健康診断の結果を見て、「胆嚢ポリープ」「胆のう結石」という記載があり、驚いた方も多いのではないでしょうか。「肝臓や胆嚢に影がある」と言われると、がんではないかと不安になるのは自然なことです。
この記事では、健診で胆嚢ポリープや胆のう結石を指摘された場合に、どのような経過観察が必要か、どんな場合に精密検査を受けるべきか、そして受診のタイミングについて、ガイドラインに基づいて分かりやすく解説します。
多くの胆嚢ポリープや胆のう結石は、症状がなければすぐに治療が必要になるわけではありません。ただし、サイズや形状、症状の有無によっては医療機関での評価が大切です。まずは結果票の内容を正しく理解し、必要に応じて専門の医療機関にご相談ください。
健診結果の「胆嚢ポリープ」「胆のう結石」とは?

胆嚢の役割
胆嚢(たんのう)は、肝臓の下にある洋梨型の小さな臓器で、肝臓で作られた胆汁(たんじゅう:脂肪の消化を助ける液体)を一時的に貯めておく働きがあります。食事をすると胆嚢が収縮し、胆汁が十二指腸へ送り出されます。
腹部エコーで見つかる所見
健康診断の腹部超音波検査(腹部エコー)では、胆嚢の中に「ポリープ」や「結石」が見つかることがあります。
胆嚢ポリープは、胆嚢の内側の壁から突き出た隆起性の病変(盛り上がった部分)の総称です。人間ドックの腹部エコーでは数%程度の方に発見されるとされています。多くはコレステロールが沈着した良性のポリープ(コレステロールポリープ)ですが、まれに腺腫(せんしゅ:良性腫瘍)や胆嚢癌が含まれるため、サイズや形状に応じた経過観察や精密検査が重要です。
胆のう結石(胆石)は、胆汁の成分が固まってできた石のことです。コレステロール結石とビリルビン結石に大別されます。胆石は成人の約10%前後に存在するとされていますが、地域や食生活によって保有率には差があります。多くは無症状のまま経過します。
【重要】 健診で「胆嚢ポリープ」「胆のう結石」を指摘されても、多くの場合はすぐに治療が必要ではありません。ただし、結果票の指示(要精査・要経過観察など)に従い、適切なタイミングで医療機関を受診することが大切です。
経過観察と精密検査の判断基準

胆嚢ポリープの経過観察基準
国内外のガイドラインでは、胆嚢ポリープのサイズと形状に応じて対応が推奨されています。以下は日本消化器病学会や欧州の合同ガイドライン(ESGAR/EAES/EFISDS/ESGEガイドライン2022年改訂版)を参考にした目安です。
5mm以下のポリープ :典型的なコレステロールポリープの特徴(高エコー・桑実状・有茎性)を満たし、悪性リスク因子がなければ、経過観察不要とされる場合もあります。ただし、初めて発見された場合は念のため6〜12か月後に再検査を行い、変化がないか確認することが望ましいとする見解もあります。
6〜9mmのポリープ :悪性リスク因子がある場合は、精密検査や手術の検討が推奨されます。欧州の合同ガイドライン(2022年改訂版)では、悪性リスク因子として以下が挙げられています。
- 60歳以上
- 原発性硬化性胆管炎(PSC)の既往
- アジア人
- 広基性(sessile:根元が広く壁に接するタイプ)で、かつ局所的な胆嚢壁肥厚(4mm超)を伴う場合
リスク因子がなければ、6か月後、1年後、2年後の超音波検査でのフォローアップが一般的です。2年間変化がなければ、経過観察を終了できる場合もあります。
10mm以上のポリープ 悪性の可能性を否定できないため、胆嚢摘出術(たんのうてきしゅつじゅつ)が検討されます。広基性(根元が広いタイプ)や増大傾向があるものはより注意が必要です。
よくある相談例① 「健診で7mmの胆嚢ポリープと書かれました。すぐ手術が必要ですか?」
→ 7mmのポリープは、形状やリスク因子によって対応が異なります。典型的なコレステロールポリープの特徴があれば、定期的な超音波検査での経過観察が一般的です。ただし、増大傾向や形状の変化があれば、精密検査が必要になることもあります。まずは消化器内科でご相談ください。
胆のう結石の経過観察基準
胆石症診療ガイドライン2021(日本消化器病学会)によると、無症状の胆のう結石に対しては、原則として経過観察が推奨されています。症状がない胆石に対して予防的に手術を行うことは、一般的には推奨されていません。
ただし、以下のような場合は医師との相談が必要です。
- 結石が大きい(3cm以上など)
- 胆嚢壁の肥厚(壁が厚くなっている)を伴う
- 磁器様胆嚢(胆嚢壁が石灰化している状態)
- 過去に胆石発作(疝痛発作:せんつうほっさ)を起こしたことがある
胆嚢ポリープの種類と悪性リスク

非腫瘍性ポリープ(良性)
コレステロールポリープは最も多く、胆嚢ポリープの過半数以上を占めるとされています。コレステロールが胆嚢壁に沈着してできたもので、悪性化することはほとんどありません。超音波検査では、高エコー(白く見える)で桑実状、細い茎を持つ形態が特徴です。
このほか、炎症性ポリープや過形成ポリープなども良性であり、基本的に治療は不要です。
腫瘍性ポリープ
腺腫(せんしゅ)は良性腫瘍ですが、一部が胆嚢癌へ進展する可能性があるとされています。腺腫はコレステロールポリープと比べてエコーでやや低エコー(暗く見える)を呈することが多く、サイズが大きいほど悪性化のリスクが高まります。
胆嚢癌はまれですが、10mm以上のポリープや広基性(根元が広い)のポリープでは悪性の可能性が高まるため、より慎重な評価が必要です。ポリープのサイズが大きくなるほど悪性リスクが上昇することが複数の研究で示されています。
よくある相談例② 「胆嚢ポリープ=がん、というわけではないのですか?」
→ 胆嚢ポリープの多くはコレステロールポリープで、がんとは異なります。ただし、一部には腺腫や早期がんが含まれる可能性があるため、サイズ・形状・経時的な変化を超音波検査で定期的に確認することが大切です。
胆のう結石を放置するとどうなる?

無症状の胆石は多い
胆のう結石を持っている方の多くは、生涯を通じて症状が出ないまま過ごします。無症状の胆石が1年以内に症状を引き起こす確率は、年率およそ1〜4%程度とされています(文献により差があります)。
症状が出た場合のリスク
一方で、胆石が胆嚢の出口や胆管に詰まると、以下のような症状・合併症を引き起こすことがあります。
- 胆石発作(胆道疝痛):食後、特に脂っこい食事の後に右上腹部やみぞおちに強い痛みが起こる
- 急性胆嚢炎:胆嚢に炎症が起き、発熱・持続する痛み・吐き気などが生じる
- 総胆管結石・胆管炎:胆石が総胆管に落ちて詰まると、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、発熱、腹痛が起こることがある
- 胆石性膵炎:胆管と膵管の合流部に石が詰まると、急性膵炎を引き起こすことがある
【重要】 無症状の胆石であっても、一度でも胆石発作を経験した方は、再発や合併症のリスクが高まるため、医師と治療方針を相談することが望ましいです。
症状がある場合の注意点と受診目安

すぐに受診が必要な症状(緊急性あり)
以下の症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。夜間や休日であれば救急外来の受診も検討してください。
- 右上腹部の激しい痛みが30分以上続く
- 38℃以上の発熱を伴う腹痛
- 皮膚や白目が黄色くなった(黄疸)
- 吐き気・嘔吐が続き、水分も取れない
早めの受診をおすすめする症状
以下のような症状が繰り返される場合は、消化器内科への受診をおすすめします。
- 食後(特に脂っこい食事の後)に右上腹部やみぞおちが重い、鈍い痛みがある
- 背中や右肩に放散する痛みがある
- 消化不良、胃もたれ、吐き気が続く
症状がない場合の対応
健診で指摘されたが症状がない場合は、結果票に記載された指示に従ってください。「要精査」であれば医療機関での精密検査、「要経過観察」であれば指定された期間後の再検査が推奨されます。
よくある相談例③ 「胆石があると言われましたが、痛みはありません。放っておいて大丈夫ですか?」
→ 無症状の胆石は、基本的に経過観察で問題ないことが多いです。ただし、結石のサイズや胆嚢壁の状態によっては定期的なチェックが望ましい場合もあります。健診結果を持って、一度消化器内科でご相談いただくと安心です。
健診後の相談先と検査の流れ
受診先の選び方
胆嚢ポリープや胆のう結石を指摘された場合は、消化器内科への受診が適しています。超音波検査やCT検査を行い、ポリープや結石の状態を詳しく評価できます。
精密検査の流れ(一般的な例)
- 問診・診察:健診結果票を持参し、症状の有無や既往歴を確認
- 腹部超音波検査:ポリープのサイズ・形状・数、結石の有無や位置を詳細に評価
- CT検査:超音波では判断が難しい場合や、周囲の臓器との関係を確認する場合に追加
- 結果説明・方針決定:経過観察の間隔、追加検査の必要性、外科的治療の検討などを相談
※検査の適応や内容は、医師が状態を見て判断します。
受診時に持参いただくとよいもの
- 健診結果票(腹部エコーの所見が記載されたもの)
- お薬手帳(服用中の薬がある場合)
- 過去の検査結果(以前にも同様の指摘があった場合)
まとめ
健診で胆嚢ポリープや胆のう結石を指摘されると不安になりますが、多くは良性であり、すぐに治療が必要なケースは限られています。大切なのは、ポリープのサイズや形状、症状の有無に応じて、適切な経過観察や精密検査を受けることです。
- 5mm以下で典型的な所見であれば、経過観察で問題ないことが多い
- 6〜9mmは定期的な超音波検査で変化を確認
- 10mm以上や広基性のポリープは精密検査・外科的治療の検討が必要
- 胆石は無症状なら経過観察、症状があれば治療を検討
症状が続く場合や、結果票に「要精査」と記載されている場合は、早めに消化器内科でご相談ください。ご不安な点があれば、お気軽にご相談ください。
- 胆嚢ポリープは何科を受診すればよいですか?
-
消化器内科の受診をおすすめします。腹部超音波検査でポリープの状態を詳しく評価でき、必要に応じてCT検査や専門医への紹介も行われます。
- 胆嚢ポリープは必ず手術が必要ですか?
-
いいえ。多くのポリープは良性のコレステロールポリープで、手術不要です。ただし、10mm以上や増大傾向のあるポリープは、悪性の可能性を考慮して胆嚢摘出術が検討されることがあります。
- 胆のう結石があっても症状がなければ放置してよいですか?
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無症状の胆石は、基本的に経過観察で問題ないことが多いです。ただし、結石が大きい場合や胆嚢壁に変化がある場合は、定期的な検査が望ましいです。一度でも痛みを経験した方は医師にご相談ください。
- 胆嚢ポリープの経過観察はどのくらいの間隔で行いますか?
-
ポリープのサイズやリスク因子によって異なります。6〜9mmのポリープであれば、6か月後、1年後、2年後の超音波検査が一般的な目安です。医師の指示に従ってください。
- 腹部エコーで「胆嚢に影がある」と言われました。がんですか?
-
「影」という表現だけでは、ポリープ・結石・胆泥(胆汁の沈殿物)など様々な可能性があります。多くは良性ですが、内容を確認するために精密検査を受けることをおすすめします。
- 胆嚢ポリープと胆のう結石は同時にあることがありますか?
-
はい、両方が同時に見つかることは珍しくありません。それぞれの状態を評価し、総合的に経過観察や治療の方針を決めることになります。
- 胆石発作はどんな痛みですか?
-
典型的には食後(特に脂っこい食事の後)に右上腹部やみぞおちに強い痛みが起こり、背中や右肩に広がることもあります。痛みは30分〜数時間続くことがあり、吐き気を伴うこともあります。
- 健診で「要経過観察」と「要精査」の違いは何ですか?
-
「要経過観察」は現時点では大きな問題はないが定期的な確認が望ましい状態、「要精査」はより詳しい検査が必要な状態を指します。「要精査」の場合は早めに医療機関を受診してください。
金沢・野々市・白山市エリアでは、当院(金沢消化器内科・内視鏡クリニック)でも胆嚢・胆管の評価に対応しています。両院(野々市中央院・金沢駅前院)ともに超音波検査・CTによる精密検査が可能です。
「今日検査を受けたい」「症状が心配で早めに相談したい」という方は、お気軽にご相談ください。
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参考文献
1. 胆石症診療ガイドライン2021(改訂第3版)
- 著者:日本消化器病学会(編)
- 掲載誌/機関:南江堂
- 発行年:2021年
2. Management and follow-up of gallbladder polyps: updated joint guidelines between the ESGAR, EAES, EFISDS and ESGE
- 著者:Foley KG, Lahaye MJ, Thoeni RF, et al.
- 掲載誌/機関:European Radiology
- 発行年:2022年
- DOI:10.1007/s00330-021-08384-w
3. Management of Incidentally Detected Gallbladder Polyps: Society of Radiologists in Ultrasound Consensus Conference Recommendations
- 著者:Kamaya A, Fung C, Szpakowski J, et al.
- 掲載誌/機関:Radiology
- 発行年:2022年
- DOI:10.1148/radiol.213079
4. Outcomes of Gallbladder Polyps and Their Association With Gallbladder Cancer in a 20-Year Cohort
- 著者:Szpakowski JL, Tucker LY
- 掲載誌/機関:JAMA Network Open
- 発行年:2020年
- DOI:10.1001/jamanetworkopen.2020.5143
5. 胆嚢ポリープの診断と取扱い
- 著者:有坂好史、竹中完、塩見英之、東健
- 掲載誌/機関:日本消化器病学会雑誌 112巻3号
- 発行年:2015年
- DOI:10.11405/nisshoshi.112.444
6. 日本消化器内視鏡学会 市民向けQ&A:胆嚢ポリープの検査
- 著者:中井陽介(東京大学医学部)
- 掲載誌/機関:日本消化器内視鏡学会
- 発行年:2019年(2022年更新)

