便通が悪い状態が続くと、単なる体質の問題だと片付けてしまう方が多くいらっしゃいます。日々の生活習慣が原因であることも多いですが、中には大腸がんや炎症性腸疾患といった専門的な治療が必要な病気が潜んでいることがあります。
「たかが便秘」と自己判断せず、隠れたサインを見逃さないことが将来の健康を守る鍵です。
本記事では、便秘気味の方が特に注意すべき大腸疾患と症状について、詳しく解説します。
便秘の種類と危険な便秘の見分け方
便秘には大きく分けて機能的な問題によるものと、病気が原因で起こる器質的なものがあり、対処法が根本的に異なります。特に注意が必要なのは、腸の形や内部の状態に物理的な変化が生じている場合です。
機能性便秘と器質性便秘の違い
私たちが普段便秘、と呼んでいるものの多くは、生活習慣やストレスによる機能性便秘に分類されます。
これは腸の動きが鈍くなったり、逆に過敏になったりすることで排便がスムーズにいかなくなる状態を指し、食事や運動などの生活習慣を見直すことで改善が見込めることが多いのが特徴です。
一方で、強く警戒しなければならないのが器質性便秘で、大腸そのものに腫瘍ができたり、炎症によって腸管が狭くなったりすることで物理的に便が通りにくくなる状態です。
この場合、いくら食事に気を使っても根本的な解決にはなりません。早期に医療機関を受診し、検査を通じて物理的な原因を特定した上で、治療を受ける必要があります。
便秘の種類と特徴
| 分類 | 主な原因 | 特徴的な傾向 |
|---|---|---|
| 機能性便秘 | 運動不足、水分不足、ストレス、自律神経の乱れ | 生活習慣の改善で症状が緩和することが多い |
| 器質性便秘 | 大腸がん、腸閉塞、クローン病、手術後の癒着 | 激しい腹痛や血便を伴い、自然治癒が難しい |
| 薬剤性便秘 | 抗うつ薬、咳止め、痛み止めなどの副作用 | 新しい薬を飲み始めてから症状が現れる |
見逃してはいけない危険なサイン
単なる便秘だと思っていた症状が、実は重篤な疾患の予兆であることは珍しくありません。特に注意深く観察していただきたいのが、便の状態の変化です。
以前よりも便が細くなったと感じる場合、腸の内側が何らかの原因で狭くなっている可能性があります。
また、便に血液が混じっている場合も警戒が必要です。鮮やかな赤色の血が付着している場合は肛門に近い場所からの出血が疑われますが、黒っぽい血が混じっている場合は腸の奥の方での異常が疑われます。
さらに、便秘と下痢を繰り返す症状も、腸がSOSを出している重要なサインで、これは腸が狭くなっている部分を便が無理に通ろうとして、水っぽい便だけが通過している状態かもしれません。
年齢とともに高まるリスク
加齢とともに腸の機能が低下することは自然な現象ですが、全て老化のせいにするのは危険です。
40代を過ぎると大腸がんのリスクは徐々に上昇し始め、若い頃と同じような便秘対策をしていても改善しない場合、身体の中で何らかの変化が起きていると考えられます。
これまで快便だった方が急に便秘がちになったという変化は、身体からの重要なメッセージです。「年のせいだから仕方がない」と諦めず、その裏に隠れているかもしれない病気の可能性を疑う視点を持つことが大切です。
大腸がんが引き起こす便通異常の症状
大腸がんは初期段階では自覚症状がほとんどありませんが、進行すると便通に明らかな変化が現れ、腫瘍が大きくなることで便の通り道が物理的に塞がれ、排便困難や出血といった症状が顕著になります。
早期発見のために知っておくべき症状の変化について詳しく見ていきます。
腫瘍による腸管の狭窄と便の形状変化
大腸がんが進行して腫瘍が大きくなると、腸の管の内側(内腔)に突出してきて、本来は十分な広さがある通り道が、腫瘍によって部分的に塞がれてしまいます。狭くなった部分を便が通過しようとするとき、便は無理やり形を変えざるを得ません。
その結果として現れるのが、便が細くなる、という症状です。昔に比べて便が鉛筆のように細くなったと感じる場合、肛門に近い直腸やS状結腸にがんができている可能性があります。
また、排便した後も便が残っているような感覚、いわゆる残便感が続くこともあり、これは腫瘍そのものを便と勘違いして、身体が「まだ出したい」という指令を出し続けているために起こる現象です。
血便と見分けにくい症状
大腸がんの症状としてよく知られているのが血便ですが、痔による出血と自己判断してしまう方が多くいらっしゃいます。痔の場合、排便時に痛みを伴うことが多く、鮮やかな赤い血がポタポタと落ちたり、紙についたりするのが特徴です。
大腸がんによる出血は痛みを伴わないことが多く、便の表面に血液が付着していたり、便全体に混ざり込んでいたりします。
出血箇所が肛門から遠い場所、つまり大腸の奥の方(右側結腸など)であればあるほど、血液は時間が経って黒っぽく変色します。
真っ黒な便が出る場合は、胃や十二指腸からの出血も考えられますが、大腸がんの可能性も完全には否定できません。
目に見える出血がなくても、便潜血検査で陽性となるような微量な出血が続いていることもあり、慢性的な貧血を起こし、息切れやめまいといった全身症状として現れることもあります。
自覚症状が乏しくても、身体からのサインを見逃さないようにすることが重要です。
大腸がんのリスクを高める要因
- 家族歴の有無
親や兄弟、祖父母に大腸がんを患った方がいる場合、遺伝的な要因を持っている可能性があります。 - 食生活の欧米化
赤肉(牛・豚・羊)や加工肉(ハム・ソーセージ)の摂取量が多く、食物繊維が不足している食事はリスクとなります。 - 過度な飲酒と喫煙
長期間にわたる喫煙習慣や、過度なアルコール摂取は、大腸の粘膜に悪影響を及ぼすことが分かっています。 - 肥満と運動不足
内臓脂肪が多い状態や、日常的に身体を動かす習慣がないことは、大腸がんの発症リスクを高める要因となります。
腹痛と腹部膨満感の出現
がんによって腸が狭くなると、便やガスがスムーズに流れなくなり、狭くなった場所の手前で内容物が滞留し、腸が異常に拡張してしまい、慢性的なお腹の張りや痛みの原因となります。
最初は時々痛む程度でも、進行するとキリキリとした強い痛みを感じるようになり、さらに症状が進み、腸が完全に塞がってしまう状態に陥ります。
こうなると便もガスも全く出なくなり、激しい腹痛と嘔吐に襲われ、腸閉塞は緊急手術が必要になることもある危険な状態です。
便秘気味の状態が長く続き、同時にお腹の張りや痛みが強くなってきている場合は、腸が悲鳴を上げている合図かもしれません。
炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)の可能性
比較的若い世代に多く見られる炎症性腸疾患も、便通異常を起こす代表的な病気で、免疫機能の異常により腸の粘膜に慢性的な炎症が起き、便秘だけでなく、下痢や粘血便といった激しい症状を伴うのが特徴です。
それぞれの病気が持つ特有の症状について解説します。
潰瘍性大腸炎における便通異常
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる病気で、直腸から始まり奥の方へと炎症が広がっていく性質があります。主な症状は下痢と血便ですが、炎症が直腸に限局している場合などでは、逆に便秘の症状が現れることがあります。
これを直腸炎型と呼びますが、腸が炎症でむくみ、便を送り出す機能がうまく働かなくなることが原因の一つと考えられます。また、トイレに行っても便が出そうで出ないしぶり腹(テネスムス)という症状も特徴的です。
便意はあるのにお腹が痛むだけで排便できないという不快な症状が続き、生活の質を大きく低下させます。便に白っぽいドロドロとした粘液が混じる粘液便も、腸の粘膜が荒れていることを示す重要なサインです。
潰瘍性大腸炎とクローン病の違い
| 項目 | 潰瘍性大腸炎 | クローン病 |
|---|---|---|
| 炎症の範囲 | 大腸に限られることが多い | 口から肛門まで消化管全体に起こりうる |
| 病変の広がり方 | 直腸から連続的に広がる | 正常な部分と病変部分が飛び飛びに現れる |
| 主な便通症状 | 粘血便、下痢、しぶり腹 | 下痢、腹痛、痔瘻(じろう) |
クローン病と肛門病変
クローン病は、小腸や大腸など消化管のあらゆる場所に炎症や潰瘍ができる病気です。腸の壁の深い部分まで炎症が及ぶため、腸が狭くなる狭窄が起きやすく、頑固な便秘や腹痛の原因となります。
食事をした後にお腹が痛くなり、ゴロゴロと音がするような場合は、腸の一部が狭くなっている可能性があり、また、クローン病の特徴として肛門のトラブルが非常に多いことが挙げられます。
痔瘻(じろう)と呼ばれる、肛門の周りに膿のトンネルができる症状や、裂肛(切れ痔)を繰り返すことがあります。
単なる切れ痔だと思って市販薬で様子を見ていたけれど、なかなか治らないために受診したところ、クローン病が見つかったというケースも少なくありません。
お尻のトラブルと便通の異常が同時に起きている場合は、肛門科や消化器内科で詳しい検査を受けることが重要です。
全身に現れる症状との関連
炎症性腸疾患は、腸だけの病気ではありません。全身の免疫システムが関わっているため、腸以外の場所にも症状が現れることがあります(腸管外合併症)。
関節の痛みや腫れ、皮膚の赤み(結節性紅斑など)、目の痛みや充血(ぶどう膜炎)などが代表的です。また、長期間の炎症によって栄養の吸収が悪くなり、体重減少や発熱、全身の倦怠感が続くこともあります。
便秘や下痢といったお腹の症状だけでなく、原因不明の微熱や関節痛が続いている場合は、炎症が関連している可能性を考慮する必要があります。
過敏性腸症候群(IBS)とストレスの関係
検査をしても腸自体に目に見える異常はないものの、便秘や下痢を繰り返すのが過敏性腸症候群(IBS)です。脳と腸の密接な連携(脳腸相関)が乱れることで、腸が知覚過敏のような状態になり、少しの刺激で激しい反応を示します。
便秘型IBSの特徴
過敏性腸症候群の中でも、うさぎの糞のようなコロコロとした硬い便しか出なくなるのが便秘型です。腸のけいれん的な収縮が強くなりすぎて、便を肛門の方へ送り出す正常な動きが阻害されてしまいます。
便が腸の中に長く留まることで水分が過剰に吸収され、さらに硬くなるという悪循環に陥り、排便しようとしても強い腹痛を伴い、排便した後もすっきりしない残便感が強く残ります。
また、腹部膨満感も強く、ガスがたまってお腹が張る苦しさを訴える方が多くいらっしゃり、緊張する場面や、精神的なストレスがかかった時に症状が悪化しやすいのも大きな特徴です。
交代型IBSの辛さ
便秘と下痢が数日ごともしくは交互に繰り返されるのが混合型(交代型)です。数日間便秘が続いてお腹が張ったかと思うと、今度は急激な腹痛とともに下痢に見舞われます。
いつお腹が痛くなるか分からないという不安から、通勤や通学、会議中などに強い恐怖を感じるようになり、予期せぬ不安が新たなストレスとなり、さらに腸の動きを乱すという負のスパイラルが生じます。
腸そのものに腫瘍や炎症がないことを内視鏡検査などで確認し、安心感を得ることが治療の第一歩です。
過敏性腸症候群の診断基準(Rome IV基準の参考)
- 腹痛の頻度
過去3ヶ月間で、週に1回以上の頻度で腹痛が繰り返し起こっていること。 - 排便との関連
排便することによって、腹痛が和らいだり、逆に強くなったりする変化が見られること。 - 排便頻度の変化
腹痛が始まると同時に、排便の回数が増えたり減ったりする変化があること。 - 便性状の変化
腹痛に伴って、便が硬くなったり、逆に水っぽくなったりする形状の変化があること。
ガス型と社会生活への影響
便通異常に加えて、お腹にガスが異常にたまる、あるいは無意識にガスが漏れてしまうのがガス型です。お腹が鳴ることへの恐怖や、においが周囲に漏れているのではないかという不安が非常に強く、対人関係に支障をきたすこともあります。
飲み込んだ空気が原因のこともありますが、腸内細菌のバランスが崩れ、異常発酵を起こしている場合もあります。
特に糖質を多く含む特定の食品(FODMAP)を摂取することで、小腸内で発酵が進み、大量のガスが発生することが最近の研究で分かってきました。
自分に合わない食品を見つけ、食事内容を調整することで症状が緩和されるケースもあります。
大腸憩室症と合併症のリスク
大腸の壁の一部が外側に袋状に飛び出す憩室(けいしつ)という状態も、便秘と深い関わりがあります。憩室そのものは無症状のことが多いですが、そこに便が詰まることで炎症を起こすと治療が必要です。
腸内圧の上昇と憩室の形成
憩室ができる主な原因の一つは、腸の内側の圧力が過度に高まることです。
便秘で硬くなった便を無理に出そうとして強くいきむ習慣があると、腸の壁に強い圧力がかかり、腸の壁の筋肉層が弱い部分(血管が貫通している部分など)が風船のように外側に膨らんでしまいます。
加齢によって腸の壁の弾力性が失われることも、憩室ができやすくなる要因の一つです。
かつては欧米人に多い病気でしたが、食生活の変化により日本でも急速に増えていて、食物繊維の摂取不足は便量を減らし、腸内圧を高める原因となるため、密接に関係しています。
憩室炎の症状と痛み
憩室があるだけでは痛みはありませんが、袋状の部分に便が入り込んで固まり、細菌が繁殖すると憩室炎を起こし、憩室がある場所に一致した強い腹痛が現れます。
右側の結腸に憩室がある場合は右下腹部が、S状結腸に憩室がある場合は左下腹部が痛み、痛みとともに発熱を伴うことも多く、血液検査では炎症反応が高いです。
炎症が軽い場合は抗生物質の投与と食事制限で治まりますが、重症化すると憩室が破れて腹膜炎を起こすことがあります。お腹全体に激痛が広がり、命に関わることもあるため、緊急手術が必要になるケースもあります。
便秘気味の方が急にお腹の特定の部分に痛みを感じ、熱が出た場合は、憩室炎の可能性を疑うことが必要です。
大腸憩室症の管理と予防
| 対策 | 具体的な取り組み内容 |
|---|---|
| 食物繊維の摂取 | 便の量を増やして柔らかくし、腸内圧を下げるために、野菜・海藻・きのこ類を積極的に摂ることが推奨されます。 |
| 水分の補給 | 食物繊維の効果を高めるため、十分な水分を摂り、便が硬くなるのを防ぎます。 |
| 排便習慣の改善 | トイレで強くいきむ時間を減らし、便意を感じたら我慢せずにすぐに行く習慣をつけることが大切です。 |
憩室出血への注意
憩室炎とは別に、痛みを伴わずに突然大量の出血を起こす憩室出血という合併症もあり憩室の、底にある血管が破綻することで起こり、鮮やかな赤い血や赤黒い血が大量に出ます。
腹痛がないため油断しがちですが、出血量が多いと貧血やショック状態に陥ることがあり危険です。血液をサラサラにする薬(抗血栓薬)を服用している高齢の方に多く見られる傾向があります。
痛みがないからといって放置せず、大量の血便が出た場合は直ちに救急医療機関を受診する必要があります。
女性に多い直腸瘤と骨盤底の問題
出産経験のある女性や高齢の女性において、骨盤の底にある筋肉や組織が弱くなることで起きる排便障害があります。これは腸の病気というよりも、臓器を支える構造の問題ですが、頑固な便秘の大きな原因です。
直腸瘤(レクトシール)のメカニズム
直腸瘤は、直腸と膣の間の壁が薄くなり、直腸が膣の方へ袋状に突き出してしまう状態です。排便時にいきむと、便が肛門に向かわずに、突き出した袋(ポケット)の方へ入り込んでしまいます。
いくらいきんでも便が出ない、出口で詰まっている感じがするという症状が現れ、排便した後も便がポケットに残っているため、すっきりしない残便感が続きます。
ひどい場合は、膣の方から指で押してあげないと便が出せないという方もいらっしゃいます。これは骨盤底筋群という筋肉の緩みが主な原因であり、薬だけで治すことは難しいのが現状です。
骨盤底筋のトラブルを示唆する症状
- 排便困難感
便意はあるのに、いくらいきんでも便が降りてこない感覚や、出口で引っかかっている感覚があります。 - 残便感と頻回便
一度ですっきり出しきれず、便が残っている感じがするため、一日に何度もトイレに行くことになります。 - 手による介助の必要性
排便時に膣の壁やお尻の周りを手で押さえないと便が出しにくいという状態は、直腸瘤の典型的なサインです。 - 尿漏れや臓器脱の合併
骨盤底筋の弱まりは排便だけでなく、咳やくしゃみでの尿漏れや、子宮などの臓器が下がってくる症状を伴うことがあります。
骨盤底筋協調運動障害とは
スムーズな排便のためには、いきむ力(腹圧)と同時に、肛門の筋肉がリラックスして開くことが必要です。
しかし、連携がうまくいかず、いきむと同時に無意識に肛門を締め付けてしまう状態を、骨盤底筋協調運動障害(アニスムス)と呼びます。
これでは出口を閉じたまま中身を出そうとしているようなもので、便を出すことが非常に困難になり、長年の排便習慣や、痔の痛みを無意識にかばうことなどが原因で起こると考えられています。
一般的な下剤を使っても効果が薄いことが多く、バイオフィードバック療法などのリハビリテーションが必要になることがあります。
「便が硬くないのに出にくい」という症状がある場合は、腸の動きではなく、出口の筋肉の使い方に問題があるかもしれません。
早期発見のための検査と受診のタイミング
便秘の背後に隠れた病気を見つけるためには、適切なタイミングで専門的な検査を受けることが必要です。「いつか治るだろう」と先延ばしにせず、身体が出しているサインを見逃さないことが大切です。
受診を検討すべき危険な兆候
日常生活に支障が出るほどの便秘が続く場合はもちろんですが、特定の症状が伴う場合は速やかな受診が必要で、まず、便に血が混じることは最大の警告サインです。
また、意図していないのに体重が急激に減っている場合も、身体のどこかで消耗性の疾患、例えばがんや重度の炎症が起きている可能性があります。
腹痛が徐々に強くなっている、発熱を伴う、お腹にしこりを感じるといった場合も様子を見てはいけません。
さらに、50歳以上で初めて便秘になったという方も、大腸がんのリスク年代であることを考慮し、一度詳しい検査を受けてください。家族に大腸がんやポリープの既往がある方も、通常より早めの検診が推奨されます。
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)の重要性
大腸の状態を正確に知るために最も確実な方法は、大腸内視鏡検査です。肛門から細いカメラを挿入し、大腸の粘膜を直接観察することで、がんやポリープ、炎症の有無を詳細に診断できます。
小さなポリープであれば、検査中にその場で切除することも可能です。「痛そう」というイメージをお持ちの方も多いですが、最近では鎮静剤を使って眠っているような状態で検査を受けられる医療機関も増えています。
バリウム検査やCT検査も有用ですが、粘膜の色調変化や小さな平坦な病変を見つける能力においては、内視鏡検査が優れています。便潜血検査が陰性であっても、便秘や腹痛などの自覚症状がある場合は、内視鏡検査を受ける価値は十分にあります。
主な大腸検査の種類と特徴
| 検査名 | 分かること・目的 | 特徴 |
|---|---|---|
| 便潜血検査 | 便に混じった目に見えない血液を検出し、消化管出血の有無を調べるスクリーニング検査。 | 手軽で身体への負担がないが、痔でも陽性になることがある。 |
| 大腸内視鏡検査 | 腸の内側を直接観察し、がん、ポリープ、炎症を確定診断する。組織採取も可能。 | 最も精度が高い。前処置として下剤の服用が必要。 |
| 腹部CT検査 | 腸壁の厚みや、周囲の臓器への広がり、リンパ節の状態などを立体的に把握する。 | 腸閉塞や進行がんの診断に有用。初期の病変は見つけにくい。 |
よくある質問
便秘気味の方から診察室で頻繁に寄せられる疑問について、回答をまとめました。
- 市販の便秘薬を使い続けても大丈夫ですか?
-
市販の便秘薬の多くは、腸を刺激して無理やり動かす刺激性下剤で、一時的な使用であれば問題ありませんが、長期間連用すると腸が刺激に慣れてしまい、薬がないと動かなくなることがあります。
また、薬の量が増えないと効かなくなる耐性ができることもあります。
慢性的に便秘が続く場合は、便を柔らかくする酸化マグネシウムなどの非刺激性下剤を中心に使い、根本的な原因を調べるために一度受診することをお勧めします。
- 食事で気をつけるべきポイントはありますか?
-
基本的には食物繊維と水分を十分に摂ることが大切です。食物繊維には、便のカサを増やす不溶性(穀類、豆類など)と、便を柔らかくする水溶性(海藻、果物など)があり、バランスよく摂ることが理想です。
ただし、けいれん性の便秘(コロコロ便で腹痛があるタイプ)の方は、不溶性食物繊維を摂りすぎると逆に腸を刺激して症状が悪化することがあります。
また、極端なダイエットによる油分不足も便の滑りを悪くするため、良質なオイルを適度に摂ることも必要です。
- 何歳くらいから大腸の検査を受けるべきですか?
-
大腸がんのリスクは40代から徐々に上がり始めますので、40歳を過ぎたら一度は大腸がん検診(便潜血検査)を受けることを強くお勧めします。もし便潜血が陽性であれば、必ず内視鏡検査を受けてください。
また、血縁者に大腸がんの方がいる場合や、若い頃から潰瘍性大腸炎などの持病がある方は、より早い段階からの定期的な検査が必要です。症状がある場合は年齢にかかわらず、早めに消化器内科を受診してください。
- 排便時に痛みはないのですが、血が出ます。痔でしょうか?
-
「痛くないから痔だろう」と考えるのは危険な思い込みで、内痔核(いぼ痔)は痛みを伴わないことが多いですが、大腸がんによる出血も同様に痛みを伴わないことがほとんどです。
自己判断で市販の痔の薬を使い続け、発見が遅れてしまうケースは後を絶ちません。出血があるということは、身体のどこかで異常が起きている証拠です。
良性の痔なのか、悪性の腫瘍なのかを肉眼だけで判断することは専門医でも困難ですので、必ず内視鏡検査で確認する必要があります。
以上
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