睡眠時無呼吸症候群で心筋梗塞・脳梗塞に?死亡リスクと予防法を解説
「たかがいびき」と、軽く考えていませんか? もし、ご家族から「寝ている間に息が止まっている」と指摘されたことがあるなら、それは体からの危険なサインかもしれません。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、単に「眠りが浅くなる」だけの病気ではありません。放置することで、**心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる重大な病気を引き起こす「サイレントキラー(沈黙の殺人者)」**となることが、近年の医学研究で明らかになっています。
【この記事でわかること】
- なぜ「無呼吸」が血管をボロボロにするのか(メカニズム)
- 治療しない場合の死亡リスク・発症リスク
- 危険な兆候を見逃さないためのセルフチェックリスト
漠然とした不安を解消し、健康な未来を守るために、まずは正しい知識を身につけましょう。
なぜ睡眠時無呼吸症候群が「心筋梗塞・脳梗塞」を招くのか?
「睡眠」は本来、脳と体を休ませ、ダメージを修復するための時間です。しかし、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者さんの体内では、寝ている間じゅう、体に過酷な負担がかかり続けています。
なぜ呼吸が止まることが、心臓や脳の血管事故につながるのでしょうか? その主な理由は、以下の2つの悪循環にあります。
睡眠中の「低酸素」が血管を傷つける
呼吸が止まると、当然ながら血液中の酸素濃度が低下します(低酸素血症)。 酸素が足りない状態になると、体は無理やり酸素を全身に巡らせようと働きますが、この過程で「酸化ストレス」と呼ばれる有害な作用が発生します。
この酸化ストレスは、血管の内側の壁(内皮細胞)を直接傷つけ、**動脈硬化(血管が硬く、狭くなる状態)**を急速に進行させる原因となります。
交感神経の興奮と血圧の乱高下
呼吸が止まって苦しくなると、脳は「起きろ!息をしろ!」と緊急指令を出します。これにより、本来寝ている間はリラックスしているはずの「交感神経(興奮の神経)」が、激しく活発化します。
【重要】 寝ている間に交感神経が興奮すると、血管が収縮し、血圧が急激に上昇します(夜間高血圧)。これを一晩に何十回、何百回と繰り返すことが、心臓や脳の血管にとってどれほど大きな負担になるかは想像に難くありません。
この「血管へのダメージ」と「血圧の乱高下」が積み重なることで、ある日突然、血管が詰まったり破れたりするリスクが高まるのです。

「心房細動」と血栓のリスク
SAS患者さんで特に注意が必要なのが、不整脈の一種である「心房細動」です。 呼吸努力による胸の圧力変化や、心臓への負担が重なると、心臓が小刻みに震える「心房細動」が起こりやすくなります。
- 心臓の中で血液がよどみ、「血栓(血の塊)」ができやすくなる。
- その血栓が血流に乗って脳に飛び、太い血管を一瞬で詰まらせる。
これが、重篤な後遺症を残しやすい「心原性脳塞栓症(脳梗塞の一種)」の正体です。
データで見るリスク:SAS患者の循環器疾患発症率
では、実際にどれくらいリスクが高まるのでしょうか? 過去の多くの疫学調査や臨床研究により、睡眠時無呼吸症候群と循環器疾患(心臓・血管の病気)には、極めて強い関連があることが証明されています。
健康な人と比較したときのリスク倍率
日本循環器学会などのガイドラインや海外の論文によると、SASがある場合、健康な人に比べて以下のリスクが高まると報告されています。
- 脳卒中(脳梗塞・脳出血): 約 3〜4倍
- 心筋梗塞・狭心症: 約 2〜3倍
- 高血圧: 約 2倍
- 心房細動(不整脈): 約 4倍
特に、朝起きた時の血圧が高い「早朝高血圧」がある方は要注意です。SASによる夜間の酸素不足が原因であるケースが少なくありません。
特に注意が必要な「重症度」のライン
SASの重症度は、1時間あたりに呼吸が止まる、または浅くなる回数(AHI:無呼吸低呼吸指数)で分類されます。
- 軽症: 5〜15回
- 中等症: 15〜30回
- 重症: 30回以上
【注意】 特に「重症(AHI 30以上)」の患者さんが適切な治療を受けずに放置した場合、心血管イベントによる死亡率が有意に上昇するというデータがあります。
「たかがいびき」と放置せず、数値に基づいた客観的な評価を受けることが重要です。
こんな症状は危険信号。血管事故が起きる前のチェックリスト

自分では気づきにくい睡眠中の異常ですが、体は様々なサインを出しています。 以下のような症状に当てはまる場合、すでに睡眠時無呼吸症候群が進行している可能性があります。
「危険ないびき」と自覚症状
通常のいびきとは異なり、SASのいびきには特徴があります。
- 音が大きい: 隣の部屋まで聞こえるほどの爆音。
- 途切れる: いびきが突然止まり、数秒〜数十秒の無音(無呼吸)の後に、「グガッ!」と苦しそうに息を吹き返す。
体からのSOSチェックリスト
以下の中に、3つ以上当てはまるものはありますか?
- 日中の強烈な眠気(会議中や運転中に眠くなる)
- 起床時の頭痛(酸素不足により二酸化炭素が溜まるため)
- 熟睡感がない(長く寝ても疲れが取れない)
- 夜中に何度もトイレに起きる(心臓への負担で利尿ホルモンが出るため)
- 高血圧や糖尿病の治療中だが、数値が安定しない
命を守るための「検査」と「治療法」
「もしかして自分も…?」と不安になった方は、まず専門の医療機関で検査を受けることが重要です。 「入院が必要なの?」「痛い検査は嫌だ」と思われるかもしれませんが、ご安心ください。現在は、ご自宅で簡単にできる検査が主流です。
自宅でできる簡易検査と精密検査(PSG)
SASの検査は、大きく分けて2つのステップがあります。
- 簡易検査(自宅で実施): 指先にセンサーを装着し、血液中の酸素濃度や脈拍を記録するだけの簡単な検査です。機器はクリニックから郵送や貸し出しで受け取れることが多く、普段通りに寝ながら検査できます。
- 精密検査(PSG:ポリソムノグラフィー): 簡易検査で疑いがあった場合に行います。脳波や呼吸、胸の動きなどを詳しく調べ、診断を確定させます。最近では、この精密検査も自宅で実施できる医療機関が増えています。
ゴールドスタンダード「CPAP(シーパップ)療法」の効果
中等症〜重症のSASと診断された場合、世界標準の治療法として推奨されているのが**CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)**です。
- 仕組み: 寝ている間、鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道を広げて無呼吸を防ぎます。
- 効果: 多くの患者さんが、治療を始めたその日から「朝の目覚めが劇的に変わった」「昼間の眠気が消えた」と実感されます。
軽症の場合は、下あごを前に出す専用のマウスピース(OA)を使用することもあります。
日常生活でできる予防と対策
治療と並行して、生活習慣を見直すことでSASの症状を軽減できる場合があります。今日からできる3つのポイントを紹介します。
1. 「横向き」で寝る
仰向けで寝ると、重力で舌が喉の奥に落ち込み、気道が狭くなりやすくなります。 抱き枕などを活用して「横向き」で寝る工夫をするだけで、いびきが軽減することがあります。
2. 適正体重への減量
肥満はSASの最大の原因です。首周りに脂肪がつくと、気道が物理的に圧迫されます。 体重を5〜10%減らすだけでも、無呼吸の回数が減り、CPAPの圧力を下げられる可能性があります。
3. 寝酒は控える
「寝つきを良くするために」とお酒を飲むのは逆効果です。アルコールは喉の筋肉を緩める作用があるため、気道の閉塞を悪化させ、無呼吸を誘発します。就寝4時間前の飲酒は控えましょう。
よくある質問(Q&A)
Q1. 太っていないのに「いびき」がひどいのですが、SASの可能性はありますか?
A. はい、大いにあります。 欧米人に比べて日本人は「あごが小さい(小顎症)」傾向があり、痩せていても気道が狭くなりやすい骨格をしています。痩せ型だからといって安心はできません。
Q2. CPAP治療は一生続けなければなりませんか?
A. 基本的には継続が必要です。 SASは視力が悪い人が眼鏡をかけるのと同様に、「対症療法」で症状をコントロールするものです。ただし、減量によって無呼吸が改善した場合や、外科手術で喉の構造が変わった場合には、治療を卒業できることもあります。
Q3. 放置するとどうなりますか?
A. 命に関わるリスクが高まります。 前述の通り、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まるだけでなく、日中の居眠り運転による交通事故のリスクも一般人の数倍になります。ご自身だけでなく、周囲の人の安全のためにも治療が必要です。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群は、心臓や脳に大きな負担をかけ、最悪の場合は突然死にもつながる怖い病気です。しかし、「適切に検査・治療を行えば、コントロールできる病気」でもあります。
- 大きないびきを指摘された
- いくら寝ても疲れが取れない
- 血圧が下がらない
こうした症状が続く場合は、自己判断で放置せず、早めに医療機関を受診してください。 「たかが睡眠」と思わず、将来の健康のために、今日から一歩を踏み出しましょう。
参考文献
- JCS 2023 Guideline on Diagnosis and Treatment of Sleep Disordered Breathing in Cardiovascular Disease
- 発行元: Japanese Circulation Society (日本循環器学会)
- 発行年: 2023年
- Sleep Apnea Syndrome (SAS) Clinical Practice Guidelines 2020
- 発行元: Japanese Respiratory Society (日本呼吸器学会)
- 発行年: 2020年 (English ver. 2021)
- The Effects of Obstructive Sleep Apnea on the Cardiovascular System: A Comprehensive Review
- 著者: MV DiCaro, et al.
- 掲載誌: Journal of Clinical Medicine, 2024
- Cardiovascular effects of obstructive sleep apnoea and effects of continuous positive airway pressure therapy
- 著者: M Bradicich, et al.
- 掲載誌: ERJ Open Res, 2025
- Effect of CPAP Treatment on Cardiovascular Outcomes: A Meta-Analysis
- 著者: Multiple authors (Systematic Review)
- 掲載誌: Archivos de Bronconeumología, 2024
