睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?原因・症状・治し方まで専門医が徹底解説
「寝ている間に、いびきが突然止まっているよ」
「息をしていない時があって怖い」
ご家族からこのような指摘を受け、不安な気持ちでこのページに辿り着いた方も多いのではないでしょうか。自分では自覚しにくい睡眠中の出来事だけに、指摘されると「何かの病気ではないか?」と心配になりますよね。
その症状は、単なる寝癖や疲れではなく、睡眠時無呼吸症候群(SAS)という病気のサインかもしれません。SASは放置すると、日中の眠気だけでなく、心臓や血管に大きな負担をかけ、全身の病気につながるリスクがあります。
この記事では、消化器病専門医・総合内科専門医である院長が、SASの原因から検査、治療法までを医学的根拠に基づいて分かりやすく解説します。
1. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とはどのような病気か?
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)とは、その名の通り「睡眠中に呼吸が止まってしまう」病気です。
医学的には、以下の条件に当てはまる場合にSASの疑いがあると診断されます。
- 睡眠中に10秒以上の気流停止(無呼吸)が繰り返される
- 1時間あたり5回以上、無呼吸や低呼吸(呼吸が浅くなる状態)が発生する
呼吸が止まると体内の酸素が不足し、脳が「息をしろ!」と覚醒反応を起こすため、深い睡眠(ノンレム睡眠)が得られなくなります。その結果、睡眠不足の状態が慢性化し、心身に様々な不調をきたします。
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と中枢性(CSA)
一口に「無呼吸」と言っても、大きく分けて2つのタイプが存在します。
① 閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)
SAS患者さんの9割以上がこのタイプです。
睡眠中に喉の筋肉が緩み、舌根(舌の付け根)が沈下することで、気道(空気の通り道)が塞がってしまうことが原因です。「ガーッ、ガーッ」という大きないびきと、突然の静寂(無呼吸)を繰り返すのが特徴です。
肥満の方に多い傾向がありますが、日本人は顎が小さい骨格の人が多いため、痩せている方でも発症するケースが少なくありません。
② 中枢性睡眠時無呼吸タイプ(CSA)
気道は開いているのに、脳から呼吸筋への指令が止まってしまうことで起こるタイプです。心不全などの心臓疾患や、脳卒中の既往がある方に見られることがあり、専門的な鑑別が必要です。

2. 「いびき」だけじゃない!SASのセルフチェックと症状
「いびき」はSASの代表的なサインですが、症状はそれだけではありません。体内の酸素不足や睡眠の質の低下により、日中や起床時にも様々なサインが現れます。
以下のような症状に心当たりはありませんか?
【睡眠中の症状(家族への確認推奨)】
- 激しいいびきをかく
- いびきが急に止まり、その後「ガッ」とあえぐように呼吸を再開する
- 寝汗をひどくかく
- 夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)
【起床時・日中の症状(自覚症状)】
- 朝起きた時に頭痛がする、頭が重い
- 熟睡感がなく、体がだるい
- 日中に強い眠気に襲われる(会議中や運転中など)
- 集中力低下や記憶力の低下を感じる
特に「夜中に何度もトイレに行く」というのは、加齢のせいだと思われがちですが、実はSASによる低酸素状態が心臓に負担をかけ、尿を増やすホルモンが分泌されることによる症状である場合が多いのです。
【重要】
「昼間の眠気」は、単なる寝不足と軽く見られがちですが、SASによる眠気は強烈で、居眠り運転による交通事故のリスクを一般ドライバーの約2~7倍に高めるというデータもあります。

3. なぜ治療が必要?放置した場合のリスクと合併症
「たかがいびき」と放置するのは非常に危険です。SASは別名「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」とも呼ばれ、治療せずに放置すると寿命を縮めるリスクがあることが分かっています。
その最大の原因は、呼吸停止によるSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)の低下です。
体内の酸素濃度が下がると、心臓は全身に酸素を送ろうと必死に働きます。また、苦しさから交感神経が興奮状態になり、血圧や血糖値が上昇します。この状態が毎晩続くことで、血管はボロボロになり、以下のような深刻な合併症を引き起こします。
- 高血圧: SAS患者の約半数が合併すると言われています。薬を飲んでも下がらない早朝高血圧はSASが原因の可能性があります。
- 糖尿病: 睡眠不足によるストレスホルモンの影響で、血糖値のコントロールが悪化します。
- 心血管疾患: 心不全、不整脈(心房細動など)、心筋梗塞のリスクが高まります。
- 脳血管障害: 脳卒中(脳梗塞・脳出血)のリスクを約3〜4倍に高めるとされています。
これらのリスクを回避するためには、早期に発見し、適切な治療を行うことが重要です。

4. 病院での検査と診断基準(AHIとは)
「もしかして、自分もSASかもしれない…」
そう感じたら、まずは専門の医療機関で検査を受けることが重要です。診断までの流れは以下のようになります。
ステップ1:簡易検査(スクリーニング)
自宅でできる検査です。寝る前に手の指や鼻の下にセンサーを取り付け、一晩眠るだけです。
この検査では、睡眠中の呼吸状態やSpO2(酸素飽和度)を測定し、SASの可能性を判定します。
ステップ2:精密検査(PSG検査)
簡易検査でSASの疑いが強い場合、より詳しく調べるために「終夜睡眠ポリソムノグラフィー(PSG)」検査を行います。
脳波、筋電図、眼球運動なども同時に測定し、睡眠の深さや質まで正確に解析します。(※1泊入院、または在宅で行える場合もあります)
重症度を決定する「AHI」とは?
診断の鍵となるのが、AHI(無呼吸低呼吸指数)という数値です。これは「1時間あたりに無呼吸・低呼吸が何回起きたか」を示します。
| 重症度 | AHI(回/時間) | 状態の目安 |
| 軽症 | 5 ~ 15未満 | 軽度のいびきや眠気がある |
| 中等症 | 15 ~ 30未満 | 日中の眠気が強く、合併症リスクが上がり始める |
| 重症 | 30以上 | 即座に治療が必要。脳・心臓への負担が極めて大きい |
5. 睡眠時無呼吸症候群の主な治療法
SASと診断されても、絶望する必要はありません。適切な治療を行えば、劇的に睡眠の質が改善し、合併症のリスクも下げることができます。
① CPAP(シーパップ)療法:ゴールドスタンダード
中等症~重症の方に最も推奨される治療法です。
鼻にマスクを装着し、機械から空気を送り込んで気道を広げた状態で眠ります。
【治療の効果】
CPAPを使用した翌日から「朝のスッキリ感が全く違う!」「昼間の眠気が消えた」と驚かれる患者さんが多くいらっしゃいます。
また、適切にCPAPを使用することで、心血管イベント(脳卒中や心筋梗塞など)のリスクを下げられることが多くの研究で報告されています。
② マウスピース(OA:口腔内装置)
軽症の方や、顎が小さいことが原因の方に有効です。下あごを少し前に出した状態で固定し、気道を広げます。専門の歯科医と連携して作成します。
③ 生活習慣の改善
肥満がある場合は、減量が根本治療になります。また、仰向けで寝ると重力で舌が落ち込みやすいため、横向き寝を意識するだけでもいびきが軽減することがあります。
6. 早期発見・治療のために(医師への相談目安)
「ただのいびき」と我慢せず、少しでも不安があれば医療機関へご相談ください。特に以下の項目に1つでも当てはまる場合は、早めの受診をお勧めします。
- 家族に呼吸が止まっていると指摘された
- 十分寝ているはずなのに、日中の眠気がひどい
- 高血圧の薬を飲んでいるが、なかなか下がらない(薬剤抵抗性高血圧)
- 朝起きると頭痛がする、口が乾いている
よくある質問(Q&A)
Q. 痩せれば治りますか?
A. 肥満が原因の場合は、減量によってAHIが改善し、CPAPが不要になるケースもあります。ただし、骨格(顎が小さい等)が原因の場合は、痩せていても治療継続が必要なことがあります。
Q. 治療費はどれくらいかかりますか?
A. SASの検査・治療には健康保険が適用されます。
3割負担の方で、簡易検査は約3,000円、CPAP治療は月額5,000円程度(診察代込み・レンタル料)が目安です。
Q. 一生CPAPを付けないといけませんか?
A. 眼鏡と同じで「つけている間は正常な状態になる」対症療法が基本ですが、生活習慣の改善で卒業できる方もいます。まずは「質の良い睡眠」を取り戻し、体調を整えることから始めましょう。
まとめ:質の高い睡眠を取り戻すために
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、あなたの「眠り」だけでなく「命」に関わる病気です。
しかし、正しく恐れ、正しく治療すれば、決して怖い病気ではありません。治療を始めた患者さんの多くが、「もっと早く受診すればよかった」とおっしゃいます。
いびきや無呼吸は、体が発しているSOSのサインです。
将来の脳卒中や心筋梗塞を防ぎ、翌日の活力あるパフォーマンスを取り戻すために、まずは一度ご相談ください。
参考文献
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020
- 監修: 日本呼吸器学会 / 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業班
- 発行: 南江堂, 2020年
- 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン(2023年改訂版)
- 発行: 日本循環器学会 (JCS), 2023年
- Polysomnographic analysis of respiratory events during sleep in young nonobese Japanese adults without clinical complaints of sleep apnea
- 著者: M.Okura et al.
- 掲載誌: Journal of Clinical Sleep Medicine, 2020
- Association Between Obstructive Sleep Apnea and Cardiovascular Risk: A Systematic Review and Meta-Analysis of Prospective Cohort Studies.
- 著者: Craciun M-L et al.
- 掲載誌: Medicina. 2025
- 概要: SASが心血管リスクを増大させる定量的根拠として参照。
- e-ヘルスネット「睡眠時無呼吸症候群 / SAS」
この記事の監修者
医療法人社団心匡会 理事長 中村 文保
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本消化器内視鏡学会 専門医
- 日本肝臓学会 肝臓専門医
当院は、金沢・野々市・白山市の皆様に信頼される「地域のかかりつけ医」として、専門性の高い医療を提供しています。
