「寝ている間に息が止まっている」と家族に指摘されたり、昼間の強烈な眠気に悩んでいませんか?
病院へ行こうと思ったとき、次に頭をよぎるのは「お金」のことだと思います。
- 「毎月ずっとお金がかかるの?」
- 「高額な機械を買わされるの?」
- 「高そうだから、もう少し様子を見ようかな……」
ご安心ください。睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査・治療は、基本的に健康保険が適用(3割負担など)されます。機械を高額で購入する必要もありません。
この記事では、現役医師監修のもと、「あなたの財布から出ていくリアルな金額(3割負担の場合)」を、診療報酬点数の仕組みに基づいて包み隠さず解説します。
まずは、費用の全体像から見ていきましょう。
【一覧表】睡眠時無呼吸症候群(SAS)にかかる費用の全体像
まずは、初診から治療開始までにかかる費用の総額イメージを把握しましょう。
SASの診療は「初診・検査」のフェーズと、その後の「継続治療」のフェーズに分かれます。
以下は、健康保険(3割負担)を適用した場合の一般的な目安です。
| 診療ステップ | 内容 | 費用の目安(3割負担) | 頻度 |
| 1. 初診 | 問診、レントゲン等の基本検査 | 約 3,000円 〜 4,000円 | 初回のみ |
| 2. 簡易検査 | 自宅で検査機器を装着 | 約 2,700円 〜 3,000円 | 1回 |
| 3. 精密検査(PSG) | 1泊入院して詳しく検査 | 約 30,000円 〜 45,000円 | 1回(必要な場合のみ) |
| 4. 治療(CPAP) | 機器レンタル・診察料込み | 月額 約 4,500円 〜 5,000円 | 毎月 |
【ここがポイント】
SAS治療のスタンダードである「CPAP(シーパップ)療法」は、メガネのように「使い続けることで効果を発揮する」対症療法です。そのため、治療を開始すると毎月約5,000円のランニングコストが発生します。これを「高い」と見るか、健康への「投資」と見るかについては、記事後半で詳しく比較します。
1. 検査にかかる費用(初診料・検査料)
「まずは自分がSASなのかどうか知りたい」という場合、検査の段階によって費用が異なります。いきなり数万円かかるわけではありませんのでご安心ください。
初診時の費用目安
初めて受診する際は、「初診料」に加え、呼吸器の状態を確認するための胸部レントゲンや心電図、血液検査などが行われることが一般的です。
- 費用の目安(3割負担):3,000円 〜 5,000円程度
お財布には5,000円〜1万円ほど入れておくと安心です。
ステップ1:簡易検査(自宅でのスクリーニング)
多くのクリニックでは、まず自宅でできる「簡易検査(パルスオキシメーター等を用いた検査)」を行います。
指先や鼻にセンサーをつけて一晩寝るだけで、血液中の酸素濃度や呼吸の状態を簡易的に調べることができます。
- 費用の目安(3割負担):約 2,700円 〜 3,000円
- (※携帯用睡眠時無呼吸検査判断料などが含まれます)
ステップ2:精密検査(PSG検査)
簡易検査で「SASの疑いあり」となった場合、確定診断のために**「終夜睡眠ポリグラフィー(PSG)検査」を行うことがあります。
これは脳波や呼吸、心電図などを詳細に測るため、多くの場合は「1泊2日の検査入院」**が必要です。
- 費用の目安(3割負担):約 30,000円 〜 45,000円
- 検査料自体は約1万円〜1万5千円程度ですが、ここに**入院基本料、食事代、個室代(差額ベッド代)**などが加算されるため、病院によって総額に幅があります。
- 事前に医療機関へ「入院費込みでいくらくらいかかりますか?」と問い合わせておくことをお勧めします。
2. CPAP(シーパップ)治療の月額費用
SASと診断され、重症度(AHIなどの数値)が基準を満たした場合、保険適用でのCPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)が始まります。
ここからは、毎月継続してかかる費用について解説します。
「機械はレンタル」が基本です
CPAP装置は非常に高額な医療機器(数十万円クラス)ですが、保険診療では「レンタル」という形で使用するのが基本です。
これには以下のメリットがあります。
- 初期費用がかからない: 高額な本体を買わなくて済む。
- メンテナンス保証: 故障時の交換や、消耗品(マスクやホース)の定期交換が管理料に含まれる。
- データ管理: 毎日の睡眠データがクラウド等を通じて主治医に共有され、適切な指導が受けられる。
【明細公開】月額約4,000〜5,000円の根拠
「毎月どれくらいお金がかかるのか?」を、診療報酬点数に基づいて分解してみましょう。
ここでは、月に1回対面受診をしてCPAP管理を行うケース(3割負担)を例にします。
▼ 1ヶ月あたりの診療報酬点数(代表例)
- 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料2:250点
- 在宅持続陽圧呼吸療法用治療器加算(CPAP本体レンタル):960点
- 在宅持続陽圧呼吸療法材料加算(マスク・ホースなど):100点
- 再診料・外来管理加算:約130点(75点+52点)
合計点数:およそ 1,440点
(厳密には 1,437点)
1点10円換算なので、医療費総額は 約14,400円。
▼ 窓口での支払額(3割負担)
4,300円
【費用の内訳について】
支払いのうち7〜8割程度を占めているのは、実は「指導料」ではなく
- CPAP本体のレンタルに対する治療器加算(960点)と、
- マスクやホースなどの材料加算(100点)
といった機器関連の費用です。
クリニックによっては、
- 再診料の点数差
- 合併症に対する薬剤処方の有無
- 採血や心電図など追加検査
によって多少前後しますが「毎月5,000円札を1枚用意しておけば、だいたいお釣りがくる」程度が相場と考えていただいて問題ありません。
毎月の通院は必須?
「機械を借りているだけなのに、なぜ毎月病院に行かないといけないの?」と思われるかもしれません。
保険適用でこの治療を受ける条件として、「定期的な医師の診察と指導を受けること」が国によって定められています。
これを怠ると保険が適用されず、全額自己負担(10割負担)になってしまったり、機器を返却しなければならなくなります。
忙しい方のために、最近では数ヶ月に1回の対面診療で済むケースや、オンライン診療に対応したクリニックも増えています。
3. 「治療費」対「放置リスク」のコスト比較
「毎月5,000円、年間6万円……」
この金額だけを見ると、ためらってしまう気持ちもよく分かります。
しかし、SASは単に「いびきがうるさい」だけの病気ではありません。治療費を惜しんで放置した場合、将来的に発生するリスク(損害額)は、治療費の比ではありません。
命と財布を守るための「投資」と考える
医学的なデータに基づくと、SASを未治療で放置することは、以下の重大な疾患リスクを跳ね上げます。
- 脳卒中(脳梗塞・脳出血): リスク約 3〜4倍
- 心筋梗塞・狭心症: リスク約 2〜3倍
- 高血圧: リスク約 2倍
もしこれらの疾患を発症すれば、入院費や手術費で数十万円〜数百万円がかかるだけでなく、後遺症により**「働けなくなる(収入が途絶える)」**という最悪のケースも想定されます。
交通事故による賠償リスク
SAS特有の「居眠り運転」による事故リスクは、健常者の約7倍と言われています。
万が一、人身事故を起こしてしまった場合の賠償額や社会的信用の失墜は、計り知れません。
【比較の結論】
- 治療プラン: 月額 約5,000円(安心と健康を買う)
- 放置プラン: 脳卒中や事故のリスク数倍(数百万円〜数千万円の損害リスク)
どちらが経済的に「賢い選択」であるかは明白です。
4. 費用を抑えるための制度(医療費控除など)
継続的な治療が必要だからこそ、国が用意している負担軽減制度を賢く利用しましょう。
① 医療費控除(確定申告)
CPAP治療を続けると、年間で約6万円の医療費がかかります。
これに、歯科や眼科など**「家族全員分の医療費」を合算し、年間10万円(総所得200万円未満の方は所得の5%)を超えた場合、確定申告を行うことで税金の一部が戻ってきます。
- CPAP治療費(年間約6万円)
- 家族の治療費
- 通院のための交通費(電車・バス代も対象)
- → 意外とすぐに10万円を超えます。領収書は捨てずに保管しましょう。
② 高額療養費制度(検査入院時)
検査入院(PSG検査)で、もし他の手術や治療が重なり、ひと月の自己負担額が高額になった場合は「高額療養費制度」が使えます。
一般的な所得の方であれば、月額8万円〜9万円程度が自己負担の上限となり、超過分は払い戻されます。
(※CPAP治療のみの月額5,000円程度では対象外ですが、入院検査時には頭に入れておきましょう)
よくある質問(Q&A)
患者様からよくいただく、費用に関する疑問にお答えします。
Q1. CPAPの機械を「購入」して、月々の支払いをなくせませんか?
A. 可能ですが、推奨されません。
個人輸入などで購入することは法律上可能ですが、数十万円と高額です。また、購入してしまうと「毎月のデータ解析」や「マスク等の消耗品交換」「機器のメンテナンス」が保険適用外となり、かえって維持費が高くつく場合や、適切な治療管理ができなくなるリスクがあります。
Q2. 治療はいつまで続きますか?費用は一生かかりますか?
A. 根本治療ではないため、継続が必要です。
CPAPは視力矯正のメガネと同じで、「使っている間だけ状態を良くする」対症療法です。基本的には継続が必要ですが、ダイエット(減量)に成功して無呼吸が改善すれば、医師の判断で治療を卒業(終了)できるケースもあります。
Q3. 生命保険の「給付金」は出ますか?
A. 契約内容によりますが、検査入院は対象になることが多いです。
1泊2日のPSG検査入院は、「入院給付金」の対象となる生命保険(医療保険)が多いです。日帰り手術(アデノイド切除など)も対象となる場合がありますので、加入している保険会社に確認することをお勧めします。
まとめ:早期発見は「経済的」にもメリットが大きい
最後までお読みいただきありがとうございます。
睡眠時無呼吸症候群の費用について、不安は解消されましたでしょうか。
- 検査費用: 簡易検査なら約3,000円。
- 治療費用: CPAPなら月額約5,000円(3割負担)。
- 考え方: この金額は、脳卒中や事故を防ぐための「必要経費」です。
「高いから」と受診を先延ばしにしている間に、心臓や血管への負担は毎日蓄積しています。
もし、日中の眠気やいびきでお悩みなら、まずは数千円で済む「初診・簡易検査」だけでも受けてみてください。
その一歩が、あなたとご家族の未来を守ることにつながります。
次に読むことをおすすめする記事
【睡眠時無呼吸症候群の検査とは?費用や自宅での流れを解説】
検査やCPAPの費用感がつかめたら、次は実際の検査がどのように行われるのかを知っておくと安心です。自宅での簡易検査から1泊入院のPSG検査まで、当日の流れや準備を具体的にイメージしやすい内容になっています。
【睡眠時無呼吸症候群の合併症|高血圧・脳卒中や突然死のリスク】
SASの費用について理解が深まると、『治療しないとどこまで危険なのか』という点が気になる方も多いようです。高血圧・脳卒中・心不全・突然死など、全身に及ぶリスクを整理し、治療を続ける意味をより立体的にイメージできる内容です。
参考文献
本記事は、以下の医学的エビデンスおよびガイドラインに基づき執筆されています。
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン 2020
- 編集: 日本呼吸器学会・日本呼吸器学会睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン作成委員会
- 発行: 南江堂, 2020年
- Positive Airway Pressure Adherence, Mortality, and Cardiovascular Events in Patients with Sleep Apnea
- 著者: C Gervès-Pinquié, et al.
- 掲載誌: American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, 2022
- Effect of CPAP Treatment on Cardiovascular Outcomes: A Real-World Study
- 著者: J de Batlle, et al.
- 掲載誌: Archivos de Bronconeumología, 2024
- The impact of continuous positive airway pressure therapy on cardiovascular events in patients with obstructive sleep apnoea: an updated systematic review and meta-analysis
- 著者: G Feng, et al.
- 掲載誌: Sleep & Breathing, 2024
- Adherence to CPAP Treatment and the Risk of Recurrent Cardiovascular Events: A Meta-Analysis
- 著者: Manuel Sánchez-de-la-Torre, et al.
- 掲載誌: JAMA Network Open, 2023
この記事の監修者
医療法人社団心匡会 理事長 中村 文保
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本消化器内視鏡学会 専門医
- 日本肝臓学会 肝臓専門医
当院は、金沢・野々市・白山市の皆様に信頼される「地域のかかりつけ医」として、専門性の高い医療を提供しています。睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合は、放置せずにご相談ください。
