「健康診断で血糖値が高いと指摘されたが、なかなか下がらない」 「家族から、寝ているときに呼吸が止まっていると言われた」
もし、あなたがこのようなお悩みを抱えているなら、それは単なる偶然ではないかもしれません。実は、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」と「糖尿病」には、切っても切れない深い関係があります。
「ただのいびき」や「少し血糖値が高いだけ」と放置してしまうと、知らず知らずのうちに体の中で**「負の連鎖」**が起き、心臓や血管に大きな負担をかけてしまう恐れがあります。
この記事では、なぜ睡眠のトラブルが血糖値を上げてしまうのか、その医学的なメカニズムと、適切な治療によって得られる改善効果について、専門的な知見をもとにわかりやすく解説します。
なぜ「睡眠時無呼吸症候群」だと「糖尿病」になりやすいのか?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まり、体が酸欠状態になる病気です。 多くの研究により、SASの患者さんは糖尿病(2型糖尿病)を合併する頻度が高いことがわかっています。では、なぜ「呼吸」と「血糖値」が関係しているのでしょうか。

酸素不足が招く「インスリン抵抗性」とは
最大の原因は、呼吸が止まることによる**「低酸素状態」と「交感神経の緊張」**です。
睡眠中に呼吸が止まると、血中の酸素濃度が低下します。すると脳は「酸素が足りない!」と危機感を感じ、体を無理やり起こして酸素を取り込もうとします。この時、体を興奮させる自律神経である**「交感神経」**が過剰に活発になります。
【メカニズムのポイント】 交感神経が緊張すると、「アドレナリン」や「コルチゾール」といったストレスホルモンが分泌されます。これらのホルモンには血糖値を上げる作用があるだけでなく、インスリン(血糖値を下げるホルモン)の効き目を悪くしてしまう働きがあります。
これを医学用語で**「インスリン抵抗性」**と呼びます。つまり、すい臓からインスリンが出ていても、体がうまく反応せず、血糖値が下がりにくくなってしまうのです。
肥満だけではない?「痩せ型」でも注意が必要な理由
「自分は太っていないから大丈夫」と思っていませんか? 確かに「肥満」はSASと糖尿病の共通した最大のリスク因子です。脂肪組織から出る物質がインスリンの効きを悪くし、同時に喉の周りの脂肪が気道を狭めるからです。
しかし、日本人は欧米人に比べてあごが小さい傾向があり、痩せ型の方でも睡眠時無呼吸症候群になりやすいという特徴があります。
- 下あごが小さい(小顎症)
- 舌が大きい
- 扁桃腺が大きい
こうした骨格的な特徴がある場合、体重が標準でも気道が塞がりやすく、SASによるストレスで糖尿病リスクが高まる可能性があるため注意が必要です。
放置は危険。合併症リスクの増大について
SASと糖尿病が合併している状態を放置することは、単に「数値が悪い」だけでは済みません。この2つが重なることで、全身の血管に対するダメージが加速度的に増大します。
心筋梗塞や脳卒中のリスクが跳ね上がる
糖尿病は血管をボロボロにする病気ですが、そこにSASによる「夜間の高血圧」や「低酸素」が加わると、動脈硬化が急速に進行します。
【重要】 特に注意が必要なのは、睡眠中の心臓発作や脳卒中です。 SASの患者さんは、健康な人に比べて心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)の発症リスクが約2〜3倍になると言われていますが、糖尿病を合併していると、そのリスクはさらに跳ね上がることが懸念されます。
糖尿病合併症(網膜症・腎症)への悪影響
糖尿病には、以下の三大合併症があります。
- 網膜症(目が悪くなる)
- 腎症(腎臓が悪くなる)
- 神経障害(手足がしびれる)
睡眠時無呼吸症候群による睡眠の質の低下や、夜間の酸素不足は、これらの合併症とも関連している可能性があります。特に、腎臓は血管の塊のような臓器であるため、夜間の血圧変動によるダメージを受けやすいことが知られています。
睡眠時無呼吸症候群の治療で、血糖値は下がるのか?
ここまで怖い話が続きましたが、良いニュースもあります。 **「睡眠時無呼吸症候群を適切に治療することで、血糖コントロールが改善する」**という多くの研究報告があります。

CPAP療法による血糖コントロール改善効果
SASの標準的な治療法に、CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)があります。これは、寝ている間に鼻から空気を送り込み、気道を広げて無呼吸を防ぐ治療法です。
CPAP治療を継続して行うことで、以下のような効果が期待できます。
- インスリン抵抗性の改善: 睡眠中の酸素不足が解消され、ストレスホルモンの分泌が減るため、インスリンが効きやすい体になります。
- HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の低下: 長期的な血糖状態を示す数値が改善したというデータも報告されています。
良質な睡眠がもたらす食欲抑制効果
また、しっかり眠れるようになることで、ホルモンバランスが整います。
- レプチン(満腹ホルモン)が増加
- グレリン(食欲増進ホルモン)が減少
睡眠不足の状態では、脳が「エネルギー不足」と勘違いして食欲を増進させてしまいますが、良質な睡眠をとることで過食を防ぎ、体重管理(ダイエット)もしやすくなります。結果として、糖尿病の改善にもつながるのです。
検査と診断の流れ~まずは現状を知ろう~
「もしかして、自分も睡眠時無呼吸症候群(SAS)かも?」と思ったら、まずは客観的なデータで自分の睡眠状態を知ることが大切です。検査は決して怖いものではありません。
自宅でできる簡易検査と精密検査(PSG)
SASの検査は、大きく分けて2つのステップがあります。
- 簡易検査(スクリーニング)
- 内容: 自宅で、手の指や鼻の下にセンサーを取り付けて寝るだけの簡単な検査です。
- わかること: 血液中の酸素飽和度や脈拍数、呼吸の状態から、無呼吸の可能性を判定します。検査機器を自宅に郵送する対応を行っている医療機関もあります。
- 精密検査(PSG:ポリソムノグラフィー)
- 内容: 簡易検査で「疑いあり」となった場合に行います。専門の医療機関に1泊入院し、脳波や筋電図、眼球運動などを詳しく測定します(※最近は自宅でできる精密検査もあります)。
- わかること: 無呼吸の重症度(AHI:無呼吸低呼吸指数)や睡眠の深さ、質を正確に診断し、CPAP治療が必要かどうかを決定します。
糖尿病内科と呼吸器内科、どちらに行くべき?
「いびき」と「高血糖」、どちらも気になる場合、どの科を受診すべきか迷うかもしれません。
- 理想的な受診先:
- 「糖尿病」と「睡眠時無呼吸症候群」の両方を診られるクリニック(総合内科や、呼吸器・消化器・代謝内科が連携している医療機関)がベストです。
- 「糖尿病」と「睡眠時無呼吸症候群」の両方を診られるクリニック(総合内科や、呼吸器・消化器・代謝内科が連携している医療機関)がベストです。
- かかりつけ医がいる場合:
- すでに糖尿病で通院中の方は、まず主治医に「いびきがひどいと言われる」「睡眠時無呼吸症候群ではないか心配だ」と相談してください。多くの糖尿病専門医はSASとの合併リスクを熟知しているため、スムーズに簡易検査の手配や専門医への紹介をしてくれます。
よくある質問(Q&A)
患者様から多く寄せられる、睡眠時無呼吸症候群と糖尿病に関する疑問にお答えします。
Q1. 痩せれば睡眠時無呼吸症候群も糖尿病も治りますか?
A. 肥満が原因である場合、減量は非常に効果的です。 体重を5〜10%落とすだけで、無呼吸の回数が減り、血糖値も改善するケースが多くあります。ただし、日本人の場合は「あごが小さい」などの骨格が原因のこともあるため、痩せても治らない場合はCPAPなどの治療を継続する必要があります。
Q2. CPAP治療は一生続けなければなりませんか?
A. 必ずしも一生ではありません。 減量に成功したり、耳鼻科的な手術で気道が広がったりして無呼吸が改善すれば、治療を卒業できることもあります。しかし、糖尿病の管理と同様に、CPAPは「眼鏡」のようなもので、かけている間は正常な状態を保てる治療法です。自己判断でやめず、医師と相談しながら継続しましょう。
Q3. いびきをかいていなければ大丈夫ですか?
A. いびきがなくても「隠れ無呼吸」の可能性があります。 「音のない無呼吸」もありますし、本人が自覚していないだけの場合もあります。「日中の強い眠気」「夜中に何度もトイレに起きる」「朝起きた時に頭痛がする」などの症状があれば、一度検査を受けることをお勧めします。
まとめ:いびきと高血糖は「セット」で対策を
この記事では、睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の「危険な関係」と、治療による「改善の可能性」について解説しました。
- 睡眠中の酸素不足は、インスリンの効きを悪くし、血糖値を上げる。
- SASを放置すると、心筋梗塞や脳卒中のリスクが倍増する。
- CPAP治療などで睡眠を改善すれば、血糖コントロールも良くなる可能性がある。
「たかがいびき」と放置せず、体のSOSに耳を傾けてください。 もし症状が続いているなら、自己判断せずに早めに専門医に相談することが、将来の健康を守る一番の近道です。
参考文献
本記事は、以下の信頼できる医学論文・ガイドラインに基づき執筆されています。
- Effect of Continuous Positive Airway Pressure on Glucose and Lipid Profiles in Patients With Obstructive Sleep Apnoea
- 著者: F Cattazzo, et al.
- 掲載誌: Archivos de Bronconeumología, 2023
- Relationship between obstructive sleep apnea and type 2 diabetes mellitus
- 著者: Abelleira , et al.
- 掲載誌: Medicina Clínica (English Edition), 2024
- Effects of continuous positive airway pressure therapy on glucose metabolism in patients with obstructive sleep apnoea and type 2 diabetes
- 著者: J Herth, et al.
- 掲載誌: European Respiratory Review, 2023
- Benefits of continuous positive airway pressure on glycaemic control and insulin resistance in patients with type 2 diabetes and obstructive sleep apnoea
- 著者: W Shang, et al.
- 掲載誌: Diabetes, Obesity and Metabolism, 2021
- Obstructive Sleep Apnea and Cardiometabolic Disease: Obesity, Hypertension, and Diabetes
- 著者: E Tasali, et al.
- 掲載誌: Circulation Research, 2025
