健康診断の腹部エコー(超音波検査)で「腎のう胞」や「水腎症」と書かれた結果票を受け取り、「これは何だろう?」「すぐに病院へ行くべき?」と不安を感じていませんか。
この記事では、腎のう胞と水腎症それぞれの意味、追加で必要になる検査(尿検査・血液検査・CTなど)、そして泌尿器科への紹介が必要になるケースについて、わかりやすく解説します。多くの場合は経過観察で済みますが、なかには精密検査が必要な場合もありますので、まずは落ち着いて結果票を確認してみましょう。
健診で「腎のう胞」「水腎症」と言われたら?

腹部エコー検査は、超音波を使って肝臓・胆のう・腎臓などの臓器を画像化する検査です。痛みや被ばくがなく、健診や人間ドックで広く行われています。
この検査で「腎のう胞(じんのうほう)」や「水腎症(すいじんしょう)」と記載されることがあります。どちらも腎臓に関する所見ですが、意味や対応が異なります。
【重要】
「腎のう胞」は腎臓にできた液体の入った袋状の構造物、「水腎症」は尿の流れが滞って腎臓内部(腎盂)が拡張した状態を指します。
結果票には「経過観察」「要精査」などの判定区分が記載されています。まずはこの判定区分を確認し、指示に従って次のステップを検討しましょう。
よくある相談パターン:
- 「腎のう胞と書いてあるけど、がんではないか心配」
- 「水腎症って初めて聞いた。腎臓が悪いということ?」
- 「尿潜血も一緒に指摘されている。関係あるの?」
腎のう胞とは?多くは良性、でも確認が大切

腎のう胞とは、腎臓の中や表面にできる液体で満たされた袋状の構造物です。加齢とともに発生頻度が増え、報告や検出方法によって幅がありますが、50歳以上では2〜5割程度の方に見られるとされる、比較的一般的な所見です。
単純性のう胞と複雑性のう胞
腎のう胞は大きく2種類に分けられます。
単純性のう胞:
- 壁が薄く、内部が均一な液体で満たされている
- ほとんどが良性で、悪性化することは稀
- 一般的に治療不要
複雑性のう胞:
- 壁が厚い、隔壁(仕切り)がある、石灰化がある、などの特徴を持つ
- 一部に悪性の可能性があり、追加の画像検査(CTやMRI)で評価が必要
複雑性のう胞の評価には、国際的に「Bosniak分類」という基準が用いられます(ガイドラインによる分類法)。カテゴリーI・IIは良性として原則フォロー不要ですが、症状がある場合や判断がつきにくい場合は画像検査を行うことがあります。カテゴリーIIF以上では定期的な画像フォローや専門医への相談が推奨されます。
健診のエコーだけでは詳細な分類が難しい場合があるため、「要精査」と判定された場合は追加検査を受けることが大切です。
水腎症とは?尿の流れが滞るサイン

水腎症とは、尿の通り道(尿管など)が何らかの原因で狭くなったり詰まったりして、腎臓内部の腎盂(じんう:尿が集まる部分)が拡張した状態です。
水腎症の主な原因
- 尿管結石:多い原因の一つ。結石が尿管に詰まることで尿の流れが阻害される
- 腫瘍:尿管や膀胱の腫瘍が尿路を圧迫する場合
- 先天性異常:腎盂尿管移行部の狭窄など
- 前立腺肥大(男性):膀胱からの尿の排出が妨げられる
健診で偶然見つかる軽度の水腎症は、自覚症状がないことが多く、原因がはっきりしない場合もあります。一方、急性の水腎症(結石などによる)では、激しい腰痛や側腹部痛を伴うことがあります。
【重要】
水腎症は「尿の流れに問題がある可能性」を示すサインです。原因の特定と程度の評価のため、追加検査が推奨されます。放置すると腎機能低下につながる可能性があるため、定期的なフォローが大切です。
追加で必要になる検査の流れ

健診で腎のう胞や水腎症を指摘された場合、以下のような追加検査が行われることがあります。
尿検査
尿潜血(にょうせんけつ)や血尿の有無を確認します。健診で尿潜血が陽性の場合、腎臓や尿路に出血の原因となる病変がないか調べる必要があります。尿蛋白の有無も腎機能評価の参考になります。
血液検査
クレアチニン(Cr)やeGFR(推算糸球体濾過量)といった項目で腎機能を評価します。水腎症が進行している場合、腎機能の低下が見られることがあります。
画像検査(CT・MRI)
健診のエコーで詳細がわからない場合、造影CT検査やMRI検査で精密な評価を行います。結石の有無は非造影CTで確認できることが多く、のう胞の性状や腫瘍の有無は造影CTやMRIで詳しく評価します。
検査の必要性や順序は、結果票の判定区分や症状の有無によって異なります。医師が状態を見て判断しますので、まずは医療機関でご相談ください。
泌尿器科への紹介が必要なケース
腎のう胞や水腎症の多くは経過観察で対応可能ですが、以下のような場合は泌尿器科専門医への紹介が必要になることがあります。
紹介を検討するケース
- 複雑性のう胞が疑われる場合(隔壁や石灰化があるなど)
- 水腎症の原因が結石や腫瘍と考えられる場合
- 症状がある場合:腰痛、側腹部痛、肉眼的血尿、発熱など
- 腎機能の低下が認められる場合
- のう胞や腎盂の拡張が進行している場合(経時的な変化)
経過観察で対応できるケース
- 典型的な単純性のう胞(Bosniak I/II)で、症状がない場合 → 原則フォロー不要とされることが多い
- 軽度の水腎症で、症状がなく腎機能も正常な場合 → 定期的な画像フォローで経過を見る
- 判断がつきにくい所見(Bosniak IIFなど)→ 6〜12か月ごとの画像検査でフォロー
よくある相談パターン:
- 「毎年のう胞を指摘されるが、大きさが変わらない。このまま様子を見ていいか」
- 「水腎症と言われたが症状がない。どのくらいの頻度で検査を受けるべきか」
まとめ
健診の腹部エコーで「腎のう胞」や「水腎症」を指摘されると不安になりますが、多くの場合は良性であり、経過観察で対応できます。典型的な単純性のう胞(Bosniak I/II)は原則としてフォロー不要とされていますが、判断がつきにくい場合や複雑性のう胞が疑われる場合は、追加検査や泌尿器科への紹介が必要になることもあります。
結果票の判定区分を確認し、「要精査」の場合は早めに医療機関を受診してください。尿潜血や血尿が同時に指摘されている場合や、腰痛・側腹部痛などの症状がある場合は、より積極的な検査が推奨されます。症状が続く場合や判断に迷う場合は、お気軽に当院へご相談ください。
- 健診で腎のう胞と言われました。がんの可能性はありますか?
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多くの腎のう胞は単純性のう胞と呼ばれる良性のもので、悪性化することは稀です。ただし、壁が厚い・隔壁があるなどの複雑性のう胞の場合は追加検査が推奨されます。判定区分を確認し、要精査であれば医療機関を受診してください。
- 水腎症とは何ですか?放置するとどうなりますか?
-
水腎症は尿の流れが滞り、腎臓内部(腎盂)が拡張した状態です。軽度で症状がなければ経過観察となることもありますが、放置すると腎機能低下につながる可能性があるため、原因の特定と定期的なフォローが大切です。
- 腎のう胞と水腎症を同時に指摘されました。関連はありますか?
-
多くの場合は別々の機序で生じる所見ですが、のう胞の部位や大きさによっては尿路を圧迫し、水腎症の原因となる可能性もあります。両方指摘された場合は、それぞれについて追加検査の必要性を医師に確認することをお勧めします。
- 尿潜血も陽性でした。腎のう胞と関係ありますか?
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単純性のう胞が尿潜血の原因になることは稀です。尿潜血の原因は結石、感染、腫瘍など多岐にわたるため、別途精密検査が必要になる場合があります。血尿が続く場合は早めに受診してください。
- 単純性のう胞はどのくらいの頻度で経過観察すればいいですか?
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典型的な単純性のう胞(Bosniak I/II)は、症状がなければ原則フォロー不要とされています。ただし、判断がつきにくい場合(Bosniak IIFなど)は6〜12か月ごとの画像検査が推奨されます。個々の状態により医師が判断します。
- 何科を受診すればいいですか?
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まずは内科や消化器内科で追加検査を受け、必要に応じて泌尿器科を紹介してもらう流れが一般的です。当院でも超音波検査やCT検査に対応しており、精査結果をもとに適切な科へご紹介します。
- 症状がなくても受診した方がいいですか?
-
健診で「要精査」と判定された場合は、症状がなくても受診をお勧めします。「経過観察」の場合も、指示された時期に再検査を受けることで、変化を早期に把握できます。
金沢市、野々市市、白山市にお住まいの方へ
金沢消化器内科・内視鏡クリニックでは、両院ともに超音波検査・CT検査に対応しており、血液検査・尿検査と合わせて総合的に評価することが可能です。検査の結果、泌尿器科での精査が必要と判断された場合は、連携医療機関へスムーズにご紹介いたします。
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参考文献
- 腹部超音波検診判定マニュアル改訂版(2021年)
- 著者:日本消化器がん検診学会 超音波検診委員会
- 掲載誌/機関:日本消化器がん検診学会、日本超音波医学会、日本人間ドック学会 合同
- 発行年:2021年
- エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023
- 著者:日本腎臓学会
- 掲載誌/機関:東京医学社
- 発行年:2023年
- Bosniak Classification of Cystic Renal Masses, Version 2019: An Update Proposal and Needs Assessment
- 著者:Silverman SG, et al.
- 掲載誌/機関:Radiology
- 発行年:2019年
- 小児先天性水腎症(腎盂尿管移行部通過障害)診療手引き 2021アップデート
- 著者:日本小児泌尿器科学会
- 掲載誌/機関:日本小児泌尿器科学会
- 発行年:2021年
- CUA Guideline: Management of cystic renal lesions
- 著者:Canadian Urological Association
- 掲載誌/機関:Can Urol Assoc J
- 発行年:2023年
- 尿路結石症診療ガイドライン 第3版
- 著者:日本泌尿器科学会/日本尿路結石症学会/日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会
- 掲載誌/機関:医学図書出版
- 発行年:2023年

