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睡眠時無呼吸と腸内環境の深い関係|脳腸相関と改善策を解説

睡眠時無呼吸と腸内環境の深い関係

「しっかり寝ているはずなのに疲れが取れない」「いびきがひどいと言われる」 こうしたお悩みをお持ちの方の中で、同時に「便秘や下痢を繰り返す」「お腹が張りやすい」といった胃腸の不調を感じている方はいらっしゃいませんか?

実は近年、睡眠時無呼吸症候群(SAS)と腸内環境には密接な関係があることが明らかになってきました。睡眠中の「酸素不足」が腸にダメージを与え、それがさらなる体調不良を引き起こしている可能性があるのです。

この記事では、消化器専門医の視点から、睡眠と腸がつながるメカニズムと、そのリスクについて最新の医学的知見(EBM)に基づきわかりやすく解説します。


目次

なぜ「睡眠時無呼吸」が「腸内環境」に影響するのか?

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まり、体内の酸素濃度が低下する病気です。一見、呼吸器や喉の問題と思われがちですが、実は**腸内環境(腸内フローラ)**にも深刻な影響を与えることが分かってきました。

腸と脳・肺はつながっている?(脳腸相関・腸肺相関)

私たちの体は、それぞれの臓器が独立して動いているわけではありません。特に、脳と腸がお互いに情報交換し合う「脳腸相関(Gut-Brain Axis)」というシステムは有名で、ストレスでお腹が痛くなるのはこのためです。

さらに最近の研究では、肺(呼吸)と腸が影響し合う「腸肺相関(Gut-Lung Axis)」という概念も注目されています。 呼吸の状態が悪化すると、自律神経や免疫システムを介して、遠く離れた腸の環境にも変化が生じることが明らかになりつつあります。

睡眠時無呼吸の人は「腸内細菌のバランス」が崩れやすい

健康な人の腸内には、多種多様な細菌がバランスよく生息しています。しかし、睡眠時無呼吸症候群の患者さんの便を調べた研究では、以下のような特徴が多く見られることが報告されています。

  • 腸内細菌の多様性が低下している(菌の種類が減っている)
  • 炎症を引き起こす菌が増加している
  • 腸の壁を守る有益な菌が減少している

つまり、睡眠中の呼吸トラブルが、腸内の生態系を乱す「ディスバイオシス(腸内環境の悪化)」を引き起こしている可能性が高いのです。

【用語解説】ディスバイオシス(Dysbiosis) 腸内細菌のバランスが崩れ、体にとって悪い働きをする菌が優勢になったり、菌の多様性が失われたりしている状態のこと。様々な病気の原因になると考えられています。

【メカニズム】酸素不足が腸を傷つける理由

では、なぜ睡眠中に呼吸が止まるだけで、腸内環境が悪化するのでしょうか? 最大の原因は、呼吸停止によって繰り返される「低酸素状態」にあります。

腸の粘膜細胞の結合が緩み、有害物質が血管内に漏れ出しているリーキーガットの断面比較図

「間欠的低酸素」が腸の粘膜に与えるダメージ

睡眠時無呼吸症候群の最大の特徴は、「間欠的低酸素血症」です。これは、「呼吸が止まって酸素が減る(低酸素)」と「呼吸が再開して酸素が戻る」を、一晩に何度も繰り返す状態のことです。

腸の細胞は、正常に働くために十分な酸素を必要とします。しかし、この「酸素不足」と「再酸素化」の繰り返しは、腸の粘膜細胞にとって大きなストレス(酸化ストレス)となります。

【重要】 研究によると、間欠的な低酸素状態は、腸内の善玉菌(嫌気性菌など)の生存環境を脅かし、酸素に強い悪玉菌が増えやすい環境を作ってしまうと考えられています。

腸のバリア機能低下と全身の炎症反応

腸の内壁には、有害物質が体内に入り込まないようにブロックする「バリア機能(タイトジャンクション)」が備わっています。 しかし、慢性的な酸素不足が続くと、このバリア機能が緩んでしまうことがあります。

  1. 低酸素ストレスで腸の細胞がダメージを受ける。
  2. 細胞同士の結合(タイトジャンクション)が緩む。
  3. 腸内の有害物質や細菌成分が、緩んだ隙間から血管内に漏れ出す。

この状態は「リーキーガット(腸管壁浸漏症候群)」と呼ばれる考え方であり、漏れ出した有害物質が全身を巡ることで、体中で微弱な炎症を引き起こす原因となる可能性が指摘されています。

腸内環境の悪化が招く「負の連鎖」(肥満・糖尿病リスク)

怖いのは、腸内環境が悪化して「お腹の調子が悪い」だけで終わらないことです。 腸内環境の乱れは、代謝(エネルギーの使い道)に異常をきたし、睡眠時無呼吸症候群の原因である「肥満」をさらに悪化させるという悪循環を生むことがわかっています。

睡眠時無呼吸症候群、低酸素、腸内環境悪化、肥満が互いに悪影響を及ぼし合う悪循環のフローチャート

悪玉菌の増加が「太りやすい体質」を作る

腸内細菌は、私たちが食べたものを分解して「短鎖脂肪酸」などの有益な物質を作ります。これらは本来、脂肪の蓄積を抑える働きがあります。 しかし、腸内環境が悪化してこれらのバランスが崩れると、「脂肪を溜め込みやすい体質」へと変化してしまいます。

  • SASで腸内環境が悪化する
  • 代謝が落ちて太りやすくなる
  • 肥満が進み、喉の周りに脂肪がついて気道が狭くなる
  • SASがさらに重症化する

このような「負の連鎖」に陥るモデルが提唱されています。

糖尿病や高血圧との密接な関係

さらに、腸から漏れ出した有害物質による全身の慢性炎症は、インスリンの効きを悪くする(インスリン抵抗性)ことが知られています。 これは2型糖尿病や高血圧のリスクを直接的に高める要因となる可能性が指摘されています。

睡眠時無呼吸症候群の患者さんに生活習慣病の合併が多いのは、単に肥満だからというだけでなく、「腸内環境の悪化による全身の炎症」が隠れた原因となっている可能性があります。

腸を守るための治療と対策【CPAP療法・生活習慣】

ここまでの解説で、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が単なる睡眠のトラブルではなく、腸内環境を破壊し、全身の不調を招くリスクがあることがお分かりいただけたかと思います。 では、この負の連鎖を断ち切るにはどうすればよいのでしょうか?

睡眠時無呼吸症候群の治療に使われるCPAP装置と、腸内環境を整える発酵食品や食物繊維のイメージ画像

CPAP治療で腸内環境は改善するのか?

SASの最も標準的な治療法であるCPAP(持続陽圧呼吸療法)は、睡眠中に気道へ空気を送り込み、無呼吸を防ぐ治療です。 最新の研究データでは、CPAP治療によって以下の効果が期待できることが示されています。

  1. 低酸素状態の解消: 腸の細胞への酸素供給が安定し、酸化ストレスが軽減される。
  2. 交感神経の鎮静化: ストレス状態が緩和され、腸の動き(蠕動運動)が正常化しやすくなる。
  3. 代謝の改善: インスリン抵抗性が改善し、血糖コントロールが良くなる。

【重要:専門医からのアドバイス】 近年の研究(2024年の報告など)によると、CPAP治療単独でも有効ですが、「CPAP治療」と「腸内環境ケア(食事療法)」を同時に行うことで、より効果的に全身の炎症や代謝異常が改善することが示唆されています。 「機械をつけているから大丈夫」と安心せず、食生活の見直しを併用することが回復への近道です。

腸内フローラを整える食事法(プレバイオティクス・発酵食品)

弱った腸のバリア機能を修復し、善玉菌を増やすためには、毎日の食事が鍵となります。特にSASの患者さんに意識していただきたいのは以下の2点です。

  • プロバイオティクス(菌そのものを摂る)
    • ヨーグルト、納豆、キムチ、ぬか漬けなどの発酵食品。
    • ※特に「ビフィズス菌」や「乳酸菌」を含む食品は、腸の炎症を抑える効果が期待されています。
  • プレバイオティクス(菌のエサを摂る)
    • 水溶性食物繊維(海藻、大麦、ごぼう、オクラなど)。
    • オリゴ糖(バナナ、ハチミツなど)。
    • これらは腸内で「短鎖脂肪酸」を作り出し、腸のバリア機能を強化します。

症状が気になる場合は、消化器内科・呼吸器内科へ

「いびきがひどい」と家族に言われる方で、もしお腹の不調も抱えているなら、それは別々の病気ではなく根っこは同じ原因かもしれません。

「いびき」と「お腹の不調」が続く時の受診目安

以下のような症状が揃っている場合は、自己判断で様子を見ず、医療機関への相談を検討してください。

  • 大きないびきをかく、または睡眠中に息が止まっていると言われる。
  • 日中の眠気が強い。
  • 慢性的な便秘、または下痢を繰り返している。
  • お腹が張りやすく、ガスがたまる感じがする。
  • 健康診断で高血圧や血糖値の指摘を受けている。

専門医による検査と診断の重要性

当院のような消化器内科では、まず内視鏡検査などで腸自体に大きな病気がないかを確認します。その上で、異常が見つからない「機能性ディスペプシア」や「過敏性腸症候群」のような症状がある場合、背後に睡眠時無呼吸が隠れていないかを疑います。

必要に応じて専門の検査(簡易ポリソムノグラフィーなど)を行い、「腸」と「睡眠」の両面からアプローチすることで、長年の不調が嘘のように改善する患者様も少なくありません。

まとめ

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、単に「眠りが浅くなる病気」ではありません。繰り返される酸欠状態は、腸内環境を破壊し(ディスバイオシス)、全身の炎症や肥満、糖尿病などのリスクを増大させる要因となります。

  • 睡眠中の「酸欠」が腸のバリアを傷つける。
  • 腸内環境の悪化が、さらに肥満やSASを悪化させる「負の連鎖」がある。
  • 治療は「CPAP」と「腸活(食事)」の両輪で行うのがベスト。

「たかがいびき」「たかが便秘」と放置せず、体の内側からのサインに耳を傾けてみましょう。気になる症状がある場合は、早めに専門医にご相談ください。


よくある質問(Q&A)

Q1. ヨーグルトを食べれば、いびきは治りますか?

A. 残念ながら、ヨーグルトだけでいびきや無呼吸が治ることはありません。しかし、腸内環境を整えることで代謝が良くなり、体重コントロールがしやすくなれば、結果として喉周りの脂肪が減り、SASの改善につながる可能性は十分にあります。

Q2. 痩せているのに「無呼吸」と「お腹の不調」があります。関係ありますか?

A. はい、関係があります。日本人(アジア人)は骨格的に顎が小さく、痩せていても無呼吸になりやすい傾向があります。低酸素ストレスによる腸へのダメージは体型に関わらず起こりうるため、痩せていても注意が必要です。Q3. CPAP治療を始めたら、お腹の張りが減ることはありますか?


参考文献

本記事の執筆にあたり、以下の医学的エビデンスを参照しました。

  1. Microbial dysbiosis in obstructive sleep apnea: a systematic review and meta-analysis
    • 著者: Y Guo, et al.
    • 掲載誌: Frontiers in Microbiology, 2025
  2. Gut microbiota changes in healthy individuals, obstructive sleep apnea patients, and patients treated using continuous positive airway pressure
    • 著者: Wang L, et al.
    • 掲載誌: Sleep and Breathing, 2025 (Online First/Springer)
  3. Effects of Dietary and Probiotic Interventions in Patients with Metabolic Syndrome and Obstructive Sleep Apnea
    • 著者: A Venter, et al.
    • 掲載誌: Clinics and Practice, 2025
  4. Causal relationships between gut microbiome and obstructive sleep apnea: a bi-directional Mendelian randomization
    • 著者: Liu J, et al.
    • 掲載誌: Frontiers in Microbiology, 2024
  5. Impact of PAP on the Gut Microbiome in OSA: a Pilot Study
    • 著者: J M Bock, et al.
    • 掲載誌: Sleep Medicine, 2024
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この記事を書いた人

Dr.中村文保のアバター Dr.中村文保 医療法人社団心匡会 理事長

金沢消化器内科・内視鏡クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医
日本肝臓学会 肝臓専門医

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