「みぞおちのあたりがズキズキ痛み、その痛みが背中にまで響いてつらい…」
みぞおちから背中に広がる痛みは、胃の不調だけでなく、膵臓(すいぞう)や胆道(胆嚢・胆管)の病気が隠れている場合があります。特に急性膵炎や胆石による炎症は、早めの診断と治療が大切な疾患です。
この記事では、みぞおちから背中に響く痛みの原因として考えられる病気、採血やCT検査で何が分かるのか、そしてどのような場合に受診すべきかを、一般の方にも分かりやすく解説します。
【この記事で分かること】
- みぞおち〜背中の痛みで疑われる病気
- 採血検査(アミラーゼ・リパーゼ)の役割
- CTで分かる膵臓・胆道の状態
- 受診の目安と緊急性の判断
症状があるからといって必ず重い病気というわけではありませんが、適切な検査で原因を確認することが安心への第一歩です。
みぞおちから背中に響く痛み──どんな病気が考えられる?

みぞおち(心窩部:しんかぶ)から背中にかけて痛みが広がる場合、以下のような病気が原因として考えられます。
膵炎(すいえん)
膵臓に炎症が起きた状態です。急性膵炎では、みぞおちの強い痛みが背中に突き抜けるように感じることが特徴的とされています。痛みは食後に悪化することがあり、アルコール摂取後に発症するケースも少なくありません。
日本の全国調査(急性膵炎診療ガイドライン2021)によると、膵炎の主な原因はアルコール(約3割)と胆石(約2割強)が多くを占めています。男性ではアルコール性、女性では胆石性の割合が高い傾向があります。
胆石症・胆嚢炎・胆管炎
胆嚢や胆管に石ができたり、炎症が起きたりする病気です。右上腹部からみぞおち、そして右肩や背中に痛みが広がることがあります。発熱や黄疸(おうだん:皮膚や白目が黄色くなる)を伴う場合は、胆管炎の可能性があり、早急な対応が必要です。
その他の原因
胃・十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、心臓の病気(狭心症など)が原因で類似した症状が出ることもあります。症状だけでは原因を特定できないため、医師による診察と検査が重要です。
膵炎・胆道疾患で痛みが背中に広がる理由
「なぜみぞおちの痛みが背中にまで響くのか」と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。これは膵臓や胆道の解剖学的な位置と神経の走行が関係しています。
膵臓は体の奥深くにある
膵臓は胃の後ろ、背骨の前に位置する臓器です。膵臓に炎症が起きると、その炎症は周囲の組織に広がりやすく、背中側の神経を刺激するため、放散痛(ほうさんつう:原因部位から離れた場所に感じる痛み)として背中の痛みを感じます。
胆道も同様のメカニズム
胆嚢や胆管も、痛みの信号を伝える神経が背中側にも分布しているため、炎症が強いと右肩甲骨の下あたりや背中に痛みが広がることがあります。
よくある相談パターン
- 「食後にみぞおちが痛くなり、しばらくすると背中まで重苦しくなった」
- 「お酒を飲んだ翌日から、みぞおちと背中の両方が痛い」
- 「脂っこい食事の後に右上腹部から背中にかけて痛みが走った」
これらは膵炎や胆道疾患で比較的よく聞かれる訴えのパターンですが、症状だけでは診断はできません。
採血で見る項目──アミラーゼ・リパーゼとは
みぞおちから背中への痛みで医療機関を受診すると、多くの場合採血検査が行われます。膵臓や胆道の状態を評価するために重要な検査項目がいくつかあります。
膵酵素(アミラーゼ・リパーゼ)
アミラーゼとリパーゼは膵臓から分泌される消化酵素です。膵臓に炎症が起きると、これらの酵素が血液中に漏れ出て数値が上昇します。
急性膵炎の診断では、一般的に正常上限の3倍以上の上昇が一つの目安とされています(急性膵炎診療ガイドライン2021)。
【重要】リパーゼの特徴
近年のガイドラインでは、アミラーゼよりもリパーゼの測定が推奨される傾向にあります。リパーゼは膵臓への特異性が高く、発症から8〜14日程度は上昇が続くため、受診が遅れた場合でも検出しやすいという特徴があります。
肝胆道系酵素・ビリルビン
AST・ALT(肝臓の酵素)やビリルビン(黄疸の指標)の上昇は、胆石が胆管に詰まっている可能性を示唆します。特に早期採血でALTが高値(150 IU/L以上など)の場合は、胆石性膵炎を疑う一つの手がかりとなりますが、単独で確定診断はできません。
炎症マーカー
白血球数やCRP(C反応性タンパク)は、炎症の程度を評価する補助的な指標として用いられます。
採血だけでは分からないこと
採血検査は膵炎の診断に有用ですが、炎症の広がりや重症度を正確に評価することは困難です。膵酵素の上昇度と重症度は必ずしも相関しないため、多くの場合は画像検査(CT検査など)と組み合わせて総合的に判断します。
CTで分かること──炎症の広がりと重症度判定
膵炎や胆道疾患が疑われる場合、CT検査は診断と重症度判定において重要な役割を果たします。
CTで評価できること
CT検査では、以下のような情報を得ることができます。
膵臓の状態
- 膵臓の腫れ(腫大)の程度
- 膵臓周囲への炎症の広がり
- 膵臓の壊死(血流が途絶えた部分)の有無
胆道の状態
- 胆嚢の腫れや壁の肥厚
- 胆管の拡張
【補足】胆石の検出について
CTでも一部の胆石は確認できますが、胆石の検出は超音波検査(エコー)の方が優れています。石の成分によってはCTで写りにくいものがあるため、胆石が疑われる場合は超音波検査が優先されることが一般的です。
合併症の評価
- 膵周囲の液体貯留
- 仮性嚢胞の形成
- 周囲臓器への影響
造影CTと重症度判定
急性膵炎が疑われる場合、造影CT(造影剤を注射して撮影するCT)が行われることがあります。造影CTでは膵臓の血流状態を評価でき、日本では造影CT Gradeという指標で重症度を判定します。
急性膵炎診療ガイドライン2021では、造影CT GradeがGrade 2以上の場合に重症急性膵炎と判定されます。この重症度判定は、治療方針の決定や入院の必要性を判断する上で重要な情報となります。
【重要】CTのタイミングについて
日本の重症度判定基準では、造影CT Gradeは原則として発症後48時間以内に判定することとされています。一方、膵臓の壊死(血流が途絶えた部分)をより正確に評価するためには、発症から72〜96時間以降のCTが有用とされる場合もあります。検査のタイミングは医師が状態に応じて判断します。
単純CTと造影CTの使い分け
腎機能が低下している方や造影剤アレルギーがある方には、造影剤を使わない単純CTで評価を行います。単純CTでも膵臓の腫大や周囲への炎症の広がりは評価可能ですが、膵臓の血流や壊死の評価には限界があります。
受診の目安──様子見してよい場合・すぐ相談すべき場合
みぞおちから背中への痛みがある場合、どのタイミングで医療機関を受診すべきか迷う方も多いでしょう。以下を参考に判断してください。
すぐに救急受診が必要な場合
以下の症状がある場合は、救急外来や救急車の利用を検討してください。
- 激しい腹痛で動けない・冷や汗が出る
- 吐血や黒色便(タール便)がある
- 高熱(38.5℃以上)と強い腹痛がある
- 意識がぼんやりする
- 皮膚や白目が明らかに黄色い(黄疸)
早めに(当日〜翌日)受診を検討すべき場合
- みぞおちから背中への痛みが数時間以上続く
- 痛みが食事やアルコール摂取後に悪化する
- 吐き気・嘔吐を伴う
- 軽度の発熱がある
- 過去に膵炎や胆石の既往がある
様子を見てもよい場合
- 一時的な軽い違和感で、数十分で改善した
- 食べ過ぎや姿勢による一時的な不快感
- 他に症状がなく、日常生活に支障がない
ただし、同じような症状が繰り返す場合は、症状が軽くても一度医療機関で相談されることをお勧めします。
まとめ
みぞおちから背中に響く痛みは、膵炎や胆道疾患など、早めの対応が大切な病気のサインである可能性があります。
この記事のポイント
- みぞおち〜背中の痛みでは、膵炎・胆嚢炎・胆管炎などが原因として考えられる
- 採血(アミラーゼ・リパーゼなど)で膵臓の炎症の有無を評価できる
- CT検査は炎症の広がりや重症度判定に重要な役割を果たす(胆石の検出は超音波が優位)
- 激しい痛み・高熱・黄疸などがある場合は早急な受診が必要
症状が続く場合や繰り返す場合は、自己判断で様子を見続けるのではなく、早めに消化器内科を受診されることをお勧めします。診断・重症度の判定は医師が検査結果を総合的に判断して行いますので、気になる症状がある方はお気軽にご相談ください。
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- みぞおちの痛みが背中に響くのはなぜですか?
-
膵臓や胆嚢は体の奥深く、背骨の近くに位置しています。これらの臓器に炎症が起きると、周囲の神経を刺激し、背中に「放散痛」として痛みが伝わります。特に膵炎では背中への放散痛が特徴的です。
- 膵炎の検査でCTは必ず必要ですか?
-
採血と症状で膵炎が疑われる場合、CTは炎症の広がりや重症度を評価するために重要です。ただし、全例で必須ではなく、症状や採血結果を踏まえて医師が必要性を判断します。軽症例では行わないこともあります。
- アミラーゼとリパーゼの違いは何ですか?
-
どちらも膵臓から分泌される消化酵素ですが、リパーゼは膵臓への特異性が高く、上昇が長く続くため診断に有用です。近年のガイドラインではリパーゼの測定が推奨される傾向にあります。
- 膵炎になりやすい人の特徴はありますか?
-
アルコールを多く摂取する方(特に男性)、胆石がある方(特に女性)は膵炎のリスクが高いとされています。その他、高脂血症や特定の薬剤、自己免疫疾患が原因となることもあります。
- みぞおちの痛みで救急車を呼ぶべき目安は?
-
激しい痛みで動けない、冷や汗や意識障害がある、吐血や黒色便がある、高熱と強い腹痛がある場合は救急対応が必要です。黄疸を伴う場合も早急な受診が推奨されます。
- 胆石があると膵炎になることがありますか?
-
はい、胆石が胆管を通って膵管の出口を塞ぐと「胆石性膵炎」を起こすことがあります。急性膵炎の原因の約2割強を占めるとされ、胆石の治療が再発予防につながります。
- 造影CTと普通のCTは何が違いますか?
-
造影CTは造影剤を静脈注射して撮影する検査で、臓器の血流状態や壊死の有無を評価できます。膵炎の重症度判定には造影CTが有用ですが、腎機能やアレルギーの状態により使用できない場合もあります。
- 胆石の検査はCTと超音波どちらがよいですか?
-
胆石の検出には超音波検査(エコー)が優れています。CTでも一部の胆石は確認できますが、石の成分によっては写りにくいものがあるため、胆石が疑われる場合は超音波検査が優先されるのが一般的です。
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