「夜中に急に心臓がバクバクして目が覚める」「不整脈なのか、無呼吸のせいなのか分からない」「このまま眠っている間に突然死しないだろうか」
睡眠中の動悸は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)と心房細動(AF)という2つの病気が深く関わっている場合があります。近年の研究では、睡眠時無呼吸症候群の患者さんの約8割に心房細動が合併しているという報告もあり、両者の関連性は医学的に注目されています。
この記事では、夜間動悸のメカニズムから、自律神経との関係、夜間突然死のリスク、受診の目安まで解説します。適切に対処すれば多くの場合コントロールが可能ですので、まずは正しい知識を身につけましょう。
夜中に心臓がバクバク…それは「夜間動悸」かもしれません
夜中にふと目が覚め、心臓がドキドキと激しく脈打っている——これは「夜間動悸」と呼ばれる症状です。
夜間動悸の主な原因には、心房細動(AF)、睡眠時無呼吸症候群(SAS)、自律神経の乱れ、カフェイン・アルコール摂取などがあります。とくに「脈が速いだけでなくリズムがバラバラ」「息苦しさを伴う」「いびきをかくと言われている」という場合は、心房細動と睡眠時無呼吸症候群の両方が関わっている可能性があります。
よくある相談パターンとして、「家族からいびきが止まったあとにガバッと起きると言われる」「日中も眠いし血圧が高い」「健診で不整脈を指摘されたが自覚症状がない」などがあります。こうした症状の組み合わせは、両疾患の合併を示唆することがあります。
日本循環器学会の2023年ガイドラインでは、心房細動の患者さんには睡眠時無呼吸のスクリーニング検査を行うことが強く推奨されています。
睡眠時無呼吸症候群が心房細動を引き起こすメカニズム

睡眠時無呼吸症候群と心房細動は深いつながりがあります。カテーテルアブレーション治療を受ける心房細動患者さんを対象とした研究では、約88%に睡眠時無呼吸が合併していたと報告されています。
「自律神経嵐」が心臓を乱す
睡眠時無呼吸では、呼吸が止まるたびに体内で劇的な変化が起こります。無呼吸により血液中の酸素が低下すると、脳が危機を感知して交感神経が急激に活性化し、血圧が急上昇して心臓に大きな負担がかかります。呼吸再開で覚醒すると、今度は副交感神経が反動で急激に変化します。このサイクルが一晩に数十回繰り返されます。
この交感神経と副交感神経の激しい切り替わりを「自律神経嵐」とも呼び、心房の電気的安定性を乱して心房細動を誘発しやすくなることが基礎研究で示されています。
睡眠時無呼吸が心房細動を引き起こす要因は主に3つあります。第一に自律神経の不均衡で、無呼吸のたびに交感神経が過剰に活性化し心房の不応期が短縮します。第二に胸腔内圧の変動で、無呼吸中の呼吸努力により心房が引き伸ばされます。第三に慢性的な間欠性低酸素で、繰り返す低酸素により炎症や線維化が進み心房がリモデリングされます。
【重要】 睡眠時無呼吸を適切に治療すると、心房細動の再発率が約30%減少するという研究報告があります。
見過ごせない「夜間突然死」のリスク

「眠っている間に突然死するのではないか」という不安は、医学的な根拠がないわけではありません。
一般的に心臓が原因の突然死は午前6時から正午にかけて最も多く、深夜0時から6時は最も少ない時間帯です。しかし睡眠時無呼吸症候群の患者さんでは、この傾向が逆転します。
米国の研究(Gami AS et al., NEJM 2005)によると、睡眠時無呼吸患者では心臓突然死の46%が深夜0時〜午前6時に発生しており、一般人口の16%と比べて明らかに高い数値でした。
夜間にリスクが高まる理由として、無呼吸のたびに血圧が急上昇・急降下すること、低酸素と自律神経の乱れにより危険な不整脈が起こりやすくなること、心臓への酸素供給が低下することが挙げられます。
ただし、睡眠中に呼吸が止まっても、それだけで直接命に関わることは通常ありません。脳が危機を感知して呼吸は再開します。問題は、こうした負担が毎晩繰り返されることで長期的に心臓や血管にダメージが蓄積することです。
重症の睡眠時無呼吸症候群を未治療で放置した場合、心血管イベントによる死亡リスクが健康な人の約2〜3倍に上昇するとの報告があります。「たかがいびき」と軽視せず、専門の医療機関での評価をお勧めします。
心房細動が招く最大の合併症「脳梗塞」

心房細動は放置すると重大な合併症を引き起こす可能性があります。その最たるものが「心原性脳塞栓症」です。
心房細動がある方は、ない方と比べて脳梗塞を発症するリスクが約5倍高いことが知られています。日本では脳梗塞の原因の20〜30%が心房細動によるものとされています。
心房細動では心房が正常に収縮せず「細かく震える」状態になります。すると心房内で血液の流れが滞り、血栓(血の塊)ができやすくなります。この血栓が血流に乗って脳の血管に運ばれると、脳梗塞を発症します。
とくに心房細動による脳梗塞は他のタイプより重症化しやすいという特徴があります。心房内でできる血栓が大きく、脳の太い血管を詰まらせやすいためです。
心房細動には動悸などの症状がはっきり出る方と、ほとんど自覚症状がない方がいます。しかし症状の有無にかかわらず、脳梗塞のリスクは同程度であることが分かっています。
【重要】 心房細動と診断された場合、医師は脳梗塞予防のために抗凝固薬の服用を検討します。自己判断で薬を中断せず、主治医と相談しながら継続することが大切です。
検査と治療の選択肢
主な検査
睡眠時無呼吸症候群の検査には、自宅で行う簡易検査と、入院して脳波・呼吸・心電図などを総合的に測定する終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)があります。無呼吸低呼吸指数(AHI)が5回以上で症状があれば診断されます。
心房細動の検査には、心電図、24時間以上記録するホルター心電図、心臓の動きや血栓の有無を確認する心エコー(超音波検査)があります。
主な治療法
睡眠時無呼吸症候群の治療では、CPAP療法(鼻にマスクをつけ空気を送り込んで気道を広げる)が中等症〜重症で保険適用となります。軽症ではマウスピース治療や、減量・禁酒などの生活習慣改善も有効です。
心房細動の治療では、脳梗塞予防のための抗凝固療法、脈を整える薬物療法、不整脈の原因部位を焼灼するカテーテルアブレーションなどがあります。
両方の病気がある場合、同時に治療することで相乗効果が期待できます。CPAP治療を行うと心房細動の再発率が低下するという報告があります。
※検査・治療の適応は症状や全身状態により異なり、医師が状態を見て判断いたします。
こんな症状があれば早めに受診を
緊急性が高い症状
激しい胸痛が続く、息苦しさがひどく横になれない、意識がもうろうとする・失神した、手足の麻痺やしびれ・ろれつが回らない——これらの症状がある場合は、ためらわずに救急車を呼んでください。
早めに受診すべき症状
動悸が週に数回以上起こる、脈のリズムがバラバラ、いびきを指摘されており日中の眠気が強い、夜中に何度も目が覚める・息苦しくて起きる、朝の頭痛や疲労感が強い、血圧の薬を飲んでいるのに下がりにくい——こうした症状がある場合は早めの受診をお勧めします。
まとめ
夜間の動悸は、睡眠時無呼吸症候群と心房細動という2つの病気が関係している可能性があります。自律神経の乱れを介して両者は密接につながっており、放置すると夜間突然死や脳梗塞といった重大なリスクにつながることがあります。
しかし、適切に診断し治療を受ければ、これらのリスクは大きく軽減できます。「たかがいびき」「ちょっとした動悸」と軽視せず、症状が続く場合は早めに医療機関にご相談ください。
動悸の背景としての睡眠時無呼吸症候群(SAS)の総合ガイドはこちら
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- 夜中に動悸で目が覚めるのは心房細動ですか?
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原因は心房細動のほか睡眠時無呼吸、甲状腺異常など様々です。脈のリズムが不規則な場合は心房細動の可能性があり、繰り返す場合は心電図検査をお勧めします。
- 睡眠時無呼吸症候群と心房細動は関係ありますか?
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深い関係があります。心房細動患者の約8割に睡眠時無呼吸が合併しているとの報告もあり、無呼吸による自律神経の乱れが心房細動を誘発すると考えられています。
- 睡眠時無呼吸があると突然死のリスクが高まりますか?
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長期的なリスク上昇の可能性が報告されています。CPAP治療などで適切に管理すればリスクを下げることが期待できます。
- 心房細動があると脳梗塞になりやすいのですか?
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心房細動がある方は脳梗塞リスクが約5倍高いとされています。抗凝固薬による予防が重要で、自己判断での中断は危険です。
- CPAPを使うと心房細動は治りますか?
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CPAPにより心房細動の再発が抑えられる可能性があり、再発率が約30%低下したとの報告があります。ただし個人差があり医師と相談しながら継続することが大切です。
参考文献
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- 日本循環器学会(JCS).循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン(2023年改訂版)
- 日本呼吸器学会.睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020.
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