大腸内視鏡検査(大腸カメラ)でポリープが見つかりその場で切除したものの、帰宅してからお腹の違和感や軽い痛み、体調不良を感じて不安になっていませんか。
大腸ポリープ切除は大腸がんを予防するための非常に重要な治療ですが、内視鏡を使った手術であることに変わりはありません。治療後の大腸の粘膜は、いわば傷口ができている状態です。
この記事では、大腸ポリープ切除後に起こりうる体調の変化や違和感の正体、そして安全に回復するための食事や生活上の注意点について詳しく解説します。
大腸ポリープ切除後によくある体調変化と違和感
ポリープ切除後、何らかの体調の変化を感じることがありますが、多くは治療に伴う一時的な反応であり、時間の経過とともに軽快していきます。
お腹の張りやゴロゴロする感じ
切除後最も多く聞かれる症状の一つがお腹の張りで、これは、内視鏡検査の際に大腸のヒダを伸ばして隅々まで観察するために、腸管内に空気や炭酸ガスを送り込むことが原因です。
特に空気を使用した場合吸収が遅いため、お腹の張りがしばらく続くことがあります。ガスが体外に排出されるにつれて症状は自然に改善していき、頻繁におならが出るのは回復に向かっている良い兆候です。
軽い腹痛や下腹部の違和感
ポリープを切除した部位は、粘膜に傷ができ人工的な潰瘍ができている状態です。傷が治癒する過程でチクチクしたり、鈍い痛みを感じることがあります。
また、切除時に高周波電流で粘膜を焼灼すると、熱刺激が腸の壁の深い部分にまで伝わり痛みの原因となることもあります。ただし、数日間続く軽度の痛みであれば、心配はいりません。
少量の出血や血便
切除後便に少量の血液が混じったり、下着に血液が付着したりすることがありますが、これは、切除した傷口からにじみ出る血液によるものです。
切除したポリープの大きさや数、場所にもよりますが、トイレットペーパーに付く程度や便の表面にわずかに付着する程度の出血であれば、通常は1〜2日で自然に止まります。
切除後によく見られる症状とその原因
主な症状 | 考えられる原因 | 通常の経過 |
---|---|---|
お腹の張り・ゴロゴロ感 | 検査時に注入した空気やガスの残存 | 数時間から1〜2日で、ガスの排出と共に軽快する。 |
軽い腹痛・違和感 | 切除部位の傷、熱刺激による炎症 | 数日間、軽度の痛みが続くことがあるが、徐々に和らぐ。 |
少量の出血 | 切除創からのにじみ出るような出血 | 1〜3日以内に自然に止まることが多い。 |
なぜ切除後に体調不良や違和感が起こるのか
ポリープ切除後の不快な症状は、治療のために行われた処置そのものに起因します。どのような方法でポリープが切除され、大腸にどのような変化が起きているのかを理解することが、症状の背景を知る上で大切です。
大腸ポリープの切除方法
大腸ポリープの切除はポリープの大きさや形状によって、医師が適切な方法を選択し、どの方法も内視鏡の先端から出す器具を使って行います。
- コールドポリペクトミー:比較的小さなポリープに対して行う方法。高周波電流を使わず、スネアと呼ばれる金属の輪をポリープにかけて、そのまま締め付けて切り取ります。熱によるダメージが少ないため、術後の出血リスクが低いのが特徴です。
- 内視鏡的粘膜切除術(EMR):少し大きめのポリープや平坦なポリープに対して行う方法。ポリープの下の粘膜下層に生理食塩水などを注入してポリープを浮き上がらせ、そこにスネアをかけて高周波電流で焼き切ります。
切除創(人工的な潰瘍)の治癒過程
ポリープを切除した後の大腸粘膜は、皮膚の擦り傷と同じように傷が治るための治癒過程をたどります。
切除直後は粘膜が欠損し人工的な潰瘍ができるので、傷口を保護するためにフィブリンという白い膜が張られ、かさぶたのような役割を果たします。
数日から1週間ほどかけて周囲の正常な粘膜が再生し徐々に傷が修復されますが、治癒過程で軽度の炎症反応が起こるため、腹痛や違和感が生じることがあります。
鎮静剤の影響による体のだるさ
多くの医療機関では、患者さんの苦痛を和らげるために鎮静剤を使用して内視鏡検査・治療を行います。鎮静剤を使用するとリラックスして検査を受けられますが、効果が完全に抜けるまでには時間がかかります。
検査後しばらく眠気やふらつき、だるさを感じるものの、一時的なものです。ただし、検査当日は車の運転などは禁止されます。
切除後1週間から1ヶ月の過ごし方
ポリープ切除後の回復期間は切除したポリープの大きさや数、個人の治癒能力によって異なりますが、一般的には約1週間から2週間慎重な生活を送ることが大切です。
切除当日(術後1日目)の過ごし方
当日は最も安静が必要な時期で、鎮静剤の影響も残っているため帰宅後は無理せずゆっくり休みましょう。食事は医師の指示に従い、消化の良いものをごく少量から始めます。
血行が良くなると出血のリスクが高まるため、入浴はシャワー程度にとどめ湯船に浸かるのは避けてください。排便時に少量の出血がないかを確認することも重要です。
切除後2〜3日目の注意点
引き続き消化の良い食事を心がけ、アルコールや香辛料などの刺激物は避けます。デスクワークなどの軽い仕事であれば復帰可能ですが、力仕事や激しい運動はまだ控える必要があります。
この時期も遅れて出血が起こる可能性(後出血)があるため、油断は禁物です。排便の状態には常に注意を払いましょう。
切除後1週間の生活制限
切除した傷口は、まだ完全には治癒していません。腹圧がかかるような行動をとると後出血のリスクが高まるので、ジョギングや筋力トレーニング、ゴルフなどの運動、重いものを持つ作業などは避けましょう。
長距離の移動や旅行も万が一の事態に対応が難しくなるためこの期間は控え、食事も徐々に普段の内容に戻していき、暴飲暴食は厳禁です。
切除後の期間別活動目安
期間 | 食事 | 活動・仕事 |
---|---|---|
当日 | 消化の良いものを少量。 | 絶対安静。自宅で休息。 |
2〜3日後 | 消化の良い食事を継続。 | デスクワークは可。力仕事・運動は不可。 |
1週間後まで | 徐々に通常食へ。刺激物は避ける。 | 激しい運動、飲酒、旅行は不可。 |
回復を促すための食事法
ポリープ切除後の大腸は、安静が必要です。食事の内容は腸管への負担に直結するため、しばらくの間は消化管をいたわる食事を心がけてください。
消化の良い食べ物を選ぶ
切除後の食事の基本は、消化が良く腸に負担をかけない食べ物を選ぶことです。おかゆやうどん、豆腐、白身魚、鶏のささみ、卵、じゃがいもなどが適していて、調理法も、煮る、蒸すといった油を使わない方法が良いでしょう。
食事は一度にたくさん食べるのではなく、数回に分けて少量ずつ摂ることも腸への負担を軽減する工夫です。
避けるべき食べ物と飲み物
切除後1週間程度は避けるべき食べ物は、食物繊維の多い野菜(ごぼう、きのこ類など)や海藻類、脂肪分の多い肉類や揚げ物、香辛料を多く使った刺激的な料理は、腸の蠕動運動を活発にし、傷口に負担をかけるため避けてください。
また、アルコールは血行を促進し出血のリスクを高めるため、最低でも1週間は禁酒が必要です。
切除後の食事のポイント
カテゴリ | 推奨される食べ物 | 避けるべき食べ物 |
---|---|---|
主食 | おかゆ、やわらかいご飯、うどん | 玄米、雑穀米、ラーメン、パスタ |
主菜 | 白身魚、鶏ささみ、豆腐、卵 | 脂身の多い肉(バラ肉など)、加工肉、揚げ物 |
副菜・その他 | じゃがいも、大根、かぶ | きのこ類、海藻類、ごぼう、香辛料、アルコール |
水分補給の重要性
腸の健康を保ち便通を整えるためには、十分な水分補給が大切です。ただし、コーヒーや紅茶などのカフェインを多く含む飲み物や炭酸飲料は腸を刺激することがあるため、水やお茶(麦茶などカフェインの少ないもの)を中心に摂取します。
冷たい飲み物は腸を刺激することがあるため、常温に近い温度のものが望ましいです。
飲酒・運動・入浴・仕事復帰について
食事以外にも日常生活の中で気をつけるべき点がいくつかあり、守ることで合併症を防ぎ、順調な回復に繋がります。
飲酒の再開時期
アルコールは、血管を拡張させて血流を良くする作用があります。
ポリープを切除した傷が完全に治癒する前に飲酒をすると、傷口からの出血(後出血)のリスクが著しく高まるので、安全のため最低でも1週間、できれば2週間は禁酒を守り、再開する際も最初は少量から始めてください。
運動や身体活動の制限
腹圧が強くかかる運動は後出血の大きな原因となるので、ジョギング、筋力トレーニング、ゴルフ、テニスなどのスポーツは、少なくとも1週間は中止してください。
散歩程度の軽い運動であれば、2〜3日後から体調を見ながら再開しても良いでしょう。重い荷物を持つ、お腹を締め付ける服装なども、腹圧を上げる原因となるため注意が必要です。
活動制限の目安
活動内容 | 制限期間の目安 |
---|---|
飲酒 | 最低1週間(推奨2週間) |
激しい運動・スポーツ | 最低1週間 |
長時間の入浴(湯船) | 2〜3日(シャワーは当日から可) |
長距離移動・旅行 | 最低1週間 |
入浴に関する注意
切除当日は血行が良くなるのを防ぐため、湯船には浸からずシャワーのみで済ませてください。体を温めすぎると、出血のリスクが高まります。
2〜3日経って特に問題がなければ、ぬるめのお湯で短時間の入浴から再開できますが、長時間の入浴やサウナは1週間程度は控えましょう。
仕事への復帰時期
デスクワーク中心の事務職であれば、翌日や2日後から復帰することも可能ですが、体を動かす仕事や力仕事、長時間の運転などを伴う場合は、最低でも2〜3日できれば1週間程度の休みを取ることが望ましいです。
注意すべき危険なサインと受診の目安
ほとんどの症状は一時的なものですが、中には合併症のサインである可能性があり、緊急の対応が必要なケースもあります。どのような場合に医療機関に連絡・受診すべきかを、あらかじめ知っておくことが大事です。
後出血(こうしゅっけつ)のサイン
後出血はポリープ切除後の最も注意すべき合併症で、切除後数時間から10日後くらいまでに起こる可能性があります。切除創のかさぶたが剥がれることなどが原因です。
- 排便がないのに、便意を感じてトイレに行くと真っ赤な血液だけが出る
- レバーのような血の塊が大量に出る
- 何度も便器が真っ赤になるほどの血便が続く
症状が見られた場合は時間や曜日にかかわらず、すぐに検査を受けた医療機関に連絡するか救急外来を受診してください。
穿孔(せんこう)や腹膜炎のサイン
穿孔は、大腸の壁に穴が開いてしまう非常にまれですが重篤な合併症です。切除時の熱が腸壁の深い部分まで及び、後から穴が開くことがあります。
- 我慢できないほどの強い腹痛が続く
- お腹が板のように硬くなる
- 冷や汗や吐き気、発熱を伴う
このような症状は、腸の内容物がお腹の中に漏れ出て腹膜炎を起こしているサインかもしれないので、直ちに医療機関の受診が必要です。
緊急受診を要する症状
症状 | 考えられる合併症 | 対処法 |
---|---|---|
大量の血便・持続する出血 | 後出血 | 時間外でも直ちに医療機関に連絡・受診する |
我慢できない腹痛・発熱 | 穿孔、腹膜炎 |
大腸ポリープ切除後の病理検査結果について
ポリープを切除したら、治療は終わりではありません。切除したポリープがどのような種類であったのかを病理検査で詳しく調べる必要があり、結果によって今後の対応が決まります。
病理検査で分かること
切除したポリープはホルマリンで固定した後、顕微鏡で詳細に観察する病理組織学的検査に提出されます。
検査によりポリープが良性であったか、悪性(がん)であったか、悪性度や深達度(がんがどのくらいの深さまで及んでいるか)などが正確に診断されます。結果が出るまでの時間は、通常1〜2週間程度です。
検査結果に応じた今後の対応
病理検査の結果ポリープが完全に切除された良性のものであれば治療は完了ですが、一部にがん細胞が含まれていた場合、状況によって追加の対応が必要です。
がんが粘膜内にとどまっており切除した断端にがん細胞がなければ、内視鏡治療で治癒したと判断できます。
しかし、がんが粘膜下層の深い部分まで達していたりリンパ管への侵入が見られた場合は、リンパ節転移の可能性があるため追加で外科手術を検討する必要があります。
定期的な内視鏡検査の重要性
一度ポリープができたということは、また新しいポリープができる可能性がある、ポリープができやすい体質であると考えられます。
今回のポリープをすべて切除したとしても定期的に大腸内視鏡検査を受け、新しいポリープができていないかを確認していくことが、将来の大腸がん予防のために非常に重要です。
検査の間隔は今回切除したポリープの数や大きさ、組織型によって異なりますが、通常は1〜3年後の再検査を勧められます。
よくある質問
最後に、大腸ポリープ切除後に関して、多くの方が抱く疑問についてお答えします。
- 切除したのに、またポリープはできるのですか
-
再びポリープができる可能性は十分にあり、発生には、食生活などの生活習慣や遺伝的な要因が関与していると考えられています。
切除術は今あるポリープを取り除く治療であり、将来新しいポリープができるのを防ぐものではありません。治療後も定期的な内視鏡検査で大腸の中をチェックし、新しいポリープが小さいうちに発見・切除することが大切です。
- 切除後の違和感はいつまで続きますか
-
個人差が大きいですが、お腹の張りやゴロゴロ感は1〜2日、軽い腹痛や違和感は長くても1週間程度で自然に解消されることがほとんどです。
もし、1週間以上たっても痛みが続く、あるいは痛みが徐々に強くなるような場合は、何か他の原因が隠れている可能性も考えられるため、検査を受けた医療機関に相談してください。
- 次の内視鏡検査はいつ受ければ良いですか
-
推奨される検査間隔は病理検査の結果によって決まり、小さな良性ポリープが1つだった場合と、大きながん化の可能性のあるポリープが多数あった場合とでは、推奨される間隔は異なります。
検査結果の説明の際に、担当医から次回の検査時期について具体的な指示がありますので、必ず守りましょう。通常、1年後、2年後、あるいは3年後といった形で指示があります。
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