ご家族から「寝ている間に息が止まっている」と指摘されたことはないでしょうか。もしそのような経験があれば、それは体からの大切なサインかもしれません。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、単に眠りが浅くなるだけの病気ではありません。近年の研究により、適切な治療を行わないまま放置すると、心筋梗塞や脳梗塞といった循環器疾患のリスクが高まることがわかっています。
ただし、早期に発見して適切な治療を受ければ、これらのリスクを軽減できます。この記事では、睡眠時無呼吸症候群がなぜ心臓や脳に影響を及ぼすのか、そのメカニズムと対策についてお伝えします。

なぜ睡眠時無呼吸症候群が心筋梗塞・脳梗塞につながるのか?
睡眠は本来、脳と体を休ませ、日中のダメージを修復する時間です。しかし、睡眠時無呼吸症候群がある方の体内では、睡眠中にも負担がかかり続けています。その主なメカニズムは2つあります。

睡眠中の低酸素状態が血管に与える影響
呼吸が止まると、血液中の酸素濃度が低下します(低酸素血症)。体は酸素を全身に届けようと働きますが、この過程で「酸化ストレス」と呼ばれる作用が生じます
酸化ストレスは、血管の内側にある内皮細胞を傷つけ、動脈硬化(血管が硬く狭くなる状態)の進行につながる可能性があります。
交感神経の活性化と血圧への影響
呼吸が止まって苦しくなると、脳は緊急信号を出し、本来は休んでいるはずの交感神経が活発になります。
交感神経が興奮すると血管が収縮し、血圧が急上昇します(夜間高血圧)。これが一晩に何十回も繰り返されると、心臓や脳の血管に大きな負担がかかります。
こうした「血管へのダメージ」と「血圧の変動」が長期間続くことで、血管が詰まったり破れたりするリスクが高まると考えられています。

心房細動と血栓形成のリスク
睡眠時無呼吸症候群がある方は、不整脈の一種である「心房細動」が起こりやすくなることが知られています。呼吸努力による胸腔内の圧力変化や心臓への負担が重なると、心臓が不規則に動く心房細動を引き起こす場合があります。
心房細動が起こると、心臓の中で血液の流れがよどみ、血栓(血の塊)ができやすくなります。この血栓が脳に運ばれて血管を詰まらせると、「心原性脳塞栓症」と呼ばれる脳梗塞の原因となることがあります。
ただし、これらのリスクは適切な治療によって軽減できます。早めの対応が大切です。

データで見る睡眠時無呼吸症候群と循環器疾患の関係
では、実際にどれくらいリスクが高くなるのでしょうか? 多くの研究で、睡眠時無呼吸症候群と循環器疾患(心臓・血管の病気)には、強い関連があることが証明されています。
健康な人と比較したリスク
日本循環器学会のガイドライン(2023年)などによると、睡眠時無呼吸症候群がある場合、循環器疾患のリスクは以下のように高まる可能性があります。
| 疾患 | リスク倍率(目安) |
|---|---|
| 脳卒中(脳梗塞・脳出血) | 約3〜4倍 |
| 心筋梗塞・狭心症 | 約2〜3倍 |
| 高血圧 | 約2倍 |
| 心房細動 | 約4倍 |
特に、朝起きたときの血圧が高い「早朝高血圧」がある方は、睡眠時無呼吸症候群が隠れている場合があります。

重症度による分類
睡眠時無呼吸症候群の重症度は、1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(AHI:無呼吸低呼吸指数)で判定されます。
| 重症度 | AHI(1時間あたりの回数) |
|---|---|
| 軽症 | 5〜15回 |
| 中等症 | 15〜30回 |
| 重症 | 30回以上 |
重症(AHI 30以上)の場合、治療を受けずに放置すると心血管イベントのリスクが高まるという報告があります。気になる症状がある方は、早めに検査を受けることをお勧めします。
こんな症状があれば要注意|セルフチェックリスト

睡眠中の異常は自分では気づきにくいものですが、体はさまざまなサインを出しています。以下のような症状に当てはまる場合、すでに睡眠時無呼吸症候群が進行している可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群に特徴的ないびき
通常のいびきとは異なり、以下のような特徴がある場合は注意が必要です。
- 隣の部屋まで聞こえるほど音が大きい
- いびきが突然止まり、数秒〜数十秒の静寂のあと、苦しそうに息を吹き返す
体からのサインをチェック
以下の項目に3つ以上当てはまる場合は、医療機関への相談をお勧めします。
- 日中に強い眠気がある(会議中や運転中に眠くなる)
- 起床時に頭痛がある
- 十分に寝ても熟睡感がない
- 夜中に何度もトイレに起きる
- 高血圧や糖尿病の治療中だが、数値が安定しない

検査と治療法|早期発見で健康を守る
「自分も当てはまるかも」と感じた方は、専門の医療機関で検査を受けることをお勧めします。現在は自宅で手軽にできる検査が普及しており、入院の必要がないケースも多くなっています。
自宅でできる簡易検査と精密検査(PSG)
自宅でできる簡易検査と精密検査
睡眠時無呼吸症候群の検査は、主に2段階で進められます。
簡易検査は、指先にセンサーを装着して血液中の酸素濃度や脈拍を記録する方法です。機器はクリニックから貸し出されることが多く、普段通りに自宅で眠りながら検査できます。
精密検査(PSG:ポリソムノグラフィー)は、簡易検査で疑いがあった場合に行います。脳波や呼吸、胸の動きなどを詳しく調べ、診断を確定させます。最近はこの精密検査も自宅で実施できる医療機関が増えています。

治療の柱「CPAP療法」
中等症から重症の睡眠時無呼吸症候群と診断された場合、世界的に標準治療とされているのがCPAP(シーパップ:経鼻的持続陽圧呼吸療法)です。
CPAPは、睡眠中に鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道を広げて無呼吸を防ぐ治療法です。治療を始めた日から「朝の目覚めが変わった」「昼間の眠気がなくなった」と実感される方が多くいらっしゃいます。
軽症の場合は、下あごを前に出す専用のマウスピース(口腔内装置)を使用することもあります。

日常生活でできる予防と対策
治療と並行して、生活習慣の見直しも症状の軽減に役立ちます。
「横向き」で寝る
仰向けで寝ると、舌が喉の奥に落ち込みやすく、気道が狭くなります。抱き枕などを活用して横向きで眠る習慣をつけると、いびきが軽減する場合があります。
適正体重を維持する
肥満は睡眠時無呼吸症候群の主な原因のひとつです。首周りに脂肪がつくと気道が圧迫されます。体重を5〜10%減らすだけでも、無呼吸の回数が減少し、CPAP治療の効果が高まる可能性があります。
就寝前の飲酒を控える
アルコールには喉の筋肉を緩める作用があり、気道の閉塞を悪化させる場合があります。就寝4時間前からの飲酒は控えることをお勧めします。
よくある質問(Q&A)
Q1. 痩せていても睡眠時無呼吸症候群になりますか?
A. なる可能性があります。日本人は欧米人と比べてあごが小さい傾向があり、痩せていても気道が狭くなりやすい骨格の方がいます。体型だけで安心せず、症状があれば検査を受けることをお勧めします。
Q2. CPAP治療はずっと続ける必要がありますか?
A. 基本的には継続が必要です。CPAP療法は、視力が低い方が眼鏡をかけるように、症状をコントロールするための治療です。ただし、減量によって無呼吸が改善した場合や、手術で喉の構造が変わった場合には、治療を終了できることもあります。
Q3. 放置するとどうなりますか?
A. 心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まるほか、日中の眠気による交通事故のリスクも上昇するとされています。ご自身と周囲の安全のためにも、早めの対応をお勧めします。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群は、心臓や脳の血管に負担をかけ、さまざまな循環器疾患のリスクを高める可能性があります。しかし、適切に検査・治療を行えば、これらのリスクを軽減し、健康的な生活を送ることができます。
大きないびきを指摘された、十分に眠っても疲れが取れない、血圧が安定しないといった症状が続く場合は、早めに医療機関への相談をご検討ください。
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【睡眠時無呼吸症候群の治療法|CPAP・マウスピース・費用の解説】
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【睡眠時無呼吸症候群の合併症連鎖。高血圧・糖尿病を招く酸欠の正体】
心筋梗塞や脳梗塞だけでなく、高血圧や糖尿病など他の生活習慣病とのつながりも知っておくと、SASが全身に与える影響を総合的にイメージしやすくなります。合併症がどのように連鎖していくのかを整理したこの記事も、ご参考になれば幸いです。
心血管リスクも含めた睡眠時無呼吸症候群(SAS)の)総合ガイドはこちら
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参考文献
- JCS 2023 Guideline on Diagnosis and Treatment of Sleep Disordered Breathing in Cardiovascular Disease
- 発行元: Japanese Circulation Society (日本循環器学会)
- 発行年: 2023年
- Sleep Apnea Syndrome (SAS) Clinical Practice Guidelines 2020
- 発行元: Japanese Respiratory Society (日本呼吸器学会)
- 発行年: 2020年 (English ver. 2021)
- The Effects of Obstructive Sleep Apnea on the Cardiovascular System: A Comprehensive Review
- 著者: MV DiCaro, et al.
- 掲載誌: Journal of Clinical Medicine, 2024
- Cardiovascular effects of obstructive sleep apnoea and effects of continuous positive airway pressure therapy
- 著者: M Bradicich, et al.
- 掲載誌: ERJ Open Res, 2025
- Effect of CPAP Treatment on Cardiovascular Outcomes: A Meta-Analysis
- 著者: Multiple authors (Systematic Review)
- 掲載誌: Archivos de Bronconeumología, 2024

