薬が効かない高血圧は睡眠時無呼吸が原因?心臓へのリスクと治療法
「毎日きちんと血圧の薬を飲んでいるのに、なぜか数値が下がらない……」 「朝起きると頭が重いし、血圧も高い気がする」
もしあなたがこのようなお悩みを抱えているなら、それは単なる高血圧ではなく、睡眠時無呼吸症候群(SAS:サス) が隠れているかもしれません。
実は、薬が効きにくい高血圧(治療抵抗性高血圧)の患者さんのうち、かなりの割合で睡眠時の無呼吸が見つかっています。「たかがいびき」と放置していると、知らず知らずのうちに血管や心臓に大きな負担をかけ、深刻な病気を招くリスクがあります。
この記事では、なぜ睡眠中の無呼吸が高血圧を引き起こすのかという医学的なメカニズムから、放置するリスクについて、消化器・内科の専門医監修のもと解説します。原因を知ることは、血圧コントロールの第一歩です。
なぜ睡眠時無呼吸症候群が高血圧を引き起こすのか?【メカニズム】

「寝ている間はリラックスしているから、血圧も下がるはず」 通常であればその通りです。しかし、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の方は、眠っている間に体の中で**「緊急事態」**が起きています。
寝ている間に体が「酸欠」でパニックになっている
睡眠中に気道(空気の通り道)が塞がり呼吸が止まると、体内の酸素濃度が低下します。すると脳は「酸素が足りない!危険だ!」と感知し、無理やり呼吸を再開させようと体を覚醒させます。
この時、体を活動モードにする**「交感神経」**が急激に興奮します。
【重要】 交感神経が活発になると、心臓の鼓動が速くなり、末梢の血管がギュッと収縮します。これによって血圧が無理やり上昇させられてしまうのです。
一晩に何度も呼吸が止まるたびに、この「酸欠パニック」と「血圧上昇」が繰り返されるため、血管はずっと休まる暇がありません。
夜間も血圧が下がらない「ノンディッパー」の危険性
健康な人の血圧は、日中は高く、夜間睡眠中は低くなるリズムを持っています(ディッパー型)。 しかし、SAS患者さんは夜間の交感神経興奮により、睡眠中でも血圧が下がらない、あるいは逆に上がってしまうことがあります。
これを医学用語で「ノンディッパー(Non-dipper)」や「ライザー(Riser)」と呼びます。夜間の高血圧は、昼間の高血圧以上に心臓や脳へのダメージが大きいことが分かっており、特に注意が必要です。
薬が効かない?「治療抵抗性高血圧」とSASの密接な関係
「血圧の薬を種類を変えても、量を増やしても下がらない……」 こうしたケースは**「治療抵抗性高血圧」**と呼ばれますが、その背後には高い確率で睡眠時無呼吸症候群が存在します。
高血圧患者の30〜50%に睡眠時無呼吸が隠れている
一般的な高血圧患者さんのうち、睡眠時無呼吸症候群を合併している割合は約30〜50%と言われています。 さらに、降圧薬(血圧を下げる薬)を3種類以上飲んでも目標値まで下がらない「治療抵抗性高血圧」の患者さんに限ると、その合併率は約60~80%に達するという報告もあります。
【ここがポイント】 薬が効かないのではなく、「薬の効果を打ち消すほど、睡眠中の無呼吸が血圧を上げている」可能性があるのです。
早朝高血圧に注意が必要
SAS患者さんによく見られる特徴の一つが「早朝高血圧」です。 夜通し交感神経が刺激され続けた結果、朝目覚めた直後の血圧が最も高くなる現象です。
- 朝起きると頭痛がする
- 午前中、なんとなく調子が悪い
このような自覚症状がある場合は、家庭用血圧計で「起床直後の血圧」を測り、記録しておくことを強くお勧めします。診察時に医師に見せることで、SAS発見の手がかりになります。
放置は危険!高血圧×無呼吸が招く合併症リスク

「いびきがうるさいだけ」「少し血圧が高いだけ」と軽く考えてはいけません。高血圧と睡眠時無呼吸が組み合わさることは、命に関わる病気の「時限爆弾」を抱えているようなものです。
心不全・心筋梗塞のリスク増大
無呼吸の間、心臓は酸素不足の中で血液を全身に送ろうと必死に働きます。さらに、胸腔内(胸の中)の圧力が大きく変動することで、心臓自体が引っ張られたり圧迫されたりします。
これが毎晩何年も続くと、心臓の筋肉が厚くなる「心肥大」や、ポンプ機能が低下する「心不全」を招きます。また、動脈硬化が進むことで、心臓の血管が詰まる心筋梗塞のリスクも約2〜3倍になると言われています。
脳卒中(脳梗塞・脳出血)の引き金に
血圧の乱高下(サージ)は、脳の血管にもダイレクトにダメージを与えます。 特に、夜間や早朝の急激な血圧上昇は、血管が破れる脳出血や、血管が詰まる脳梗塞の大きな誘引となります。
【重要】 睡眠時無呼吸症候群がある場合、脳卒中の発症リスクは約2倍になるという研究データもあります。
いびきや無呼吸は、単なる「癖」ではなく、血管を守るために治療すべき「病気」のサインなのです。
まずは検査を!自宅でできるチェックと専門的な診断
「もしかして自分も?」と思ったら、まずは検査を受けて現状を把握することが大切です。検査は決して苦しいものではありません。
こんな症状はありませんか?(セルフチェック)
以下の項目に当てはまる数が多いほど、睡眠時無呼吸症候群のリスクが高まります。
- 大きないびきをかく(または呼吸が止まっていると指摘される)
- 朝起きた時に頭痛や頭重感がある(早朝高血圧のサイン)
- 日中に強い眠気を感じる
- 夜中にトイレで目が覚める(夜間頻尿)
- 薬を飲んでいるのに血圧が下がらない
簡易検査と精密検査(PSG)
医療機関では、以下の2段階で検査を行うのが一般的です。
- 簡易検査(スクリーニング) 自宅で寝る時に、指先や鼻に小さなセンサーを取り付けて測定します。血液中の酸素濃度や呼吸の状態を大まかにチェックできます。多くのクリニックで貸し出しが可能です。
- 精密検査(PSG:ポリソムノグラフィー) 簡易検査で疑いがあった場合に行います。脳波、眼球の動き、心電図などを同時に測定し、無呼吸の重症度(AHI:1時間あたりの無呼吸・低呼吸回数)を正確に診断します。
CPAP(シーパップ)治療で血圧は下がるのか?

睡眠時無呼吸症候群と診断された場合、第一選択となるのがCPAP(持続陽圧呼吸療法)です。鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道を広げて睡眠中の呼吸を確保します。
CPAP治療による降圧効果のエビデンス
「マスクをつけて寝るだけで、本当に血圧が下がるの?」と疑問に思うかもしれません。しかし、最新の研究データは、その効果を明確に示しています。
2024年に発表された「治療抵抗性高血圧とSAS」に関するメタ解析によると、CPAP治療を行うことで、24時間の収縮期血圧(上の血圧)が平均で約6mmHg低下することが示されています。
【重要:たかが6mmHgではありません】 血圧が2mmHg下がるだけでも、脳卒中や心筋梗塞のリスクは有意に減少すると言われています。
生活習慣の改善もセットで
CPAPは強力な治療法ですが、「これさえやれば痩せなくてもいい」わけではありません。 特に肥満がある方は、減量(ダイエット)と減塩を組み合わせることで、血圧の改善効果が劇的に高まることが分かっています。
高血圧が気になる方は早めに医療機関へ
「血圧が高いのは体質のせい」「いびきは疲れのせい」と自己判断してしまうのが一番のリスクです。
特に、「降圧剤を飲んでいるのに血圧が下がらない方」や「早朝の頭痛がある方」は、睡眠時無呼吸症候群の検査ができるクリニックへの受診を強くお勧めします。
いびきと血圧を同時に治療することは、あなたの将来の心臓と脳を守る、最も確実な投資になります。
よくある質問(Q&A)
Q1. 太っていなくても睡眠時無呼吸症候群になりますか? A. はい、日本人などのアジア人は注意が必要です。 欧米人は肥満が主な原因ですが、日本人は「あごが小さい(小顎症)」という骨格的な特徴があるため、痩せていても気道が狭くなりやすく、SASを発症する方が多くいらっしゃいます。
Q2. CPAP治療を始めたら、血圧の薬はやめられますか? A. 自己判断での中止は禁物です。 CPAPによって血圧が下がり、薬を減らせる可能性は十分にありますが、完全にゼロにできるとは限りません。必ず医師の指示に従って、血圧の推移を見ながら慎重に薬の量を調整してください。
まとめ
- **薬が効かない高血圧(治療抵抗性高血圧)**の背景には、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が高い確率で潜んでいる。
- 睡眠中の無呼吸は「交感神経の暴走」を招き、夜間や早朝の危険な血圧上昇を引き起こす。
- 放置すると心筋梗塞や脳卒中のリスクが倍増するが、CPAP治療によって血圧低下とリスク軽減が期待できる。
- 症状が続く場合は、自己判断せずに早めに専門医に相談することが重要。
参考文献
本記事は、医学的信頼性を担保するため、以下のガイドラインおよび査読付き医学論文(メタ解析を含む)に基づき作成されています。
- Effect of Continuous Positive Airway Pressure on Blood Pressure in Patients with Resistant Hypertension and Obstructive Sleep Apnea: An Updated Meta-analysis
- 著者: Sun L, et al.
- 掲載誌: Current Hypertension Reports, 2024
- Effect of CPAP therapy on blood pressure in patients with obstructive sleep apnoea: a worldwide individual patient data meta-analysis
- 著者: Pengo MF, et al.
- 掲載誌: European Respiratory Journal , 2025
- Sleep Duration and Quality: Impact on Lifestyle Behaviors and Cardiometabolic Health: A Scientific Statement From the American Heart Association
- 著者: St-Onge MP, et al.
- 掲載誌: Circulation, 2016 (Reaffirmed 2021)
- 高血圧治療ガイドライン2019 (JSH2019)
- 発行: 日本高血圧学会, 2019
- 概要: 日本国内における高血圧診療の標準ガイドライン。睡眠時無呼吸症候群合併高血圧の管理について詳述されている。
- Obstructive Sleep Apnea, CPAP and Arterial Hypertension: A Cardiologist’s View Point
- 著者: G Grassi, et al.
- 掲載誌: Archivos de Bronconeumología, 2021
