健康診断の結果を見るたびに、指摘される項目が増えていく…。「血圧が高い」「血糖値も高め」「悪玉コレステロールが…」と、次々と病名や異常値を告げられ、不安を感じてはいませんか?
「薬を飲んでいるのに、なかなか数値が良くならない」
「そもそも、なんでこんなに色々な病気が一度に来るの?」
もしあなたが、いびきや日中の眠気を感じているなら、その原因は「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」にあるかもしれません。
一見、関係なさそうに見える「睡眠」と「全身の病気」ですが、実は密接にリンクしています。睡眠中の無呼吸は、単なる睡眠不足にとどまらず、体内で「酸化ストレス」や「全身性炎症」を引き起こし、血管をボロボロにしてしまうのです。
この記事では、現役の専門医監修のもと、最新の医学的知見に基づき、SASが引き起こす「負の連鎖(メタボリックドミノ)」の正体と、その断ち切り方について分かりやすく解説します。
病名が増えていく不安へ。「メタボリックドミノ」の起点は睡眠にあるかもしれない
「メタボリックドミノ」という言葉をご存じでしょうか?
これは、生活習慣の乱れから始まり、ドミノ倒しのように次々と病気が連鎖していく様子を例えた医学用語です。
- 最初のドミノ: 生活習慣の乱れ・肥満・睡眠の質の低下
- 2番目のドミノ: インスリン抵抗性(血糖値が下がりにくくなる)・食後高血糖
- 3番目のドミノ: 高血圧・脂質異常症・糖尿病の発症
- 最後のドミノ: 動脈硬化・脳卒中・心不全・腎不全
多くの方が、高血圧や糖尿病といった「3番目のドミノ」が倒れてから治療を始めます。しかし、ドミノの上流にある「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」を見逃したままでは、いくら薬で数値を下げようとしても、上流から倒れようとする力(病気の原因)を止めることはできません。
SASは、このドミノ倒しの「最初の1枚」になり得る強力なトリガーです。逆に言えば、SASを適切に治療することは、この負の連鎖を根本から食い止める大きなチャンスとなるのです。

なぜ呼吸が止まると全身が悪くなる? 諸悪の根源「酸化ストレス」と「低酸素」
「寝ている間に息が止まる」ことは、医学的に見て、体にどのような影響を与えているのでしょうか?
単に「空気が吸えない」という物理的な問題だけではありません。SASの体内では、ジェットコースターのような激しい環境変化が毎晩繰り返されています。
1. 間欠的低酸素血症(繰り返される酸欠)
呼吸が止まると、血液中の酸素濃度が低下します(低酸素血症)。これは、数分おきに首を絞められたり、高山へ移動させられたりしているのと同じような過酷な状況です。全身の細胞は酸素不足に陥り、悲鳴を上げます。
2. 酸化ストレスの発生
呼吸が再開した瞬間、酸素が一気に体内に流れ込みます。実は、この「酸欠状態から急に酸素が入ってくる」タイミングで、「活性酸素」という有害な物質が大量に発生します。これを「酸化ストレス」と呼びます。
活性酸素は、細胞をサビつかせ、傷つける強力な毒性を持っています。SASの患者さんの体内では、一晩中この酸化ストレスが発生し続け、全身の組織を攻撃しているのです。
3. 交感神経の異常な興奮
本来、睡眠中は体を休める「副交感神経」が優位になるべきです。しかし、無呼吸による苦しさから脳が覚醒反応を起こし、興奮の神経である「交感神経」が亢進(働きすぎる状態)します。これにより、寝ている間も心臓は全力疾走しているかのように脈が速くなり、血管は収縮し続けてしまいます。

血管がボロボロになるメカニズム。「血管内皮障害」と「全身性炎症」
酸化ストレスや交感神経の興奮が続くと、具体的にどこが壊れるのでしょうか?
真っ先にダメージを受けるのが、血管の一番内側にある「血管内皮細胞」です。
血管内皮障害とは
血管内皮細胞は、血管の健康を保つためのバリア機能や、血管を広げて血流を良くする物質(NO:一酸化窒素)を出す重要な役割を持っています。
しかし、SASによる酸化ストレスはこの内皮細胞を傷つけ、機能を麻痺させてしまいます。これを「血管内皮障害」と呼びます。
全身性炎症(慢性的な火事)
血管内皮が傷つくと、体はそれを治そうとして免疫反応を起こします。しかし、毎晩傷つけられるため、炎症が治まる暇がありません。
その結果、血液中には「炎症性サイトカイン」という物質が溢れかえり、体全体が「全身性炎症」という、弱い火事が常に起きているような状態になります。
【重要】
この「血管内皮障害」と「全身性炎症」こそが、動脈硬化を加速させる最大の原因です。血管は柔軟性を失って硬くなり、内側にはプラーク(ゴミ)が溜まりやすくなります。
SASは単なる「のどの病気」ではなく、「血管を全身単位で老化させる病気」であると認識する必要があります。

SASが引き起こす「負の連鎖」。各疾患とのつながり
前述した「酸化ストレス」と「血管内皮障害」は、具体的にどのような病気として表面化するのでしょうか?
ここでは、SASが直接的な悪化要因となっている3大リスクについて解説します。
薬が効かない?「高血圧」との密接な関係
SASと最も結びつきが強いのが高血圧です。
健康な人は、睡眠中に副交感神経が働いて血圧が下がります(ディッパー型)。しかし、SAS患者さんは呼吸停止による苦しさで交感神経が興奮し続けるため、夜間も血圧が下がりません(ノンディッパー型)。さらに、急激な血圧上昇(サージ)を繰り返すことで血管に強い負荷がかかります。
【重要】
降圧薬を3種類以上飲んでも血圧が下がらない「治療抵抗性高血圧」の患者さんのうち、約70~80%にSASが合併しているというデータもあります。
インスリンが効かなくなる「糖尿病」のリスク
睡眠不足や無呼吸によるストレスは、血糖値を上げるホルモン(コルチゾールなど)の分泌を促します。同時に、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」の効きが悪くなる「インスリン抵抗性」を引き起こします。
「食事制限をしているのに血糖値(HbA1c)が下がらない」という場合、裏に無呼吸が隠れている可能性があります。
突然死を招く「脳卒中・心筋梗塞」
酸化ストレスで傷ついた血管壁には、プラーク(コレステロールの塊)ができやすくなります。
無呼吸から呼吸が再開する瞬間、胸の中の圧力が大きく変化し、同時に血圧も急上昇します。この衝撃でプラークが破裂し、血栓が飛んで血管を詰まらせることで、脳梗塞や心筋梗塞といった致命的なイベント(心血管イベント)を引き起こすリスクが高まります。

負の連鎖は断ち切れる。「CPAP治療のエビデンス」と予後改善
怖い話が続きましたが、希望の持てるデータがあります。SASは「適切な治療を行えば、リスクをコントロールできる病気」です。
その切り札となるのが、CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)です。
CPAP治療のエビデンス(科学的根拠)
CPAPは、寝ている間に鼻から空気を送り込み、気道を広げて無呼吸を防ぐ治療法です。近年の多くの研究やガイドラインにおいて、その効果が証明されています。
- 血圧の低下: CPAP治療を継続することで、特に夜間の血圧が低下し、降圧薬を減らせる可能性があります。
- 心血管イベントの抑制: 日本循環器学会のガイドラインや最新のメタ解析においても、適切なCPAP治療は心筋梗塞や脳卒中の再発リスクを下げ、生命予後(寿命)を改善することが示唆されています。
- 糖代謝の改善: インスリン抵抗性が改善しやすくなります。
SASの治療は、単に「いびきを止める」だけでなく、「将来の大きな病気を予防する」ための積極的な投資なのです。
放置することのリスクと、医師へ相談すべきタイミング
「少しいびきがうるさいだけだから」と放置するのが最も危険です。SASは自覚症状が乏しいことも多く、気づかないうちに血管の老化が進行します。
こんなサインがあれば、早めに受診を
以下の項目のうち、2つ以上当てはまる場合は、医療機関への相談を強くお勧めします。
- 大きないびきをかく、または寝ている間に息が止まっていると指摘された。
- 日中、耐え難い強い眠気がある(会議中や運転中など)。
- 夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)。
- 朝起きた時に、頭痛がする、あるいは口が乾いている。
- 血圧の薬を飲んでいるのに、数値が安定しない。
まとめ:その不調、まずは「睡眠」から見直してみませんか?
睡眠時無呼吸症候群は、単なる睡眠のトラブルではありません。
「酸化ストレス」や「全身性炎症」を通じて、高血圧、糖尿病、そして脳卒中へと繋がる「メタボリックドミノ」**の起点となる病気です。
しかし、恐れる必要はありません。SASは検査で簡単に診断でき、CPAP等の確立された治療法が存在します。「たかがいびき」と放置せず、ドミノの最初の1枚を止めることで、あなたの10年後、20年後の健康を守ることができます。
症状に心当たりがある方は、かかりつけ医にご相談ください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 痩せれば睡眠時無呼吸症候群は治りますか?
A. 肥満は大きな原因の一つですので、減量は非常に有効です。しかし、日本人は欧米人に比べて「顎が小さい(小顎症)」人が多く、痩せていてもSASになるケースが多々あります。減量と並行して、適切な医療的介入が必要です。
Q2. CPAP治療はずっと続けなければなりませんか?
A. 基本的には、視力が悪い人が眼鏡をかけるのと同じで、継続使用が推奨されます。ただし、大幅な減量に成功した場合や、手術などで気道の形状が変わった場合には、卒業できることもあります。自己判断で中止せず、主治医と相談しながら進めましょう。
Q3. いびきをかいていなければ大丈夫ですか?
A. 必ずしもそうとは限りません。「隠れ無呼吸」といって、いびきが少なくても無呼吸を起こしている場合があります。特に「夜間頻尿」や「起床時の頭痛」、「日中の強い眠気」がある場合は要注意です。
参考文献
- Obstructive sleep apnea-related hypertension: a review of the literature and clinical management strategy
- 著者:K Shiina, et al.
- 掲載誌: Hypertension Research, 2024
- Cardiovascular benefit of continuous positive airway pressure according to high-risk obstructive sleep apnoea: a multi-trial analysis
- 著者: Azarbarzin A, et al.
- 掲載誌: European Heart Journal, 2025
- 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン(2023年改訂版)
- 発行: 日本循環器学会 (JCS) / 日本心不全学会 (JHFS)
- 発行年: 2023年
- Insulin Resistance and Type 2 Diabetes in Asymptomatic Obstructive Sleep Apnea: Results of the PROOF Cohort Study
- 著者: L Vacelet, et al.
- 掲載誌: Frontiers in Physiology, 2021
- Unraveling the Complexities of Oxidative Stress and Inflammation Biomarkers in Obstructive Sleep Apnea Syndrome: A Comprehensive Review
- 著者: S Lavalle, et al.
- 掲載誌: Life (Basel), 2024
この記事の監修者
医療法人社団心匡会 理事長 中村 文保
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本消化器内視鏡学会 専門医
- 日本肝臓学会 肝臓専門医
当院は、金沢・野々市・白山市の皆様に信頼される「地域のかかりつけ医」として、専門性の高い医療を提供しています。
