MENU

EMR内視鏡治療による大腸ポリープ切除 – 手術の流れと回復期間

EMR内視鏡治療による大腸ポリープ切除 - 手術の流れと回復期間

大腸カメラ検査でポリープが見つかった、あるいはEMR内視鏡治療を勧められ、不安を感じているかもしれません。EMR(内視鏡的粘膜切除術)は、大腸ポリープや早期大腸がんに対する重要な治療法の一つです。

どのような治療で、どのくらいの準備や回復期間が必要なのか、イメージが湧かないことも多いでしょう。

この記事では、EMR内視鏡治療の基本的な知識から、治療前後の流れ、回復期間中の食事や生活上の注意点、考えられるリスクまでを詳しく解説します。

目次

EMR内視鏡治療とはどのようなものか

EMR(EndoscopicMucosalResection)は、内視鏡的粘膜切除術のことで、大腸内視鏡(大腸カメラ)を用いて、大腸の粘膜層にできたポリープや早期がんを切除する治療法です。

お腹を切る開腹手術とは異なり、内視鏡の先端から出す器具を使って消化管の内側から病変を取り除きます。

EMRの基本的な考え方

EMRの基本的な考え方は、病変部(ポリープなど)を粘膜下層から浮き上がらせて切除することです。大腸の壁はいくつかの層でできており、ポリープや早期のがんは最も内側の粘膜層から発生します。

EMRでは、病変の下にある粘膜下層に生理食塩水などの液体を注入し、病変が人工的に盛り上がり、安全に切除しやすくなります。

盛り上がった部分にスネアと呼ばれる金属製の輪をかけて絞り、高周波電流を流して焼き切り、筋肉の層を傷つけることなく、病変部のみを正確に取り除くことが目的です。

なぜEMRが必要なのか

大腸ポリープの多くは良性ですが、一部のポリープ(特に腺腫)は、時間をかけてがん化する可能性があるので、ポリープの段階、あるいはごく早期のがんの段階で切除することが、将来的な大腸がんの予防や根治につながります。

EMRはがん化のリスクがある病変や、すでにがんであっても粘膜層にとどまっている早期がんに対して、体を大きく傷つけることなく(低侵襲に)治療を行うために必要な技術です。

開腹手術と比べて体への負担が格段に少なく、回復も早いという利点があります。

EMRの対象となるポリープ

EMRは、すべてのポリープに適応となるわけではなく、主に、内視鏡で一括切除が可能と考えられる大きさや形状の病変が対象になります。

大きさが6mmから20mm程度のポリープがよい適応とされ、特に、平坦な形(無茎性や側方発育型)をしていて、通常のスネア(金属の輪)だけではかけにくいポリープに対して有効です。

粘膜下層に液体を注入して病変を浮き上がらせることで、平坦なポリープでもスネアをかけやすくなります。

EMRが適さないポリープ

一方で、EMRが適さない、あるいは困難なポリープもあり、20mmを超える大きな病変や、がんが粘膜下層よりも深く浸潤している可能性が高い病変です。

また、過去の内視鏡治療や炎症により、病変が硬くなっている(線維化)場合も、液体を注入しても十分に浮き上がらず、EMRが難しいことがあります。

このような場合は、EMRよりもさらに高度な内視鏡治療であるESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)や、外科的手術が検討されます。

ポリープの形状とEMR適応

ポリープの形状特徴EMRの適応
有茎性(茎がある)キノコのように茎がある通常のポリペクトミーが主。EMRも可能。
無茎性(平坦)茎がなく、平らに盛り上がるEMRの良い適応。
側方発育型(LST)横方向に這うように広がる大きさによりEMRまたはESD。

EMRと他の大腸ポリープ切除術との違い

大腸ポリープの切除には、EMR以外にもいくつかの内視鏡治療法があり、ポリープの大きさ、形状、存在する場所、がんの可能性などを総合的に評価し、最も適切と考えられる方法を選択します。

コールドポリペクトミーとの比較

コールドポリペクトミーは、比較的小さなポリープ(主に10mm未満、特に5mm以下の微小なもの)に対して行われる方法です。

EMRが高周波電流を用いて組織を焼き切る(通電する)のに対し、コールドポリペクトミーは通電せずにスネアで病変を機械的に切り取ります。

通電による熱損傷がないため、治療後の出血(後出血)や穿孔(穴が開くこと)のリスクがEMRよりも低いため、小さなポリープに対しては第一に選択されることが増えています。

コールドポリペクトミーの利点と限界

コールドポリペクトミーの利点は、手技が比較的短時間で済み、前述の通り偶発症(合併症)のリスクが低い点です。

しかし、機械的に切り取るため、ある程度の大きさ(例:10mmを超える)になると、一度で完全に取り除くことが難しくなります。

また、太い血管が内部にあるポリープの場合、切除後に出血する可能性もあるため、大きなポリープや平坦なポリープにはEMRやESDが選択されます。

通常のポリペクトミー(スネア法)との比較

通電を伴う通常のポリペクトミー(スネア法)は、キノコのように茎を持つポリープ(有茎性ポリープ)に対して用いられ、スネアを茎の部分にかけて高周波電流で焼き切ります。

EMRとの大きな違いは、EMRが平坦な病変を浮き上がらせるために粘膜下層への液体注入を行うのに対し、有茎性ポリープでは茎自体にスネアをかければよいため、通常は液体注入を行いません。

EMRは、液体注入の手技を含む点で、より平坦な病変に対応した方法です。

治療法の選択基準(大きさ別)

治療法主な対象サイズ主な対象形状
コールドポリペクトミー10mm未満(主に5mm以下)隆起型・平坦型
ポリペクトミー(通電)5mm~15mm程度有茎性(茎がある)
EMR6mm~20mm程度無茎性・平坦型(亜有茎性も)

ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)との比較

ESD(EndoscopicSubmucosalDissection)は、EMRよりもさらに大きな病変(一般的に20mm以上)や、EMRでは一括切除が難しいと考えられる病変(線維化を伴うもの)に対して行われる高度な内視鏡治療です。

EMRがスネアで病変を絞り取 るのに対し、ESDは内視鏡の先端から出す専用の電気メス(ナイフ)を用いて、病変周囲の粘膜を切開し、さらに粘膜下層を少しずつ剥ぎ取っていきます。

ESDが選択される状況

ESDは、EMRではスネアがかからないような大きな平坦型のがんや、スネアで分割して切除するとがんが取り残されるリスクがある場合に選択されます。

EMRに比べて手技の難易度が高く、治療時間も長くなります(ポリープの大きさや場所によりますが、1時間以上かかることも珍しくありません)。

その分、穿孔や出血のリスクもEMRよりは高くなる傾向がありますが、従来であれば開腹手術が必要だった大きな早期がんでも、内視鏡で治療できる可能性が広がりました。

EMRとESDの主な違い

項目EMRESD
対象サイズ(目安)最大20mm程度20mm以上、またはEMR困難例
切除方法スネアで絞り取る電気メスで剥ぎ取る
治療時間(目安)10分~30分60分以上

EMR内視鏡治療の流れ(検査前から準備まで)

EMR内視鏡治療を安全かつ確実に行うためには、治療当日だけでなく、それ以前の準備が非常に重要です。

治療前の診察と説明

まず、大腸内視鏡検査などでポリープが見つかった場合、ポリープがEMRの適応であるかを医師が詳細に評価し、大きさ、形状、表面の模様、硬さなどを観察し、EMRで安全に切除可能か、あるいは他の治療法が適切かを判断します。

EMRを行う方針となった場合、医師から治療の必要性、方法、期待される結果、考えられるリスク(出血や穿孔など)について詳しい説明を受けます。

血液検査の重要性

EMRは出血を伴う可能性がある治療であるため、事前に血液検査を行い、血液が正常に固まる能力(凝固機能)を持っているか、貧血がないかなどを確認します。また、肝臓や腎臓の機能など、全身状態を把握するためにも血液検査は必要です。

検査結果によっては、EMRを安全に行うための対策を講じたり、治療のタイミングを調整したりすることがあります。

服用中のお薬の調整

現在服用しているお薬、特に血液をサラサラにする作用のあるお薬(抗血小板薬や抗凝固薬)は、EMRの際に出血のリスクを高める可能性があります。

脳梗塞や心筋梗塞の予防のためにこれらのお薬を服用している場合、EMRの前に一時的に休薬するか、別のお薬に変更する必要があります。ただし、自己判断での休薬は非常に危険です。

必ず、EMRを行う医師と、お薬を処方している主治医の両方に相談し、どのお薬をいつからいつまで休薬するか、指示を受けてください。

休薬の検討が必要な薬剤の例

薬剤の分類主な薬剤名(例)休薬の必要性
抗血小板薬アスピリン、クロピドグレルなど医師の判断が必須
抗凝固薬ワルファリン、DOACなど医師の判断が必須
その他鎮痛薬(一部)、サプリメント必ず医師に申告

検査食と下剤(腸管洗浄剤)の服用

EMRを安全に行うためには、大腸の中が便で汚れている状態ではいけません。便が残っていると、小さなポリープが見えにくくなったり、切除の際に便が邪魔になったり、感染の原因になったりします。

治療の前日は、消化の良い専用の検査食を食べ、治療当日の朝(または前日の夜から)、約1リットルから2リットルの腸管洗浄剤(下剤)を数時間かけて飲み、大腸の中を空っぽにします。

この準備が不十分だと、治療が中止または延期になる場合もあるため、指示通りに正確に行うことが大切です。

EMR内視鏡治療の当日の流れ(手術手技)

治療当日は、腸管洗浄剤の服用が終わり、腸内がきれいになったことを確認してから治療室へ移動します。

鎮静剤の使用

多くの医療機関では、患者さんがリラックスして苦痛なく治療を受けられるように、鎮静剤(静脈麻酔)を使用します。

腕の静脈から点滴で薬剤を投与すると、うとうとと眠ったような状態になり、内視鏡挿入時の不快感や、治療中の不安が大幅に軽減されます。

ただし、鎮静剤の使用方針は施設によって異なり、患者さんの年齢や全身状態、希望によっても調整されます。鎮静剤を使用した場合は、治療後に薬剤の効果が切れるまで、回復室などで1時間から2時間程度休むことが必要です。

EMRの手順

内視鏡がポリープのある場所まで到達したら、EMRの手技を開始し、まず、ポリープの形状や大きさを再度詳細に観察します。

次に、内視鏡の先端から細い注射針を出し、ポリープの根元付近の粘膜下層に生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウム溶液などを注入し、液体注入により、粘膜層にあるポリープが、その下の筋層から安全な距離だけ浮き上がります。

これは、切除時にスネアをかけやすくすると同時に、切除時の熱が筋層に伝わって腸に穴が開く(穿孔する)のを防ぐための非常に重要な手技です。

スネアによる切除

病変が十分に浮き上がったことを確認したら、スネアと呼ばれる金属製の輪(ループ)状の器具を内視鏡から出し、浮き上がったポリープ全体に引っかけるようにして根元を絞めます。

スネアが適切な位置にかかっていることを確認した後、高周波電流を流します。電流によって、組織を焼灼することでポリープを粘膜ごと切除しますが、痛みを感じることはありません。

切除後の止血処置

ポリープを切除した後の傷口(潰瘍)を詳しく観察し、切除面に太い血管が見える場合や、すぐに出血が始まった場合は、止血処置を行います。

止血方法は、小さな金属製のクリップ(止血クリップ)を用いて傷口を縫い合わせる方法や、電気メスで出血点を焼灼する方法などです。

出血のリスクが高いと判断された場合は、予防的にクリップで傷口を閉鎖することもありますが、クリップは数日から数週間で自然に脱落し、便と一緒に排出されます。

EMR手技の主な段階

段階主な内容目的・重要性
1. 病変の観察内視鏡で詳細に確認EMR適応の最終判断
2. 局所注入粘膜下層に液体を注入病変の挙上、安全層の確保(穿孔予防)
3. 絞扼・切除スネアをかけ、高周波で切除病変の除去
4. 止血・処置切除面を確認、必要時クリップ術中・術後の出血予防

切除標本の回収

切除したポリープ(標本)は、内視鏡の先端に装着したネットや吸引装置などを用いて体外に回収し、標本は、病理検査室に送られます。

病理検査では、顕微鏡を用いて標本を詳細に調べ、切除したポリープが良性であったか、がん細胞が含まれていたか、がん細胞があった場合はどの程度の深さまで達していたか、切除した断端(切り口)に病変が残っていないかを評価します。

結果は、後日外来で説明され、今後の治療方針(追加治療の要否や次回の検査時期など)を決定するために最も重要な情報です。

治療にかかる時間

EMRの手技自体にかかる時間は、ポリープの大きさ、数、場所によって異なりますが、通常は1個あたり10分から30分程度ですが、これはあくまで治療そのものの時間です。

治療前の準備(腸管洗浄剤の服用、点滴の準備など)や、治療後の回復室での安静時間(鎮静剤からの覚醒、状態観察)を含めると、医療機関での総滞在時間は、日帰りの場合でも半日から丸一日程度になります。

EMR内視鏡治療後の回復期間と日常生活

EMRは開腹手術に比べて負担の少ない治療ですが、大腸の粘膜を切除したことには変わりなく、傷口が治るまでには一定の期間が必要です。

治療直後の安静

治療が終了したら、回復室(リカバリールーム)で安静にし、鎮静剤を使用した場合は、薬剤の効果が完全に切れて意識がはっきりするまで、通常1時間から2時間程度です。

この間、看護師が定期的に血圧や脈拍、意識の状態を確認し、腹痛や出血などの異常がないかを観察します。状態が安定し、医師の許可が出たら帰宅、あるいは病室へ移動します。

帰宅後の注意点

鎮静剤を使用した日は、効果が残っている可能性があるため、車、バイク、自転車などの運転は絶対に避けてください。公共交通機関を利用するか、ご家族に送迎を依頼する必要があります。

また、当日は重要な判断を伴う仕事や、機械の操作なども控えましょう。

入浴は、血流が良くなると出血のリスクが高まるため、当日は軽くシャワーを浴びる程度にとどめ、湯船に浸かるのは数日間(医師の指示によりますが、2~3日)避けてください。

食事制限の開始

治療によってできた大腸の傷(潰瘍)は、食べ物の刺激によって影響を受けるので、治療当日は、腸を休ませるために水分のみ、あるいは消化の良さを最優先した流動食(重湯など)から開始します。

翌日以降も、数日間から1週間程度は消化の良い食事を心がける必要があります。アルコール飲料やコーヒーなどの刺激物は、腸の粘膜を充血させたり、血流を良くしたりして出血を誘発する可能性があるため、少なくとも1週間は厳禁です。

治療後の生活制限の目安

項目制限期間の目安主な理由
食事約1週間(消化の良いもの)消化管の安静、創傷治癒の促進
アルコール最低1週間血流増加による出血リスク上昇
運動・労働約1週間(特に腹圧のかかるもの)腹圧上昇による出血・穿孔の予防
入浴(湯船)2~3日(シャワー可)血流増加による出血予防
運転当日(鎮静剤使用時)鎮静剤の影響による事故防止

運動や仕事の再開目安

回復の状況には個人差がありますが、デスクワークなどの事務的な仕事であれば、翌日から復帰可能な場合もあります。

お腹に力が入るような重労働、重いものを持つ作業、激しいスポーツ(ゴルフ、テニス、ジョギングなど)、長時間の運転などは、腹圧が上昇して後出血や穿孔の原因となる可能性があるので、治療後少なくとも1週間は避けることが必要です。

EMR後の食事内容と注意点

EMR治療後の食事管理は、切除した大腸粘膜の傷(潰瘍)を保護し、順調な回復を促すために非常に重要です。腸に負担をかける食事は、出血や穿孔といった偶発症を起こす原因となり得ます。

治療当日と翌日の食事

治療当日は、腸管への刺激を最小限にするため、水分摂取のみ、あるいは水分に近い流動食(重湯、具のないスープ、お茶、スポーツドリンクなど)から開始します。

翌日も引き続き、消化が良く、腸に負担をかけない食事(三分粥~五分粥、柔らかく煮たうどん、パン粥など)を少量ずつ摂ります。

回復期(2日目~1週間)の食事

治療後2日目頃から、徐々に食事の形態を固形に近づけていきますが、引き続き消化の良いものを選ぶことが大切です。

おかゆ(全粥)、柔らかく煮たうどん、食パン(耳を除く)、豆腐、卵(半熟卵、茶碗蒸し)、白身魚(たら、かれい)の煮付け、鶏のささみ、じゃがいもや大根、かぶなどを柔らかく煮たものなどが適しています。

食事はよく噛んで、ゆっくり食べることを心がけてください。

避けるべき食事

治療後1週間程度は、腸に負担をかける以下の食品群は避ける必要があります。脂っこいもの(揚げ物、天ぷら、脂身の多い肉、中華料理、ラーメンなど)は消化に時間がかかり、腸を刺激します。

また、食物繊維の多いもの(きのこ類、海藻類、こんにゃく、ごぼうやれんこんなどの根菜類、玄米)は、消化されにくく便の量を増やし、傷口をこする可能性があります。

さらに、刺激物(唐辛子などの香辛料、わさび、カレー、コーヒー、紅茶、炭酸飲料)も粘膜を刺激するため厳禁です。アルコールは出血のリスクを著しく高めるため、絶対に避けてください。

消化管に優しい食品と避けるべき食品

分類推奨される食品(例)避けるべき食品(例)
主食おかゆ、柔らかいご飯、うどん玄米、雑穀米、ラーメン、パスタ
タンパク質豆腐、卵、白身魚、鶏ささみ脂の多い肉(バラ肉)、加工肉、揚げ物
野菜・その他じゃがいも、大根、かぶ(よく煮る)きのこ類、海藻類、ごぼう、香辛料

水分補給の重要性

水分は十分に摂取する必要がありますが、一度に大量に飲むのではなく、こまめに分けて飲むようにしましょう。

冷たすぎるものや熱すぎるものは胃腸への刺激となるため、常温か、少し温めた程度のもの(白湯、麦茶、スポーツドリンクなど)が適しています。

食事制限がいつまで必要かは、切除したポリープの大きさや個数、切除後の傷の状態によっても異なりますので、医師の指示に従ってください。

EMR内視鏡治療に伴うリスク(偶発症)

EMRは、内視鏡治療の中では確立された比較的安全性の高い治療法ですが、外科的な処置である以上、100%安全とは言い切れません。稀ではありますが、偶発症(合併症)が起こる可能性があります。

術後の出血

EMRに伴う偶発症として最も頻度が高いものが、出血です。出血には、治療の最中や直後に起こるものと、治療後数時間から数日(多くは1週間以内)経ってから起こる後出血(遅発性出血)があります。

治療中や直後の出血は、その場で内視鏡的に止血処置(クリップや焼灼)を行うことが可能です。後出血は、切除後の潰瘍(傷口)を覆っていたかさぶたが、便の刺激や血圧の上昇などによって剥がれることで起こります。

後出血の兆候

後出血が起こると、血便(真っ赤な便や黒っぽい便)、腹痛、めまい、ふらつき、冷や汗などの症状が現れることがあります。

少量の出血であれば自然に止まることもありますが、出血量が多い場合や持続する場合は、緊急で内視鏡検査を行い、出血点を特定して止血処置を行う必要があります。場合によっては入院や輸血が必要です。

  • 持続する腹痛
  • 多量の血便(便器が赤くなる、または黒いタール状の便)
  • めまい、ふらつき、意識が遠のく感じ
  • 冷や汗

このような症状が一つでも現れた場合は、様子を見ずに、すぐに治療を受けた医療機関に連絡してください。

大腸穿孔(穴が開くこと)

穿孔は、EMRに伴う偶発症の中で最も重篤なものの一つですが、頻度は非常に稀(0.5%未満程度)です。EMRでは粘膜下層に液体を注入して筋層から病変を浮き上がらせるため、穿孔のリスクは低減されています。

しかし、病変が大きかったり、腸の壁が薄かったり、線維化が強かったりすると、切除時にスネアや高周波の熱が筋層まで達してしまい、腸に穴が開くことがあります。

治療中に穿孔が判明したら、多くの場合、内視鏡用のクリップで穴を閉鎖することが可能です。

穿孔が疑われる症状

問題は、治療直後にはわからず、時間が経ってから症状が現れる遅発性穿孔です。治療後から持続する強い腹痛、お腹を押すと強く痛む、お腹が板のように硬くなる、発熱などの症状が現れた場合は、穿孔を疑います。

穿孔が起こると、腸の内容物がお腹の中に漏れ出し、腹膜炎という重篤な状態を起こすため、緊急の処置(内視鏡的閉鎖)や、場合によっては開腹手術が必要となり、後出血と同様に直ちに医療機関への連絡してください。

偶発症の発生頻度(目安)

偶発症発生頻度(目安)主な対処法
後出血1%~2%程度内視鏡的止血術(クリップなど)
穿孔0.5%未満内視鏡的閉鎖術、または外科手術
鎮静剤関連呼吸・循環管理、拮抗薬の使用

その他の偶発症

その他、頻度は低いですが、使用する薬剤(鎮静剤や局所注入液など)に対するアレルギー反応(発疹、血圧低下など)や、鎮静剤の使用に伴う呼吸抑制(呼吸が浅くなる)や循環抑制(血圧が下がる)などが起こる可能性があります。

このような偶発性に対応するため、治療中は血圧、脈拍、血中酸素飽和度などを常に監視(モニタリング)し、異常があればすぐに対応できる体制を整えています。

偶発症を防ぐための自己管理

リスクをゼロにすることはできませんが、最小限に抑えるために患者さん自身ができることもあります。

それは、治療前に指示された薬剤の調整(休薬など)を正確に行うこと、そして治療後に指示された食事制限や運動制限、入浴制限などを厳密に守ることです。

特に治療後1週間は、大腸の傷がまだ不安定な時期なので、無理をしないことが、後出血や穿孔の予防にとって最も大切です。

よくある質問

EMR治療中の痛みはありますか?

大腸の粘膜には痛覚(痛みを感じる神経)がないため、ポリープを切除する際に痛みを感じることはありません。

ただし、内視鏡で腸が押されたり、空気が入ったりすることでお腹が張る感覚(腹部膨満感)や、違和感を覚えることはあります。

多くの施設では、苦痛を軽減するために鎮静剤を使用しますので、リラックスした状態で治療を受けることが可能です。

EMR治療は日帰りで行えますか?

ポリープの大きさ、数、形状、または患者さんの全身状態(服用中のお薬や持病など)によって、日帰りで可能か、短期入院(1~2泊)を勧めるかが決まります。

比較的小さなポリープ(例:10mm前後)が1個であれば日帰りで行う施設も多いですが、出血や穿孔のリスクが通常より高いと判断される場合は、安全を考慮して入院を勧めることがあります。

方針は施設によって異なるため、事前に確認が必要です。

切除したポリープは必ずがんになりますか?

切除したポリープがすべてがんであったわけではありません。多くは良性の腺腫(せんしゅ)ですが、腺腫は放置すると時間をかけてがん化する可能性があります(腺腫内がん)。

EMRの目的は、がん化のリスクを持つポリープを早期に切除することです。切除したポリープは病理検査で詳しく調べ、がん細胞が含まれているか、含まれている場合はどの程度の深さまで達しているかを確認します。

EMR治療後に飛行機に乗ることはできますか?

EMR治療後は、気圧の変化が腸管に影響を与え、出血や穿孔のリスクを高める可能性があるため、治療後すぐに飛行機に乗ることは推奨されません。

安全のため、少なくとも1週間程度は長距離の移動や旅行(特に飛行機の利用)を避けるよう指示されることが一般的です。

以上

参考文献

Sano Y, Hotta K, Matsuda T, Murakami Y, Fujii T, Kudo SE, Oda Y, Ishikawa H, Saito Y, Kobayashi N, Sekiguchi M. Endoscopic removal of premalignant lesions reduces long-term colorectal cancer risk: results from the Japan polyp study. Clinical Gastroenterology and Hepatology. 2024 Mar 1;22(3):542-51.

Fujiya M, Tanaka K, Dokoshi T, Tominaga M, Ueno N, Inaba Y, Ito T, Moriichi K, Kohgo Y. Efficacy and adverse events of EMR and endoscopic submucosal dissection for the treatment of colon neoplasms: a meta-analysis of studies comparing EMR and endoscopic submucosal dissection. Gastrointestinal endoscopy. 2015 Mar 1;81(3):583-95.

Shimada S, Hotta K, Takada K, Imai K, Ito S, Kishida Y, Kawata N, Yoshida M, Yamamoto Y, Maeda Y, Minamide T. Complete endoscopic removal rate of detected colorectal polyps in a real world out-patient practical setting. Scandinavian Journal of Gastroenterology. 2023 Apr 3;58(4):422-8.

Tanaka S, Saitoh Y, Matsuda T, Igarashi M, Matsumoto T, Iwao Y, Suzuki Y, Nishida H, Watanabe T, Sugai T, Sugihara KI. Evidence-based clinical practice guidelines for management of colorectal polyps. Journal of gastroenterology. 2015 Mar;50(3):252-60.

Yamashina T, Uedo N, Akasaka T, Iwatsubo T, Nakatani Y, Akamatsu T, Kawamura T, Takeuchi Y, Fujii S, Kusaka T, Shimokawa T. Comparison of underwater vs conventional endoscopic mucosal resection of intermediate-size colorectal polyps. Gastroenterology. 2019 Aug 1;157(2):451-61.

Sato Y, Ozawa SI, Yasuda H, Kato M, Kiyokawa H, Yamashita M, Matsuo Y, Yamamoto H, Itoh F. Tip-in endoscopic mucosal resection for large colorectal sessile polyps. Surgical Endoscopy. 2021 Apr;35(4):1820-6.

Watanabe K, Ogata S, Kawazoe S, Watanabe K, Koyama T, Kajiwara T, Shimoda Y, Takase Y, Irie K, Mizuguchi M, Tsunada S. Clinical outcomes of EMR for gastric tumors: historical pilot evaluation between endoscopic submucosal dissection and conventional mucosal resection. Gastrointestinal endoscopy. 2006 May 1;63(6):776-82.

Endo S, Hirasaki S, Doi T, Endo H, Nishina T, Moriwaki T, Nakauchi M, Masumoto T, Tanimizu M, Hyodo I. Granular cell tumor occurring in the sigmoid colon treated by endoscopic mucosal resection using a transparent cap (EMR-C). Journal of gastroenterology. 2003 Apr;38(4):385-9.

Shichijo S, Takeuchi Y, Uedo N, Ishihara R. Management of local recurrence after endoscopic resection of neoplastic colonic polyps. World journal of gastrointestinal endoscopy. 2018 Dec 16;10(12):378.

Noda H, Ogasawara N, Sugiyama T, Yoshimine T, Tamura Y, Izawa S, Kondo Y, Ebi M, Funaki Y, Sasaki M, Kasugai K. The influence of snare size on the utility and safety of cold snare polypectomy for the removal of colonic polyps in Japanese patients. Journal of Clinical Medicine Research. 2016 Jul 30;8(9):662.

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Dr.中村文保のアバター Dr.中村文保 医療法人社団心匡会 理事長

金沢消化器内科・内視鏡クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医
日本肝臓学会 肝臓専門医

目次