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内視鏡検査時の生検で分かることと検査の進め方

内視鏡検査時の生検で分かることと検査の進め方

健康診断や診察で内視鏡検査を勧められ、医師から検査中に生検を行うかもしれないと説明を受けると、多くの方が不安に感じるかもしれません。

生検という言葉の響きから、「何か大変なことをするのではないか」、「痛いのではないか」、と心配になるでしょう。

この記事では、内視鏡検査と同時に行う生検とはどのようなものか、なぜ必要なのか、そして検査がどのように進められるのかを詳しく解説します。

目次

内視鏡下生検法とは 粘膜組織を採取する精密検査

内視鏡下生検法は内視鏡、いわゆる胃カメラや大腸カメラを用いて消化管の内部を直接観察している際に、病気が疑われる部分の粘膜組織を、専用の微小な器具でごく少量だけ採取する検査です。

採取した組織片を顕微鏡で詳細に観察し、病気の性質を細胞レベルで診断するのが病理組織診断であり、生検は診断のために必要となる重要な手技になります。

内視鏡検査における生検の位置づけ

内視鏡検査では、医師はモニターに映し出される消化管粘膜の色調、凹凸、血管の模様などを詳細に観察し、病変の有無を判断します。

見た目の所見、肉眼的な情報だけで多くの病気を高い精度で推測することが可能です。しかし、どれだけ経験を積んだ医師であっても、見た目だけで病気の最終的な診断を下せません。

例えば、ひどい炎症とごく初期のがんを100%確実に見分けることは困難な場合があります。そこで、病変の一部を物理的に採取して細胞レベルで調べる生検が、診断の精度を飛躍的に高め、確定診断に至るための決定的な手段となります。

組織を直接調べることの重要性

病理組織診断は様々な病気の診断における最終的な答え、いわばゴールデンスタンダードと位置づけられています。内視鏡で採取した米粒の半分ほどの大きさの組織から、見ただけでは分からない膨大な量の情報を得られます。

病変が良性か悪性かという最も重要な判断はもちろんのこと、がんである場合はその種類(腺がん、扁平上皮がんなど)や顔つきの悪さ(分化度)、炎症であればその種類や活動性の程度、さらにはヘリコバクター・ピロリ菌のような特定の病原体の存在まで確認できます。

客観的で確定的な情報に基づいて、その後の治療方針、例えば手術が必要か、薬物治療か、あるいは経過観察で良いかなどが決定されます。

生検による診断の具体例

観察所見生検で分かることその後の対応
胃の粘膜のただれがん細胞の有無、炎症の程度、ピロリ菌感染の有無、萎縮の進行度。がんの精密検査・治療、ピロリ菌除菌療法、薬物療法、定期的な経過観察など。
大腸のポリープ腺腫か過形成性ポリープかの鑑別、がん細胞の有無、異型度(悪性度)。内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)、または切除不要の経過観察。
食道の粘膜の変色バレット食道や早期食道がんの有無、炎症の程度。定期的な内視鏡での経過観察、内視鏡的切除術(ESD)、生活習慣指導。

生検で痛みは感じるのか

多くの方が最も心配されるのが生検に伴う痛みですが、胃や大腸の粘膜から組織を採取する際に、患者さんが痛みを感じることはほとんどありません。

なぜなら、食べ物が通過する食道や胃、大腸といった消化管の粘膜には、皮膚のように鋭い痛みを感じる神経(痛覚神経)がほとんど分布していないからです。

私たちは熱いものや冷たいものを飲み込んでも、食道や胃を通過する際に熱いや冷たいとは感じないように、粘膜の表面を数ミリつまみ取られても、感覚自体に気づくことはまずありません。

検査後に医師から「念のため組織を採っておきました」と説明を受けて、初めて生検が行われたことを知る方が大半です。

生検によって診断できる主な疾患

生検とそれに続く病理組織診断は、消化器領域における多種多様な疾患の確定診断に貢献します。内視鏡による視覚的な情報と、病理組織診断による細胞レベルの情報を組み合わせることで、より深く正確な診断が可能になります。

悪性腫瘍(がん)の確定診断

生検が持つ最も重要な役割の一つが、食道がん、胃がん、大腸がんといった悪性腫瘍の確定診断です。

内視鏡検査でがんが疑われる不整な凹凸や色調の変化、出血しやすい病変が見つかった場合、一部を採取してがん細胞の有無を直接確認します。

病理医が顕微鏡下で明らかながん細胞を確認すれば、悪性という確定診断が下ります。

さらに、がん細胞がどのような特徴を持つかによって、胃がんや大腸がんに多い腺がん、食道がんに多い扁平上皮がんなど、がんの種類(組織型)も特定することが可能です。

主な消化管がんと組織型

部位頻度の高いがんの組織型特徴
食道扁平上皮がん飲酒や喫煙との関連が深い。
腺がんピロリ菌感染との関連が深い。
大腸腺がん多くは良性の腺腫から発生する。

炎症性疾患の評価(胃炎・大腸炎)

長引く胃の不調や胃潰瘍の原因として知られるヘリコバクター・ピロリ菌の感染診断にも、生検は威力を発揮します。

生検で採取した胃の粘膜組織を用いて、迅速ウレアーゼ試験という方法でピロリ菌の有無をその場で判定したり、組織を染色して顕微鏡で菌の存在を直接確認します。

また、慢性の下痢や腹痛、血便などを起こす潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(IBD)の診断と重症度評価にも生検は欠かせません。

このような内視鏡で特徴的な炎症や潰瘍の所見が見られますが、最終的には生検で組織を採取し、顕微鏡下で特徴的な炎症細胞の集まり(例えば、クローン病における非乾酪性類上皮細胞肉芽腫)を確認することで確定診断に至ります。

ポリープの良性・悪性の鑑別

健康診断のバリウム検査や便潜血検査で異常を指摘され、内視鏡検査を受けるきっかけとして多いのが胃や大腸のポリープです。

ポリープには、放置すると将来がん化するリスクのある腫瘍性ポリープ(主に腺腫)と、がん化の心配がほとんどない非腫瘍性ポリープ(過形成性ポリープなど)があります。

肉眼である程度鑑別することは可能ですが、確実ではありません。

特に小さなポリープの場合生検で組織の種類を特定することで、その場で内視鏡的に切除すべきか、あるいは切除せずに経過観察で良いかを正確に判断するための重要な情報を得られます。

内視鏡下生検法の具体的な手順

生検は決して独立した検査ではなく、胃カメラや大腸カメラといった内視鏡検査の一連の流れの中で、医師が必要と判断した場合に追加的に行われる手技です。

患者さんにとっては検査時間がわずかに長くなる以外に、新たな身体的負担や苦痛が増えることはほとんどありません。

検査前の準備と注意点

生検自体のために特別な前処置が必要になるわけではなく、基本的には通常の内視鏡検査と同じ準備を行い、上部消化管内視鏡(胃カメラ)の場合は、検査前日の夕食を早めに済ませた後から絶食となります。

下部消化管内視鏡(大腸カメラ)の場合は検査前日から消化の良い食事をとり、検査当日に多量の下剤(腸管洗浄剤)を服用して腸内を完全に空っぽにすることが必要です。

特に重要なのが普段服用している薬の確認で、心臓病や脳梗塞の治療・予防のために血液をサラサラにする薬(抗凝固薬や抗血小板薬)を服用している方は、生検後の出血のリスクが通常より高まる可能性があります。

薬を処方している主治医と内視鏡検査を行う医師が連携し、検査前に一時的に休薬すべきか、あるいは休薬せずに検査可能かを判断します。自己判断で薬を中止するのは大変危険ですので、必ず事前に申し出て指示を仰いでください。

検査前に確認すべきこと

項目内容特に注意が必要な方
絶食・下剤胃カメラは絶食、大腸カメラは下剤の服用。糖尿病でインスリン注射や血糖降下薬を使用している方。
常用薬の確認血液をサラサラにする薬、血圧の薬、糖尿病の薬など。抗凝固薬・抗血小板薬を服用している方。
アレルギー歴薬剤(麻酔薬など)や消毒薬に対するアレルギーの有無。以前に検査や手術でアレルギー反応が出た経験のある方。

内視鏡の挿入と病変の観察

検査室で準備が整ったら、実際に検査を開始します。胃カメラは口または鼻から、大腸カメラは肛門から、潤滑ゼリーを塗った細い内視鏡をゆっくりと挿入していきます。

医師はモニター画面に映し出される消化管の内部を、空気や二酸化炭素を送気して広げながら隅々まで観察します。

疑わしい部分が見つかると、インジゴカルミンなどの色素を散布して病変の輪郭や表面構造を際立たせたり、NBI(狭帯域光観察)などの特殊な光を当てて粘膜表層の微細な血管の模様を詳しく観察したりして、より詳細な情報を得ます。

生検鉗子による組織の採取

詳細な観察の結果生検による組織診断が必要と判断されると、医師は内視鏡の先端にある処置具の通り道(鉗子チャンネル)から、生検鉗子と呼ばれる非常に細長い器具を送り込みます。

生検鉗子の先端は、直径2ミリ程度の極小のスプーンやワニの口のような形をしており、これを内視鏡の操作で巧みに操り、目的の病変に近づけ、粘膜の表面をごく浅く1〜2ミリ程度の大きさでつまみ取ります。

通常、診断の精度を担保するために、1つの病変から複数の異なる場所を狙って3〜5個程度の組織片を採取します。

一連の操作は非常に迅速に行われ、1カ所あたり数秒から数十秒で完了し、操作で痛みを感じることはありません。

検査後の注意点と生活上のアドバイス

生検は身体への負担が極めて少ない検査ですが、目に見えない消化管の内部に、組織を採取したことによる微小な傷ができている状態です。

検査後は傷の速やかな回復を促し、出血などのまれな偶発症を防ぐために、いくつかの点に注意して過ごす必要があります。

検査当日の食事と飲水について

検査が終了しても、すぐに飲食はできません。鎮静剤の影響や、喉の麻酔が残っているためです。

通常検査終了後1時間程度は安静にして、飲水から再開し、少量の水を飲んでみてむせたり気分が悪くなったりしなければ、食事を摂ることが可能です。

ただし、検査当日の食事は傷ついた粘膜に負担をかけないよう、消化が良く、刺激の少ないものを選びましょう。

検査当日に推奨される食事と避けるべき食事

推奨される食事避けるべき食事理由
お粥、よく煮込んだうどん、豆腐香辛料の多いもの(カレー、キムチ、唐辛子など)胃酸の分泌を促し、胃腸の粘膜を化学的に刺激するため。
ポタージュスープ、茶碗蒸し脂肪分の多いもの(揚げ物、ラーメン、焼肉など)消化に時間がかかり、胃腸に大きな負担をかけるため。
バナナ、プリン、ヨーグルトアルコール飲料、炭酸飲料、コーヒー血行を促進したり、粘膜を刺激したりするため。

アルコールや運動の制限

アルコール飲料は血管を拡張させ、全身の血行を良くする作用があるので、生検でできた小さな傷の血管が開き、すで止まっていた出血が再開するリスクを高める可能性があります。検査後、最低でも24時間は禁酒を守ってください。

可能であれば2〜3日控えるのがより安全です。

また、ジョギングや筋力トレーニングといった腹圧がかかる激しい運動や、体を温めすぎて血圧が変動しやすい長時間の入浴も、同様の理由で当日は避けましょう。シャワー浴であれば問題ありません。

  • 飲酒:検査後24時間〜3日間は厳禁。
  • 入浴:当日は湯船には浸からず、シャワー程度にする。
  • 運動:腹圧のかかる激しい運動は当日は避ける。

出血などの偶発症と対処法

生検による重篤な偶発症(合併症)、すなわち後出血(検査後しばらくしてから出血すること)や穿孔(消化管に穴が開くこと)の頻度は極めてまれで、数千件から数万件に1件程度とされていますが、ゼロではありません。

万が一に備えて、どのような症状に注意すべきかを知っておき、異常を感じた際にすぐに行動することが重要です。

帰宅後に注意すべき危険なサイン

症状考えられる状態対処法
持続する強い腹痛、お腹が板のように硬くなる穿孔(せんこう)の可能性直ちに医療機関に連絡する。
黒い便(タール便)や新鮮な血便が大量に出る消化管出血(後出血)医療機関に連絡し、指示を仰ぐ。
発熱(38℃以上)が続く、強い悪寒がする穿孔やそれに伴う腹膜炎などの感染症医療機関に連絡する。

病理組織検査の結果について

生検で採取された組織片は病理診断に回され、患者さんの目には触れない部分ですが、正確な診断のために多くの専門家が関わる重要な工程です。

病理専門医による診断

染色されたプレパラート(スライド標本)は、病理診断を専門とする医師である病理医の元へ届けられます。

病理医は細胞の一つひとつの顔つき(形や大きさ)、細胞の並び方の規則性、組織全体の構造などを詳細に観察します。

そして、経験と知識を基に正常な組織との違いを見つけ出し、それが炎症なのか良性腫瘍なのか、あるいは悪性腫瘍(がん)なのかを最終的に判断するのです。

必要に応じて、特殊なタンパク質だけを染め出す免疫染色などの追加検査を行い、より詳細な情報を加えることもあり、最終的に所見をまとめた詳細な報告書、病理診断報告書を作成します。

結果説明までの期間

上記の標本作製から診断、報告書作成までの一連の作業には一定の時間を要すため、生検の結果が判明し患者さんに説明できるまでには、通常1週間から2週間程度の時間がかかります。

結果を待つ間は誰でも不安な気持ちになるものですが、正確で信頼性の高い診断を得るためには必要な時間です。

内視鏡生検に関するよくある質問

最後に、内視鏡検査時の生検について、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

生検をすると入院は必要ですか?

通常の診断目的の生検(組織を数カ所採取するだけ)であれば、入院の必要はなく、完全に日帰りで検査が可能です。検査後は院内で1〜2時間ほど安静に休息した後に、ご自身の足で帰宅できます。

ただし、大きなポリープを切除した場合(ポリペクトミーやEMR)や、患者さんの全身状態、服用している薬剤の種類によっては、万が一の出血に備えて、経過観察のために入院を勧めることもあります。

生検で取った組織は再生しますか?

食道や胃、大腸といった消化管の粘膜は、体の中でも特に新陳代謝が活発な組織です。

生検でできる傷は皮膚でいえばほんのわずかな擦り傷のようなものですので、通常は数日から1週間程度で粘膜上皮が再生し、きれいに治癒します。傷跡が残って将来何か問題を起こすということも、ありません。

生検によって検査時間はどのくらい長くなりますか?

生検の操作自体は、医師が慣れていれば非常に迅速に行われます。1カ所の組織を採取するのに要する時間は、通常、数十秒程度で、仮に数カ所の生検を行ったとしても、合計で数分程度の追加時間で済むことがほとんどです。

生検の有無によって患者さんが体感する検査時間や身体的な負担は、大きく変わることはありません。

がんが疑われる場合、生検でがん細胞が散らばりませんか?

生検の操作によってがん細胞が周囲の組織に散らばったり、血管やリンパ管に入って転移を促進したりするという医学的根拠は、現在のところありません。

不確かな情報に惑わされて必要な生検を受けないことの方が、がんの発見を遅らせ治療の機会を失うことにつながります。

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この記事を書いた人

Dr.中村文保のアバター Dr.中村文保 医療法人社団心匡会 理事長

金沢消化器内科・内視鏡クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医
日本肝臓学会 肝臓専門医

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