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小腸のポリープと潰瘍 – 症状と内視鏡検査による発見

小腸のポリープと潰瘍 - 症状と内視鏡検査による発見

小腸は全長6メートルから7メートルにも及ぶ非常に長い消化管であり、栄養吸収の要となる重要な臓器ですが、長さと複雑な配置ゆえに、従来の胃カメラや大腸カメラでは観察が困難な領域とされてきました。

近年、カプセル内視鏡やバルーン内視鏡といった技術の進歩により、小腸の病変を詳細に観察し、治療することができるようになっています。

本記事では、小腸に発生するポリープや潰瘍の特徴、現れる症状、内視鏡検査による発見と診断について詳しく解説します。

目次

小腸という臓器の特殊性と診断の難しさ

小腸は消化管の中で最も長く、栄養吸収の中心的な役割を果たします。従来の検査では到達が困難でしたが、近年の技術革新により詳細な観察が可能となり、疾患の見落としを防ぐ体制が整いつつあります。

栄養吸収を担う長い消化管の構造

口から摂取した食物は、胃で消化された後、小腸へと送られます。小腸は十二指腸、空腸、回腸の3つの部分で構成されており、成人の場合、全長は6メートルから7メートルです。

この長い管の中で、食物は消化酵素によって分解され、体に必要な栄養素が効率よく吸収されます。内壁には無数の絨毛(じゅうもう)と呼ばれる突起があり、表面積を広げることで吸収効率を高めています。

十二指腸は胃のすぐ出口に位置し、胆汁や膵液と混ざり合う場所です。空腸は小腸の前半部分を占め、活発に栄養吸収を行います。

小腸の部位と主な役割

部位主な特徴役割
十二指腸胃に続くC字型の管消化液との混合、鉄やカルシウムの吸収
空腸小腸の前半約40%糖質、アミノ酸、脂肪酸の主要な吸収
回腸小腸の後半約60%ビタミンB12、胆汁酸の吸収、免疫機能

部位ごとに機能が分担されているため、病変が発生した場所によって、現れる症状や栄養障害の種類が異なる場合があります。

かつて「暗黒の臓器」と呼ばれた理由

消化器内科の分野において、長い間、小腸は「暗黒の臓器」と呼ばれてきて、これは、病気がないという意味ではなく、検査機器が届かないために病変を見つけることが極めて難しかったことを意味します。

口から挿入する上部消化管内視鏡(胃カメラ)は十二指腸までしか届かず、肛門から挿入する下部消化管内視鏡(大腸カメラ)は、回腸の末端の一部までしか観察できませんでした。

そのため、小腸の中間部分にある空腸や回腸の大部分は、直接カメラで観察することができず、造影剤を用いたX線検査に頼らざるを得ませんでした。

しかし、X線検査だけでは平坦な病変や小さなポリープ、浅い潰瘍を見つけることは難しく、確定診断に至らないケースが多くあり、この診断の難しさが、治療の遅れや患者さんの不安を招く大きな要因となっていたのです。

技術革新による可視化の実現

21世紀に入り、小腸の診断技術は劇的な変化を遂げ、立役者となったのがカプセル内視鏡とバルーン内視鏡で、これまで到達不可能だった小腸の全域を観察することが可能になりました。

この技術革新は、原因不明とされていた消化管出血(OGIB)の多くが小腸由来であることを明らかにし、多くの患者さんを救う手立てとなりました。

現在では、検査機器を適切に使い分けることで、小腸疾患の早期発見、確定診断、そして内視鏡的治療までをスムーズに行う診療体制が構築されています。

小腸ポリープの種類とリスク評価

小腸ポリープには良性と悪性の両方があり、性質を見極めることは治療方針の決定に不可欠です。遺伝性の疾患や癌化のリスクを考慮し、専門的な検査で正確に診断する必要があります。

良性ポリープと悪性ポリープの違い

小腸に発生する隆起性病変を総称してポリープと呼びますが、性質は様々で、大きく分けて、腫瘍性ポリープと非腫瘍性ポリープに分類されます。

主な小腸ポリープの分類

分類ポリープの種類特徴とリスク
腫瘍性腺腫前癌病変であり、癌化する可能性がある
腫瘍性小腸癌悪性腫瘍。早期発見と外科的切除が必要
非腫瘍性過誤腫組織の異常配列。ポイツ・イェーガース症候群など

腫瘍性ポリープには、良性の腺腫と、悪性の癌(小腸癌)が含まれ、腺腫は現時点では良性であっても、時間の経過とともに癌化するリスクを持っているため、大きさや形状によっては切除が必要です。

一方、非腫瘍性ポリープには、炎症性ポリープや過誤腫性ポリープなどがあります。

これらは基本的には癌化のリスクは低いと考えられていますが、出血の原因になったり、腸重積(ちょうじゅうせき)という腸が入り込む状態を起こしたりすることがあるため、放置してよいわけではありません。

ポリープが見つかった場合は、表面構造や色調を内視鏡で詳細に観察し、必要に応じて組織を採取(生検)して病理診断を行うことが大切です。

遺伝性疾患に伴うポリープの注意点

小腸ポリープの中には、遺伝的な要因で多数発生するものがあり、代表的なものが、家族性大腸腺腫症(FAP)やポイツ・イェーガース症候群です。

家族性大腸腺腫症は、大腸に無数のポリープができる病気として知られていますが、十二指腸や小腸にもポリープができやすく、癌化のリスクが高いことが分かってるので、大腸だけでなく、定期的な胃カメラや小腸の検査を受ける必要があります。

ポイツ・イェーガース症候群は、口唇や手足に色素斑(しみ)が見られ、消化管全体に過誤腫性ポリープができる病気で、ポリープが巨大化しやすく、腸閉塞や腸重積を起こす原因となります。

遺伝性の疾患が疑われる場合は、患者さんご本人だけでなく、ご家族も含めた遺伝カウンセリングや検診体制を整えることが、将来の健康を守るために重要です。

悪性リンパ腫やGISTとの鑑別

小腸には、一般的なポリープや癌以外にも、粘膜下腫瘍という形態をとる病変が発生し、代表がGIST(消化管間質腫瘍)や悪性リンパ腫です。

GISTは粘膜の下にある筋肉の層などから発生する腫瘍で、表面は正常な粘膜に覆われていることが多く、単なるポリープと見分けにくいことがありますが、出血や痛みの原因となり、悪性度によっては転移することもあります。

悪性リンパ腫は血液の癌の一種で、小腸に病変を作ることがよくあり、びらんや潰瘍、腫瘤など多様な形態をとるため、内視鏡による観察眼が問われます。

このような疾患は、通常のポリープ切除術(ポリペクトミー)では対応できず、外科手術や化学療法が必要になることが多いため、最初の内視鏡検査で正確に鑑別し、適切な治療法へつなげることが極めて大事です。

小腸潰瘍の原因と薬の影響

小腸潰瘍の多くは、鎮痛剤の副作用や特定の炎症性疾患によって起こされます。原因物質の特定や基礎疾患の管理が治療の鍵となるため、服用薬の確認や全身症状の観察が重要です。

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)による粘膜障害

近年、小腸潰瘍の原因として最も注目されているのが、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)です。一般的に痛み止めや解熱剤として広く処方されている薬剤で、アスピリン、ロキソプロフェン、ジクロフェナクなどが含まれます。

NSAIDs潰瘍になりやすい薬剤の例

  • 低用量アスピリン(血液をサラサラにする薬として使用)
  • ロキソプロフェンナトリウム(一般的な鎮痛剤)
  • ジクロフェナクナトリウム(強力な鎮痛剤)
  • イブプロフェン(市販の風邪薬や鎮痛剤に含まれる)

腰痛や関節痛、頭痛などでこれらの薬を長期にわたって服用している方の中に、小腸に多発性の潰瘍やびらんが見つかるケースが増えています。

NSAIDsはプロスタグランジンという物質の産生を抑えることで痛みを和らげますが、プロスタグランジンには胃腸の粘膜を守る働きもあります。

防御機能が低下することで、消化液や細菌の影響を受けやすくなり、粘膜が傷ついて潰瘍が形成されます。原因不明の貧血がある場合、実は痛み止めによる小腸潰瘍が出血源だったという事例は珍しくありません。

クローン病に見られる特有の潰瘍

若年者に多い炎症性腸疾患であるクローン病も、小腸潰瘍の主要な原因の一つです。クローン病は口から肛門までのあらゆる消化管に炎症を起こす可能性がありますが、特に小腸(回腸末端)と大腸に好発します。

小腸にできる潰瘍は、縦方向に走る長い潰瘍(縦走潰瘍)や、敷石を敷き詰めたような外観(敷石像)を呈するのが特徴です。

クローン病による潰瘍は深く掘れ込むことが多く、進行すると腸に穴が開いたり(穿孔)、腸同士が癒着したり、狭くなったり(狭窄)する合併症を起こします。

早期に発見し、免疫を調節する薬剤などで炎症をコントロールすることで、腸の変形を防ぎ、生活の質を維持することが可能です。腹痛や下痢、体重減少が続く場合は、クローン病を疑って小腸の検査を行う必要があります。

ベーチェット病や感染症による病変

その他にも、小腸潰瘍を引き起こす病気はいくつかあります。

ベーチェット病は全身の炎症性疾患で、回腸末端に深くえぐれたような大きな潰瘍を作ることがあり、これを腸管ベーチェット病と呼び、突然の下血や激しい腹痛で発症することがあります。

また、稀ではありますが、腸結核やサイトメガロウイルス感染症などの感染症も小腸に潰瘍を形成します。診断には、内視鏡で潰瘍の形を見るだけでなく、組織を採取して菌を培養したり、特定の遺伝子を検出したりする検査が必要です。

原因によって治療法は全く異なるため(抗結核薬、抗ウイルス薬、免疫抑制薬など)、正確な鑑別診断を行うことが治療成功への第一歩です。

自覚症状と発見のきっかけ

初期段階では無症状のことも多いですが、進行すると腹痛や出血などのサインが現れます。特に黒色便や原因不明の貧血は小腸病変の重要な警告信号であり、早急な医療機関の受診が必要です。

腹痛や腹部不快感の特徴

小腸の病気による腹痛は、へその周り(臍周囲)や下腹部に感じることが多いですが、痛みの場所がはっきりしないこともよくあります。

ポリープが大きくなって腸の流れを妨げたり、潰瘍による炎症が強くなったりすると、食事の後にシクシクとした痛みを感じたり、お腹が張るような不快感(膨満感)を覚えたりします。

症状と疑われる病態の関連

症状考えられる病態緊急度
へそ周りの鈍痛軽度の炎症、小さな潰瘍
食後の腹部膨満感狭窄(腸が狭くなる)、通過障害中~高
激しい周期的な痛み腸閉塞、腸重積高(至急受診)

特に注意が必要なのは、間欠的な激しい痛み(疝痛)です。これは、腸が詰まりかけている通過障害や、ポリープが腸を巻き込んで重なる腸重積の可能性があります。

腸重積は小児に多い病気ですが、成人の場合は小腸ポリープや腫瘍が先進部となって起こされることがほとんどで、繰り返す腹痛を「ただの胃腸炎」と片付けず、詳しく調べることが大切です。

見逃してはいけない貧血と下血

小腸からの出血は、発見の重要なきっかけとなります。

しかし、出血量が少ない場合は目に見える血便として現れず、健康診断の便潜血検査や血液検査での貧血(ヘモグロビン値の低下)として初めて指摘されることが多いです。

胃カメラと大腸カメラを行っても出血源が見つからない場合、原因不明の消化管出血(OGIB)と呼び、小腸に出血源がある可能性が非常に高くなります。

一方、ある程度の出血量がある場合は、タール便(黒色便)が見られ、これは、血液が長い小腸や大腸を通過する間に消化液によって変色し、黒くなるためです。

真っ赤な鮮血が出る場合は大腸や肛門からの出血が多いですが、大量に出血した場合は小腸からでも赤っぽい便が出ることがあります。

腸閉塞や腸重積による緊急発症

ポリープや腫瘍が大きくなると、腸の内腔を塞いでしまい、腸閉塞を起こすことがあり、食べたものやガスが通過できなくなるため、激しい腹痛、嘔吐、お腹の張りが出現し、排便や排ガスが止まります。これは緊急の治療を要する状態です。

また、腸重積も緊急性の高い状態で、腸が腸の中に望遠鏡のように入り込んでしまうと、血流が途絶えて腸が壊死(えし)してしまう危険があります。

このような状態で見つかる場合、すでに病変がかなり進行していることが多いため、激しい症状が出る前の、軽い症状や貧血の段階で検査を受けることが大切です。

カプセル内視鏡検査によるスクリーニング

カプセル内視鏡は、負担の少ない画期的な検査法として普及していて、飲み込むだけで小腸全体を撮影できるため、病変の有無を調べる一次検査として非常に有用です。

カプセル内視鏡の仕組みと流れ

カプセル内視鏡は、ビタミン剤のような大きさ(長さ約26mm、直径約11mm)の超小型カメラで、カプセルを少量の水と一緒に飲み込むだけで検査が始まります。

カプセルは胃や腸の蠕動(ぜんどう)運動に乗って消化管内を自然に進みながら、1秒間に数枚のペースで写真を撮影し続けます。撮影された画像は、お腹に貼ったセンサーを通じて、腰に装着したレコーダーに転送・保存されます。

検査中は、激しい運動を除けば普段通りの生活を送ることができ、数時間後にカプセルが排出されるまで撮影は続き、後日、医師が専用のワークステーションで数万枚の画像を解析し、診断を行います。

カプセル自体は使い捨てであり、排便とともに自然に体外へ排出されるため、回収の必要はありません。

カプセル内視鏡と従来検査の比較

項目カプセル内視鏡バルーン内視鏡
身体的苦痛ほとんどなし鎮静剤が必要
検査範囲小腸全体を観察可能挿入深度に限界がある場合も
処置・生検観察のみ(不可)可能(組織採取・止血)

患者さんにとってのメリット

最大のメリットは、苦痛が圧倒的に少ないことです。管(スコープ)を挿入する必要がないため、嘔吐反射やお腹の張り、痛みを感じることがありません。

麻酔(鎮静剤)を使う必要もないため、検査後に車を運転して帰宅することも可能で、お仕事への影響も最小限に抑えられます。また、放射線被曝の心配がないため、妊娠中の方(条件によります)や若年の方でも安心して受けることができます。

何より、これまで見ることができなかった小腸の全貌を、鮮明なカラー画像で確認できることは、診断の精度向上に大きく貢献しています。

検査の限界と注意点

非常に優れた検査ですが、弱点もあります。まず、カプセル内視鏡には治療機能がありません。

病変を見つけても、組織を採ったり、ポリープを切除したりすることはできず、もし異常が見つかった場合は、バルーン内視鏡などで改めて治療を行う必要があります。

また、最も注意すべき合併症に滞留があり、大きなポリープや潰瘍による狭窄(狭くなっている部分)がある場合、カプセルがそこで詰まってしまうリスクがあります。詰まってしまった場合は、内視鏡や手術で取り出すことが必要です。

そのため、腸閉塞の疑いがある方や、以前に開腹手術を受けて癒着の可能性がある方には、事前に通過性を確認する別のカプセル(パテンシーカプセル)を使用することが推奨されます。

バルーン内視鏡による精密検査と治療

異常が疑われた場合、バルーン内視鏡を用いて確定診断と治療を行います。特殊な風船を活用して小腸深部まで到達し、組織検査や止血、ポリープ切除などの処置をその場で実施することが可能です。

ダブルバルーンとシングルバルーンの技術

バルーン内視鏡は、長いスコープの先端や、スコープを通すオーバーチューブの先端に、専用の風船(バルーン)が付いた特殊な内視鏡です。

風船を膨らませて腸管に固定し、尺取り虫のように腸を手繰り寄せながら進むことで、非常に長い小腸の奥深くまでスコープを挿入することを可能にしました。

バルーンが2つあるダブルバルーン内視鏡と、1つのシングルバルーン内視鏡がありますが、基本的な原理は似ています。腸を畳み込みながら進むため、患者さんのお腹への負担を軽減しつつ、確実な操作が可能です。

口から挿入する経口法と、肛門から挿入する経肛門法があり、病変が小腸のどのあたりにあると予測されるかによって、アプローチを選択します。

バルーン内視鏡で可能な処置一覧

  • 生検(組織を採取して病理診断を行う)
  • 止血術(クリップや電気凝固で出血を止める)
  • ポリペクトミー(ポリープを電気メスで切除する)
  • バルーン拡張術(狭くなった腸を広げる)

組織生検による確定診断

カプセル内視鏡やCT検査で異常が見つかった場合、それが良性の炎症なのか、悪性の腫瘍なのか、あるいは感染症なのかを区別するためには、病変の組織を顕微鏡で調べる病理診断が必要です。

バルーン内視鏡を用いれば、病変部を直接観察しながら、鉗子(かんし)を使って組織を採取(生検)することができ、クローン病や悪性リンパ腫の診断には、この組織生検が欠かせません。

確定診断がつくことで、適切な薬物療法や化学療法を開始することができ、治療の効果を最大限に高めることにつながります。目で見える情報だけでなく、細胞レベルでの情報を得られることが、バルーン内視鏡の大きな強みです。

内視鏡的止血とポリープ切除

バルーン内視鏡は治療機器としても非常に優秀です。小腸の血管異形成や潰瘍からの出血に対しては、その場でクリップを掛けたり、熱で焼いたりして止血処置を行うことができます。

この迅速な対応によって、緊急手術を回避できるケースが増えました。また、ポイツ・イェーガース症候群などで見られる大きなポリープに対しても、内視鏡的切除(ポリペクトミー)が可能です。

以前はお腹を切る手術が必要だった症例でも、内視鏡でポリープを取り除くことで、腸重積や出血のリスクを低侵襲に管理できるようになりました。

患者さんの体への負担を減らし、早期の社会復帰を支援する上で、バルーン内視鏡治療は重要な役割を担っています。

受診のタイミングと早期発見の重要性

原因不明の不調が続く場合は、小腸疾患を疑い専門医に相談することが大切です。早期に適切な検査を受けることで、重篤な合併症を防ぎ、スムーズな治療につなげることができます。

「原因不明」と言われたら小腸を疑う

「お腹が痛いのに胃カメラも大腸カメラも異常なしと言われた」「貧血の治療をしているが良くならない」、このような経験をされている方は、小腸に原因が隠れている可能性があります。

医師の間でも、かつては小腸の検査はハードルが高いものでしたが、現在はカプセル内視鏡の普及により、比較的容易に検査を提案できるようになっています。

原因不明という言葉に諦めず、小腸疾患の可能性について医師と相談することが大切です。

特に、かかりつけのクリニックで診断がつかない場合は、小腸内視鏡(カプセルやバルーン)を実施できる専門的な医療機関を紹介してもらうことを検討してください。

受診を検討すべきチェックリスト

  • 胃・大腸検査を受けたが原因不明の貧血がある
  • 黒い便(タール便)が出たことがある
  • へそ周りの腹痛が長期間続いている
  • 原因不明の体重減少がある
  • 鎮痛剤(NSAIDs)を常用している

定期検査でリスクを管理する

特にリスクが高い方、例えば家族性大腸腺腫症の方や、過去に小腸の手術を受けたことがある方、クローン病の患者さんなどは、症状がなくても定期的な小腸検査を受けてください。

病変が小さいうちに見つかれば、内視鏡治療だけで完治できる可能性が高まりますし、薬の調整だけで症状をコントロールすることもできます。

自分の体質や病歴を理解し、主治医と相談しながら定期的なフォローアップの計画を立てることが大切です。

よくある質問

小腸検査や疾患に関して、患者さんから寄せられる頻度の高い疑問にお答えします。

カプセル内視鏡を飲み込むのは痛くないですか?

カプセル内視鏡は表面が滑らかで、大きめのビタミン剤程度のサイズですので、一般的には痛みを感じることなく飲み込むことができます。

少量の水と一緒に嚥下するだけで、喉を通過する際の違和感もほとんどありません。

通常の胃カメラのような「オエッ」となる嘔吐反射も起こりませんので、内視鏡検査が苦手な方でもリラックスして受けていただけます。

検査のための食事制限や準備は大変ですか?

正確な診断のためには、腸の中をきれいにする必要があります。検査前日の夕食は消化の良いものを摂り、当日の朝は絶食となります。

また、カプセル内視鏡やバルーン内視鏡の前には、大腸検査と同様に下剤を服用して腸管洗浄を行うことが一般的です。

少し手間に感じるかもしれませんが、きれいな画像を得るためには非常に重要なプロセスですので、医療スタッフの指示に従って準備を行ってください。

小腸のポリープは必ず切除しなければなりませんか?

全てのポリープを切除するわけではありません。良性で癌化のリスクが低いと判断される小さなポリープであれば、経過観察となることもあります。

しかし、腺腫のように将来的に癌になる可能性があるものや、出血や腸重積のリスクが高い大きなポリープ(例えばポイツ・イェーガース症候群のポリープなど)は、予防的な意味も含めて切除が推奨されます。

医師が個々のポリープの性質を見極めて判断します。

鎮痛剤で潰瘍ができるのを防ぐ方法はありますか?

どうしても鎮痛剤(NSAIDs)の服用が必要な場合は、胃薬(プロトンポンプ阻害薬やプロスタグランジン製剤など)を併用することで、粘膜傷害のリスクをある程度減らすことができます。

また、最近では小腸粘膜への影響が少ないタイプの鎮痛剤も開発されています。

自己判断で市販薬を漫然と飲み続けることは避け、医師や薬剤師に相談の上、適切な薬剤選択と胃腸を守る対策を行うことが大切です。

以上

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この記事を書いた人

Dr.中村文保のアバター Dr.中村文保 医療法人社団心匡会 理事長

金沢消化器内科・内視鏡クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医
日本肝臓学会 肝臓専門医

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