「家族から『いびきがうるさい』『寝ている時に息が止まっている』と言われた」 「しっかり寝ているはずなのに、日中どうしても眠気が取れない」
このような症状でお悩みではありませんか? それは単なる疲れや体質ではなく、睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome) という病気のサインかもしれません。
「検査ってどんなことをするの?」「入院が必要なの?」「痛くないの?」といった不安を感じている方のために、この記事ではSASの検査内容や流れ、費用感について、消化器・内科専門医が医学的根拠に基づいてわかりやすく解説します。
その眠気といびき、実は「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」かも?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、睡眠中に何度も呼吸が止まったり(無呼吸)、浅くなったり(低呼吸)して、体内の酸素が不足してしまう病気です。
自分ではぐっすり眠っているつもりでも、脳や体は酸欠状態によるストレスを感じ続け、十分な休息が取れていません。まずは以下のチェックリストで、ご自身の状態を確認してみましょう。
【SASセルフチェックリスト】
- 大きないびきをかくと指摘される(特に途中で音が止まり、その後「ガガッ」と再開する)
- 睡眠中に呼吸が止まっていると言われたことがある
- 夜中、何度もトイレに起きる(夜間頻尿)
- 起床時に頭痛や口の渇きがある
- 日中、仕事や運転中に強烈な眠気に襲われる
- 集中力が続かず、倦怠感が取れない
これらに複数当てはまる場合、SASの可能性が疑われます。
特に、「いびきが止まってから、あえぐように呼吸を再開する」パターンは、閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSAS)の典型的な特徴です。気道(空気の通り道)が舌や脂肪で塞がれてしまうことで起こります。
【重要】 いびきは「よく寝ている証拠」ではありません。「気道が狭くなって苦しがっているサイン」と捉え、早めに検査を検討することが大切です。

睡眠時無呼吸症候群の検査は主に2種類【簡易検査と精密検査】
「検査」と聞くと大掛かりなものを想像されるかもしれませんが、SASの検査は痛みもなく、まずは自宅で手軽に行えるものが一般的です。主に以下の2つの段階があります。

1. 自宅でできる「簡易検査(スクリーニング検査)」
最初に行うのがこの検査です。医療機関から貸し出される小さな検査機器を自宅に持ち帰り、寝る時に装着してデータを取ります。
- 測定するもの:
- SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度): 指先にセンサーを付け、血液中の酸素濃度を測ります。
- 呼吸気流: 鼻の下に細いチューブ状のセンサー(カニューラ)を付け、呼吸の有無を見ます。
- いびき・体位: 機器本体のセンサーで感知します。
- メリット: いつものベッドで寝ながら検査ができ、負担が少ないです。
- デメリット: 脳波を測らないため、実際に「眠っているか」までは正確に判別できず、重症度の判定に限界がある場合があります。
2. 確定診断のための「精密検査(PSG検査)」
簡易検査でSASの疑いが高い場合や、より詳しい診断が必要な場合に行うのがPSG(ポリソムノグラフィー)検査です。SAS診断の「ゴールドスタンダード(標準基準)」とされています。
- 測定するもの:
- 簡易検査の項目に加え、脳波、眼球運動(レム睡眠・ノンレム睡眠の判定)、筋電図(あごの動き)、心電図、胸と腹の動きなどを総合的に測定します。
- 特徴: 睡眠の「質」や「深さ」まで正確に把握できます。従来は1泊入院が必須でしたが、最近では技術の進歩により、機器を借りて自宅で実施できる在宅PSG検査に対応する医療機関も増えています。
【重要】 どちらの検査も、体にセンサーを貼り付けるだけです。針を刺したり、痛みを感じたりすることは一切ありませんのでご安心ください。
検査から診断までの流れ:痛くない?入院は必要?
実際の受診から治療決定までのフローを解説します。クリニックによって細かな違いはありますが、一般的な流れは以下の通りです。
ステップ1:問診と診察
まずは医師が症状を伺います。日中の眠気の程度を測るために「ESS(エプワース眠気尺度)」という問診票などがよく使われます。また、喉の奥の形状や扁桃腺の大きさなどを視診し、気道が狭くなりやすい形態かどうかを確認します。
ステップ2:簡易検査の実施(自宅)
問診で疑いがあれば、簡易検査キットの手配を行います。
- 機器の受け取り: クリニックで直接受け取るか、検査会社から自宅へ郵送されます。
- 検査実施: 就寝前に自分でセンサーを装着し、一晩〜二晩記録します。
- 機器の返却: 指定の方法で返却します。
ステップ3:検査結果の判定(AHIの確認)
検査結果が出たら、医師から説明を受けます。ここで重要になるのが**AHI(無呼吸低呼吸指数)**という数値です。
用語解説:AHI(Apnea Hypopnea Index) 睡眠1時間あたりに、10秒以上の無呼吸・低呼吸が何回起きたかを示す数値。
- 5〜15回未満: 軽症
- 15〜30回未満: 中等症
- 30回以上: 重症
ステップ4:必要に応じて精密検査(PSG)へ
簡易検査の結果、AHIが40以上などで症状も明らかな場合は、そのまま治療(CPAP療法など)へ進むこともあります(※保険適用の基準によります)。 診断が確定しきれない場合(AHIが中等度の場合など)は、より正確なPSG検査(入院または在宅)を行い、確定診断を下します。
【重要】 「入院が必要か」は検査の種類と医療機関の設備によります。仕事が忙しく入院が難しい方は、「在宅PSG」や「1泊入院(夕方入院・早朝退院)」に対応しているクリニックを選ぶと良いでしょう。
検査にかかる費用と期間の目安
「検査を受けたいけれど、費用が高そう」と心配される方も多いでしょう。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査は、原則として健康保険が適用されます。以下は、3割負担の方の一般的な自己負担額の目安です。
費用の目安(保険適用・3割負担)
| 項目 | 費用の目安 | 備考 |
| 1. 初診料・診察代 | 約1,000円〜3,000円 | 病院の規模や処方内容による |
| 2. 簡易検査(自宅) | 約3,000円 前後 | 検査判断料含む |
| 3. PSG検査(1泊入院) | 約30,000円〜40,000円 | 入院基本料・個室代により変動あり |
| 4. PSG検査(在宅) | 約10,000円〜15,000円 | 実施している医療機関は限られる |
- 1割負担の方は、上記金額の約3分の1と考えてください。
- 入院PSGの場合: 食事代や個室ベッド代(差額ベッド代)が別途かかる場合があります。事前にクリニックへ「総額でいくらくらいか」を確認しておくと安心です。
結果が出るまでの期間
- 簡易検査: 機器返却後、約1週間〜2週間程度。
- PSG検査: データの解析に専門的な時間を要するため、約2週間〜3週間程度かかることが一般的です。
なぜ検査が必要なのか?放置するリスクと医学的根拠
「たかがいびき」と放置することは、医学的に見て非常に危険です。 SASは単に眠いだけの病気ではなく、全身の血管や臓器にダメージを与え続ける「死につながる病気」 であることが、近年の多くの研究で証明されています。

1. 心臓・脳血管疾患のリスクが跳ね上がる
睡眠中に呼吸が止まると、体は酸素不足(低酸素血症)になり、心拍数が無理やり上がります。これが毎晩続くことで血管に負担がかかり、以下の病気のリスクが急増します。
- 高血圧: SAS患者の約50%は高血圧を合併しており、特に「薬が効きにくい高血圧(治療抵抗性高血圧)」の原因になります。
- 脳卒中・心筋梗塞: 重症SASを未治療のまま放置すると、心血管イベント(脳梗塞や心不全など)の発症リスクが約3〜4倍になると報告されています。
2. 交通事故のリスクは健常者の2.4倍
SAS特有の「耐え難い日中の眠気」は、居眠り運転の大きな原因です。 医学論文によると、SAS患者は健常者に比べて交通事故を起こすリスクが2.4倍高いというデータがあります。自分だけでなく、周囲の命を巻き込む事故を防ぐためにも、早期の検査・治療は社会的責任とも言えます。
【重要】 「まだ若いから大丈夫」「痩せているから関係ない」は誤解です。日本人などのアジア人は、欧米人に比べてあごが小さく、肥満でなくてもSASになりやすい骨格をしています。
よくある質問(Q&A)
Q1. 痩せている女性でも検査は必要ですか?
A. はい、必要です。 「SAS=太った男性の病気」というイメージがありますが、閉経後の女性や、あごが小さい(小顔の)方は、痩せていても気道が塞がりやすいため注意が必要です。
Q2. 検査は痛いですか?
A. 全く痛みはありません。 簡易検査も精密検査(PSG)も、テープやバンドでセンサーを肌に固定するだけです。注射や切開などは一切行いませんのでご安心ください。
Q3. 治療すればいびきは治りますか?
A. 多くのケースで改善します。 検査でSASと診断された場合、CPAP(シーパップ)療法(鼻から空気を送るマスク)を行うのが一般的です。治療を行ったその日から「いびきが消えた」「朝の目覚めが劇的に良くなった」と実感される方が非常に多いです。
まとめ:自己判断せず、早めの検査で安心を
睡眠時無呼吸症候群は、自分では気づきにくい病気ですが、放置すれば命に関わる合併症を引き起こします。しかし逆に言えば、**「正しく検査し、治療すれば劇的にQOL(生活の質)が改善する病気」**でもあります。
- 家族にいびきを指摘された
- 日中の眠気がつらい
- 朝起きた時に頭が痛い
もし一つでも当てはまるなら、まずは近くの医療機関で、簡易検査について相談してみてください。その一歩が、あなたの将来の健康を守ります。
参考文献
本記事の執筆にあたり、以下の医学的根拠(論文・ガイドライン)を参照・確認いたしました。
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020
- 編集: 日本呼吸器学会・日本睡眠学会
- 発行: 南江堂, 2020年
- The Effects of Obstructive Sleep Apnea on the Cardiovascular System: A Comprehensive Review
- 著者: MV DiCaro, et al.
- 掲載誌: Journal of Clinical Medicine (MDPI), 2024
- Risk of Motor Vehicle Accidents in Obstructive Sleep Apnea: Comparative Analysis of CPAP Versus Surgery
- 著者: EM Sina, et al.
- 掲載誌: Otolaryngol Head Neck Surg, 2025
- Sleep-Disordered Breathing and Hypertension—A Systematic Review
- 著者: A Battisha, et al.
- 掲載誌: Journal of Clinical Medicine (MDPI), 2025
- Prevalence and determinants of high-risk obstructive sleep apnea among hypertensive patients in referral hospitals of the Amhara Region, Northwest Ethiopia, 2022
- 著者: A Battisha, et al.
- 掲載誌: Frontiers in Sleep, 2025
