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CPAPで肝機能は改善する?ALT・AST変化の研究データを解説

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療であるCPAP療法。「毎晩器具をつけるのは面倒」「本当に効果があるのか実感が湧かない」と感じていませんか?

もし、「CPAPをしっかり使うことで、肝臓の数値も良くなる可能性がある」としたら、治療へのやる気が少し変わるかもしれません。

実は近年、SASと肝機能障害、特に代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)との深い関連が注目されており、治療によって肝機能データが改善したというエビデンスが数多く報告されています。

この記事では、消化器・肝臓の専門医が、CPAP療法が肝臓にもたらすメリットについて、医学的な研究データをもとに分かりやすく解説します。

【この記事でわかること】

  • なぜ睡眠時無呼吸症候群が肝臓に悪いのか(メカニズム)
  • CPAP治療でALT(GPT)などの数値はどう変化するのか
  • 効果を出すための「条件」と、改善しない場合のリスク

目次

なぜ睡眠時無呼吸症候群(SAS)で肝機能が悪化するのか?

「お酒も飲まないのに肝機能が悪い」「太っているから脂肪肝は仕方ない」と思っていませんか?

実は、肝臓へのダメージは「夜間の酸欠」が大きく関わっていることが分かってきました。

「間欠的低酸素」が招く酸化ストレス

睡眠時無呼吸症候群では、寝ている間に呼吸が何度も止まり、体の中が酸素不足(低酸素血症)になります。そして呼吸が再開すると、急激に酸素が体に巡ります。

この「低酸素」と「再酸素化」の繰り返しは、体にとって非常に大きな負担となります。これを「間欠的低酸素」と呼びますが、この状態は体内で酸化ストレスを強力に引き起こします。

【重要】

酸化ストレスは、肝臓の細胞に炎症を引き起こすトリガー(引き金)となります。これが、お酒を飲まない人の肝臓でも炎症が進んでしまう一因と考えられています。

また、SASによる交感神経の緊張や、インスリン抵抗性(血糖値を下げるホルモンの効きが悪くなること)の悪化も、肝臓に脂肪を溜め込みやすくする要因です。つまり、睡眠時無呼吸症候群を放置することは、毎晩肝臓をいじめているのと同じと言えるのです。

睡眠時無呼吸症候群による低酸素状態が酸化ストレスとなり肝臓へ炎症ダメージを与えるメカニズムの図解

【エビデンス解説】CPAP療法によるALT(GPT)値の改善データ

では、SASの標準治療であるCPAP療法を行うことで、実際に肝機能は良くなるのでしょうか?

ここでは、血液検査でよく目にするALT(GPT)やAST(GOT)といった数値の変化について、研究データ(エビデンス)の傾向を解説します。

治療による「肝酵素値」の低下

多くの臨床研究において、CPAP療法を適切に行うことで、肝機能障害の指標であるALTやASTの数値が有意に低下(改善)したと報告されています。

例えば、Journal of Clinical Sleep Medicineに掲載された研究(Kim D et al., 2018)では、CPAP治療を行ったSAS患者において、ALTやASTの有意な低下が確認されました。特に、「アドヒアランス(使用率)が高い患者ほど改善幅が大きかった」というデータは、治療継続の重要性を物語っています。

これは、CPAPによって夜間の無呼吸がなくなり、先ほど説明した「酸化ストレス」や「低酸素状態」が解消されるためと考えられています。

【医師からのアドバイス】

CPAPをつけることは、寝ている間に肝臓を「酸欠のダメージ」から守る行為です。数値を改善させるためには、継続的な治療が不可欠です。


肝臓の脂肪そのものは消える?「NAFLD Activity Score」の真実

「CPAPさえしていれば、暴飲暴食しても脂肪肝は治る?」

これについては、「半分正解で、半分間違い」という冷静な視点が必要です。

炎症は引くが、脂肪を減らすには「体重管理」が必須

2021年にAmerican Journal of Respiratory and Critical Care Medicineで発表されたランダム化比較試験(Ng SSS et al.)では、CPAP単独の使用だけでは、肝臓内の「脂肪量」そのものを劇的に減らす効果は限定的であると報告されました。

つまり、以下のように整理できます。

  1. CPAPの効果: 酸化ストレスを減らし、肝臓の炎症(ALT/AST)を鎮める効果は高い。
  2. 必要な併用: 肝臓に溜まった「脂肪そのもの」を減らすには、CPAPに加えて「減量(食事・運動)」が必要。

CPAPで睡眠の質が良くなると、日中の活動量が増えたり、ホルモンバランスが整うため、これに「 体重管理」を併用することが、肝臓を劇的に良くする最短ルートです。

もし、ご自身の肝臓の状態が「単なる脂肪肝」なのか、進行リスクのある「MASH(脂肪肝炎)」なのか詳しく知りたい場合は、専門的な検査をお勧めします。

CPAPによる抗炎症作用と生活習慣改善による脂肪減少の相乗効果で肝臓が健康になるイメージ図

効果を出すための鍵は「アドヒアランス(使用率)」

「CPAPの機械を借りてはいるけれど、週に数回しか使っていない」

もし心当たりがあるなら、非常にもったいないことです。前述の研究でも、「アドヒアランス(治療への参加・継続状況)」が肝機能改善の鍵であることが示されています。

「使えば使うほど」肝臓は休まる

研究データでは、CPAPの使用時間が長い患者さんほど、肝酵素値の改善や、肝線維化マーカーの改善が見られる傾向にあります。

逆に言えば、「ただ機械が家にあるだけ」では、肝臓を守る効果は期待できません。

  • 目標: 1日4時間以上、週に70%以上の日数で使用すること。

最近のCPAP機器は、スマホアプリで自分の使用状況(睡眠スコア)を確認できるものが増えています。「今夜も肝臓をいたわろう」という気持ちで、スコアをチェックする習慣をつけてみましょう。


数値が改善しない場合に考えられること・医師への相談

「CPAPをしっかり使っているのに、健康診断で肝機能の数値が下がらない…」

そのような場合は、SAS以外の要因が隠れている可能性があります。自己判断で放置せず、必ず医師に相談してください。

1. 隠れた肝疾患の可能性

SASによる脂肪肝だと思っていたら、実は別の病気が隠れていたというケースがあります。

  • ウイルス性肝炎(B型・C型)
  • 自己免疫性肝疾患
  • 薬剤性肝障害

2. 専門医受診の目安

以下のいずれかに当てはまる場合は、消化器病専門医への受診を強くお勧めします。

  • CPAP治療を数か月~1年程度続けても、ALT/ASTが高いまま。
  • 健康診断で「要精密検査」と言われた。
  • お酒を飲まないのにγ-GTPなどの数値も高い。

まとめ

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療は、単に「眠気」を取るだけのものではありません。

それは、毎晩あなたを苦しめる「酸欠」から肝臓を守るための積極的な治療でもあります。

  • CPAPは肝機能データ(ALT/AST)の改善に寄与するエビデンスがある。
  • ただし、脂肪そのものを減らすには「体重管理」との併用が最強の治療法。
  • 効果を出すには「毎晩しっかり使うこと(アドヒアランス)」が重要。

「たかがいびき、たかが脂肪肝」と放置せず、今の治療を続けることが、10年後のあなたの健康を守る大きな投資になります。

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参考文献

  1. Continuous Positive Airway Pressure Therapy on Nonalcoholic Fatty Liver Disease in Patients With Obstructive Sleep Apnea
    • 著者: Kim D, Ahmed A, Kushida C.
    • 掲載誌: Journal of Clinical Sleep Medicine, 2018
  2. CPAP Did Not Improve Nonalcoholic Fatty Liver Disease in Patients with Obstructive Sleep Apnea: A Randomized Clinical Trial
    • 著者: Ng SSS, et al.
    • 掲載誌: American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, 2021
  3. The impact of obstructive sleep apnea on nonalcoholic fatty liver disease
    • 著者: Tang H, et al.
    • 掲載誌: Frontiers in Endocrinology, 2023
  4. Management of non-alcoholic fatty liver disease patients with sleep apnea syndrome
    • 著者: Sheng W, Ji G, Zhang L.
    • 掲載誌: World Journal of Gastroenterology, 2022
  5. Effects of different treatments on metabolic syndrome in patients with obstructive sleep apnea: a meta-analysis
    • 著者: Liu J, et al.
    • 掲載誌: Front Med (Lausanne), 2024

この記事の監修者

医療法人社団心匡会 理事長 中村 文保

  • 日本内科学会 総合内科専門医
  • 日本消化器病学会 消化器病専門医
  • 日本消化器内視鏡学会 専門医
  • 日本肝臓学会 肝臓専門医

当院は、金沢・野々市・白山市の皆様に信頼される「地域のかかりつけ医」として、専門性の高い医療を提供しています。

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この記事を書いた人

Dr.中村文保のアバター Dr.中村文保 医療法人社団心匡会 理事長

金沢消化器内科・内視鏡クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医
日本肝臓学会 肝臓専門医

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