大腸内視鏡検査に対して「痛い」「苦しい」というイメージをお持ちの方は少なくありませんが、鎮静剤の使用によって、苦痛は大幅に軽減することが可能です。
本記事では、鎮静剤がどのように作用して痛みを和らげるのか、メリットや注意点について詳しく解説します。初めての方も、過去に辛い思いをした方も安心して検査に臨めるよう、正しい知識を提供します。
大腸内視鏡検査における痛みの原因と鎮静剤の役割
検査の痛みは主に腸管の伸展や空気注入で生じますが、鎮静剤で体の緊張を解くことで痛みの限界値を上げられ、苦痛を最小限に抑え、スムーズに検査を終えることが可能です。
腸管の構造と痛みの発生メカニズム
大腸は全長約1.5メートルから2メートルほどの長さがあり、お腹の中で四角い枠を描くように配置されていて、さらに、S状結腸のように複雑に曲がりくねった部分もあります。
腸自体が固定されておらずブラブラと動きやすい箇所があるため、内視鏡スコープを挿入する際、カーブを通過するときに腸が外側へ引っ張られ、強い痛みを感じることがあります。
腸の粘膜自体には痛みを感じる神経はありませんが、腸を包んでいる膜や、腸を支えている腸間膜が引き伸ばされることに対しては敏感です。
皮膚をつねられた時の痛みとは異なり、お腹の奥が締め付けられるような重苦しい鈍痛として感じられることが多く、特にカーブのきつい箇所を通過する際に、その感覚は強まります。
また、過去に腹部の手術を受けた経験がある方は癒着が生じている場合があり、腸の動きが制限されているためスコープの通過に伴って周囲の組織が引っ張られ、鋭い痛みを感じる傾向が強いです。
さらに、観察のために腸内に空気を送り込みますが、これによりお腹が張り、圧迫感や不快感を覚えることもあり、お腹が張る感じも、検査中の苦痛の大きな要因の一つとなります。
鎮静剤が痛みを和らげる仕組み
鎮静剤は、痛みそのものを消す麻酔薬とは異なり、脳の中枢神経に働きかけて不安や緊張を和らげ、眠気やリラックスした状態を誘発する薬です。
緊張していると、体中の筋肉がこわばり、スコープの操作に対して無意識にお腹に力が入ってしまい、お腹に力が入ると腸の動きも硬くなり、スコープの挿入が困難になる悪循環が生じます。
鎮静剤を使用することで、全身の力が抜け、腸の緊張も解かれ、医師はスムーズにスコープを進めることができ、腸壁への物理的な刺激が減少します。
また、意識レベルが下がることで、痛みや不快感を記憶として残りにくくする健忘効果も期待できるため、検査が終わった後には「気づいたら終わっていた」と感じる方が多いです。
痛みの要因と鎮静剤の効果
| 要因 | 状態 | 鎮静剤の作用 |
|---|---|---|
| 腸管の伸展 | スコープ挿入時に腸が引き伸ばされる | 体の力を抜き、抵抗を減らすことで伸展刺激を緩和する |
| 精神的緊張 | 不安による筋肉の硬直と過敏性 | 抗不安作用によりリラックスさせ、痛みの感受性を下げる |
| 腹部の張り | 送気による腹部膨満感 | 意識レベルを下げ、不快感を感じにくくさせる |
痛みへの不安が体に及ぼす影響
「痛かったらどうしよう」といった強い不安や恐怖心は、交感神経を優位にし、痛みの感受性を高めてしまい、精神的なストレスは身体的な痛みを増幅させる要因です。
過度な緊張は、時に過換気症候群(過呼吸)を起こしたり、血圧の急上昇を招いたりすることもあり、検査の安全な進行を妨げる要因となり得ます。
このような心身の反応をコントロールするために、鎮静剤は非常に有効な手段です。薬の効果で「ぼーっとする」状態を作り、不安感を遠ざけ、リラックスした状態で検査を受け入れられます。
単なる快適さのためだけでなく、安全かつ迅速に検査を行うためにも重要で、リラックス状態を保つことで、生体反応が安定し、スムーズな処置ができます。
使用される鎮静剤の種類と特徴
患者さんの年齢や体格に合わせて医師が適切な薬剤を選択しますが、主に不安を取り除く薬と痛みを抑える薬を組み合わせて使用するのが一般的です。
ベンゾジアゼピン系鎮静剤の特徴
内視鏡検査で最も広く使用されているのが、ミダゾラムなどのベンゾジアゼピン系と呼ばれる薬剤で、優れた抗不安作用と鎮静作用を持ち、即効性があることが特徴です。
点滴から投与すると速やかに効果が現れ、数分以内に眠気を感じ始め、また、強力な健忘作用があり、薬が効いている間の出来事を記憶に残りにくくします。
また、拮抗薬(フルマゼニル)は、鎮静剤の効果を速やかに打ち消し、目を覚ますことができます。
万が一薬が効きすぎた場合や、検査後に早く意識を戻したい場合に、拮抗薬を使用することで安全に覚醒状態をコントロールできるため、非常に使い勝手の良い薬剤です。
- 即効性があり短時間で効果が現れる
- 不安を取り除きリラックスさせる
- 検査中の記憶が残りにくい
- 拮抗薬で効果を打ち消すことが可能
検査中に医師の指示に反応したり、会話ができたりする場合でも、検査後には内容を覚えていないことが多く、「苦痛を感じた記憶がない」という結果につながります。
鎮痛剤との併用による相乗効果
鎮静剤単独でもリラックス効果はありますが、痛みが予想される場合には、鎮痛剤(痛み止め)を併用することがあり、ペチジン塩酸塩などのオピオイド系鎮痛剤が代表的です。
鎮静剤が眠気とリラックスを担当するのに対し、鎮痛剤は脳の痛み受容体に働きかけ、直接的な痛みのブロックを担当します。特に、癒着が強くてスコープの挿入が難しいと予想される方や、痛みに敏感な方に有効です。
両者を併用することで、それぞれの薬の量を抑えつつ、高い鎮痛・鎮静効果を得ることが可能になり、副作用のリスクを低減しながら十分な効果を引き出せます。
意識下鎮静法と深鎮静の違い
鎮静には深度(深さ)のレベルがあり、意識下鎮静法とは、呼びかけには反応できるものの、うとうとしてリラックスしている状態(中等度鎮静)を指します。
完全に意識を失う全身麻酔とは異なり、自発呼吸は保たれ、医師が体位変換をお願いした際には協力できるレベルです。施設によっては、より深く眠った状態で行う場合もあります。
プロポフォールなどの薬剤を使用する場合、入眠作用が非常に強く、完全に眠っている間に検査が終わりますが、呼吸抑制のリスク管理がより厳重に求められるため、麻酔科医の管理下で行われます。
鎮静剤を使用するメリットと検査精度
鎮静剤の使用は患者様の苦痛軽減だけでなく、医師が詳細な観察を行える環境を作ることにもつながり、ポリープの見落としを防ぎ検査精度を向上させるメリットがあります。
身体的・精神的苦痛の劇的な緩和
最大のメリットは、やはり楽に検査が受けられるという点です。大腸内視鏡検査は、人によっては冷や汗が出るほどの痛みを伴うことがありますが、鎮静剤を使えば夢心地の中で進行します。
痛みや恥ずかしさを感じる時間が短縮され、精神的なトラウマを残さずに済みます。苦痛な記憶は次の受診を遠ざける最大の要因となるため、これを防ぐことは将来の健康を守ることにも直結します。
次回の検査に対するハードルが下がることは非常に重要で、定期的な受診へとつながり、大腸がんの早期発見や予防に繋がります。
スコープ挿入の円滑化と安全性の向上
患者様が痛みで体を動かしたり、お腹に力を入れてしまったりすると、スコープの操作は難しくなり、誤って腸壁を傷つけるリスク(穿孔など)がわずかながら上昇します。
鎮静剤によって患者様が静止し、腸の緊張が解けていれば、医師は無理な力を加えずにスコープを深部まで進めることができます。
スムーズな挿入は検査時間の短縮にもつながります。短時間で盲腸まで到達できれば、その分、抜きながら行う観察の時間に余裕を持たせることができ、より丁寧な観察が可能です。
鎮静剤使用の有無による比較
| 項目 | 鎮静剤あり | 鎮静剤なし |
|---|---|---|
| 痛みの感じ方 | ほとんど感じないか、軽度 | 個人差が大きく、強く感じる場合も |
| 検査中の記憶 | 曖昧、または覚えていない | 鮮明に覚えている |
| 検査の精度 | 医師が観察に集中しやすく高い | 体動があると観察が難航する可能性 |
微細な病変の発見率向上
検査の目的は、ポリープやがんを見つけることです。患者さんが苦痛を訴えている状況では、医師も「早く終わらせてあげたい」という心理が働き、観察が不十分になる可能性があります。
患者さんが安定していれば、ヒダの裏側や細かい粘膜の変化をじっくりと観察することに集中でき、十分な観察時間を確保することは、微細な病変の発見率を高めるために大切です。
腺腫発見率(ADR)という指標がありますが、鎮静剤を使用して丁寧に観察することで、発見率が向上するという報告もあり、鎮静剤は単なる痛み止めではなく、検査の質を担保するツールでもあります。
検査後の腹部膨満感を軽減する炭酸ガス(CO2)送気
内視鏡検査では、腸のヒダを広げて粘膜を観察するために、腸内に気体を送り込む送気が必要です。
従来の検査では空気(窒素が約8割)が使われていましたが、空気は腸内に吸収されにくいため、検査後にお腹の張りや痛みが長く残る原因となっていました。
鎮静剤を使用する施設では、近年、空気ではなく炭酸ガス(CO2)を送気するシステムが導入されていることが多くなっています。
CO2は空気の約200倍も早く腸壁から吸収され、最終的には呼吸とともに体外に排出されるため、検査が終わってリカバリールームで休んでいる間に、お腹の張りは劇的に改善します。
鎮静剤による苦痛軽減に加え、CO2送気による検査後の不快感軽減を組み合わせることで、「本当に楽だった」と感じる検査が実現します。受診する医療機関がCO2送気に対応しているか確認してみると良いでしょう。
鎮静剤使用に伴うデメリットと注意点
検査後の休息時間確保や当日の運転禁止といった制限が伴います。また、ごく稀に呼吸抑制などの副作用が生じる可能性もあるため、メリットだけでなくリスクも含めた事前の理解が大切です。
検査後の休息時間と帰宅の制限
鎮静剤を使用した場合、検査終了後すぐに帰宅することはできません。薬の効果が完全に切れるまで、院内のリカバリールーム(回復室)で1時間から2時間程度休みます。
目が覚めたと思っていても、判断力や運動能力が低下しているため、転倒のリスクがあり、トイレに行きたくなった場合も、無理に一人で立たず、ナースコールで看護師を呼ぶなどの対応が必要です。
検査当日は時間に十分な余裕を持ってスケジュールを組むので、仕事の合間に短時間で済ませたい、といった要望には応えられないケースがほとんどです。
- 検査終了後1〜2時間の院内休息が必要
- 当日は車・バイク・自転車の運転が不可
- 帰宅時は家族の付き添いが望ましい
- 当日は重要な決断や契約を避ける
当日の自動車・自転車運転の禁止
最も注意すべき点は、検査当日は終日、車、バイク、自転車の運転が法律的にも医学的にも禁止されることです。鎮静剤の影響は見た目以上に長く残り、反射神経や瞬時の判断力を鈍らせます。
薬の成分が体内で代謝され、完全に影響がなくなるまでには時間がかかり、ご自身の感覚では「もう大丈夫」と思っていても、とっさの時の反応速度が遅れることが証明されています。
公共交通機関を利用するか、ご家族による送迎を手配することが大切です。
偶発症リスクとモニタリングの重要性
薬剤に対する反応には個人差があります。稀ではありますが、鎮静剤が効きすぎて呼吸が浅くなったり、血圧が下がったりすることがあり、特に高齢の方や基礎疾患をお持ちの方は注意が必要です。
医療機関では常に生体モニター(血圧計やパルスオキシメーター)を装着し、医師や看護師が全身状態を監視し、酸素飽和度の数値はリアルタイムで確認されています。
もし呼吸が弱くなった場合は、速やかに酸素投与を行ったり、鎮静剤の効果を打ち消す拮抗薬を使用したりして対応します。重篤な事態になることは極めて稀ですが、リスク管理は徹底されています。
検査後の食事と生活の注意点
リカバリールームで十分に覚醒した後、帰宅となりますが、帰宅後も鎮静剤の影響はわずかに残っています。
食事・水分摂取
検査後はまず水分補給から始めましょう。食事は、意識がはっきりしていることを確認してから、消化の良いもの(おかゆ、うどんなど)を少量ずつ摂取してください。
ポリープ切除をした場合は、腸壁の傷を保護するため、当日は刺激物(香辛料、カフェイン、アルコール)や、消化に時間のかかるもの(脂っこいもの、食物繊維の多いもの)は控える必要があります。飲酒は原則、翌日まで厳禁です。
激しい運動と入浴
当日の激しい運動や重労働は避けて、安静に過ごしてください。入浴についても、ポリープ切除がなければシャワー程度は可能ですが、湯船に長時間浸かることや、長時間のサウナ利用は血圧変動を招く可能性があるため控えましょう。
切除を伴う場合は、感染予防のために入浴が制限されることが多いため、必ず医師の指示に従ってください。
鎮静剤の使用が推奨される人の特徴
過去の検査で辛い思いをした方、腹部の手術歴があり癒着が疑われる方、あるいは痩せ型の女性などは痛みが強くなりやすいため、鎮静剤の使用が推奨されます。
過去に痛みを経験した方と癒着の可能性
以前に大腸内視鏡検査を受けて「二度と受けたくない」と思うほどの痛みを経験された方は、迷わず鎮静剤の使用を相談してください。
痛みの原因が腸の形状や癒着にある場合があり、帝王切開や子宮筋腫、子宮内膜症、盲腸、大腸の手術など、開腹手術の経験がある方は、腸が腹壁や他の臓器と癒着している可能性が高くなります。
癒着があると腸管が伸びにくく、スコープの動きに合わせて腸が無理に引っ張られる形になるため、強い痛みが生じやすくなり、物理的な要因による痛みは、我慢で解決できるものではありません。
鎮静剤が適しているタイプ
| 特徴 | 理由 | 推奨度 |
|---|---|---|
| 開腹手術の経験者 | 腸の癒着によりスコープ通過時に痛みが伴いやすい | 高 |
| 痩せ型の女性 | 腸が長く曲がりくねりやすく、刺激に敏感 | 高 |
| 極度の怖がり・不安 | 緊張による腹圧上昇で挿入が困難になる | 中〜高 |
体型や性別による痛みの感じやすさ
一般的に、男性よりも女性の方が痛みを感じやすい傾向にあります。これは、女性の骨盤が広く、その中に子宮や卵巣があるため、S状結腸が長く複雑に曲がりくねっているケースが多いからです。
また、痩せ型の方は、お腹の脂肪が少なく、スコープの動きがダイレクトに腹膜に伝わりやすいため、痛みを感じやすいと言われていて、内臓脂肪が多い方は腸が固定されやすい傾向があります。
過敏性腸症候群(IBS)の方も、腸が刺激に対して敏感になっているため、通常よりも痛みや腹部の不快感を強く感じます。こうした体質的な要因をお持ちの方にも、鎮静剤は大きな助けです。
初めての検査で不安が強い方
初めての大腸内視鏡検査は、誰でも緊張するものです。「お尻からカメラを入れる」という行為自体への抵抗感や恥ずかしさも、筋肉を硬直させる原因となります。
強い不安は痛みの閾値を下げ、普段なら我慢できる程度の違和感でも、鋭い痛みとして感じ取ってしまいます。リラックスして検査を受けることは、安全な検査遂行のためにも非常に重要です。
お酒に強い方は鎮静剤が効きにくいと言われることがありますが、事前に医師に伝えておくことで、薬の量を調整するなどの対応ができます。
鎮静剤を使用しないという選択肢
検査中の映像をリアルタイムに確認でき、終了後すぐに日常生活に戻れる利点があるため、痛みに強く多忙な方や、自分の腸の状態をしっかり見たい方には適しています。
検査画面を医師と共有できるメリット
鎮静剤を使わない最大のメリットは、意識がはっきりしているため、モニター画面を医師と一緒に見ながら検査を受けられる点です。自分の腸の中がどうなっているのかを、その場で確認できます。
「ここがポリープですよ」「ここはきれいですね」といった医師の説明をリアルタイムで聞くことで、自分の健康状態に対する理解が深まり、大きな安心感につながります。
- 検査直後から仕事や家事が可能
- 自分の目で腸内をリアルタイム観察できる
- 車での来院・帰宅が可能
- 滞在時間が短く済む
自分の体への関心が高い方や、医師と会話しながら検査を進めたい方にとっては、非常に納得感の高い検査で、また、検査中の体位変換の指示にもスムーズに従えます。
時間の節約と即時の社会復帰
鎮静剤を使用しなければ、検査後のリカバリールームでの休息時間は不要で、着替えを済ませれば、すぐに会計をして帰宅でき、ご自身で車を運転して帰ることも可能です。
仕事が忙しく半日しか休みが取れない方や、検査後に重要な予定が入っている方、あるいはどうしても車で来院しなければならない事情がある方にとっては、鎮静剤なしの検査が唯一の選択肢となることもあります。
痛みの感じ方には個人差がある
すべての人に鎮静剤が必要なわけではなく、腸の形が素直で短く、癒着もない方であれば、ほとんど痛みを感じずに終了することも珍しくありません。
「思ったよりも全然痛くなかった」という感想を持たれる方も多くいらっしゃいます。ご自身の過去の経験や、痛みの許容度を考慮して決定することが大切です。
医師と相談し、まずは鎮静剤なしでトライして、もし痛みが強ければ途中から鎮静剤を追加できるかなどを確認しておくと、心の余裕につながります。
非鎮静時の痛みを抑える技術
鎮静剤を使用しない場合でも、内視鏡医の技術によって痛みの程度は大きく変わり、熟練した医師は、無送気軸保持短縮法と呼ばれる特殊な技術を用います。
闇雲に空気を入れて腸を膨らませるのではなく、腸管内のシワやヒダの構造を活かして、スコープの先端を引っかけるようにして少しずつ腸を折りたたむように進める方法です。
この技術により、スコープが腸を引っ張る現象(ルーピング)を最小限に抑え、患者様に痛みを与えずに盲腸まで挿入することが可能になります。
鎮静剤を使用する場合の当日の流れ
着替えや点滴の確保といった事前準備から始まり、検査中のモニタリング、そして検査後の十分な休息と覚醒確認を経て帰宅するまで、安全管理が徹底された流れで進行します。
検査前の準備と点滴の確保
鎮静剤を使用する場合、静脈から薬を投与するためのルート(血管確保)が必要です。腕の血管に点滴の針を刺し、そこから検査開始直前に鎮静剤を注入できるように準備します。
この時点で、血圧測定などのバイタルチェックも行い、当日の体調に問題がないかを確認し、体調不良がある場合は、鎮静剤の使用を見合わせることもあります。
腸管洗浄液(下剤)を飲んで腸をきれいにする工程は、鎮静剤の有無にかかわらず共通ですが、鎮静剤を使用する方は、検査後のふらつきなどを考慮して、貴重品の管理や付き添いの方への連絡などを事前に済ませておくことが大切です
検査室での投与と検査中の管理
検査室に入り、検査台に横になると、指に酸素飽和度を測るモニターを装着し、医師の合図とともに点滴ルートから鎮静剤が投与されます。数十秒から数分で体が温かくなり、眠気が襲ってきます。
「名前を呼ばれたら答えてくださいね」と言われても、答えるのが億劫になるような感覚です。薬の量は、患者さんの反応を見ながら慎重に調整されます。
当日のタイムライン例
| 段階 | 所要時間 | 内容 |
|---|---|---|
| 前処置・点滴 | 検査前 | 点滴ルート確保、バイタルチェック |
| 検査本番 | 約15〜30分 | 鎮静剤投与、内視鏡観察、治療 |
| 安静・休息 | 約60〜90分 | リカバリールームでの睡眠、覚醒確認 |
検査中は医師と看護師が常に患者様の呼吸状態や顔色を確認しており、痛がる素振りがあれば、鎮静剤を追加したり、スコープの操作を緩めたりして調整します。
リカバリールームでの覚醒と説明
検査が終了しても、すぐに起き上がって歩くことは危険です。ストレッチャーに乗ったまま、あるいは車椅子でリカバリールームへ移動し、そこで約1時間ほど休み、薬の効果が薄れるのを待ちます。
看護師が定期的に様子を見に来て、血圧や意識状態を確認します。十分に目が覚め、ふらつきなく歩けることが確認できてから、医師による検査結果の説明があります。
鎮静剤の影響で説明内容を忘れてしまうことがあるため、重要な結果については文書をもらうか、付き添いのご家族と一緒に聞くことが推奨されます。帰宅後も当日は激しい運動を避け、自宅でゆっくり過ごしてください。
Q&A
鎮静剤に関する患者様の疑問は多く、意識の状態や途中覚醒、副作用についての懸念が中心です。ここでは代表的な疑問に対し、分かりやすく回答します。
- 完全に眠ってしまっても大丈夫ですか?
-
多くの場合、完全に意識を失うわけではなく、うとうとした状態(意識下鎮静)を目指しますが、薬の効きやすさには個人差があるため、結果的にぐっすり眠ってしまう方もいらっしゃいます。
医療機関では心拍数や酸素濃度を常にモニターしており、医師や看護師がそばについていますので、眠ってしまっても安全性に問題はありません。
- 検査の途中で目が覚めることはありますか?
-
鎮静剤の量は安全性を考慮して調整されるため、検査の途中でふと目が覚めたり、痛みや違和感を感じたりすることはあり得ますが、その場合でも完全に覚醒するのではなく、夢現のような状態であることが多いです。
もし痛みを感じた場合は、医師が薬を追加投与するなどの対応を行いますので、知らせてください。
- 点滴の注射自体は痛いですか?
-
鎮静剤を投与するための血管確保(点滴の針を刺すこと)は、通常の採血や点滴と同じ程度のチクリとする痛みがあります。
鎮静剤そのものが血管に入るときに、血管痛(少ししみるような痛み)を感じる薬剤もありますが、一過性のものですぐに治まります。内視鏡自体の痛みに比べれば、はるかに軽微なものです。
- 鎮静剤を使った後、食事はすぐにできますか?
-
検査終了後、しっかりと意識が戻り、むせ込みなどがなければ食事は可能です。ただし、鎮静剤の影響で消化管の動きが一時的に鈍くなっている可能性があるため、急いで食べることは避けてください。
消化の良いものから少しずつ摂取することをお勧めします。ポリープ切除などを行った場合は、食事内容に数日間の制限(刺激物や脂っこいものを控えるなど)がかかることがありますので、医師の指示に従ってください。
以上
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