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普通便の後に起こる下痢症状の意味を考える

普通便の後に起こる下痢症状の意味を考える

排便時に最初は通常の固さの便が出るものの、途中から急激に水っぽい下痢へと変化する症状は、多くの人が経験する消化器系の不調です。

この現象は単なる食べ過ぎや冷えだけでなく、過敏性腸症候群(IBS)や「栓」となっていた硬い便が排出されたことによる溜まった液状便の流出など、腸内で起きている複雑な動きを示唆しています。

時には大腸ポリープや炎症性疾患のサインとなる場合もあるため、症状を正しく理解し、自分の体が発している警告を見逃さないことが重要です。本記事では、この症状が起こる背景と対策について詳しく解説します。

目次

普通便から下痢に変わる便通異常の背景

最初は形のある便が出るのに続いて下痢が起こる現象は、腸の蠕動運動が急激に変化したことや、直腸付近に滞留していた便が排出された後に上部の液状便が流れ込む物理的な作用が主な要因です。

自律神経の働きや腸内環境のバランスが崩れることで、水分の吸収が追いつかず排出に至るケースが多く見られます。

消化管運動の不規則性が起こす便状変化

腸は、リズミカルな収縮運動である蠕動(ぜんどう)運動によって内容物を肛門へと運びます。

健康な状態であれば、この運動は一定の速度で進み、大腸を通過する間に水分が適切に吸収され、適度な硬さの便が形成されますが、普通便の後に下痢が続く場合、このリズムが途中で乱れていることを示します。

排便の初期に出る普通便は、すでに直腸やS状結腸に到達し、十分に水分が吸収されて形作られたものです。これが「栓」のような役割を果たしています。

排便反射によってこの栓が外れると、その背後にある小腸や大腸の上部から、まだ水分吸収が不十分な内容物が急速に押し出されます。

腸の運動が異常に亢進すると、内容物の通過速度が速くなりすぎ、大腸が水分を吸収する時間的余裕を失い、その結果、形のある便に続いて、泥状や水様の下痢が勢いよく排出することになります。

自律神経の乱れと腸内環境の相関関係

腸の働きをコントロールしているのは自律神経です。交感神経と副交感神経のバランスが保たれている時、腸は規則正しく動きます。

しかし、ストレスや疲労、気温の変化などで自律神経のバランスが崩れると、腸の運動にも直結し、副交感神経が優位になりすぎると腸の収縮が強まり、内容物を急速に送り出そうとする力が働きます。

朝の排便時にこの症状が起こりやすいのは、睡眠中の副交感神経優位な状態から、起床後の交感神経優位な状態への切り替えがスムーズにいかないことが影響しています。

主な便通異常の要因リスト

  • 直腸に留まっていた硬い便が栓となり、その後に控えていた軟便が一気に流れ出る現象
  • 排便行為そのものが腸への過剰な刺激となり、蠕動運動が異常に亢進する反応
  • 睡眠と覚醒のリズム切り替え不全による、朝特有の自律神経バランスの乱れ
  • 腸内細菌叢の悪化により生じたガスや毒素を排除しようとする生体防御反応
  • 水分摂取のタイミングや量が適切でなく、腸内の水分調整機能が破綻している状態

腸内環境の悪化も無視できません。悪玉菌が増殖してガスや毒素が発生すると、腸壁が刺激され、早く排出しようとする防御反応として下痢が起こります。

ストレスが腸の蠕動運動に与える影響

脳と腸は「脳腸相関」と呼ばれる密接なネットワークでつながっています。精神的なプレッシャーや不安を感じると、脳からストレス信号が送られ、腸の動きに即座に影響を与えます。

大事な会議の前や試験の日などに、普通便が出た後も腹痛が治まらず下痢が続く経験をする人は少なくありません。

ストレスがかかると、脳からの指令でセロトニンなどの神経伝達物質が腸内で過剰に分泌します。

セロトニンには腸の蠕動運動を促進させる作用があるため、必要以上に腸が動きすぎてしまいます。通常の便が出た後も腸が動き続け、まだ水分を吸収しきれていない内容物まで絞り出してしまうのです。

水分吸収能力の低下が生じるタイミング

大腸の主な役割の一つは、小腸から送られてきた液状の内容物から水分とミネラルを吸収し、固形の便を作ることです。この水分吸収能力が一時的に低下すると、下痢が発生します。

普通便の後に下痢が出るケースでは、大腸の前半部分での水分吸収が阻害されているか、あるいは大腸からの水分分泌が増えている可能性があります。

アルコールの多量摂取や、浸透圧の高い食品(糖分や塩分の多いもの)を食べた翌日などにこの症状がよく見られます。

腸内の浸透圧が高まると、体は腸内の濃度を薄めようとして、腸壁から水分を分泌し、さらに、腸の動きが速すぎると、水分が吸収される前に肛門へと到達してしまいます。

直腸にある便は時間をかけて水分が吸収されているため普通便ですが、すぐ後ろにあるS状結腸や下行結腸の内容物は、通過速度が速いために水分が多いままです。

過敏性腸症候群(IBS)が関与する可能性

検査で明らかな異常が見つからないにもかかわらず便通異常が続く場合、過敏性腸症候群(IBS)が強く疑われます。

特に普通便と下痢が混在する症状はIBSの特徴的なパターンの一つであり、腸の知覚過敏と運動異常が複雑に絡み合って生じています。

混合型IBSにおける便通変動の特徴

過敏性腸症候群(IBS)には、下痢型、便秘型、混合型、分類不能型の4つのタイプがあります。

普通便の後に下痢が続く、あるいは日によって便秘と下痢を繰り返す症状は、混合型IBSの典型的な特徴です。このタイプでは、腸の動きが不安定で、痙攣性の収縮と弛緩を不規則に繰り返します。

IBSのタイプと特徴的な症状

IBSのタイプ主な便の状態特徴的な症状の流れ
混合型IBS硬い便と水様便の混在便秘が続いた後に、硬い便の排出をきっかけとして激しい下痢が起こる。排便のリズムが予測困難で、腹痛を伴うことが多い。
下痢型IBS泥状便・水様便突然の激しい便意と共に水っぽい便が出る。ストレスや緊張が引き金となることが多く、通勤・通学中に症状が出やすい。
便秘型IBSウサギの糞のようなコロコロ便腸が痙攣して便の通過を阻害するため、排便が困難になる。腹部の張りや不快感が強く、排便後もスッキリしない。

混合型IBSの患者さんは、便秘で数日間排便がない状態が続いた後、溜まっていた便が排出されるのをきっかけに、堰を切ったように激しい下痢に見舞われることがあります。

硬い便が腸管を刺激し、反動で腸が過剰に動き出すためです。

また、排便後も残便感が強く、トイレから出られない、あるいは何度もトイレに行きたくなるという症状も伴い、腸が過敏になっているため、直腸に便が残っていなくても便意を感じ続ける「偽便意」が生じることもあります。

下痢型と便秘型だけではない症状の多様性

IBSというと下痢型や便秘型が注目されがちですが、実際にはその中間や移行型の症状を示す患者さんが多いです。

普通便から下痢へ移行するパターンは、厳密な分類が難しいケースも多く、その日の体調や食事、ストレスレベルによって症状が変化します。

この症状の背景には、「便塞栓(べんそくせん)」と呼ばれる状態が隠れていることがあります。直腸付近に硬い便の塊が蓋をしており、その隙間から液状の便だけが漏れ出してくる現象です。

これを下痢と勘違いして下痢止めを服用すると、原因となっている硬い便がさらに硬くなり、症状が悪化するという悪循環に陥ります。

ガス型や粘液排出を伴うケースの識別

IBSでは便通異常だけでなく、お腹の張りやガスの多さに悩まされることもあり、ガス型と呼ぶことがありますが、医学的にはIBSの症状の一部です。

腸内で異常発酵が起き、大量のガスが発生すると、その圧力が腸壁を刺激して蠕動運動を誘発し、下痢を起こします。

また、便と一緒に粘液(白や透明のゼリー状のもの)が排出することもあり、これは腸の粘膜が炎症を起こしているか、あるいは過剰な刺激から腸壁を守ろうとして分泌が増えているサインです。

普通便の後に粘液混じりの下痢が出る場合は、腸がかなり強いストレスに晒されている状態です。

食事内容と消化不良が招く便の変化

食べたものは直接的に便の質に影響します。特に脂質や特定の糖質の過剰摂取は腸での水分吸収を妨げ、普通便の後に続く下痢を起こす主要な原因となります。自身の腸に合わない食材を把握し、食事内容を見直すことが症状改善の第一歩です。

脂質の過剰摂取が腸に与える負担

脂質は三大栄養素の中でも消化に時間がかかる成分です。揚げ物や霜降り肉、ラーメンなどの脂っこい食事を摂りすぎると、小腸で吸収しきれなかった脂肪分が大腸に流れ込みます。

脂肪酸は大腸の粘膜を刺激し、蠕動運動を過剰に活発にする働きがあり、また、脂肪の消化を助けるために肝臓から分泌される胆汁酸も、大腸に大量に流れ込むと下痢の原因となります。

通常、胆汁酸は小腸の末端で再吸収しますが、脂質の摂取量が多いと再吸収が追いつかず、大腸へ到達し、これが大腸の水分分泌を促し、下痢を起こすのです。

アルコールやカフェインによる刺激と反応

アルコールは腸の蠕動運動を異常に高める作用があり、さらに、糖分を多く含むアルコール飲料は浸透圧性の下痢も起こしやすくなります。

飲酒の翌朝に軟便や下痢になるのは、アルコールそのものの刺激と、水分吸収阻害のダブルパンチによるものです。

カフェインも同様に、消化管の運動を刺激する作用があります。コーヒーを飲むと便意をもよおすのはこのためですが、過敏な腸を持つ人の場合、これが過剰な刺激となり下痢につながります。

食材成分と腸への影響

成分・食品群腸への作用とメカニズム注意すべき食品例
高脂肪食品消化しきれない脂肪酸や胆汁酸が大腸を刺激し、水分分泌と蠕動運動を促進させる。カルビ、天ぷら、生クリーム、バラ肉、ラーメンのスープ
発酵性糖質(FODMAP)小腸で吸収されにくく、大腸で急速に発酵してガスを発生させ、水分を引き込む。小麦(パン・パスタ)、玉ねぎ、牛乳、豆類、リンゴ
不溶性食物繊維便のカサを増やすが、摂りすぎると腸を物理的に刺激し、敏感な腸では下痢を悪化させる。ごぼう、玄米、たけのこ、きのこ類

朝食後のコーヒーが、普通便の後の下痢の引き金になっているケースも少なくありません。嗜好品は、適量であれば楽しみの一部ですが、腸の調子が悪い時は控えましょう。

糖質の消化不良と発酵によるガスの発生

近年注目されているのが「FODMAP(フォドマップ)」と呼ばれる発酵性の糖質で、小腸で吸収されにくく、そのまま大腸に到達します。

大腸内の細菌がこれらを餌にして急速に発酵し、多量のガスを発生させ、同時に、糖質が水分を腸内に引き込むため、便が緩くなります。

小麦に含まれるフルクタンや、乳製品に含まれる乳糖などがこれに該当し、「体に良い」と思って食べているヨーグルトや納豆が、特定の人の腸には合わず、ガスや下痢の原因になっていることもあるのです。

普通便が出た後にガスと共に下痢が出る場合、直前の食事に含まれていたFODMAPが影響している可能性があります。

食物繊維の摂り方が便の硬さに及ぼす作用

便秘解消に良いとされる食物繊維ですが、種類と摂り方を間違えると逆効果になります。食物繊維には水に溶ける「水溶性」と、溶けない「不溶性」があります。

不溶性食物繊維は便のカサを増やし腸を刺激して排便を促しますが、痙攣性の便秘や下痢を繰り返している腸には刺激が強すぎることがあります。

過敏になっている腸に対して不溶性食物繊維を大量に送り込むと、腸がびっくりして過剰に動き出し、下痢を誘発します。

普通便の後に下痢になるタイプの人は、海藻や果物などに含まれる水溶性食物繊維を中心に摂取し、便を柔らかくしてスムーズな排出を目指すのが理想です。

感染性腸炎や食中毒による急激な変化

ウイルスや細菌による感染性腸炎は、突然の発症が特徴ですが、初期段階では通常の便が出た後に急激に症状が悪化するケースがあります。体内の異物を排出しようとする防御反応が働くため、経過を冷静に観察し、脱水症状を防ぐ対策が重要です。

ウイルスや細菌が引き起こす腸管への刺激

ノロウイルスやロタウイルス、あるいはサルモネラ菌やカンピロバクターなどの病原体が体内に侵入すると、腸管の粘膜に付着・増殖し、炎症を起こします。

腸管は病原体が産生する毒素を感知すると、一刻も早く体外へ排出しようと激しく活動を開始します。

また、炎症によって腸の粘膜がダメージを受けると、水分を吸収する機能が著しく低下し、さらに炎症部位から滲出液(しんしゅつえき)が分泌するため、腸内の水分量が爆発的に増加します。

初期症状としての普通便と続く水様便

食中毒やウイルス性腸炎にかかった時、最初から水のような便が出るとは限りません。直腸にたまっていた便は感染の影響を受ける前に形成されているため、最初は普通の硬さの便が出ます。

感染性腸炎の進行と症状リスト

  • 初期は腹部の違和感や軽いグルグル音から始まり、通常の排便が見られることがある
  • 排便後も腹痛が治まらず、次第に便が泥状から完全な水様便へと変化する
  • 体内から病原体を出し切るまで、自分の意思とは無関係に激しい排便反射が繰り返す
  • 下痢に加えて、嘔吐、発熱、悪寒、倦怠感などの全身症状が併発する
  • 重度の場合、便に血液や粘液が混入し、激しい腹痛(渋り腹)を伴う

排出された直後、上部から病原体を含んだ大量の水分が押し寄せてきて、この「普通便→水様便」の流れは、感染の初期サインとして重要です。

トイレを出たばかりなのに、すぐにまた強い便意に襲われ、今度は水のような便が出る場合は、感染性の疾患を疑うべきです。

この時、無理に下痢止めを使って排便を止めてはいけません。下痢止めを使うと、原因となるウイルスや細菌を体内に閉じ込めてしまい、かえって症状を長引かせたり重症化させたりするリスクがあります。

発熱や嘔吐を伴う場合の危険信号

単なる食べ過ぎや冷えによる下痢と、感染性腸炎を見分けるポイントは、発熱や嘔吐などの全身症状の有無です。37.5度以上の発熱や、吐き気を伴う場合は感染症の可能性が高いと考えます。

特に高齢者や乳幼児の場合、急激な下痢と嘔吐は脱水症状を招きやすく、命に関わることもあります。

口の渇き、尿量の減少、皮膚の乾燥などのサインが見られたら、経口補水液などで水分と電解質を補給し、速やかに医療機関を受診することが必要です。

血便が出た場合も緊急性が高いサインで、O-157などの出血性大腸菌感染症の可能性もあるため、自己判断せず直ちに医師の診察を受けてください。

大腸疾患の初期症状としての可能性

便通の変化は、時に大腸がんや炎症性腸疾患などの重大な病気のサインとなります。特に「普通便の後に下痢」というパターンが長期間続く場合は単なる体質の問題として片付けず、器質的な疾患の可能性を考慮して検査を受けることが大切です。

大腸ポリープや大腸がんが隠れているリスク

大腸がんや大きなポリープができると、腸管の内腔が狭くなり、完全に塞がっていなくても、便が通過しにくくなるため、通過障害が起きます。

狭くなった部分を通過するために、体は便を柔らかくしようと水分を多く分泌したり、腸が強く収縮して無理やり押し出そうとしたりします。

その結果、細くなった便や、便秘と下痢を繰り返す症状が現れます。普通便が出た後に下痢が出る場合、ポリープやがんが腸の動きを物理的に阻害し、反動で溜まっていた液状便が噴出している可能性も否定できません。

S状結腸や直腸に病変がある場合、排便のリズムに直接的な影響が出やすくなります。血便が見られなくても、便通異常だけでがんが発見されるケースはあるため、40歳を過ぎたら定期的な内視鏡検査を受けることが重要です。

疾患別の便の特徴と警戒レベル

疑われる疾患便の特徴と排便パターン警戒レベルと対応
大腸がん(直腸・S状結腸)便が細くなる、残便感がある、便に血が混じる、便秘と下痢の繰り返し。【高】 早期に大腸内視鏡検査が必要。血便がなくても要注意。
潰瘍性大腸炎粘液と血液が混じった粘血便、激しい下痢、腹痛、発熱。【高】 専門医による治療が必須。放置すると重症化する。
クローン病泥状〜水様の下痢が続く、腹痛、体重減少、肛門のトラブル(痔ろうなど)。【中〜高】 消化管全体の検査が必要。若年層にも多い。
虚血性大腸炎突然の腹痛の後に鮮血便が出る。最初は普通便のこともある。【中】 腸の血流障害。安静と絶食が必要な場合が多い。

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)の疑い

潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(IBD)は、近年増加傾向にあり、このような病気では、腸の粘膜に慢性的な炎症や潰瘍が生じ、水分吸収機能が低下すると共に、炎症による滲出液が増加します。

潰瘍性大腸炎は直腸から炎症が始まることが多いため、排便の回数が増え、トイレに行ってもすぐに行きたくなる「渋り腹(テネスムス)」が特徴的です。

普通便が出たと思っても、その後に粘液や血液の混じった下痢が続く場合は、この病気の可能性を疑います。

虚血性大腸炎における血流障害と便状

虚血性大腸炎は、大腸への血液の流れが悪くなり、粘膜が虚血状態(酸欠状態)になって炎症や潰瘍ができる病気です。

便秘がちな高齢者に多く見られますが、動脈硬化のリスクがある人や、強くいきんだ後にも発症することがあり、典型的な症状は、左下腹部の突然の激痛と、その後の下痢・血便です。

発症のきっかけとして、硬い便を排出しようといきんだ際に腸管内圧が上がり、血流が一時的に途絶えることがあるため、最初に硬い便が出て、その直後に血流障害による炎症性の下痢や血便が続くという経過をたどることがあります。

多くの場合は一過性で、安静にしていれば治癒しますが、稀に壊死型という重篤な状態になることもあります。急激な腹痛を伴う便通異常は、ためらわず救急受診してください。

生活習慣と排便リズムの乱れ

規則正しい排便は、規則正しい生活から生まれ、睡眠、運動、食事のタイミングなど、日々の生活習慣の乱れはダイレクトに腸の機能に反映されます。

薬に頼る前に、まずは自身のライフスタイルを見直し、腸が働きやすい環境を整えることが解決への近道です。

睡眠不足が自律神経と排便に及ぼす作用

腸は「第二の脳」とも呼ばれ、睡眠中に活発に動き、翌朝の排便の準備を整えますが、睡眠不足が続くと自律神経の回復が追いつかず、交感神経が優位な状態が続きます。

その影響で腸の動きが停滞したり、逆に過敏になったりするので、十分な睡眠時間を確保することは、腸のゴールデンタイムを守ることです。

生活習慣改善と腸へのメリット

改善すべき習慣腸へのポジティブな効果具体的なアクション
睡眠時間の確保副交感神経を優位にし、腸の正常な蠕動運動と修復を促進する。就寝2時間前のスマホ断ち、7時間程度の睡眠確保。
適度な運動腹筋を鍛えて排便力を高め、腸への血流を良くして動きを活性化する。ウォーキング、スクワット、腸もみマッサージ。
朝食の摂取胃に食べ物が入る刺激で大腸が動き出す「胃結腸反射」を誘発する。コップ1杯の水と、バナナやヨーグルトなど軽いものでも口にする。

運動不足による腸の働きの低下

運動不足は腹筋の筋力低下を招きます。排便には腸の動きだけでなく、腹圧をかけて便を押し出す力が必要です。腹筋が弱いと、便を十分に押し出しきれず、残便感が生じやすくなります。

残った便が後から刺激となって下痢を誘発することもあり、また、体を動かすことは腸への物理的な刺激となり、蠕動運動を助けます。

デスクワークなどで長時間座りっぱなしの生活をしていると、腸が圧迫され続け、動きが鈍くなります。ウォーキングやストレッチなど、軽い運動を習慣にすることで、腸の動きをサポートすることができます。

朝食の欠食が招く胃結腸反射の弱まり

体には、空っぽの胃に食べ物が入ると、刺激が大腸に伝わって便を送り出す「胃結腸反射」という仕組みが備わっていて、朝食時に最も強く起こります。

朝食を抜くと、この絶好の排便チャンスを逃すことになり、反射が弱いと、便を直腸まで運びきれず、途中で停滞します。

その後、昼食や夕食の刺激、あるいはストレスなどが加わったタイミングで、停滞していた便と緩い便が不規則に排出することになります。

医師に相談すべき症状と受診の目安

便通異常はありふれた症状ですが、その中には治療が必要な病気が潜んでいることがあるので、放置せず危険なサインを見逃さないことが大切です。以下の症状に当てはまる場合は、消化器内科や胃腸科の受診を強く推奨します。

血便や粘血便が見られる場合の緊急性

便に血が混じっている場合、それは消化管のどこかで出血が起きている証拠です。鮮やかな赤色の血なら直腸や肛門、黒っぽいタール状の便なら胃や十二指腸からの出血が疑われます。

痔だと思って放置していたら、実は直腸がんだったというケースは後を絶ちません。粘液と血が混ざった粘血便は、炎症性腸疾患の特徴的な症状です。

出血量に関わらず、目に見える血液があった時点で、早急に検査を受ける必要があります。

体重減少や腹痛が続く時の注意点

ダイエットをしていないのに体重が減っていく、食欲がない、微熱が続くといった症状は、体に慢性的な炎症があるか、がんなどの消耗性疾患が存在する可能性を示唆します。

また、夜も眠れないほどの腹痛や、排便しても治まらない痛みがある場合も要注意です。

便通異常に加えて、全身症状が見られる場合は、腸だけの問題ではなく全身に関わる病気の可能性も視野に入れて検査を行う必要があります。

受診推奨度チェックリスト

症状・状況受診推奨度考えられる対応
便に血が混じる、便が黒い【至急】大腸内視鏡検査、胃カメラ検査
激しい腹痛、嘔吐、発熱がある【至急】血液検査、CT検査、感染症検査
便が細くなった、残便感が続く【高】大腸内視鏡検査、注腸検査
体重減少、食欲不振がある【高】全身のスクリーニング検査
50歳以上で過去に内視鏡検査を受けていない【中】検診としての大腸内視鏡検査

Q&A

診療の現場で患者さんから頻繁に寄せられる疑問について、医学的な観点から回答します。

病院へ行くタイミングはいつが良いですか?

便通の異常が2週間以上続く場合や、生活に支障が出るほどの腹痛や便意切迫がある場合は受診のタイミングです。

また、期間にかかわらず、血便、発熱、嘔吐、急激な体重減少がある場合は、直ちに消化器専門医を受診してください。

市販の下痢止め薬はすぐに使っても良いですか?

感染性腸炎(食中毒など)の可能性がある場合、下痢止めで排便を止めるのは推奨しません。ウイルスや毒素を体内に留めてしまい、症状を悪化させるリスクがあるためです。

過敏性腸症候群と診断されている場合や、明らかに会議や試験などの緊張による下痢と分かっている場合は使用しても構いませんが、原因が不明な状態での長期連用は避け、医師に相談してください。

食事制限はいつまで続ける必要がありますか?

症状が治まってから2〜3日は、消化の良い食事を続けることが大切です。急に脂っこいものや刺激物を食べると、まだ回復していない腸粘膜に負担をかけ、症状がぶり返すことがあります。

おかゆやうどんから始め、徐々に固形の野菜や白身魚などを取り入れ、便の状態を見ながら1週間程度かけて元の食事に戻していくのが理想的です。

ストレスがないのに症状が出るのはなぜですか?

自分ではストレスを感じていなくても、体は気圧の変化、寒暖差、疲労、睡眠不足などをストレスとして認識し、自律神経が反応していることがあります。

また、食事内容(FODMAPや脂質)や、隠れた腸の疾患が原因である可能性もあります。「精神的なもの」と決めつけず、食事や生活習慣、器質的疾患の両面から原因を探ることが重要です。

以上

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この記事を書いた人

Dr.中村文保のアバター Dr.中村文保 医療法人社団心匡会 理事長

金沢消化器内科・内視鏡クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医
日本肝臓学会 肝臓専門医

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