腹痛を伴いながら便秘と下痢を繰り返す症状は、腸が過敏になっているサインかもしれません。単なる体調不良と放置せず、背景にある生活習慣やストレス、あるいは隠れた疾患に目を向けることが大切です。
便が詰まった後に下痢が出る漏出性下痢や過敏性腸症候群の可能性も考えられます。
ご自身の体の声を正しく理解し、対処法を知ることで、不安のない快適な毎日を取り戻しましょう。
便秘が続いた後に起こる下痢の正体とは
何日も排便がなくお腹が張って苦しい状態が続いた後、突然激しい腹痛と共に水のような便が出ることがあります。なぜ真逆の症状が現れるのか、腸内で起きている現象を正しく理解することで、不安を解消し対策へと繋げることができます。
硬い便が蓋をして液体が漏れ出る現象
便秘で腸内に硬い便が溜まると、その塊が栓のような役割を果たして腸管を物理的に塞いでしまいます。これは特に、肛門に近い直腸付近で起こることが多く、出口を塞がれた腸は異常事態を察知します。
腸は溜まった内容物をなんとかして排出しようと、通常よりも活発に動き続けるだけでなく、通過をスムーズにするために腸壁から水分や粘液を過剰に分泌して便を洗い流そうとする防御反応を示します。
その結果、硬い便の上流では水分を多く含んだ液状の便や泥状の便が作られることになります。
液状の便は、栓となっている硬い便と腸壁のわずかな隙間を通って、本人の意思とは関係なく漏れ出てくることがあり、これが漏出性下痢や矛盾性下痢と呼ばれる現象です。
腸の過剰な運動による痛みの発生
便秘の状態が長く続くと、腸内では行き場を失った便やガスによって内圧が高まり、腸管は、高まった圧力に対抗し、内容物を先に送り出そうとして、通常よりも強く、激しい収縮運動を繰り返します。
これを蠕動(ぜんどう)運動の亢進と言い、過剰な筋肉の収縮が、キリキリとした激しい腹痛や、お腹全体が締め付けられるような痛み(仙痛)となって現れます。
水分が吸収されすぎて石のように硬くなった便が、敏感になっているS状結腸や直腸を通過する際には、腸壁が無理やり押し広げられるため、肛門付近や下腹部に強い負担がかかり、痛みを増幅させます。
排便後に痛みがスーッと軽くなるのは、便が排出されたことで腸管内の圧力が下がり、過剰な収縮が治まるためです。
腸内環境の悪化とガスの発生
本来であれば体外へ排出されるべき便が、長時間腸内に留まると、腸内環境のバランスが崩れ、ウェルシュ菌や大腸菌などの悪玉菌が増殖しやすい環境になります。
悪玉菌は、腸内に残ったタンパク質や脂肪分をエサとして分解(腐敗)し、アンモニア、硫化水素、インドールといった有害物質や、メタンガスなどを大量に発生させ、おならが臭くなったり、ゲップが増えたりするのはこのためです。
発生したガスが腸管を内側から圧迫し、お腹の張り(膨満感)や不快感、さらには胃を圧迫して食欲不振の原因となり、また、悪化した腸内環境は腸の粘膜に慢性的な炎症を起こし、腸本来の機能である水分吸収能力を低下させることがあります。
通常は大腸で吸収されるはずの水分が腸内に残ってしまうため、便が水っぽくなり、下痢を起こす要因の一つです。
症状の違いによる分類
| 症状のタイプ | 主な特徴 | 考えられる腸の状態 |
|---|---|---|
| 漏出性下痢 | 便秘の後に少量の水様便が出る、残便感が強い | 硬い便が栓となり隙間から漏れている、直腸での停滞 |
| 痙攣性便秘 | 食後に下腹部痛があり、コロコロとした兎糞状の便が出る | ストレス等で自律神経が乱れ、腸が緊張し痙攣している |
| 弛緩性便秘 | お腹の張りはあるが便意が弱い、便が太く硬い | 腸の筋力が低下し動きが鈍い、高齢者や運動不足の人に多い |
過敏性腸症候群(IBS)混合型の特徴
検査で明らかな異常が見つからないにもかかわらず、腹痛を伴う便秘と下痢を繰り返す場合、過敏性腸症候群(IBS)の混合型である可能性が考えられます。
ストレスと脳腸相関の関係
腸と脳は、自律神経系などを介して双方向に情報を伝え合っており、密接に連携しています(脳腸相関)。大事なプレゼンの前や試験中に緊張するとお腹が痛くなるのは、脳が感じたストレス信号が瞬時に腸へ伝達されるためです。
過敏性腸症候群の方は、脳腸相関のシステムにおいて知覚過敏が生じていると考えられています。
健康な人であれば気にならないようなわずかな腸の動きやガスの発生を、脳が痛みや不快感として過剰に受け取ってしまいます。
また、わずかな精神的ストレスや不安が脳から腸へと伝わり、腸の運動機能に異常をきたし、急激な蠕動運動や停滞を起こします。
逆に、お腹の調子が悪いという情報が脳に伝わると、脳はそれを不安材料として認識し、新たなストレスとなります。ストレスがさらに腸の症状を悪化させるという、断ち切りがたい悪循環に陥りやすいのがこの病気の特徴です。
便秘と下痢を繰り返す混合型の悩み
過敏性腸症候群には、主に下痢が続く下痢型、便秘が続く便秘型、そしてその両方を繰り返す混合型があります。
混合型の場合、数日間便秘が続いてお腹が苦しいかと思うと、ある日突然、激しい腹痛と共に下痢に見舞われるという、予測困難な症状の変動に悩まされます。
「いつトイレに行きたくなるかわからない」という不安は非常に大きく、通勤電車や会議中、渋滞に巻き込まれた車内など、すぐにトイレに行けない状況に対して強い恐怖心を抱くようになります。
症状の変動が激しいため、下痢止めの薬を使うと便秘になり、便秘薬を使うと下痢になるといったように、薬のコントロールが非常に難しく、精神的な疲弊も大きくなりがちです。
年代や性別による傾向と発症要因
過敏性腸症候群は、10代から30代の比較的若い世代に多く発症する傾向がありますが、中高年になってから発症することも決して珍しくありません。
統計的には、女性は便秘型が多く、男性は下痢型が多いとされていますが、混合型に関しては男女問わず幅広い層で見られます。
発症のきっかけは、ウイルス性や細菌性の腸炎にかかった後に腸が過敏になる感染後IBSや、進学、就職、転勤、昇進、結婚、出産といったライフイベントに伴う急激な環境変化です。
また、性格傾向として、真面目で責任感が強い人、几帳面な人、心配性な人、感情を内に秘めやすい人がなりやすいとも言われていますが、これはストレスを溜め込みやすいことと関連しています。
しかし、性格だけが原因ではなく、遺伝的要因や腸内フローラの変化、粘膜の微細な炎症など、様々な要因が複雑に絡み合って発症するため、「気の持ちよう」だけで解決する問題ではありません。
IBSの主なサブタイプ
| タイプ | 便の形状の特徴 | 排便時の傾向と悩み |
|---|---|---|
| 便秘型 | 水分が少なく硬い便、コロコロとしたウサギの糞のような便 | 強くいきまないと出ない、排便後も残便感がある、お腹が張る |
| 下痢型 | 泥状や水のような便、形のない便 | 突然の強い便意(便意切迫感)、一日に何度もトイレに行く |
| 混合型 | 硬い便と水様便の変動、日によってまたは排便ごとに変わる | 便秘と下痢が交互に現れ、体調の予測がつかない、腹痛を伴うことが多い |
注意が必要な危険なサインを見逃さない
便通異常はありふれた症状と考えがちですが、中には重篤な疾患が隠れている場合もあります。体からの注意信号を見逃さず、医療機関を受診すべきタイミングを正しく判断するための知識を持つことは、健康を守る上で極めて重要です。
血便や便に混じる異常物
便に血が混じっている場合、多くの人が「痔だろう」と自己判断してしまいがちですが、これは非常に危険です。
鮮やかな赤い血がトイレットペーパーに付く場合は痔(裂肛や痔核)の可能性が高いですが、便自体に血液が練り込まれていたり、黒っぽい血が見られたりする場合は、大腸の奥の方や胃などの上部消化管での出血が疑われます。
黒色便(タール便)の場合は胃や十二指腸からの出血の可能性があります。
また、血液だけでなく、白っぽい粘液や膿のようなものが混じっている場合も注意が必要です。粘液と血液が混ざった粘血便が見られる場合は、潰瘍性大腸炎やクローン病などの指定難病である炎症性腸疾患の可能性も否定できません。
急激な体重減少と全身症状
食事制限やダイエットをしていないにもかかわらず、数ヶ月の間に体重が数キログラム(例えば体重の5%以上)も減ってしまった場合は、最大限の警戒が必要です。
これは、がんなどの悪性腫瘍が栄養を奪っている消耗性の状態や、慢性的な炎症によって腸からの栄養吸収が著しく妨げられている可能性があります。
また、便通異常に加えて、37度前後の微熱が続く、休んでも取れない強い倦怠感がある、顔色が悪いと言われる、貧血の症状があるといった全身症状を伴う場合も、単なる機能的な便通異常(IBSなど)ではない可能性が高いです。
機能的な疾患では、通常、ここまでの全身状態の悪化や体重減少は見られません。
夜間の症状と年齢的な要因
過敏性腸症候群などのストレスや自律神経が関与する機能的な疾患は、リラックスしている睡眠中は症状が落ち着くことが一般的です。
しかし、夜中に腹痛で目が覚めてしまったり、便意を催してトイレに起きたりする症状がある場合は、器質的な(臓器そのものに潰瘍や腫瘍などの異常がある)病気が隠れている可能性が高くなります。
また、年齢も重要な判断材料です。これまで快便だった人が、50歳を過ぎてから急に便秘がちになったり、便秘と下痢を繰り返すようになったりした場合、大腸がんなどのリスクを考慮する必要があります。
見逃してはいけない警告症状
| 症状 | リスク | 対応の緊急度 |
|---|---|---|
| 血便・粘血便・黒色便 | 炎症性腸疾患、大腸がん、胃潰瘍等 | 速やかな受診が必要、内視鏡検査を検討 |
| 夜間の腹痛・排便での覚醒 | 器質的疾患の可能性大、炎症の進行 | 早めの受診を推奨、放置は危険 |
| 原因不明の体重減少・発熱 | 悪性腫瘍、吸収不良症候群、甲状腺機能異常 | 速やかな受診が必要、全身の検査が必要 |
食事内容が起こす症状の変化
毎日口にする食べ物は、直接的に腸の働きや便の状態に影響を与え、体に良いとされる食品であっても、個人の体質や腸の状態によっては、かえって腹痛や便秘、下痢の原因となることがあります。
FODMAP(フォドマップ)という考え方
近年、過敏性腸症候群の食事療法として世界的に注目されているのが「低FODMAP食」です。
FODMAPとは、小腸で吸収されにくく、大腸で急速に発酵しやすい4種類の糖質(発酵性オリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオール)の頭文字をとった言葉です。
このような糖質を多く含む食品を摂ると、小腸では吸収されずに大腸へ送られ、そこで腸内細菌によって急速に発酵し、多量のガスを発生させます。
さらに、糖質は腸内の浸透圧を高める性質があり、水分を腸内に引き込んでしまうため、下痢を起こしやすくなります。
一般的に「腸に良い」とされる食品の中にも、高FODMAP食品が含まれていて、小麦(パン、パスタ)、玉ねぎ、ニンニク、牛乳、ヨーグルト、大豆(納豆)、リンゴ、ハチミツなどが該当します。
食物繊維の種類の選び方
便秘解消には食物繊維が必要不可欠と言われますが、種類選びを間違えると逆効果です。食物繊維には水に溶ける水溶性と、水に溶けない不溶性の2種類があります。
ごぼう、レンコンなどの根菜類や、きのこ類、玄米などに多く含まれる不溶性食物繊維は、水分を吸収して便のカサを増やし、腸壁を刺激して蠕動運動を促します。
しかし、既に便が詰まっている状態や、痙攣性の便秘でお腹が痛い時にこれを大量に摂ると、刺激が強すぎて腹痛を悪化させたり、便をより大きく硬くして詰まらせたりする原因になるのです。
海藻類(わかめ、昆布、めかぶ)、オクラ、モロヘイヤ、熟した果物(キウイ、バナナ)、大麦などに含まれる水溶性食物繊維は、腸の中でネバネバとしたゲル状になり、硬い便を柔らかく包み込んで滑りを良くする働きがあります。
脂質やカフェインの影響
脂質の多い食事(揚げ物、霜降り肉、ラーメン、ケーキ、クリームパスタなど)は、消化に時間がかかり胃腸に長時間留まるため負担をかけます。
さらに、脂肪分が十二指腸に入ると、大腸の収縮運動を強めるホルモンが分泌され、胃結腸反射が過剰に起き、食後に急激な腹痛や下痢を誘発することがあります。
また、コーヒーや濃い緑茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインや、唐辛子などの香辛料(カプサイシン)、アルコール、冷たい飲み物も腸への強い刺激です。
食物繊維の分類と特徴
| 種類 | 主な食品 | 便秘・下痢への作用と注意点 |
|---|---|---|
| 水溶性食物繊維 | 海藻、キウイ、バナナ、大麦、里芋 | 便を軟らかくし滑りを良くする。お腹が痛い時にも適している。 |
| 不溶性食物繊維 | ごぼう、豆類、玄米、きのこ、ブロッコリー | 便のカサを増やすが、摂りすぎるとガスが増えたり詰まったりすることがある。 |
| 発酵食品 | ヨーグルト、納豆、キムチ、味噌 | 腸内細菌のバランスを整えるが、FODMAPが気になる場合は種類を選ぶ必要がある。 |
自律神経の乱れと腸の働きの関係性
腸は「第二の脳」とも呼ばれるほど、神経系と深い関わりを持っています。心身のストレスや生活リズムの乱れが自律神経のバランスを崩し、ダイレクトに腸の動きの異常として現れる仕組みを知ることで、根本的な解決策が見えてきます。
交感神経と副交感神経のスイッチ
内臓の働きをコントロールしている自律神経には、活動時や緊張時に優位になる交感神経と、リラックス時や休息時に優位になる副交感神経の2つがあり、シーソーのようにバランスを取り合っています。
通常、腸の蠕動運動や消化液の分泌は、副交感神経が優位な時に活発になりますが、仕事のプレッシャーや人間関係の悩みなど、常にストレスにさらされ交感神経が優位な状態が続くと、腸の動きが停滞し、便秘になりやすいです。
週末にホッとしてストレスから解放された反動や、過度な緊張が自律神経の調整機能を乱すと、副交感神経が過剰に反応してしまうことがあり、腸が痙攣したように激しく動き出し、腹痛や下痢を起こします。
寒暖差や環境の変化による影響
自律神経は、内臓の働きだけでなく、気温の変化に対応して血管を収縮・拡張させ、体温調節を行う役割も担っています。
季節の変わり目や、夏場の冷房の効いた室内と猛暑の屋外の行き来など、7度以上の急激な温度変化があると、自律神経は体温調節に必死になり、大きなエネルギーを消耗します(寒暖差疲労)。
自律神経が体温調節に掛かりきりになると、腸の機能調整がおろそかになり、消化不良や下痢、便秘などの不調が現れやすいです。
睡眠の質と腸内修復の時間
睡眠は単に体を休めるだけでなく、腸にとっても極めて重要な時間です。睡眠中は副交感神経が優位になり、腸が活発に動いて、その日食べたものを消化・吸収し、残りカスを便として肛門へと送る大蠕動の準備が行われます。
また、日中の食事やストレスでダメージを受けた腸の粘膜細胞を修復・再生する時間でもあります。
睡眠不足や、スマホの見過ぎによる夜更かし、昼夜逆転の生活が続くと、自律神経のリズムが崩れ、腸の働きが鈍くなり、翌朝のスムーズな排便習慣がつかず、便秘が悪化します。
自律神経を整える生活習慣
- 朝起きたらカーテンを開けて朝日を浴び、体内時計をリセットして活動モードへの切り替えを促す
- 38〜40度のぬるめのお湯に15分程度ゆっくり浸かり、深部体温を上げて副交感神経を優位にする
- 就寝前のスマホやPC操作を控え、ブルーライトによる脳への覚醒刺激を避ける
- 仕事の合間やトイレの中で、4秒吸って8秒吐くような深呼吸を意識的に行い、リラックス状態を作る
薬の影響と正しい付き合い方
便秘や下痢を解消するために使用する薬が、使い方によっては症状を複雑にしたり、新たな不調を招いたりすることがあります。
下剤の使いすぎによる悪循環
便秘でお腹が張って苦しいからといって、市販の刺激性の強い下剤(センナ、ダイオウ、アロエなどを成分とするものや、ピンク色の小粒の薬など)を安易に常用することはリスクを伴います。
刺激性下剤は、腸の神経を直接刺激して無理やり動かし排便を促しますが、毎日使い続けると腸が刺激に慣れてしまい、反応が鈍くなります。
その結果、薬の量を増やさないと効かなくなり、最終的には薬なしでは自力で排便できなくなる下剤依存症や弛緩性便秘を招くことがあります。
便秘薬を使用する場合は、水分を集めて便を柔らかくする酸化マグネシウムなどの非刺激性下剤を中心に調整し、刺激性下剤は本当に辛い時の頓服(緊急避難的)として使用するなど、自分に合ったコントロールが必要です。
抗生物質やその他の薬剤の副作用
風邪や膀胱炎、歯科治療などで抗生物質(抗菌薬)を服用すると、薬が病原菌だけでなく、腸を守っているビフィズス菌などの善玉菌まで死滅させてしまい、腸内フローラのバランスが崩れることがよくあり、抗生物質起因性下痢と呼びます。
また、抗生物質以外にも、日常的に使われる薬の中にも便通に影響を与えるものが多いです。
鎮痛剤(NSAIDs)や一部の胃薬(制酸剤)、降圧剤(カルシウム拮抗薬)、抗うつ薬、鉄剤などは、副作用として便秘や下痢を起こすことが知られています。
整腸剤の役割と選び方
整腸剤は、不足した善玉菌を補い、腸内環境を整えるための薬です。
下剤のようにすぐに便を出したり、下痢止めのようにピタリと止めたりする即効性はありませんが、便秘と下痢を繰り返すような不安定な腸の状態を、時間をかけて底上げし、正常化していくのに役立ちます。
整腸剤には、ビフィズス菌、乳酸菌(ラクトミンなど)、酪酸菌、糖化菌など様々な種類があります。
一つの整腸剤を2週間から1ヶ月程度試しても症状の変化が感じられない場合は、漫然と続けずに、別の種類の菌が含まれる製品に変えてみるのも有効な方法です。
主な便秘薬の種類と特徴
| 種類 | 作用の仕組み | 注意点と使い方のコツ |
|---|---|---|
| 浸透圧性下剤(酸化マグネシウム等) | 腸内の水分を便に含ませ、便を柔らかくしてカサを増やす | 癖になりにくい。多めの水と一緒に飲むと効果的。腎機能が低下している方は高マグネシウム血症に注意が必要。 |
| 刺激性下剤(センナ、ピコスルファート等) | 大腸を直接刺激し、蠕動運動を強制的に促す | 即効性はあるが腹痛を伴いやすい。連用すると耐性がつき効き目が悪くなるため、頓服使用に留める。 |
| 上皮機能変容薬(ルビプロストン等) | 小腸での水分分泌を増やし、便を柔らかくして移動を滑らかにする | 比較的新しい薬で、習慣性がなく自然に近い排便を促すが、医師の処方が必要。吐き気が出ることがある。 |
生活習慣の改善で腸を整える
腸の不調は、日々の生活習慣の積み重ねの結果であることが多く、薬による対症療法だけでなく、根本的な生活スタイルの見直しを行うことで、腸本来の力を取り戻し、腹痛や便通異常に悩まされない体を作ることが可能です。
適切な水分摂取のタイミング
健康な便の約70〜80%は水分で構成されていて、水分摂取量が不足すると、大腸で水分が過剰に吸収されてしまい、便が石のように硬くなって排泄困難になります。
水分補給のポイントは、喉が渇く前にこまめに飲むことで、特に重要なのが朝一番の水分です。
朝起きた直後にコップ一杯(約200ml)の水や白湯を飲むことは、空っぽの胃を刺激し、その信号が大腸へ伝わってぜん動運動を開始させる胃結腸反射を誘発する強力なスイッチとなります。
一日のトータル摂取量としては、食事に含まれる水分とは別に、1.5リットルから2リットルを目安にすると良いでしょう。
腸の動きを助ける運動習慣
運動不足は、腸の動きそのものを低下させるだけでなく、排便時にいきむために必要な腹筋の筋力低下を招き、便を押し出す力を弱めてしまいます。
デスクワークなどで長時間座りっぱなしの姿勢が続くと、腸が圧迫され、血流が悪くなり動きが鈍くなります。激しいスポーツジムでのトレーニングなどは必ずしも必要ありませんが、日常生活の中で体を動かす習慣をつけることが大切です。
おすすめは、ウォーキングなどの有酸素運動で、全身の血行が良くなることで腸の血流も改善し、副交感神経も活性化します。また、腸の近くにあるインナーマッスルである腸腰筋(ちょうようきん)を鍛えることも効果的です。
お腹を温めて血流を改善する
冷えは腸の大敵です。お腹が冷えると、内臓を守ろうとして血管が収縮し、腸への血流が減少し、腸の働き(酵素の活性など)が低下して消化不良を起こしたり、痛みや下痢を起こしやすくなったりします。
特に夏場は、薄着や冷房、冷たい飲み物の摂りすぎによって、知らず知らずのうちに内臓冷えの状態になっていることが多いため注意が必要です。
腹巻きやカイロを利用してお腹周り、特に仙骨(お尻の割れ目の上あたり)や丹田(おへその下)を温めることが有効です。入浴に関しては、シャワーだけで済ませず、38度〜40度の湯船に10分以上浸かって深部体温を上げることが推奨されます。
よくある質問
腹痛や便通の変化に関して、患者さんから多く寄せられる疑問についてまとめました。
- 便秘と下痢を繰り返すのは大腸がんの可能性がありますか?
-
便秘と下痢を繰り返す症状は、過敏性腸症候群などの機能的な疾患で非常によく見られる症状ですが、大腸がんの症状の一つである可能性もゼロではありません。
がんが進行して大きくなり腸管が狭くなると、固形の便が通りにくくなり(便秘)、狭い隙間を通過できる水っぽい便だけが出てくる(下痢)という状態になり、同様の症状が現れることがあります。
血便がある、便が細くなった、残便感がある、理由のない体重減少、貧血、年齢が40代以上であるといった要素がある場合はリスクが高まります。
- 症状が辛い時食事は抜いた方が良いのでしょうか?
-
激しい腹痛や水のような下痢が続いている直後は、半日から1日程度食事を抜いたり、消化の良いおかゆや具のないスープ、ゼリー飲料のみにして、腸を休ませてあげることは有効な対処法です。
無理に食べると症状を悪化させることがあります。しかし、便秘解消のためだからといって、長期的に食事の量自体を減らしすぎると、便の材料(カサ)が不足し、腸への刺激が減ってかえって便秘を悪化させることがあります。
症状が少し落ち着いてきたら、うどん、白身魚、鶏ささみ、豆腐、半熟卵、よく煮込んだ野菜など、消化に良く脂質の少ないものを、よく噛んで少しずつ食べるようにしましょう。
脂っこいもの、繊維質の硬い野菜、刺激物は避けることが大切です。
- 市販の下痢止めと便秘薬を交互に飲んでも大丈夫ですか?
-
自己判断で市販の下痢止めと便秘薬をその場しのぎで交互に服用することは、あまりお勧めできません。
下痢止め(止瀉薬)によって、本来排出されるべき悪い菌や毒素、あるいは詰まっている便を出し切れずに腸内に閉じ込めてしまい、お腹の張りや炎症、腸内環境の悪化を招くことがあります。
また、その後に便秘薬を使うことで腸が過剰に刺激され、再び激しい下痢になるといった、症状のジェットコースター状態を招き、腸の本来のリズムをさらに乱してしまう恐れがあるためです。
- ストレスが原因の場合、心療内科に行くべきですか?
-
いきなり心療内科を受診する必要はありません。まずは消化器内科を受診し、大腸内視鏡検査や血液検査などを行い、腸そのものに炎症やポリープ、がんなどの器質的な病気がないかをしっかりと確認することが先決です。
検査で目に見える異常がないにもかかわらず症状が続き、生活に支障が出る場合に、初めて過敏性腸症候群などの診断がつきます。
消化器内科では、腸の機能を整える薬や粘膜を保護する薬に加えて、必要に応じて不安や緊張を和らげる漢方薬や軽めの抗不安薬などを処方することも可能です。
消化器内科での治療を続けても改善が見られない場合や、気分の落ち込み、不眠、パニック症状などが強く現れている場合には、医師から心療内科との併診や紹介を提案されることがあります。
以上
参考文献
Oshima T, Miwa H. Epidemiology of functional gastrointestinal disorders in Japan and in the world. Journal of neurogastroenterology and motility. 2015 Jul 3;21(3):320.
Kubo M, Fujiwara Y, Shiba M, Kohata Y, Yamagami H, Tanigawa T, Watanabe K, Watanabe T, Tominaga K, Arakawa T. Differences between risk factors among irritable bowel syndrome subtypes in Japanese adults. Neurogastroenterology & Motility. 2011 Mar;23(3):249-54.
Fukudo S, Okumura T, Inamori M, Okuyama Y, Kanazawa M, Kamiya T, Sato K, Shiotani A, Naito Y, Fujikawa Y, Hokari R. Evidence-based clinical practice guidelines for irritable bowel syndrome 2020. Journal of gastroenterology. 2021 Mar;56(3):193-217.
Kanazawa M, Miwa H, Nakagawa A, Kosako M, Akiho H, Fukudo S. Abdominal bloating is the most bothersome symptom in irritable bowel syndrome with constipation (IBS-C): a large population-based Internet survey in Japan. BioPsychoSocial Medicine. 2016 Jun 4;10(1):19.
Kumano H, Kaiya H, Yoshiuchi K, Yamanaka G, Sasaki T, Kuboki T. Comorbidity of irritable bowel syndrome, panic disorder, and agoraphobia in a Japanese representative sample. Official journal of the American College of Gastroenterology| ACG. 2004 Feb 1;99(2):370-6.
Longstreth GF, Thompson WG, Chey WD, Houghton LA, Mearin F, Spiller RC. Functional bowel disorders. Gastroenterology. 2006 Apr 1;130(5):1480-91.
Iancu MA, Profir M, Roşu OA, Ionescu RF, Cretoiu SM, Gaspar BS. Revisiting the intestinal microbiome and its role in diarrhea and constipation. Microorganisms. 2023 Aug 29;11(9):2177.
Lynn RB, Friedman LS. Irritable bowel syndrome: Managing the patient with abdominal pain and altered bowel habits. Medical Clinics of North America. 1995 Jan 1;79(2):373-90.
Lacy BE, Mearin F, Chang L, Chey WD, Lembo AJ, Simren M, Spiller R. Bowel disorders. Gastroenterology. 2016 May 1;150(6):1393-407.
Bharucha AE, Chakraborty S, Sletten CD. Common functional gastroenterological disorders associated with abdominal pain. InMayo Clinic Proceedings 2016 Aug 1 (Vol. 91, No. 8, pp. 1118-1132). Elsevier.

