「造影剤を使うCT検査を受けることになったけれど、アレルギーが出たらどうしよう」「腎臓が少し悪いと言われているけれど、大丈夫かな」――こうした不安を抱えながら検査を控えている方は少なくありません。
造影CT検査は、血管や臓器をより鮮明に映し出すために造影剤(ヨード造影剤)を静脈から注入して行う検査です。多くの方が問題なく検査を受けていますが、まれにアレルギー反応が起きたり、腎機能に影響が及ぶ可能性があるため、事前の確認と準備が大切になります。
この記事では、造影CT検査を受ける前に問診で聞かれること、採血(腎機能検査)の意味、アレルギー歴がある場合の対応、糖尿病薬の休薬ルール、そして絶食・水分摂取・検査後の注意点まで、一般の方にも分かりやすく解説します。事前に必要な情報を整理しておくことで、より安心して検査当日を迎えられるはずです。
造影CTを安心して受けるために―この記事で分かること

造影剤を使ったCT検査(造影CT)は、単純CT(造影剤を使わないCT)では分かりにくい病変や血管の状態を詳しく確認できる有用な検査です。腹部の腫瘍や炎症、肝臓・膵臓などの消化器疾患の診断において、重要な役割を果たします。
一方で、造影剤には少ないながらも副作用のリスクがあります。主な注意点としては、アレルギー様反応(じんましん、かゆみ、呼吸困難など)と、腎機能への影響(造影剤腎症)が挙げられます。これらのリスクを最小限にするために、検査前の問診と準備が欠かせません。
【重要】 造影剤の副作用は予測が難しい部分もありますが、事前に正しい情報を医療スタッフに伝え、適切な準備を行うことでリスクを大幅に減らせる場合があります。
以下のセクションでは、検査前に確認される事項とその理由を順に説明していきます。
問診で必ず聞かれること―正直に伝えるべき5つの情報
造影CT検査の前には、必ず問診が行われます。これは安全に検査を実施するための重要なステップです。以下の5つの情報は、特に正確に伝える必要があります。
1)過去の造影剤アレルギーの有無
過去に造影剤を使った検査でアレルギー反応(じんましん、かゆみ、吐き気、呼吸困難など)が出たことがある場合は、必ず申告してください。日本医学放射線学会のガイドラインによると、造影剤に対する中等度〜重度の急性副作用の既往がある方は、再度反応が出るリスクが高くなることが知られています。
2)喘息(ぜんそく)の有無
気管支喘息をお持ちの方は、造影剤による重篤な副作用の発現率が高いとされています。現在の治療状況や発作のコントロール状態も含めてお伝えください。
3)腎臓病・腎機能低下の有無
腎臓の病気があると診断されている方、あるいは健診でeGFR(推算糸球体濾過量)が低いと指摘されたことがある方は、造影剤の排泄に時間がかかり、腎臓への負担が増す可能性があります。
4)服用中の薬(特に糖尿病薬)
ビグアナイド系糖尿病薬(メトホルミンなど)を服用している場合、検査前後に休薬が必要になることがあります。これについては後述しますが、薬の中止・調整は必ず医師の指示に従ってください。自己判断での休薬・継続は危険です。
5)その他のアレルギー歴・既往歴
薬や食べ物に対するアレルギー歴も参考情報として確認されます。なお、「甲殻類アレルギー(エビ・カニなど)があると造影剤が使えない」という誤解がありますが、ACR(米国放射線医会)のガイドラインでは、甲殻類アレルギーがあるからといって造影剤アレルギーのリスクが特別に高くなるわけではないとされています。ただし、過去に造影剤そのもので反応が出た方は別ですので、複数のアレルギーをお持ちの方は念のため伝えておくと安心です。
【よくある相談パターン】 「以前、別の病院で造影剤を使ったときに気持ち悪くなったのですが、これはアレルギーでしょうか?」
→ 吐き気や熱感は生理的な反応であることも多いですが、念のため症状の詳細を医師に伝えてください。アレルギー反応との区別は医師が判断します。
採血(腎機能検査)が必要な理由―eGFRとは何か
造影CT検査の前には、多くの場合、採血による腎機能検査が行われます。これは造影剤腎症(造影剤によって一時的に腎機能が低下する状態)を防ぐための重要なステップです。

eGFR(推算糸球体濾過量)とは
eGFRは、血液中のクレアチニン値から算出される腎臓のろ過能力を示す指標です。単位は「mL/min/1.73m²」で表され、数値が大きいほど腎機能が良好であることを意味します。
日本腎臓学会・日本医学放射線学会・日本循環器学会が共同で作成した「腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018」では、経静脈投与(CTなど)の場合、eGFR 30 mL/min/1.73m²未満の患者さんで造影剤腎症のリスクが高まるとされています。
採血のタイミング
ガイドラインでは、造影CT検査の前に腎機能(eGFR)を確認することが推奨されています。目安として、外来患者では3ヶ月以内、入院患者や急性疾患の場合は7日以内の測定値が参考にされます。ただし、具体的な運用は施設によって異なりますので、検査施設の案内に従ってください。
腎機能が低い場合の対応
eGFRが低い場合でも、造影CTが必ずしも受けられないわけではありません。医師がリスクとベネフィットを総合的に判断し、必要に応じて以下のような予防策が取られます。
- 検査前後の点滴(生理食塩水による補液)
- 造影剤の使用量を減らす工夫
- 検査後の腎機能フォローアップ
【よくある相談パターン】 「健診でeGFRが少し低いと言われました。造影CTは受けられますか?」
→ eGFRの値だけで一律に判断されるわけではありません。年齢や既往歴、検査の必要性などを総合的に考慮して医師が判断しますので、まずはご相談ください。
アレルギー歴がある場合の対応と予防策
過去に造影剤でアレルギー反応を経験された方は、再び造影剤を使用する際に特別な配慮が必要です。ただし、アレルギー歴があるからといって、造影CTが一切受けられなくなるわけではありません。

過去のアレルギー反応の評価
日本医学放射線学会の提言(2022年改訂版)では、過去の造影剤副作用を「軽度」「中等度」「重度」に分類し、対応を検討するとされています。
- 軽度の反応(じんましん、かゆみ、吐き気など):医師との相談のうえ、必要に応じて造影検査を実施
- 中等度〜重度の反応(呼吸困難、血圧低下、意識障害など):造影検査の必要性を慎重に検討し、代替検査の可能性も含めて判断
ステロイド前投薬について
アレルギーリスクが高いと判断された場合、検査前にステロイド薬や抗ヒスタミン薬を投与して反応を軽減させる「前投薬」が行われることがあります。
日本医学放射線学会の提言(2022年改訂版)では、ステロイド前投薬の有効性について明確なエビデンスは限られているとしつつも、急性副作用の一部がアレルギーや過敏症によると推定されるため、試みる価値があると考えられています。重要なのは、ステロイドの抗アレルギー作用を十分に発揮させるため、検査の6時間以上前に投与することが望ましいという点です(検査直前の静注は好ましくないとされています)。
造影剤の変更
同じヨード造影剤でも製品によって反応が異なる場合があるため、過去にアレルギーを起こした造影剤とは別の製品に変更することも選択肢の一つです。複数の研究やメタ解析で、造影剤の変更により再発頻度が下がる可能性が示されています。
【重要】 ステロイド前投薬を行っても、造影剤によるアレルギー反応を完全に防ぐことはできません(breakthrough reactionと呼ばれます)。万が一の反応に備えて、検査室には救急対応の体制が整えられています。
糖尿病薬(メトホルミンなど)を服用中の方へ―休薬の注意点
糖尿病の治療でビグアナイド系薬剤(メトホルミンなど)を服用されている方は、造影CT検査の前後に休薬が必要となる場合があります。これは「乳酸アシドーシス」という重篤な副作用を予防するためです。

乳酸アシドーシスとは
乳酸アシドーシスは、血液中に乳酸が蓄積し、血液が酸性に傾く状態です。ビグアナイド系薬剤は肝臓での乳酸代謝に影響を与えるため、腎機能が低下した状態でこれらの薬が体内に蓄積すると、乳酸アシドーシスを引き起こす可能性があります。
造影剤は一時的に腎機能を低下させることがあるため、両者が重なると乳酸アシドーシスのリスクが高まると考えられています。発症は極めて稀ですが、一度発症すると重篤な経過をたどる可能性があるため、注意が必要です。
休薬のルール(腎機能や施設により異なります)
日本糖尿病学会の「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」(2020年改訂)および各薬剤の添付文書では、造影検査前後の休薬に関する注意が記載されています。ただし、具体的な休薬期間や対応は腎機能(eGFR)や患者さんの状態によって異なります。
- 腎機能が正常な場合:検査前の休薬が不要とされることもあります
- 腎機能が低下している場合(eGFR 30〜60など):検査前からの休薬、検査後48時間は再開しない、再開前にeGFRを確認するなどの対応が取られます
- 緊急検査の場合:検査前の休薬ができないこともありますが、検査後の対応は同様に行われます
休薬の要否やタイミングは、腎機能や併存疾患によって個別に判断されます。必ず主治医または検査担当医師の指示に従ってください。
【重要】 薬の中止・再開は必ず医師の指示に従ってください。自己判断での休薬・継続は血糖コントロールの乱れや副作用のリスクにつながります。
対象となる主な薬剤名
メトホルミンを含む薬剤には以下のようなものがあります(一例)。
- メトグルコ、グリコラン
- メトホルミン塩酸塩(後発品)
- 配合剤:イニシンク、エクメット、メトアナ など
お薬手帳を持参いただくと、服用中の薬が該当するかどうかをスムーズに確認できます。
検査当日の準備と検査後に気をつけること
造影CT検査を安全・快適に受けるための当日の準備と、検査後の注意点をまとめます。
検査前の準備
【絶食について】
施設や検査内容によって異なりますが、一般的には検査の3〜6時間前からの絶食が指示されることがあります。これは、造影剤による吐き気や嘔吐があった場合に誤嚥を防ぐためです。ただし、ACR(米国放射線医会)やESUR(欧州泌尿生殖器放射線学会)のガイドラインでは、原則としてヨード造影剤投与前のルーチン絶食は推奨しないとされており、施設ごとの指示に従ってください。
【水分摂取について】
水やお茶などの水分は、特に制限がなければ検査前も摂取可能な場合が多いです。むしろ、腎機能保護の観点からは十分な水分摂取が推奨されます。ただし、飲んでよいもの・量については検査施設の指示に必ず従ってください。
【持参すると良いもの】
- 保険証、診察券
- お薬手帳(服用中の薬を確認するため)
- 過去のアレルギー歴や健診結果(腎機能など)のメモ
- 楽な服装(金属のない衣類が望ましい)
検査中の注意
造影剤を注入すると、体が一時的に熱く感じることがあります。特に顔や喉、下腹部に「カーッ」とした熱感が数十秒〜1分程度続くことがありますが、これは生理的な反応(physiologic reaction)であり、多くの場合は心配いりません。
ただし、息苦しさ、強いかゆみ、動悸、めまいなどを感じた場合は、すぐにスタッフにお伝えください。
検査後の注意
【水分を多めに摂る】
造影剤は主に腎臓から尿として排泄されます。検査後は意識的に水分を多めに摂ることで、造影剤の排泄を促すことができます。
【経過観察】
検査直後は検査室内または待合スペースで20〜30分程度の経過観察が行われることが一般的です。遅発性の反応(検査後数時間〜数日後に現れるかゆみや発疹など)が起きた場合は、検査を受けた医療機関に連絡してください。
【次回以降の検査のために】
もし今回の検査で何らかの反応があった場合は、次回の検査時に必ず申告できるよう記録しておきましょう。
【よくある相談パターン】 「検査後、帰宅してから軽い発疹が出ました。すぐに受診すべきですか?」
→ 軽い発疹やかゆみは遅発性反応として知られており、多くは数日で改善します。ただし、症状が強い場合や長引く場合は、検査を受けた施設に連絡してください。
まとめ
造影CT検査は、消化器疾患をはじめとする多くの病気の診断に欠かせない有用な検査です。造影剤のアレルギーや腎機能への影響といったリスクは確かに存在しますが、事前の問診と適切な準備によって、そのリスクを最小限に抑えることができます。
検査前に確認されること・準備のポイント:
- 過去の造影剤アレルギー歴、喘息の有無、腎機能低下の有無を正確に伝える
- 糖尿病薬(特にビグアナイド系)を服用中の場合は、医師の指示に従って休薬する
- 絶食・水分摂取のルールは施設の指示に従う
- 検査後は水分を多めに摂り、異常があれば連絡する
造影剤を使うかどうか、どのような予防策を取るかは、患者さんの状態や検査の目的に応じて医師が総合的に判断します。不安なことがあれば、遠慮なく検査前に質問してください。
- 造影剤アレルギーがあると造影CTは受けられませんか?
-
過去にアレルギー反応があった場合でも、症状の程度によっては造影CTを受けられる可能性があります。事前にステロイド前投薬を行ったり、造影剤の種類を変更したりする対応が取られることがあります。医師と相談のうえ判断されます。
- 腎臓が悪いと造影CTは受けられませんか?
-
腎機能が低下している場合でも、検査の必要性と予防策(点滴による補液など)を考慮して実施できる場合があります。eGFR 30未満の方ではリスクが高まるとされていますが、一律に禁止されるわけではありません。
- 造影剤を入れると体が熱くなるのはなぜですか?
-
造影剤が血管内に入ると、浸透圧などの影響で一時的に熱感を感じることがあります。これは生理的な反応で、通常は数十秒で治まります。息苦しさなどがあれば、すぐにスタッフにお伝えください。
- 糖尿病の薬を飲んでいますが、造影CT前に止める必要がありますか?
-
ビグアナイド系薬剤(メトホルミンなど)を服用中の場合、腎機能によっては検査前後に休薬が必要になることがあります。休薬のタイミングは必ず医師の指示に従ってください。自己判断での休薬・継続は避けてください。
- 造影CT検査の前は食事を抜く必要がありますか?
-
施設によって異なりますが、検査3〜6時間前からの絶食が指示されることがあります。ただし、ガイドラインではルーチン絶食は推奨されていません。水分摂取は制限されないことが多いです。検査施設の案内に従ってください。
- 甲殻類アレルギーがあると造影剤は使えないと聞きましたが本当ですか?
-
これは誤解です。甲殻類(エビ・カニなど)アレルギーがあるからといって、造影剤アレルギーのリスクが特別に高くなるわけではないとされています。ただし、過去に造影剤そのもので反応が出た方は申告が必要です。
- 造影CTの後に気をつけることはありますか?
-
造影剤は尿として排泄されるため、検査後は水分を多めに摂ることが推奨されます。また、検査後数時間〜数日で発疹やかゆみが出ることがまれにあります。症状が強い場合は、検査を受けた医療機関に連絡してください。
- 造影剤を使わないCT検査を選ぶことはできますか?
-
検査の目的によっては、造影剤を使わない単純CTで十分な情報が得られる場合もあります。ただし、血管や腫瘍の詳細な評価には造影CTが必要なこともあります。医師と相談のうえ、最適な検査方法を選択してください。
金沢・野々市・白山市エリアで造影CT検査をご検討の方は、当院(金沢消化器内科・内視鏡クリニック野々市中央院・金沢駅前院)でもCT検査に対応しております。事前の準備やご不明点についてもご相談いただけますので、症状が続く場合や検査について相談したい場合は、お気軽にお問い合わせください。
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参考文献
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- 日本医学放射線学会 造影剤安全性委員会. ヨード造影剤ならびにガドリニウム造影剤の急性(即時性)副作用発症の危険性低減を目的としたステロイド前投薬に関する提言(2022年12月改訂第3版)
- 日本腎臓学会・日本医学放射線学会・日本循環器学会(合同). 腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018(PDF上は2018、誌面掲載情報は日腎会誌2019表記あり)
- 日本糖尿病学会(ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会). メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(2020年3月18日改訂).

