内視鏡を用いた検査や治療の過程で、消化管からの出血を止めるための専門的な処置を内視鏡的止血術と呼びます。
数ある手技の中でも、小さな金属製の器具であるクリップを用いた止血方法は、高い安全性と有効性から現代の消化器診療において広く行われています。
この記事では、消化管出血を起こす病態から、内視鏡的止血術における様々な種類、その中心的な役割を担うクリップ止血術の方法論、利点や注意点に至るまで、詳しく解説します。
内視鏡的止血術とは何か
内視鏡的止血術は、従来、開腹手術でしか対応できなかった消化管出血の多くを、体への負担を最小限に抑えながら治療することを可能にした、非常に重要な医療技術です。
消化管出血の原因と緊急性
消化管からの出血は、非常に様々な原因によって起こります。代表的なものに胃潰瘍や十二指腸潰瘍があり、その他にも大腸憩室からの出血、ポリープ切除後の偶発症としての出血など、病態は多岐にわたります。
出血量が多い場合や、持続的に出血している場合は、体内の血液量が減少し、貧血や血圧低下、頻脈などを引き起こします。重篤な場合はショック状態に陥り、生命に関わることもあるため、迅速かつ的確な診断と治療が必要です。
消化管出血の主な原因
出血の原因 | 主な発生部位 | 見られる症状の例 |
---|---|---|
胃・十二指腸潰瘍 | 胃、十二指腸 | 吐血、黒色便(タール便)、みぞおちの痛み |
大腸憩室出血 | 大腸(特に右側結腸) | 突然の腹痛を伴わない大量の血便(鮮血) |
内視鏡治療後の出血 | 食道、胃、大腸 | 吐血、下血(ポリープ切除後など) |
内視鏡で止血を行う目的
内視鏡的止血術の第一の目的は、現在進行形で血液が流れ出ている活動性の出血を確実に止めることです。患者さんの循環動態を安定させ、より重篤な事態へ進行するのを防ぎます。
また、現時点では出血は止まっているものの、潰瘍底に血管が露出しているなど、近い将来に再び出血するリスクが極めて高いと判断される場合にも、予防的に処置を行うことがあります。
予期せぬ再出血を未然に防ぎ、患者さんの安全を確保するという重要な役割も担っているのです。
どのような状況で必要になるか
内視鏡的止血術は、様々な状況で実施されます。腹痛などの症状で受けた内視鏡検査中に偶然、活動性の出血が見つかった場合や、健康診断の便潜血検査で陽性となり、その精密検査である大腸内視鏡検査で出血源が見つかった場合などです。
また、突然の吐血や下血といった明らかな症状で救急受診した際には、緊急内視鏡検査を行い、診断と同時にそのまま止血処置に移行することも少なくありません。
止血処置が必要となる主な状況
- 活動性潰瘍からの出血(胃・十二指腸)
- 大腸ポリープ切除後の出血(後出血)
- 大腸憩室からの出血
- 悪性腫瘍(がん)からの持続的な出血
身体への負担が少ない治療法
かつては消化管からの出血に対して、開腹手術によって出血血管を縫合したり、場合によっては胃や腸の一部を切除したりすることも多くありました。
しかし、内視鏡に関連する技術や器具の目覚ましい進歩により、現在では多くの出血が内視鏡を用いて低侵襲に治療できるようになりました。
手術に比べて体表に傷が一切残らず、術後の痛みも少なく、回復も格段に早いため、患者さんの身体的、精神的な負担を大幅に軽減できる点が大きな利点です。
内視鏡的止血術の主な種類
内視鏡的止血術にはいくつかの方法があり、出血の原因となっている病変の種類や発生部位、出血の様式に応じて、最も適切と判断する方法を選択します。時には複数の方法を戦略的に組み合わせて、より確実な止血を目指します。
機械的止血法
物理的な力を用いて出血している血管を圧迫したり、結紮(縛ること)したりして血流を遮断する方法で、代表的なものが、この記事で詳しく解説するクリップを用いる方法です。
出血している血管そのものを直接、機械的に挟んで閉鎖するため、非常に確実性が高く、多くの場面で第一選択の治療法となります。
その他、食道静脈瘤の治療などで用いられる、特殊なゴムバンドで血管の根元を縛る方法(内視鏡的結紮術)もこの一種です。
熱的止血法
高周波電流やレーザー、アルゴンプラズマなどの熱エネルギーを利用して、出血している血管やその周辺の組織を焼灼し、タンパク質を熱凝固させることで血管を閉塞させる方法です。
じわじわとした広範囲の出血や、クリップがかかりにくいような平坦な病変からの出血に対して特に有効で、焼灼する深さや範囲を精密に制御し、不必要な組織損傷を避ける高度な技術が求められます。
主な熱的止血法
方法 | 原理 | 適した出血 |
---|---|---|
高周波凝固法 | プローブを接触させ、高周波電流で組織を焼灼・凝固させる | 露出血管、比較的小さな血管からの出血 |
アルゴンプラズマ凝固法 | アルゴンガスを介して非接触で高周波電流を流し、表層を焼灼する | 広範囲の毛細血管からの滲出性出血 |
局注法
内視鏡の先端から非常に細い針を出し、出血点の周囲の粘膜下に薬剤を注入する方法です。
注入する薬剤には、血管を強力に収縮させる作用のあるボスミン(エピネフリン)や、注入した液体の物理的な圧迫効果(タンポナーデ効果)で血流を減少させるための高張食塩水などがあります。
局注法単独で止血が完了することもありますが、多くはクリップ止血術や熱的止血法の前処置として、一時的に出血を制御し、安全かつ確実に主たる処置を行う目的で用います。
薬剤散布法
出血している病変の表面に対して、血液を凝固させる作用のあるトロンビンなどの薬剤や、粘膜を物理的に覆って保護する薬剤を、内視鏡の鉗子口を通して直接散布する方法です。
胃全体の広範囲にわたる、じわじわとした出血などに対して用いられることがあり、他の方法と比べて止血効果は穏やかですが、組織への侵襲が極めて少ないという利点があります。
機械的止血法の中心となるクリップ止血術
数ある止血法の中でも、クリップ止血術はその高い確実性と安全性から、消化管出血治療の基本となる手技として確立されています。多くの出血性病変に対して、まず初めに検討されるべき重要な治療法です。
内視鏡クリップとはどのような器具か
内視鏡クリップは、チタンなどの生体適合性の高い金属でできた、非常に小さな洗濯ばさみ、あるいはホチキスのような形状の医療器具です。
閉じた状態では数ミリ程度の大きさですが、専用の操作器具(デリバリーカテーテル)を使って内視鏡の鉗子口という細い管を通して消化管内へ送り込み、医師の手元のハンドル操作でクリップの腕を開いたり閉じたりすることができます。
クリップによる止血の仕組み
クリップ止血術の基本的な原理は、出血している血管やその周囲の粘膜組織をクリップの腕でしっかりと掴み、そのままクリップをその場に留置することで、血管を物理的に圧迫・閉鎖し、出血点への血流が機械的に遮断され、出血が止まります。
外科手術で出血血管を縫合糸で結紮するのと同じような効果を、開腹することなく、内視鏡を通して体の中から行うイメージです。
クリップの具体的な使用場面
クリップ止血術は非常に応用範囲が広く、上部消化管から下部消化管まで、様々な場面で活躍します。
クリップ止血術の主な適用対象
- 胃潰瘍や十二指腸潰瘍からの動脈性出血
- マロリー・ワイス症候群(激しい嘔吐による食道と胃の境界部の裂傷)
- 大腸憩室出血
- ポリープや早期がん切除後の出血(後出血)の予防と治療
特に、血管が破れて血液が噴出しているような、勢いの強い出血に対しても、正確に出血点を捉えてクリップをかけることができれば、劇的で非常に高い止血効果を発揮します。
クリップの種類と特徴
内視鏡クリップは、より安全で確実な止血を可能にするために、長年にわたり様々な改良が加えられた製品があります。クリップの腕が開く幅や長さ、組織を掴む力(把持力)、医師の操作性などが製品ごとに異なります。
一度開いたクリップを再度閉じたり、先端の向きを360度回転させたりできる機能を持つものもあり、病変の位置や角度、硬さなどに応じて医師が最も操作しやすいクリップを選択します。
クリップの機能による分類
機能 | 特徴 | 利点 |
---|---|---|
回転機能付きクリップ | 手元のハンドル操作でクリップの向きを自由に変えられる | 消化管の裏側など、狙いにくい角度の血管にもアプローチしやすい |
開閉機能付きクリップ | 一度組織を掴んだ後も、リリース前なら再度開いて掴み直せる | より正確な位置での把持が可能になり、手技の成功率を高める |
クリップ止血術の実際の手順
クリップ止血術は、内視鏡医の高度な技術と冷静な判断力、集中力を要する処置です。医師はモニターに映し出される鮮明な二次元の画像から、消化管内の三次元的な構造を頭の中で再構築し、ミリ単位の精密な操作を行います。
処置前の準備
まず、通常の内視鏡検査と同様に、消化管内を詳細に観察し、出血点を正確に特定します。血液や食物残渣などがあると視野が悪くなり、正確な処置ができないため、内視鏡の送水機能を使って水で洗浄しながら出血源を丁寧に探します。
出血が激しい場合は、局注法を用いて一時的に血流を弱め、良好な視野を確保することもあります。
クリップの装填と送達
使用するクリップを決定したら、クリップが先端に装填された専用のデリバリーカテーテルを、内視鏡の鉗子口と呼ばれる細い穴に挿入します。医師はカテーテルを慎重に進め、内視鏡の先端からクリップを消化管内に出します。
この一連の操作は、内視鏡室の看護師など、熟練したスタッフとの連携も重要です。
出血点へのアプローチと把持
ここが手技の中で最も重要で、技術を要する局面です。医師は内視鏡本体の角度や挿入深度、患者の体の向き(体位)を調整しながら、クリップの先端を出血している血管に正確に近づけます。
そして、手元のハンドルを操作してクリップを開き、出血点とその周囲の正常な粘膜を十分な深さで、しっかりと掴みます。
この時、血管だけを浅く掴むのではなく、ある程度の深さで周囲の組織ごと掴むことが、確実な止血と再出血予防に繋がります。
クリップの留置と止血確認
出血点を確実に把持できたことを確認したら、ハンドルをさらに操作してクリップを組織に留置します。カチッという感触とともにクリップがカテーテルから切り離され、組織を強く挟んだままの状態でその場に残ります。
その後、クリップの隙間や周囲から出血が完全に止まっていることを、内視鏡の角度を変えながら様々な方向から十分に確認し、処置を終了します。必要に応じて、複数のクリップを追加で使用することもあります。
クリップ留置の一連の操作
段階 | 医師の主な操作 | モニター上の確認事項 |
---|---|---|
アプローチ | 内視鏡の湾曲操作、体位変換 | 出血点とクリップ先端の最適な位置関係の確保 |
把持 | クリップの開閉、回転操作 | 出血点を中心に、周囲の健常粘膜を十分な深さで掴んでいるか |
留置 | クリップのリリース(切り離し)操作 | クリップが外れず、拍動や滲出などの出血が完全に停止しているか |
クリップ止血術の利点と注意点
クリップ止血術は非常に優れた治療法ですが、その利点を最大限に活かし、安全に行うためにはいくつかの特性や限界を理解しておくことも大切です。
高い止血効果と安全性
最大の利点は、その高い初期止血成功率です。出血している血管を直接、物理的に閉鎖するため、効果が確実で、再出血率も他の手技に比べて低いとされています。
また、熱を使わないため、周辺組織への意図しない熱損傷や、それに伴う穿孔(消化管に穴が開くこと)のリスクが低く、安全性が高い治療法です。特に、腸壁が薄い大腸などでの処置に安心して用いることができます。
組織への損傷が少ない
クリップは組織を掴んで圧迫するだけなので、熱的止血法のように組織を焼灼し、壊死させることがありません。
処置による組織の深い損傷が少なく、創傷治癒も比較的良好で、処置後の穿孔や、治癒過程での瘢痕形成による狭窄といった合併症のリスクを低く抑えることができます。
処置後のクリップの行方
消化管内に留置されたクリップは、医療用の異物ではありますが、体に害を及ぼすことはなく、クリップで挟まれた組織が治癒する過程で、自然にその役目を終えて脱落します。
通常は数日から数週間で外れ、便と一緒に体外へ排出されるため、後からクリップを回収するための特別な処置などは一切必要ありません。
クリップが適さない場合
非常に有効なクリップ止血術ですが、万能ではありません。
長期間にわたる潰瘍のため、底が硬い線維化組織で覆われている場合、クリップの腕が組織に食い込まず、十分に掴むことができずに滑ってしまい、うまくかからないことがあります。
また、広範囲にわたる毛細血管からのじわじわとした出血に対しては、一つ一つの出血点をクリップで止めるのは非効率的であり、熱的止血法などが選択されます。
クリップ止血術の利点と注意点の要約
側面 | 利点 | 注意点 |
---|---|---|
効果 | 直接圧迫するため初期止血効果が非常に高い | 硬い線維化組織にはかかりにくいことがある |
安全性 | 熱損傷がなく、穿孔リスクが低い | 内視鏡の向きによってはアプローチが困難な場合がある |
処置後 | クリップは自然に脱落・排出されるため回収不要 | ごく稀に脱落が遅れたり、予期せぬ場所に移動したりすることがある |
他の止血手技との比較
実際の臨床現場では、一つの手技に固執するのではなく、病変の状態を多角的に評価し、様々な手技の長所と短所を理解した上で、最も効果的で安全な方法を柔軟に使い分けたり、組み合わせたりすることが、最善の治療結果に繋がります。
クリップ止血術と熱的止血法の使い分け
一般的に、はっきりと目に見える血管からの出血、特に動脈性の拍動性出血や噴出性出血に対しては、機械的に血管を閉鎖できるクリップ止血術が第一選択です。
一方、胃の急性びらんなど、粘膜の広い範囲からじわじわと血液が滲み出しているような場合には、アルゴンプラズマ凝固法などの熱的止血法で表面を広く焼灼する方が効率的で有効になります。
局注法との併用
噴出するような激しい出血の場合、流れ出る血液で内視鏡のレンズが汚れ、視野が妨げられ、クリップで出血点を正確に狙うことが困難なことがあります。
このような状況では、まず出血点の周囲に生理食塩水や血管収縮薬を局注することで、一時的に出血の勢いが弱まり、視野が確保され、落ち着いてクリップ操作を行うことが可能になります。
局注法は、他の止血法の効果を最大限に引き出すための重要な補助手技としての役割を果たします。
複数の手技を組み合わせる重要性
より確実な止血のためには、複合的なアプローチが重要になる場面も少なくありません。
太い露出血管に対して、まず局注法で周囲の粘膜を持ち上げて血管を固定し、次に熱的止血法で血管の周囲を焼灼して血流を弱め、最後に中心部をクリップで確実に閉鎖するということもあります。
複数の手技を組み合わせることで、より強固な止血効果を得て、再出血のリスクを最小限に抑えることが可能です。
出血状況に応じた手技の選択例
出血の状況 | 第一選択となりうる手技 | 併用を検討する手技 |
---|---|---|
動脈性の拍動性出血 | クリップ止血術 | 局注法(視野確保のため) |
広範囲の滲出性出血 | 熱的止血法(APCなど) | 薬剤散布法 |
太い露出血管(非出血性) | クリップ止血術(予防的) | 熱的止血法、局注法 |
止血処置後の生活上の注意
内視鏡的止血術が無事に終了した後も、治療は終わりではありません。再出血を防ぎ、処置した部位の粘膜が順調に治癒するのを促すためには、いくつかの点に注意して生活することが大切です。
処置当日の過ごし方
処置当日は、何よりも安静が基本です。特に鎮静剤を使用した場合は、薬剤の影響で判断力や注意力が低下しているため、帰宅後も車の運転や危険な作業は絶対にできません。
激しい運動や飲酒、長時間の入浴(シャワー程度は可)も、血圧を変動させたり血流を良くしたりすることで再出血のリスクを高める可能性があるため、厳に控える必要があります。体を休めることに専念してください。
食事に関する注意点
処置後の食事は、治療した消化管の安静を保つために、段階的に慎重に進めます。通常、処置後数時間は絶食とし、その後、医師の許可が出たら水分から開始します。
問題がなければ、翌日からは消化の良いおかゆや、よく煮込んだうどん、豆腐、白身魚など、胃腸に負担のかからない柔らかく刺激の少ない食事を摂ります。
香辛料の多いもの、脂肪分の多いもの、アルコール、カフェインなどは、粘膜の治癒を妨げる可能性があるため、しばらくの間避けることが重要です。
処置後の食事の進め方の例
期間 | 推奨される食事 | 避けるべき食事 |
---|---|---|
処置当日 | 原則として絶食(医師の指示による) | 全ての食事・飲料 |
処置翌日~数日 | おかゆ、うどん、スープ、豆腐、白身魚の煮付けなど | 香辛料、脂肪、アルコール、コーヒー、炭酸飲料、硬いもの |
安定期以降 | 徐々に通常の食事へ移行(医師の確認後) | 暴飲暴食、極端に熱い・冷たいもの |
再出血の兆候と対処法
適切な止血処置を行っても、ごく稀に、一度止血した場所から再び出血(再出血)することがあります。
再出血を疑うサインを知っておき、もし該当する症状が現れた場合は、決して自己判断で様子を見たりせず、ためらわずに処置を受けた医療機関に速やかに連絡するか、夜間・休日の場合は救急外来を受診してください。
注意すべき再出血のサイン
- 真っ黒で粘り気のある便(タール便)が出る
- 新鮮な血が混じった便(血便)や、真っ赤な下血が出る
- コーヒーかすのようなもの、あるいは新鮮な血を吐く(吐血)
- 急な腹痛、冷や汗、めまい、意識が遠のくような感覚
薬の服用について
止血処置後は、出血の原因となった潰瘍などを治療するため、胃酸の分泌を強力に抑える薬(プロトンポンプ阻害薬など)や、粘膜を保護する薬が処方されることが一般的で、医師の指示通りに必ず服用してください。
また、普段から心臓病や脳梗塞の予防のために血液をサラサラにする薬(抗血栓薬)を服用している場合は、再開時期について必ず担当医の指示に従う必要があります。
自己判断で中止したり再開したりすることは、重大な事態を招く可能性があり、絶対に避けてください。
よくある質問
内視鏡的止血術やクリップに関して、多くの方が抱く疑問についてお答えします。
- クリップの処置は痛いですか
-
消化管の粘膜には、皮膚のような鋭い痛みを感じる神経(痛覚)がほとんど分布していないため、クリップで粘膜を掴んだり留置したりする際に、痛みを感じることは通常ありません。
検査や処置に伴ってお腹が張る感覚や、内視鏡が腸の曲がり角を通過する際の圧迫感を感じることはありますが、鎮静剤を使用することで、それらの苦痛も大幅に和らげることができます。
- 体内に残ったクリップは安全ですか
-
内視鏡治療で用いるクリップは、長期間体内に留置されることを想定して、チタンなどのアレルギー反応が極めて少なく、体液で錆びたり変質したりしない生体適合性の高い材質で作られているので、きわめて安全です。
最終的には自然に脱落して便と共に排出されるため、体内に残り続ける心配もありません。
- クリップはMRI検査に影響しますか
-
現在、日本の医療機関で内視鏡治療に一般的に使用されているチタン製のクリップは非磁性体(磁石にくっつかない性質)であるため、MRI検査を受けても全く問題ありません。
強力な磁場にさらされても、クリップが体内で動いたり、熱を持ったりすることはありませんし、画像の乱れもほとんど生じません。
ただし、医療の安全上、MRI検査を受ける際には、問診票に過去に消化管のクリップ治療を受けたことを申告するのが良いでしょう。
- 止血処置に入院は必要ですか
-
出血の程度や原因、患者の全身状態、そして処置後の再出血リスクを総合的に判断して決定します。
大腸ポリープ切除後の軽微な出血で、止血処置が速やかに完了し、全身状態が安定している場合は、外来での対応が可能なこともあります。
しかし、胃潰瘍からの動脈性出血など、再出血のリスクが高いと判断される場合は、処置後に絶食や点滴を行い、状態を慎重に観察するため、数日間の入院が必要となるのが一般的です。
以上
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