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CPAPが辛い方へ|マウスピースや手術という選択肢と適応基準

「毎晩、鼻や口にマスクをつけて寝るのがどうしても苦痛……」

「出張や旅行のたびに、大きな機械を持ち運ぶのが大変……」

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の標準治療であるCPAP(シーパップ)療法。その効果は医学的に確立されていますが、実際に毎日継続することは決して容易ではありません。

「自分にはCPAP以外の治療法はないのだろうか?」

そうお悩みの方へ。実は、症状の重さや喉の形状によっては、口腔内装置(OA)と呼ばれるマウスピースや、外科手術といった選択肢が存在します。

この記事では、現役の医師が、CPAP以外の治療選択肢について、その適応基準やメリット・デメリットを医学的根拠(EBM)に基づいて解説します。あなたに合った「安眠への次の一手」を一緒に探していきましょう。


目次

CPAPが続かない…その悩みはあなただけではありません

まずお伝えしたいのは、「CPAPが辛い」と感じることは、決してあなたの忍耐力が足りないからではないということです。

実際、CPAP療法を開始した患者さんのうち、装着時の違和感や不快感、機械音によるパートナーへの気遣い、あるいは皮膚トラブルなどが原因で、治療を中断してしまうケースは少なくありません。

しかし、治療を自己判断でやめてしまうことが最も危険です。無呼吸状態を放置すれば、心筋梗塞や脳卒中などの重大なリスクが高まるからです。

大切なのは、「CPAPか、無治療か」の二択ではなく、「自分のライフスタイルや病状に合った、継続可能な別の方法」を見つけることです。次章からは、具体的な代替療法について見ていきましょう。


軽度〜中等症に有効な「マウスピース(OA)」療法

CPAPに代わる代表的な治療法として、まず挙げられるのが口腔内装置(OA:Oral Appliance)、いわゆるマウスピースによる治療です。

どうやって無呼吸を防ぐのか?

この装置の最大のポイントは、下顎前方移動(かがくぜんぽういどう)というメカニズムにあります。

寝る時に、下の顎(あご)を数ミリだけ前に出した状態で固定するマウスピースを装着します。下顎が前に出ることで、舌根(舌の付け根)が引き上げられ、喉の奥の気道が物理的に広がり、空気の通り道が確保されるのです。

どんな人に向いている?

主に「軽症から中等症」の睡眠時無呼吸症候群の方が適応となります。

【ポイント】 重症の方でも、CPAPがどうしても使えない場合の「次善の策」として提案されることがあります。

メリットと作成の流れ

最大のメリットは、「電源が不要で持ち運びが楽」「稼働音がしない」ことです。出張が多いビジネスマンや、寝室の音を気にする方に喜ばれています。

ただし、市販のマウスピースでは効果が期待できません。治療用のOAは、専門的な知識を持った医師と歯科医の歯科連携によって作成されます。まずは内科・耳鼻科で診断を受け、紹介状を持って提携歯科医院を受診する必要があります。


睡眠時無呼吸症候群治療用のマウスピース(OA)と気道が広がる仕組みの図解

根本治療を目指す「外科手術」の可能性とリスク

「器具を使わず、体そのものを治したい」と考える方には、外科手術という選択肢が検討されることもあります。

代表的な手術:UPPP

睡眠時無呼吸症候群の手術として古くから行われているのが、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(こうがいすいなんこうがいいんとうけいせいじゅつ:UPPP)です。

これは、肥大した扁桃腺や、長く伸びた口蓋垂(のどちんこ)、その周囲の粘膜の一部を切除・縫合し、喉の空間を物理的に広げる手術です。

手術が適応となるケース

全ての人に手術ができるわけではありません。

  • 扁桃腺が著しく大きい(扁桃肥大)
  • のどちんこ周辺の粘膜が垂れ下がっているなど、閉塞の原因が「喉の形状」にあると明らかに特定できる場合に検討されます。

知っておくべき注意点とリスク

手術は「一度行えば一生安泰」とは限りません。以下の点を理解しておく必要があります。

  • 痛みが強い: 術後数日間は、食事を飲み込むのが辛いほどの痛みを伴うことがあります。
  • 再発のリスク: 加齢による筋肉のたるみや、体重増加によって、再び無呼吸が起こる可能性があります。
  • 合併症: 稀に、鼻に水が逆流しやすくなるなどの後遺症が残ることがあります。

そのため、現在では第一選択としていきなり手術を行うことは少なくなっており、慎重な適応判断が必要です。


治療の土台となる「肥満解消」と生活習慣

どの治療法(CPAP、マウスピース、手術)を選ぶにしても、絶対に避けて通れない「治療の土台」があります。

それが、肥満解消(減量)です。

なぜ「痩せる」だけで無呼吸が治るのか?

医学的には、体重が10%減ると、無呼吸の重症度(AHIスコア)が約26%改善するというデータがあります。

首回りに脂肪がつくと、物理的に気道が圧迫されて狭くなります。さらに、舌自体にも脂肪がつく(舌肥大)ことで、仰向けに寝た際に舌が喉の奥に落ち込みやすくなるのです。

今日からできる「気道を守る」生活習慣

専門的な治療と並行して、以下の習慣を取り入れることで、睡眠の質は確実に変わります。

  • 横向き寝の推奨: 仰向けは重力で舌が落ち込みます。抱き枕などを使い、横向きで寝る癖をつけましょう。
  • 寝酒を控える: アルコールは喉の筋肉を弛緩(ゆるむ)させ、気道の閉塞を悪化させます。「寝つきが良くなる」は誤解です。
  • 夕食は寝る3時間前までに: 胃に物が残っていると、逆流性食道炎を併発し、呼吸が乱れる原因になります。

減量、禁酒、夕食の時間を整える3つの生活習慣ポイント

あなたに最適な治療法を選ぶための基準

「結局、私にはどの治療が合っているの?」

その答えは、あなたの「重症度」と「喉の解剖学的な形状」によって決まります。自己判断せず、以下の目安を参考に主治医と相談してください。

1. 軽症の方(AHI 5〜30未満)

  • マウスピース(OA)
    向いている人: 顎が小さい、少し後ろに下がっている方。出張が多くCPAPの持ち運びが困難な方。
  • 中等症の方はCPAPが第一選択、OAは選択肢の一つ。

2. 重症の方(AHI 30以上)

  • 第一選択: CPAP療法(やはり効果は最強です)
  • どうしてもCPAPが無理な場合: 手術や、マウスピースによる救済的な治療を検討します。

3. 明らかな形態異常がある方

  • 選択肢: 外科手術(UPPP等)
  • 向いている人: 扁桃腺が極端に大きい(扁桃肥大)、のどちんこが長いなど、空気の通り道を物理的に塞いでいる原因が特定できる方。

医師への相談目安

「CPAPをやめたい」と切り出すのは勇気がいるかもしれません。しかし、無理して使って眠れなくなるのは本末転倒です。

「マスクの違和感で眠れない」「出張が多くて継続できない」と正直に伝え、「マウスピースや手術の適応はありませんか?」と具体的に聞いてみることをお勧めします。


よくある質問(Q&A)

Q1. マウスピースは市販のものでも効果がありますか?

A. 効果は期待できません。

ドラッグストア等で売られている「歯ぎしり用」や「いびき防止用」のマウスピースは、単に歯を保護するものであり、気道を広げるための「下顎を前に出す機能」がありません。必ず、専門の歯科医院で作成してください。

Q2. 手術をすれば、薬や通院は不要になりますか?

A. 定期的な経過観察は必要です。

手術で劇的に改善する方もいますが、数年後に再発するケースもあります。また、高血圧などの合併症がある場合は、内科的な管理も継続する必要があります。「手術=完治して終わり」ではないことを理解しておきましょう。

Q3. 痩せればCPAPを卒業できますか?

A. その可能性は十分にあります。

減量によって首回りの脂肪が落ち、再検査でAHI(無呼吸指数)が正常範囲、あるいは軽症レベルまで下がれば、CPAPを卒業できるケースは多々あります。これを目標にダイエットに励む患者さんも多くいらっしゃいます。


まとめ:我慢して使い続ける必要はありません

CPAPは素晴らしい治療法ですが、それが「唯一の答え」ではありません。

マウスピース療法や外科手術、そして何よりあなた自身の生活習慣の改善によって、機械に頼らない快眠を手に入れる道は残されています。

最も大切なのは、「治療自体を諦めないこと」です。

もし今の治療が辛いなら、次回の診察で必ず主治医に相談してください。あなたに合った、もっと楽な方法がきっと見つかります。

症状が改善しない、あるいはCPAPの継続に限界を感じている場合は、早めに専門医へご相談ください。

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参考文献

  1. Effectiveness of Treating Obstructive Sleep Apnea by Surgeries and Continuous Positive Airway Pressure
    • 著者: YC Hsu ,et al.
    • 掲載誌: Journal of Clinical Medicine, 2024
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    • 著者: Y Gao,et al.
    • 掲載誌: Frontiers in Medicine, 2025
  3. Effects of Weight Loss on Obstructive Sleep Apnea Severity (The Sleep AHEAD Study)
    • 著者: Kuna ST ,et al.
    • 掲載誌: American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, 2021
  4. Clinical Practice Guideline for Oral Appliance Therapy for Obstructive Sleep Apnea
    • 著者: Ramar K ,et al.
    • 掲載誌: Journal of Clinical Sleep Medicine
  5. Association Between Weight Loss and Changes in Optimal Positive Airway Pressure Levels
    • 著者: JH Choi ,et al.
    • 掲載誌: Sleep Medicine Research, 2024

この記事の監修者

医療法人社団心匡会 理事長 中村 文保

  • 日本内科学会 総合内科専門医
  • 日本消化器病学会 消化器病専門医
  • 日本消化器内視鏡学会 専門医
  • 日本肝臓学会 肝臓専門医

当院は、金沢・野々市・白山市の皆様に信頼される「地域のかかりつけ医」として、専門性の高い医療を提供しています。

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この記事を書いた人

Dr.中村文保のアバター Dr.中村文保 医療法人社団心匡会 理事長

金沢消化器内科・内視鏡クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医
日本肝臓学会 肝臓専門医

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