解熱鎮痛剤(アセトアミノフェンなど)が処方されることもあります。
細菌性腸炎が明らかで重症の場合や、特定の菌(赤痢菌など)が検出された場合には、抗生物質が処方されますが、ウイルス性や軽症の細菌性腸炎では通常使用しません。
急性の腹痛・下痢の予防と普段の心がけ
激しい腹痛や下痢の多くは、日常生活での少しの注意で予防することが可能で、感染が原因となる食中毒や感染性胃腸炎は、日々の衛生管理が最も重要です。
食中毒の予防
食中毒予防の三原則は、原因となる菌やウイルスを「つけない」「ふやさない」「やっつける」ことで、家庭での調理や食事の際に、これらの原則を具体的に実行することが大切です。
手洗いの徹底
最も基本的かつ重要な予防策です。調理を始める前、食事の前、トイレに行った後、そして特に生肉や魚、卵を触った後は、必ず石鹸(ハンドソープ)を使い、流水で指の間や爪の先まで丁寧に洗いましょう。
ウイルス(特にノロウイルス)はアルコール消毒が効きにくい場合があるため、石鹸による物理的な洗浄でウイルスを洗い流すことが重要です。
食品の取り扱いと加熱
「ふやさない」ためには、購入した食品、特に肉や魚などの生鮮食品や総菜は、室温に放置せず、すぐに冷蔵庫や冷凍庫で保存し、冷蔵庫を過信せず、早めに食べきることも大切です。 「やっつける」ためには、十分な加熱が有効です。
多くの細菌やウイルスは熱に弱いため、肉や魚介類は中心部までしっかりと火を通すこと(中心温度75℃で1分以上が目安)を心がけましょう。 「つけない」ためには、二次汚染を防ぐことが重要です。
生肉や魚を切った包丁やまな板は、使用後すぐに洗剤で洗い、熱湯をかけるか、キッチン用の漂白剤で消毒してください。可能であれば、生肉・魚用と、野菜や調理済み食品用で、まな板や包丁を使い分けるのが理想的です。
食品取り扱いのポイント
- 購入した食品は室温放置せず、すぐに冷蔵・冷凍保存する
- 冷蔵庫内でも菌はゆっくり増殖するため、早めに食べきる
- 冷凍食品の解凍は室温ではなく、冷蔵庫内や電子レンジで行う
- 調理器具は食材ごとに使い分けるか、使用の都度洗浄・消毒する
感染性胃腸炎の予防
ウイルス性の胃腸炎、特にノロウイルスは非常に感染力が強いため、家庭内や施設内での感染拡大を防ぐことが大切です。
流行期の対策
冬場(11月から3月頃)の流行期には、人混みを避け、外出から帰宅した後やトイレの後は、手洗いを徹底します。
ノロウイルスの感染源となりやすい二枚貝(カキなど)は、生や加熱不十分な状態(「湯通し」程度では不十分)で食べるのは避け、中心部までしっかり加熱(85℃~90℃で90秒以上)しましょう。
家族が感染した場合の消毒
もし家族が嘔吐や下痢をした場合、吐物や便には大量のウイルスが含まれているので、処理する際は、使い捨ての手袋とマスクを必ず着用し、換気をしながら行います。
汚れた場所や物は、ペーパータオルなどで静かに拭き取った後、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤)を薄めた液(0.1%濃度:水500mlに漂白剤キャップ半分程度)で浸すように拭き、その後水拭きします。
汚れた衣類は、バケツなどでまず水洗いし、その後0.02%濃度の次亜塩素酸ナトリウム液に浸してから、他のものとは分けて洗濯しましょう。
ストレス管理と生活習慣
脳と腸は自律神経などを介して密接に関連している(脳腸相関)ため、精神的なストレスは腸の働きに直接影響を与えます。過敏性腸症候群(IBS)のように、ストレスが下痢や腹痛の引き金になることも少なくありません。
日頃から十分な睡眠時間を確保し、過労を避けることが大切です。食事は1日3食、なるべく決まった時間にとり、暴飲暴食や早食いを避け、バランスの良い内容を心がけましょう。
ウォーキングやジョギングなどの適度な運動は、気分転換になるだけでなく、自律神経のバランスを整えるのにも役立ちます。
趣味の時間を持つ、ゆっくり入浴する、音楽を聴くなど、自分なりのリラックス方法を見つけて、ストレスを上手に発散させることも、腸の健康を保つために大事です。
よくある質問
- 激しい腹痛と下痢があるとき、お風呂に入っても大丈夫ですか?
-
症状が激しいときや発熱があるときは、入浴は体力を消耗するため避けた方が良いでしょう。
湯船につかると体が温まり、一時的に楽に感じるかもしれませんが、血流が良くなることで炎症を助長したり、体力を奪って脱水症状を悪化させたりする可能性もあります。
症状が落ち着いてきて、体力が回復してきたら、ぬるめのシャワー程度から再開するのが安心です。
- 下痢のとき、ヨーグルトは食べても良いですか?
-
ヨーグルトに含まれる乳酸菌やビフィズス菌は腸内環境を整えるのに役立つとされますが、下痢がひどいときに食べるのは推奨されません。
乳製品に含まれる乳糖(ラクトース)を消化する酵素が、腸炎によって一時的に減少し、乳糖をうまく分解できずに下痢を悪化させることがあるためです。
症状が完全に落ち着いて、消化の良い食事(おかゆなど)が問題なく食べられるようになってから、腸内環境を整える目的で少量ずつ試してみるのが良いでしょう。
- 症状が治まったら、すぐに普段通りの食事に戻して良いですか?
-
症状が治まった直後の胃腸は、まだ炎症が回復しきっておらず、非常にデリケートな状態です。
そこで急に普段通りの脂っこい食事(揚げ物やラーメンなど)や刺激の強い食事(香辛料やアルコールなど)、食物繊維の多い食事をとると、胃腸に大きな負担がかかり、腹痛や下痢がぶり返すことがあります。
症状が改善した後も、最低でも2~3日、できれば1週間程度は、おかゆやうどん、白身魚、豆腐など、消化の良い食事を続け、徐々に通常の食事に戻していくことが大切です。
- どのくらい下痢が続いたら病院に行くべきですか?
-
激しい下痢や腹痛が2日(48時間)以上続く場合は、単なる食べ過ぎや一時的な体調不良ではない可能性があります。症状が改善する兆しがない、あるいは悪化している場合は、受診を検討しましょう。
ただし、今までにない激しい腹痛、血便、高熱、水分が全く摂れない、意識がもうろうとするなど、が一つでも見られる場合は、待たずに、すぐに医療機関を受診してください。
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以上
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