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消化器内視鏡検査の専門医による実施|安全で正確な検査のために

消化器内視鏡検査の専門医による実施|安全で正確な検査のために

胃の不快感や腹痛、便通の異常など、消化器の症状で悩んでいるとき、原因を調べるために消化器内視鏡検査を勧められることがありますが、内視鏡検査と聞くと、苦しい、痛いといったイメージから、不安を感じる方もいるでしょう。

消化器内視鏡検査は、食道や胃、大腸などの消化管内部を直接観察し、病気の早期発見に繋がる非常に重要な検査です。

そして、検査の質、つまり診断の正確性や安全性の高さは、誰が実施するかによって大きく左右されます。

この記事では、消化器内視鏡の専門医とはどのような医師なのか、そして専門医による検査がなぜ安全で正確な診断のために大切なのかを詳しく解説します。

目次

消化器内視鏡専門医とはどのような医師か

内視鏡検査を受ける上で最も重要な要素の一つが検査を担当する医師の技量で、消化器内視鏡専門医という資格は、医師が高いレベルの知識と技術を持っていることを客観的に示すものです。

日本消化器内視鏡学会が認定する資格

消化器内視鏡専門医は、日本消化器内視鏡学会が設けた厳しい基準をクリアした医師のみに与えられる認定資格です。資格を得るためには、まず内科や外科、消化器科などの基本領域の専門医資格を持っていることが前提となります。

その上で、学会が定めた研修施設で長期間にわたり消化器病学と内視鏡診療の研修を積む必要があります。そして、自らが術者として実施した上部・下部消化管内視鏡検査や治療の膨大な症例経験が求められます。

条件を満たした上で、試験に合格して、初めて専門医として認定されます。また、資格は5年ごとの更新制であり、常に新しい知識や技術を学び続けることが義務付けられています。

豊富な臨床経験と高度な技術

専門医は日常的に数多くの内視鏡検査を行っており、様々な症例を経験しています。豊富な経験により、スコープを苦痛少なく、かつスムーズに消化管の最深部まで到達させる高度な挿入技術を習得しています。

お腹の手術歴があって腸が癒着している方、腸が長い方、痛みに敏感な方など、難易度の高いケースでも柔軟に対応でき、また、正常な粘膜と微細な病変との違いを見分ける観察眼も養われています。

これは、ミリ単位の早期がんを発見する上で非常に重要な能力です。ただ検査を行うだけでなく、どのようにすれば患者さんの負担を軽減し、同時に見逃しのない正確な診断ができるかを常に考えて実践しています。

専門医の主な要件

項目内容なぜ重要か
学会の認定厳しい基準を満たし、5年ごとに更新が必要な資格知識と技術レベルの客観的な証明となる
症例経験多数の内視鏡検査・治療の執刀経験(難症例含む)多様な症例への対応力と技術の熟練度に繋がる
継続的な研鑽学会や研究会への参加、新しい知識・技術の習得常に質の高い医療を提供できる

合併症への的確な対応能力

内視鏡検査は比較的安全な検査ですが、ごくまれに出血や穿孔(消化管に穴が開くこと)といった合併症(偶発症)が起こる可能性があります。

専門医は万が一の事態に備え、迅速かつ的確に対応するための知識と技術、そして冷静な判断力を持っています。

検査中にポリープを切除した際に出血が起きた場合でも、クリップや薬剤注入など、その場で内視鏡を使って止血処置を行ええます。このような緊急時の対応能力の高さが、検査の安全性を大きく左右するのです。

専門医による内視鏡検査がもたらす大きなメリット

専門医に検査を任せることは、患者さんにとって多くのメリットがあります。単に漠然とした安心感だけでなく、検査の質そのものに関わる重要な利点です。

高い診断精度で見逃しを防ぐ

消化器のがんは、早期に発見できれば内視鏡治療で治癒できる可能性が高まります。

しかし、早期のがんの中には非常に小さかったり、粘膜のわずかな凹凸や色調の変化のみで、正常な粘膜と見分けがつきにくかったりするものも少なくありません。

専門医は、豊富な経験に裏打ちされた観察眼と、NBI(狭帯域光観察)やLCI(Linked Color Imaging)といった特殊な光を使った画像強調観察技術を駆使して、微細な病変を発見する能力に長けています。

見逃しが少ないということは、患者さんの将来の健康を守る上で何より大きなメリットです。

苦痛を最小限に抑える検査技術

特に大腸カメラに対して、痛みや苦しさを心配する方は多いでしょう。

専門医は腸管の解剖学的な構造を熟知しており、スコープに余計な力を加えず、お腹の中でループを作らないように、腸を伸ばさずたたむように挿入する技術(軸保持短縮法など)を持っています。

また、観察に必要な空気の量を最小限にしたり、空気の代わりに吸収の早い炭酸ガスを使用したりすることで、検査中や検査後のお腹の張りを大幅に軽減します。

さらに、鎮静剤(静脈内鎮静法)を使用する場合も、患者さん一人ひとりの年齢や体格、体質、既往歴に合わせて薬剤の種類と量を見極められます。

苦痛を軽減する専門医の技術

技術・工夫内容期待される効果
巧みなスコープ操作軸保持短縮法など、腸を伸ばさずたたむように挿入する挿入時の痛みやお腹の張りを軽減する
送気方法の工夫空気の代わりに吸収の早い二酸化炭素を使用する検査後のお腹の張りを速やかに解消する
適切な鎮静剤の使用患者個々に合わせた薬剤の種類と量を調整するうとうと眠っている間に苦痛なく検査を終える

安全性の確保と偶発症の低減

専門医は偶発症のリスクを熟知し、回避するための丁寧な操作を心がけていて、無理な操作をしないこと、危険な兆候を早期に察知することが偶発症の発生率を低くします。

また、検査前には患者さんの既往歴や服用中の薬などを詳細に確認し、リスクを評価します。鎮静剤を使用する際の呼吸や血圧の管理、持病のある方への配慮など、全身状態を考慮した安全管理にも精通しています。

診断から治療までの一貫した対応

検査中に治療が必要なポリープが見つかった場合、専門医であればその場で切除(内視鏡的ポリープ切除術)を行うことが可能です。

後日改めて治療のために入院するといった手間や身体的負担、経済的負担を省け、小さなポリープであれば、高周波電流を使わないコールドポリペクトミーという方法で、より安全に切除できます。

検査で見つける(診断)だけでなく、その場で治す(治療)までを一貫して行えることも、専門医の大きな強みです。

消化器内視鏡検査で発見できる主な病気

消化器内視鏡検査は、食道、胃、十二指腸、大腸といった消化管の粘膜を直接観察することで、様々な病気の診断に役立ちます。早期発見が治療の鍵を握る病気も少なくありません。

上部消化管(胃カメラ)で発見される病気

胃カメラ検査では、喉の違和感や胸やけ、胃の痛み、貧血などの原因を調べます。代表的な病気は、逆流性食道炎、食道がん、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、ヘリコバクター・ピロリ菌感染症、そして胃がんなどです。

その他、アニサキス症や食道・胃静脈瘤、悪性リンパ腫などの発見にも繋がります。特に、胃がんはピロリ菌感染との関連が深く、定期的な内視鏡検査による早期発見が非常に重要です。

主な上部消化管疾患

疾患名主な症状内視鏡での所見
逆流性食道炎胸やけ、呑酸(酸っぱいものがこみ上げる)食道粘膜のびらん、発赤
胃がん初期は無症状。進行すると腹痛、食欲不振粘膜の凹凸、色調変化、潰瘍形成
胃・十二指腸潰瘍みぞおちの痛み(特に空腹時や夜間)粘膜が深くえぐれた状態

下部消化管(大腸カメラ)で発見される病気

大腸カメラ検査は、便通異常(便秘、下痢)、血便、腹痛などの症状がある場合や、便潜血検査で陽性となった場合に行い、検査で発見される代表的な病気は、大腸ポリープと大腸がんです。

大腸がんの多くは、良性のポリープががん化することで発生するため、ポリープの段階で切除することが大腸がんの最も有効な予防法となります。

その他、潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患、大腸憩室症、虚血性大腸炎などの診断にも欠かせません。

主な下部消化管疾患

疾患名主な症状内視鏡での所見
大腸ポリープほとんど無症状粘膜から隆起するキノコ状の組織
大腸がん血便、便通異常、便が細くなるポリープ状、潰瘍形成、狭窄など多彩
潰瘍性大腸炎粘血便、下痢、腹痛直腸から連続するびまん性の発赤、びらん

質の高い内視鏡検査を提供できるクリニックの条件

消化器内視鏡専門医が在籍していることは、良いクリニックを選ぶ上での大前提です。それに加え、他にもいくつかのポイントを確認することで、より安心して質の高い検査を受けられます。

高性能な内視鏡システムの導入

内視鏡機器の性能は診断の精度を大きく左右します。ハイビジョン対応の高画質なスコープは、粘膜の細かな模様や色調の変化を鮮明に映し出し、微小な病変の発見に貢献します。

また、NBI(狭帯域光観察)やBLI、LCIといった特殊な光を照射する機能は、がん組織に特徴的な血管のパターンを強調表示させ、病変の発見率を向上させます。

拡大内視鏡機能があれば、病変を最大で100倍程度まで拡大して観察でき、より詳細な質的診断が可能です。

徹底された衛生管理(感染対策)

内視鏡は複数の患者さんに使用するため、徹底した洗浄・消毒が不可欠です。日本消化器内視鏡学会のガイドラインに沿って、検査ごとに専用の洗浄機を用いて高水準の消毒を行っているかどうかが重要です。

また、組織を採取する際に使用する生検鉗子などの処置具は、ディスポーザブル(使い捨て)製品を使用しているかどうかも、衛生管理レベルの指標となります。

鎮静剤使用時の安全管理体制

鎮静剤を用いた検査は非常に快適ですが、呼吸抑制や血圧低下といったリスクも伴います。

検査中は血圧、心電図、血中酸素飽和度などを常に監視する生体情報モニターを装着し、医師だけでなく看護師も患者さんの状態を常に見守っている体制が整っていることが大事です。

クリニック選びのチェックポイント

  • 消化器内視鏡専門医が常勤しているか
  • 高画質・特殊光観察機能付きの内視鏡を導入しているか
  • 学会のガイドラインに準拠した洗浄・消毒を行っているか
  • 鎮静剤使用時の安全管理体制(モニターなど)が整っているか

検査の準備からアフターフォローまでの流れ

内視鏡検査をスムーズに安全に受けるためには、患者さん自身の準備も大切です。一般的な検査の流れを知っておくことで、当日の不安を軽減できます。

検査前の診察とオリエンテーション

通常検査の前には一度診察を受け、検査の必要性や内容、合併症のリスクなどについて医師から詳しい説明を受けます。

この時に、現在服用中の薬(特に血液をサラサラにする薬である抗凝固薬や抗血小板薬)や、アレルギー歴、既往歴などを必ず申し出てください。

その後、看護師から食事制限の内容や下剤の飲み方など、具体的な準備について、生活スタイルなども考慮しながら説明があります。

検査前日の食事と下剤の服用

正確な観察のためには、消化管の中をきれいにしておく必要があります。大腸カメラの場合、検査前日はきのこ、海藻、種のある果物、こんにゃくなど、消化の悪いものを避け、おかゆやうどん、白身魚、豆腐などの消化の良い食事をとります。

夜には錠剤や液体タイプの下剤を服用し、検査当日の朝は、数時間かけて約1〜2リットルの液体状の腸管洗浄剤を飲んで、大腸内を完全に空にします。この前処置が検査の質を大きく左右するため、指示通りに行うことが重要です。

一般的な食事制限の例

検査の種類検査前日検査当日
胃カメラ夜9時頃までに消化の良い夕食を済ませる絶食(少量の水は可)
大腸カメラ1日を通して消化の良い検査食などをとる絶食(腸管洗浄剤と水・お茶は可)

検査当日の流れと所要時間

クリニックに来院後更衣室で検査着に着替え、鎮静剤を使用する場合は、血圧などを測定し点滴のルートを確保します。

検査室でベッドに横になり胃カメラの場合は喉の麻酔を行い、その後鎮静剤を注射すると、まもなく意識が遠のいていきます。

実際の検査時間は胃カメラで5〜10分程度、大腸カメラで15〜30分程度です。ポリープ切除などの処置を行えば、もう少し時間がかかります。

検査後の休憩と結果説明

検査終了後は鎮静剤の効果が完全に覚めるまで、リカバリールームなどで1時間ほど休みます。目が覚めた後、医師から内視鏡の画像を見ながら検査結果についての説明があります。

組織を採取した場合(生検)は、病理診断の結果が後日(約1〜2週間後)に出ますので、改めて結果を聞きに来院します。

鎮静剤を使用した当日は、終日、車やバイク、自転車の運転はできませんので、公共交通機関を利用するか、家族に送迎を頼むなどの準備が必要です。

よくある質問

消化器内視鏡検査に関して、多くの方が抱く疑問についてお答えします。

内視鏡検査は毎年受けた方が良いですか

受けるべき頻度は、個人の年齢やリスク要因によって異なります。

胃がんのリスクが高いピロリ菌感染者や、萎縮性胃炎が進行している方、大腸がんの家族歴がある方、多数のポリープを切除した方などは、1〜2年ごとの定期的な検査が推奨されます。

一度検査を受けて異常がなかった場合でも、年齢などを考慮し、医師が推奨する間隔(例:3〜5年)で継続して検査を受けることが、がんの早期発見には重要です。具体的な頻度については、検査後に医師と相談してください。

妊娠中や授乳中でも検査は受けられますか

妊娠中の内視鏡検査は胎児への影響を考慮し、緊急性が高い場合を除いては原則として行いません。特に、鎮静剤の使用は避けるべきです。

授乳中については使用する鎮静剤の種類によって、一定時間(例:12〜24時間)の授乳を控えることで検査が可能な場合が、母子の状態を最優先に考える必要があります。

いずれの場合も、まずはかかりつけの産婦人科医と、内視鏡検査を行う消化器内科医の両方に相談し、検査の必要性とリスクを慎重に判断することが大切です。

検査後、すぐに仕事に戻れますか

鎮静剤を使用せずに検査を受けた場合は、検査後の休憩も短時間で済み、体調に問題がなければ仕事に戻ることも可能です。

しかし、鎮静剤を使用した場合は、当日は終日、判断力や集中力が低下する可能性があるため、重要な判断を伴う仕事や、機械の操作、高所での作業などは避けてください。また、通り乗り物の運転は絶対にできません。

安全のためにも鎮静剤を使った検査の日は、一日休養をとることをお勧めします。

便潜血検査で陰性なら大腸カメラは不要ですか

便潜血検査は、消化管からの目に見えない微量の出血を検出する簡単な検査で、大腸がん検診として広く行われています。

進行がんでは陽性率が高いですが、早期がんやポリープ、特に出血しにくい平坦なタイプの病変では見逃されることがあり、便潜血検査が陰性であっても、大腸がんやポリープが絶対にないとは言い切れません。

大腸がんのリスクが高まる40歳を過ぎたら、一度は大腸カメラを受けることが大切です。

血縁者に大腸がんの方がいたり、腹痛・便通異常などの症状がある場合は、便潜血検査の結果にかかわらず、大腸カメラでの精密検査が必要です。

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この記事を書いた人

Dr.中村文保のアバター Dr.中村文保 医療法人社団心匡会 理事長

金沢消化器内科・内視鏡クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医
日本肝臓学会 肝臓専門医

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