「十分寝たはずなのに、昼間どうしても眠くなる」
「家族から、寝ている時に息が止まっていると言われた」
もしあなたがこのような不安を抱えているなら、それは単なる疲れや体質の問題ではないかもしれません。睡眠中に呼吸が止まり、体内の酸素が不足する睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、放置すると日常生活に支障をきたすだけでなく、重大な健康リスクにつながる可能性があります。
「病院に行くほどのことかな?」と迷われている方へ。
まずはこの記事で、あなたの体のサインを確認してみてください。医学的なガイドラインに基づき、見逃してはいけない症状を解説します。
その不調、「ただの疲れ」ではないかもしれません
「最近、どうも疲れが抜けない」と感じていませんか?
現代人は忙しく、疲労を感じるのは当たり前だと思われがちです。しかし、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が隠れている場合、その疲労感は「質」が異なります。
最大の特徴は、睡眠時間は確保しているにもかかわらず、熟睡感の欠如が続くことです。
SASの患者さんは、睡眠中に何度も呼吸が止まる(無呼吸)あるいは浅くなる(低呼吸)ことで、脳が覚醒反応を起こし、深い睡眠に入ることができません。まるで一晩中、誰かに肩を揺すられ続けているような状態なのです。
【重要】
単なる寝不足であれば、週末に長く寝ることで回復することが多いですが、SASによる慢性的な疲労は、いくら時間をかけて寝ても解消されにくいという特徴があります。
「寝ても寝ても体が重い」という状態は、体が悲鳴を上げているサインかもしれません。

見逃してはいけない5つの危険サイン
睡眠時無呼吸症候群の症状は多岐にわたりますが、特に注意すべき「危険サイン」があります。以下の症状に心当たりがないか、確認してみましょう。
1. 起きているのに襲ってくる「耐え難い眠気」
最も代表的な症状は、日中の強い眠気です。
食後に少し眠くなる程度であれば生理的な現象ですが、SASの場合は昼間の眠気が強烈で、抗えないレベルになることがあります。
- 会議中や商談中に意識が飛びそうになる
- 信号待ちのわずかな時間に居眠りをしてしまう
- テレビを見ているといつの間にか寝ている
これらは、夜間の睡眠が分断されていることによる典型的な症状です。
2. 酸素不足が引き起こす「朝の頭痛」
意外に知られていないのが、起床時の頭痛です。
睡眠中に呼吸が止まると、体内に二酸化炭素が溜まります。二酸化炭素には血管を拡張させる作用があるため、脳の血管が広がり、朝起きた時にズキズキとした頭痛(早朝頭痛)を引き起こすのです。
「朝起きると頭が痛いが、起きて活動しているうちに治る」というパターンは、SASを疑う重要なサインです。
3. 夜間の頻尿
「年のせいかな?」と思われがちですが、夜中に何度もトイレに起きるのもSASのサインである場合があります。無呼吸による胸腔内圧の変化や低酸素状態が、利尿ホルモンの分泌に影響を与えるためです。
【メモ】
これらの症状は、ご自身では「体質のせい」と片付けてしまいがちです。しかし、これらは体が酸素不足を訴えている警告音なのです。

自分では気づけない?「家族の証言」が命綱
睡眠時無呼吸症候群の発見において、最も信頼できるデータは何でしょうか?
それは、高価な機械による検査の前に、隣で寝ている家族の証言であるケースが非常に多いのです。
本人は寝ているため、自分のいびきや呼吸停止には気づけません。しかし、パートナーや家族は以下のような異変に気づいているはずです。
- 激しいいびき: 家中に響くような大きないびきをかいている。
- 突然の静寂(無呼吸): いびきが突然ピタリと止まり、数秒〜数十秒間、呼吸音が聞こえなくなる。
- あえぐような呼吸: 呼吸が再開する際、「ガッ!」「プハッ!」と空気を貪るような大きな音を立てる。
これらは、気道が閉塞し、窒息しかけている状態から体が必死に呼吸を再開させようとしている反応です。
【重要】
もしご家族から「寝ている時に息が止まっていたよ」と指摘されたことがあるなら、それは非常に信頼度の高い診断の手がかりとなります。決して聞き流さず、専門機関への受診を検討すべきタイミングです。

【30秒診断】睡眠時無呼吸症候群セルフチェックリスト
「自分は大丈夫」と思っていても、客観的な指標で確認することは非常に重要です。
医療現場では「エプワース眠気尺度(ESS)」という問診票がスクリーニング(選別)に使われますが、ここではそれを分かりやすくアレンジした簡易チェックリストをご紹介します。
以下の項目について、最近の生活を振り返ってチェックしてみてください。
- 座って読書やテレビを見ていると、いつの間にか眠ってしまう
- 会議や映画館など、静かな場所で座っていると眠くなる
- 乗客として電車や車に1時間ほど乗っていると眠くなる
- 午後、横になって休憩するとすぐに寝入ってしまう
- 他者と会話をしている最中でも、ふと眠気に襲われる
- 食後、静かに座っていると眠くなる(お酒を飲んでいなくても)
- 運転中、信号待ちや渋滞で止まると眠くなる
いかがでしたか?
「眠くなるのは普通では?」と思う場面もあるかもしれませんが、これらが頻繁に起こる、あるいは抗えないほどの眠気である場合は要注意です。
より詳細な点数化による判定や、重症度の目安を知りたい方は、以下の記事で確認してみましょう。
放置すると怖い「集中力低下」と事故のリスク
「たかがイビキ、たかが眠気」と甘く見てはいけません。SASを未治療のまま放置することは、あなたの社会的信用と生命を危険に晒すことと同義です。
1. 仕事や運転での致命的なミス
脳が常に酸素不足(低酸素血症)の状態にあるため、集中力低下や判断力の鈍化が慢性化します。
これは仕事での単純ミスを招くだけでなく、居眠り運転による交通事故のリスクを劇的に高めます。重症のSAS患者の交通事故発生率は、健常者の約7倍というデータもあり、これは飲酒運転と同等の危険度とされています。
2. サイレントキラー「高血圧・心血管疾患」
睡眠中に呼吸が止まると、体は「窒息している!」とパニックになり、交感神経が興奮して血圧が急上昇します。これが毎晩繰り返されることで、血管はボロボロに傷つきます。
結果として、高血圧、心不全、脳卒中、心筋梗塞といった致命的な心血管疾患のリスクが跳ね上がります。
【重要】
薬を飲んでも下がらない高血圧(治療抵抗性高血圧)の患者さんの多くに、実はSASが隠れていることが分かっています。
「私が受診を決めた瞬間」
「病院に行くのは勇気がいる」という方も多いでしょう。
しかし、実際に治療を始めた患者さんの多くは、「もっと早く行けばよかった」と口を揃えます。
- Aさん(40代男性): 「妻から『昨夜、本当に息が止まっていて死ぬかと思った』と真顔で言われ、怖くなって受診しました。」
- Bさん(50代女性): 「朝起きても頭痛がひどく、脳外科に行っても異常なし。最後に睡眠外来を受診し、原因が分かりました。」
彼らの背中を押したのは、家族の一言や、原因不明の体調不良でした。あなたと同じ悩みを持っていた方々が、どのタイミングで決断したのかを知ることは、大きなヒントになるはずです。
受診の目安と診療の流れ
「自分も当てはまるかも」と思ったら、どこへ行けば良いのでしょうか。
1. 受診すべき診療科
まずは近くの「睡眠外来」や「いびき外来」を標榜しているクリニックを受診してください。
2. 検査の流れ(PSG検査)
問診で疑いがある場合、自宅でできる簡易検査を行います。さらに詳しい検査が必要な場合は、1泊入院して脳波や呼吸状態を精密に測るPSG検査(ポリソムノグラフィー)を行います。
痛みのある検査ではありませんので、ご安心ください。
3. 治療法(CPAPなど)
検査結果(AHI:無呼吸低呼吸指数)に基づき、睡眠中に空気を送り込んで気道を広げるCPAP(シーパップ)療法や、マウスピース治療などが選択されます。治療を始めると「世界が変わったように朝がスッキリする」と感動する患者さんも少なくありません。
よくある質問(Q&A)
Q1. 痩せている女性でも睡眠時無呼吸症候群になりますか?
A. はい、なります。
「肥満の中年男性の病気」というイメージが強いですが、日本人などのアジア人は欧米人に比べて「顎(あご)が小さい」傾向があります。そのため、痩せていても骨格的に気道が狭くなりやすく、女性や痩せ型の方でもSASを発症するリスクは十分にあります。
Q2. お酒を飲んで寝れば、ぐっすり眠れる気がするのですが?
A. 逆効果ですのでお控えください。
アルコールには筋肉を緩める作用(筋弛緩作用)があります。寝酒をすると喉の筋肉が緩んで気道が普段より狭くなり、無呼吸やいびきが悪化します。また、睡眠の質自体も浅くなるため、疲労回復の妨げになります。
Q3. 治療すれば完治しますか?
A. 適切な管理で健康な人と同じ生活が可能です。
骨格や加齢による筋肉の衰えが原因の場合、「完治(薬でゼロにする)」というよりは、眼鏡のように「器具(CPAPなど)を使って正常な状態を保つ」という付き合い方になることが多いです。しかし、治療を継続することで心臓病などのリスクを健常者同等まで下げることが可能です。
まとめ:その眠気は、体からのSOSです
今回ご紹介したチェックリストや症状に心当たりがある場合、それは「少し疲れているだけ」ではありません。あなたの体は、睡眠中に何度も酸欠状態になり、必死にSOSを出しています。
睡眠時無呼吸症候群は、早期に発見し治療を行えば、劇的に生活の質(QOL)が向上する病気です。
「もしかして?」と思った今が、受診のタイミングです。将来の重大な病気を防ぐためにも、ぜひ早めに専門医へ相談してください。
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参考文献
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020
- 監修: 日本呼吸器学会
- 発行: 南江堂, 2020年
- Diagnosis and Management of Obstructive Sleep Apnea: A Review
- 著者: Gottlieb DJ, Punjabi NM.
- 掲載誌: JAMA (The Journal of the American Medical Association), 2020
- Obstructive Sleep Apnea and Cardiovascular Disease: A Scientific Statement From the American Heart Association
- 著者: Yeghiazarians Y, et al.
- 掲載誌: Circulation, 2021
- Dose-response relationship between Obstructive Sleep Apnoea severity and C-reactive protein levels
- 著者: L Grote, et al.
- 掲載誌: ERJ Open Research, 2025
- Obstructive Sleep Apnea Syndrome in women: gender in sleep respiratory medicine
- 著者: C Antonaglia, et al.
- 掲載誌: Sleep and Breathing, 2025
この記事の監修者
医療法人社団心匡会 理事長 中村 文保
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本消化器内視鏡学会 専門医
- 日本肝臓学会 肝臓専門医
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