腸閉塞は、腸管の通過が滞ることで強い腹痛や嘔吐などの症状を起こす疾患で、早めに異変を察知し、検査や治療につなげることが重要です。
腸のトラブルは見過ごしがちですが、日常生活の何気ない不調が腸閉塞初期症状に該当する場合があり、発症リスクを減らすために予防と日頃のセルフケアを意識しながら、早期発見につなげましょう。
この記事では、腸閉塞になりかけの兆候や原因、検査の必要性、そして予防のポイントを解説します。
腸閉塞とは何か
腸閉塞とは腸管の一部または全体が詰まることで、便やガスなどの通過が阻害される状態で、腹痛や吐き気、嘔吐、膨満感などの症状が現れやすく、放置すると重篤な合併症につながるおそれがあります。
腸の通り道に異常が起きるため食事だけでなく水分もスムーズに移動できず、消化管内に溜まった内容物が炎症を誘発して強い痛みを生むことがあります。
腸管が詰まる原因には癒着や腸のねじれ、腫瘍など多岐にわたる要因が関係し、腸閉塞を疑ったら迅速に医療機関を受診する姿勢が大切です。初期症状の段階で原因を突き止め、必要な処置を行うことでより良い経過が期待できます。
腸管の役割
腸は口から取り込んだ食物を消化吸収する大切な器官で、小腸では主に栄養分を吸収し、大腸では水分を再吸収して便を形成する流れがあります。
腸管は筋肉の動きで内容物を先へ運ぶ仕組みを持っていますが、この動きが妨げられると排泄に支障をきたします。
腸内環境の重要性
腸内には多種多様な細菌が存在し、栄養の分解・吸収を助けたり免疫機能に関わっています。腸内環境の乱れは便秘や下痢だけでなく、腸の動きに影響を与えて通過障害を起こしやすくなることがあります。
食事内容や生活習慣が腸内環境に深く関わるため、腸内細菌のバランスを整えることが健康管理につながります。
腸閉塞の初期段階の重大性
腸閉塞が完全に生じる前段階であっても、腸の動きが部分的に低下している状態が続くと、いずれ重症化する可能性があります。初期段階では腹部の張りや軽い腹痛など、比較的軽微な症状にとどまることもありますが、油断せず注意が必要です。
腸の構造と機能
区分 | 機能の主な特徴 | 通過時間の目安 |
---|---|---|
小腸前半部 | 食物の主な消化と栄養分の吸収 | 約3~4時間 |
小腸後半部 | 水分や電解質の吸収、下部消化液分泌 | 約2~3時間 |
大腸 | 水分再吸収と便の形成 | 約12~24時間 |
腸閉塞の初期症状の特徴
腸閉塞の初期症状は必ずしも激しい痛みとして現れない場合があり、ごく軽い腹部の違和感や、通常の便通と少し異なる感覚で発症するケースもあるため、日頃の体調管理が重要です。
加齢や生活習慣の乱れによって腸の働きが低下すると、腸閉塞初期症状を見落としがちなので、腹痛だけに注目せず、嘔気や食欲不振などの違和感にも目を向けることが必要となります。
腹部膨満感
早い段階で見られやすいのが腹部膨満感です。腸管内に溜まったガスや便が排出されにくくなり、通常よりもお腹が張る感覚を覚えることがあります。緊張状態が強いときは触れると固くなっている可能性もあります。
食欲低下
腸内の通過障害が続くと消化機能が衰え、食べ物を受け付けにくくなり、普段通りの食事量が急に減った、もしくは特定の食品を食べるとお腹が苦しくなるなどの変化を自覚したときは、腸の動きに問題が起きているかもしれません。
軽い吐き気や嘔吐
腸管が詰まりかけていると、食物だけでなく胃液や胆汁などの逆流が起きて嘔気を訴えることがあります。吐き気や嘔吐の頻度が増えていると感じたら、腸閉塞を疑う一因です。
初期段階の症状と感じ方
症状 | 感じやすさ | 背景 |
---|---|---|
腹部膨満感 | 比較的多い | ガスや便が留まってお腹が張る |
食欲低下 | やや多い | 腸の運搬機能低下による消化不良 |
軽度の嘔気や嘔吐 | 少ない傾向 | 腸管の狭窄や機能低下が進行している可能性 |
注意したいポイント
- ふだんと比べてお腹の張りが続く
- 少量しか食べていないのに満腹感が強い
- 胃もたれや吐き気が断続的に起こる
- 便通の回数や量が急に変化した
腸閉塞になりかけの兆候
腸閉塞になりかけの症状は、腸が完全に詰まる前段階で起こるサインで、腸閉塞なりかけの症状に早めに気づけば、大がかりな治療を回避できるかもしれません。小さな変化を見逃さず、身体が示すサインを見極める意識が大切です。
腸の動きの停滞
便通が普段より遅くなった、あるいはガスが出にくいと感じる場合、腸の蠕動運動が低下している可能性があります。腸の動きが弱まると腸内に余分なものが滞留しやすくなり、結果的に詰まりを起こしやすい状況が整ってしまいます。
腹痛の増悪
軽度の腹痛が出現し、時間の経過とともに強くなるケースは要注意で、初期の段階では周期的に痛みがやわらぐように感じても、腸の詰まり具合が進行すると常に痛みを伴うようになります。
痛みの質が鈍痛から鋭い痛みに変わるときは病院を受診しましょう。
急な排便・排ガスの停止
便が全く出なくなり、同時にガスも出なくなると腸が通らなくなっている可能性が高くなります。とくに腹部の膨満感や痛み、吐き気が伴う場合は腸閉塞の可能性を考慮する必要があります。
観察するべき主な変化
変化の内容 | 考えられる原因 | 対応の緊急度 |
---|---|---|
便通が極端に少ない | 腸の動きの低下、狭窄 | 中程度~高い |
排ガスが出にくい | 腸管内のガス滞留 | 中程度 |
腹痛が急激に強まる | 完全閉塞や炎症の進行 | 高い |
嘔吐が続く | 腸の詰まりによる逆流 | 高い |
早期受診を検討したい症状
- 繰り返す腹痛が1日に何度も起こる
- 以前は感じなかったお腹の張りが長時間続く
- 数日便が出ず、ガスもまったく出なくなった
- 食事を摂るとほぼ確実に吐き気を感じる
腸閉塞の原因とリスクファクター
腸閉塞の原因にはさまざまな要素が関与し、個々の病歴や生活習慣によって異なります。原因を知ることで、自分がどれほどリスクを抱えているかを把握できます。特に過去に腹部手術を受けた人や腸に持病がある人は注意が必要です。
癒着による腸閉塞
過去に腹部の手術を受けた場合、腸や周囲組織の癒着が起こりやすくなり、手術後の瘢痕組織が腸を引っ張ることで通路が狭くなり、腸閉塞につながるリスクが高まります。
癒着は時間をかけて形成されるので、手術直後だけでなく、数年後に問題が顕在化することもあります。
腸のねじれ(捻転)
結腸や小腸が物理的にねじれて詰まる状態で、腸がもともと長い人や腹部に慢性的な負担がかかっている人などがなりやすいです。ねじれ方によっては血管が圧迫されて血流障害を起こすケースもあり、痛みが強くなる傾向があります。
腫瘍やポリープ
大腸や小腸にできた腫瘍やポリープが腸管の通り道を狭め、良性のポリープであってもサイズが大きくなると物理的な障害となり、腸閉塞の契機となる場合があります。腫瘍性病変を早期発見するうえでも定期的な内視鏡検査が必要です。
主な原因と背景
原因 | 背景 | 発症リスク |
---|---|---|
癒着 | 手術痕が腸を引っ張り通過を妨げる | 高め |
腸のねじれ | 解剖学的要因、腸への負担 | 中程度~高い |
腫瘍やポリープ | 大腸や小腸に発生する異常増殖 | 中程度~高い |
炎症性疾患 | クローン病などで腸壁が厚くなる | 中程度 |
日常生活で注意を向けたい習慣
- 腹部に負担をかける姿勢や動作が多い
- 過去に腹部手術を受けている
- 便秘や下痢を繰り返している
- 家族に大腸がんの既往歴がある
腸閉塞が疑われるときに受けたい検査
腸閉塞が疑われる場合、病院では画像検査や血液検査などを行います。
症状の強さや既往歴に応じて検査項目を選ぶため、早めの受診が肝心で、正確な診断を得るには、専門医による診察と検査を受けることが望ましいです。
X線検査
腹部単純X線撮影で腸内に溜まったガスの様子を確認し、ガスの分布や液面の高さなどから、腸閉塞の有無や詰まりの程度を推測できます。簡便で短時間で済むことから初動の検査として選ばれやすい方法です。
CT検査
より精密に腸内の状態を調べたい場合、CTを行い、腸のどの部分に閉塞があるのか、腸管の形状や周辺組織との関係を立体的に把握しやすいのがメリットです。腫瘍や炎症の位置を特定しやすく、治療方針の判断材料になります。
血液検査
白血球数や炎症反応、電解質バランスなどをチェックすることで、腸閉塞による脱水や感染の兆候がないかを確認します。血液検査では腸自体の状態を直接見るわけではありませんが、全身的な異常の有無を把握するうえで大切です。
主な検査内容と特徴
検査名 | 特徴 | メリット |
---|---|---|
X線検査 | 腹部のガスパターンを確認可能 | 手軽で速い |
CT検査 | 腸の閉塞部位や周辺組織を詳細に把握 | 正確性が高く診断に有用 |
血液検査 | 炎症や栄養状態、脱水の有無を確認 | 全身の状態を把握しやすい |
受診前後で意識する項目
- 病歴や手術歴を医師に正確に伝える
- 便の状態や通過状況を細かくメモする
- 激しい痛みや嘔吐がある場合は早急に相談する
- 炎症や脱水を予防するために適度に水分を摂取する
腸閉塞の予防とセルフケア
腸閉塞の発症リスクを下げるには、腸の働きを整えるための生活習慣が重要で、便通のリズムを整えたり、腹部に負担をかけにくい体の使い方を心がけたりすると、腸閉塞になりにくい環境を作れます。
食事バランスの見直し
食事の内容は腸の動きや便の性質に直結します。食物繊維や水分を十分に摂取し、消化しやすい食材をバランス良く組み合わせることが鍵です。野菜や果物、豆類を積極的に取り入れ、加工食品や脂質の多いものは控えましょう。
適度な運動
ウォーキングや軽いストレッチなどで体を動かすと、腸の蠕動運動が促進されやすくなりますが、急に激しい運動をすると腹部に過度な負担がかかることがあるため、自分の体力に合わせた運動を継続することが大切です。
ストレス管理
精神的なストレスは自律神経のバランスを乱し、腸の動きを弱める可能性があり、趣味やリラックスできる時間をもつことで、ストレスを緩和し、腸内環境を保ちやすくなります。
日常で気をつけたい習慣
予防のための行動 | ポイント | 実施頻度 |
---|---|---|
食事バランスの調整 | 食物繊維・発酵食品・水分をしっかり摂る | 毎日の食事 |
軽度から中程度の運動 | ウォーキングやヨガなど無理のない運動 | 週3~5回 |
ストレスコントロール | 深呼吸や趣味の時間を意識的につくる | 毎日少しずつ |
食事や運動に関する工夫
- 白米に玄米や雑穀を混ぜる
- こまめな水分補給を怠らない
- 一日30分程度の散歩を取り入れる
- シャワーだけでなく湯船に浸かり、血行を促進する
内視鏡検査を検討するタイミング
腸閉塞になりかけの症状がある場合や腹部症状が長く続く場合、内視鏡による精査を考慮すると安心です。
腸閉塞そのものを内視鏡で治療することは限られたケースにとどまりますが、腸内にあるポリープや腫瘍の有無を確認して原因を突き止める役に立ちます。
大腸カメラの役割
大腸内視鏡検査は直腸から盲腸までの大腸全体を直接観察し、ポリープや粘膜の状態を評価できる方法で、ポリープの切除も同時に行えるため、腸閉塞のリスクとなる大きなポリープを見つけた場合に早期対応が可能です。
また、閉塞部を確認しながらステントやイレウスチューブを留置することで、腸管内の減圧処置を行うことが可能です。
小腸内視鏡検査
小腸は大腸カメラでは直接見ることが難しい領域ですが、カプセル内視鏡やバルーン内視鏡などで小腸の状態を確認できる場合があります。
腸閉塞の原因が小腸にあると思われる場合、専門医と相談したうえで検査方法を選択してください。
内視鏡検査後のフォロー
検査後に問題が見つからなかったとしても、定期的に検査を受けて経過観察を行うと安心です。腸の健康状態は時間の経過や生活習慣の変化によっても変わるため、一度の検査で終わらせず、医師と相談しながら検査の間隔を決めるとよいでしょう。
内視鏡検査に関するポイント
検査種類 | 観察可能範囲 | 特徴 |
---|---|---|
大腸カメラ | 直腸~盲腸(大腸全体) | ポリープを切除できることがある |
カプセル内視鏡 | 小腸全域 | 小腸の粘膜を広範囲で観察可能 |
バルーン内視鏡 | 小腸(連続的に一部ずつ) | 詳細な観察が可能、専門施設が必要 |
検査を受ける前に考えたいこと
- 腸閉塞の既往歴や手術歴があれば事前に担当医へ伝える
- 大腸カメラなどは下剤の服用など事前準備が必要になる
- 時間的な余裕をもって予約し、検査後も安静に過ごす余地をつくる
- 持病がある場合は主治医と協力して検査方法を検討する
よくある質問
腸閉塞に関する疑問は、早期発見や予防のためにも解消しておきたいものです。腹部の症状が続くと漠然とした不安を感じるかもしれませんが、正しい情報を得て落ち着いて対応することが大切になります。
- 腸閉塞を自力で回復させることはできますか?
-
腸閉塞が軽度の場合、食事制限や点滴などの内科的治療で改善を図ることがありますが、自己判断で無理な食事制限を行うと栄養不足や脱水を引き起こす可能性が高まり危険です。
改善が見られない場合や症状が強い場合は、すぐに医療機関を受診してください。
- 腸閉塞初期症状はどのタイミングで受診すればよいでしょうか?
-
腹部の張りや軽い嘔気、排便異常などが数日続き、日常生活に支障が出る場合は受診を検討してください。痛みや嘔吐の頻度が増しているときは、さらに早い段階での受診が望ましいです。
急な症状の悪化を防ぐためにも、慎重に判断しましょう。
- 腸閉塞になりかけの症状があるときに自宅で気をつけることは?
-
水分や消化に優しい食事を少しずつ摂り、しっかり休むことが基本です。トイレの回数やガスの有無、腹部の痛みなどを観察し、いつもと明らかに違う症状が続くときは早めに相談してください。
無理な運動や過度の飲食は控えるほうが無難です。
参考文献
Furukawa A, Yamasaki M, Furuichi K, Yokoyama K, Nagata T, Takahashi M, Murata K, Sakamoto T. Helical CT in the diagnosis of small bowel obstruction. Radiographics. 2001 Mar;21(2):341-55.
Kanda T, Tsukahara A, Ueki K, Sakai Y, Tani T, Nishimura A, Yamazaki T, Tamiya Y, Tada T, Hirota M, Hasegawa J. Diagnosis of ischemic small bowel disease by measurement of serum intestinal fatty acid-binding protein in patients with acute abdomen: a multicenter, observer-blinded validation study. Journal of gastroenterology. 2011 Apr;46:492-500.
Yamada T, Okabayashi K, Hasegawa H, Tsuruta M, Yoo JH, Seishima R, Kitagawa Y. Meta-analysis of the risk of small bowel obstruction following open or laparoscopic colorectal surgery. Journal of British Surgery. 2016 Apr;103(5):493-503.
Saito Y, Oka S, Kawamura T, Shimoda R, Sekiguchi M, Tamai N, Hotta K, Matsuda T, Misawa M, Tanaka S, Iriguchi Y. Colonoscopy screening and surveillance guidelines. Digestive Endoscopy. 2021 May;33(4):486-519.
Sajja SB, Schein M. Early postoperative small bowel obstruction. Journal of British Surgery. 2004 Jun;91(6):683-91.
Silva AC, Pimenta M, Guimaraes LS. Small bowel obstruction: what to look for. Radiographics. 2009 Mar;29(2):423-39.
McEntee G, Pender D, Mulvin D, McCullough M, Naeeder S, Farah S, Badurdeen MS, Ferraro V, Cham C, Gillham N, Matthews P. Current spectrum of intestinal obstruction. Journal of British Surgery. 1987 Nov;74(11):976-80.
Ha HK, Park CH, Kim SK, Chun CS, Kim IC, Lee HK, Shinn KS, Bahk YW. CT analysis of intestinal obstruction due to adhesions: early detection of strangulation. Journal of computer assisted tomography. 1993 May 1;17(3):386-9.
Markogiannakis H, Messaris E, Dardamanis D, Pararas N, Tzertzemelis D, Giannopoulos P, Larentzakis A, Lagoudianakis E, Manouras A, Bramis I. Acute mechanical bowel obstruction: clinical presentation, etiology, management and outcome. World journal of gastroenterology: WJG. 2007 Jan 21;13(3):432.
Hayanga AJ, Bass-Wilkins K, Bulkley GB. Current management of small-bowel obstruction. Advances in surgery. 2005 Jan 1;39:1-33.