「夜、胸焼けがして目が覚めてしまう」 「家族からイビキが止まっていると言われた」
もしあなたが、逆流性食道炎による胸の不快感と、睡眠時無呼吸症候群(SAS)による睡眠トラブルの両方に悩んでいるとしたら、それは偶然ではないかもしれません。
実は、この2つの病気は非常に密接に関係しており、「互いに症状を悪化させ合う」という厄介な性質を持っています。しかし、逆を言えば、生活習慣を見直すことで両方の症状を同時に和らげられる可能性が高いということでもあります。
この記事では、消化器専門医の監修のもと、医学的な根拠に基づいた「今日から実践できる生活習慣の改善方法」を具体的に解説します。薬物療法と並行して行うことで、より快適な睡眠と生活を取り戻しましょう。
なぜ「逆流性食道炎」と「睡眠時無呼吸症候群」は併発しやすいのか?
多くの患者さんが「胃腸の病気」と「呼吸器の病気」は別物だと考えがちです。しかし、医学的にはこの2つは「合併しやすい病気」として知られています。実際、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんのうち、高い割合で逆流性食道炎が見られるというデータも報告されています。
お互いが悪化させ合う「負の連鎖」のメカニズム
なぜ、この2つはセットで起こるのでしょうか?そこには、体の構造と圧力の関係が深く関わっています。
仮説として以下の機序が考えられます。
1.無呼吸が逆流を招く(SAS → GERD)
睡眠中に呼吸が止まると、息を吸おうとして胸の中(胸腔内)に強い「陰圧(いんあつ)」がかかります。この吸い上げる力が、胃の中にある胃酸を食道へと無理やり引き上げてしまうのです。
2.胃酸が呼吸を乱す(GERD → SAS)
逆流した強い酸が喉や気道の入り口を刺激すると、粘膜が炎症を起こして腫れたり、反射的に気道が収縮したりします。これが空気の通り道を狭め、無呼吸やイビキをさらに悪化させます。

共通する最大のリスク要因は「肥満」と「加齢」
さらに、この2つの病気には共通の「原因」があります。それが肥満と加齢です。
肥満: 内臓脂肪が増えると、お腹の圧力(腹圧)が高まり胃を圧迫します(逆流の原因)。同時に、首回りの脂肪が気道を狭めます(無呼吸の原因)。
加齢: 年齢とともに、食道の入り口を締める筋肉や、喉の筋肉が衰え、両方の病気が発症しやすくなります。
今夜からできる対策①「寝る姿勢」と「枕」の工夫
生活習慣の改善の中で、最も即効性が期待できるのが「就寝時の姿勢」です。重力を味方につけることで、物理的に逆流と気道の閉塞を防ぎます。

医学的に推奨されるのは「左側臥位(左向き)」
寝る時は、「体の左側を下にして(左側臥位)」寝ることをおすすめします。
人間の胃は、食道からつながった後、袋状に左側へ膨らんでいます。そのため、左側を下にして寝ると、溜まった胃酸が袋の部分(胃底部)に溜まり、食道への逆流が起こりにくくなります。 逆に、右側を下にすると、食道の入り口付近に胃酸が溜まりやすくなり、逆流のリスクが高まります。また、横向き寝は、仰向けに比べて舌根(舌の付け根)が喉に落ち込むのを防ぐため、無呼吸の予防にも効果的です。
上半身を少し高く保つための工夫
完全に平らな状態で寝るよりも、上半身を少し高くすることも有効です。
専用の枕やクッションを活用する: 頭だけでなく、背中からなだらかに傾斜がつくような「逆流性食道炎用の枕(ウェッジピロー)」や、介護ベッドの背上げ機能を利用するのが理想です。
注意点: 頭だけを高くする高い枕は、首が曲がって気道を圧迫し、イビキや無呼吸を悪化させる恐れがあるため避けましょう。
今夜からできる対策②「夕食のタイミング」と「内容」
「いつ、何を食べるか」も、その夜の症状に直結します。特に重要なのは、胃の中に食べ物が残った状態で横にならないことです。

就寝3時間前には食事を終えるべき理由
食べた物が消化され、胃から十二指腸へ送り出されるまでには、通常約3時間かかります。 胃の中に食べ物が残ったまま横になると、重力の影響を受けやすくなり、胃酸とともに食べ物が容易に逆流してしまいます。
仕事で遅くなる場合: 夕方の休憩時間に主食(おにぎり等)を軽く済ませ、帰宅後は消化の良いスープや野菜料理だけにする「分食(ぶんしょく)」を取り入れましょう。
アルコールはなぜNG?筋肉の弛緩と気道の閉塞
寝酒(ナイトキャップ)は、逆流性食道炎と睡眠時無呼吸、どちらにとっても「大敵」です。
筋肉を緩める: アルコールには筋肉を弛緩させる作用があります。これにより、胃の入り口(下部食道括約筋)が緩んで逆流しやすくなるだけでなく、喉の筋肉も緩んで気道を塞ぎやすくなります。
睡眠の質を下げる: アルコールは寝付きを良くする一方で、睡眠を浅くし、途中覚醒を増やします。
晩酌をする場合は、就寝の4時間前までには切り上げ、適量を守ることが大切です。
根本解決に向けた「体重コントロール」の重要性
寝方や食事のタイミングは即効性がありますが、長期的に両方の病気を改善・根治に導くためには、「適正体重への減量」が最も強力なアプローチとなります。

内臓脂肪が胃と気道の両方を圧迫している
肥満、特に内臓脂肪型肥満は、物理的に体を内側から圧迫します。
・逆流性食道炎への影響: 腹部に溜まった脂肪が胃を強く圧迫し、胃内圧(お腹の中の圧力)を上昇させます。これにより、常に胃酸が食道へ押し出されやすい状態が作られます。
・睡眠時無呼吸への影響: 首回りや舌についた脂肪が、仰向けになった際に重力で喉に落ち込み、気道を狭くあるいは完全に塞いでしまいます。
無理のない減量計画(1ヶ月に体重の3%減を目安に)
急激なダイエットはリバウンドのリスクがあるだけでなく、ストレスによって胃酸過多を招くこともあります。医学的に推奨されるのは、1ヶ月に「現体重の3%」を落とす程度のペースです。例えば、体重70kgの方であれば、まずは2kg程度の減量を目指します。たった数キロの減量でも、腹圧と首回りの脂肪が減少し、症状が劇的に改善するケースは珍しくありません。
見逃せない「服装」と「喫煙」の影響
意外と見落としがちなのが、日中の服装や嗜好品の影響です。これらも症状を悪化させる要因となります。
腹圧を上げる締め付けの強い服・下着は避ける
お腹を締め付ける服装は、常に腹圧をかけた状態を作り出します。
・避けるべきもの: きついベルト、補正下着、ウエストがきついズボンやスカート、帯(着物)など。
・推奨: 特に食後や就寝時は、お腹周りがゆったりとしたゴム製のズボンや、締め付けのないパジャマを選びましょう。これだけで、胃にかかる圧力が下がり、逆流のリスクを減らせます。

タバコが下部食道括約筋を緩めてしまう
喫煙(ニコチン)は、胃と食道のつなぎ目にある「下部食道括約筋」の働きを弱め、緩めてしまいます。また、タバコの煙自体が喉の粘膜を刺激し、炎症や浮腫(むくみ)を引き起こすため、睡眠時の呼吸を妨げる原因にもなります。
禁煙は、逆流性食道炎と睡眠時無呼吸だけでなく、食道がんのリスク低減にも直結するため、強く推奨されます。
医師へ相談すべきタイミング
生活習慣の改善は非常に有効ですが、それだけで全ての症状が解決するわけではありません。以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
医師へ相談すべき症状
食事のつかえ感・嚥下困難: 食道がんや食道狭窄の可能性があります。
日中の強い眠気・居眠り: 重度の睡眠時無呼吸症候群の可能性があり、CPAP(シーパップ)療法などが必要かもしれません。吐血・黒色便: 消化管からの出血が疑われます。
急激な体重減少: 悪性腫瘍などの全身疾患が隠れている可能性があります。
逆流性食道炎だと思っていたら狭心症だった、というケースもあります。自己判断せず、専門医の診断を受けることが安心への第一歩です。
まとめ
逆流性食道炎と睡眠時無呼吸症候群は、「左向きで寝る」「就寝3時間前の食事を控える」「適正体重への減量」といった生活習慣の改善で、同時にケアすることが可能です。
この2つの病気は「生活習慣病」の一種とも言えます。今日からできることを一つずつ取り入れ、負の連鎖を断ち切りましょう。 ただし、症状が長引く場合や改善が見られない場合は、我慢せずに専門医を頼ってください。適切な診断と治療が、あなたの将来の健康を守ります。
- どんな枕を使えばいいですか?
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首だけが高くなる枕ではなく、背中からなだらかに角度がつく「逆流性食道炎用枕(ウェッジピロー)」や、大きめのクッションを背中に当てる方法がおすすめです。首が曲がりすぎて気道が塞がらないよう注意してください。
- 痩せれば必ず治りますか?
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肥満が原因である場合、減量によって劇的に改善するケースは多いです。しかし、骨格(あごが小さいなど)や加齢による筋力低下が原因の場合は、減量だけでは完治しないこともあります。その場合は、CPAP療法や歯科装具(マウスピース)、薬物療法などの併用が必要です。
参考文献
- [胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(改訂第3版)] – 日本消化器病学会, 2021
- [睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020] – 日本呼吸器学会, 2020
- [ACG Clinical Guideline for the Diagnosis and Management of Gastroesophageal Reflux Disease] – Katz PO, et al., The American Journal of Gastroenterology, 2022
- [Obstructive Sleep Apnea and Gastroesophageal Reflux Disease: A Review of Mechanisms and Common Genetic Pathways] – Wang L, et al., Nature and Science of Sleep, 2021
- [Effect of continuous positive airway pressure on gastroesophageal reflux in patients with obstructive sleep apnea: a meta-analysis] – Wu X, et al., Sleep and Breathing, 2020

