「太ってないし、いびきもかいていないはず。でも、昼間すごく眠いし、寝ても疲れが取れない…」
もし、あなたがこのような悩みを抱えているなら、それは単なる疲れや年齢のせいではないかもしれません。
睡眠時無呼吸症候群(SAS) は、「太った男性がかかる病気」というイメージが強いですが、実は痩せ型の女性でも発症することが分かっています。しかも、女性の場合は「いびきをかかない」「典型的な無呼吸症状が出にくい」という特徴があるため、うつ病や更年期障害と間違われ、見逃されてしまうケースが少なくありません。
この記事では、女性特有の「隠れSAS」の特徴と、更年期との深い関係、そして似た症状を呈する他の疾患との見分け方について解説します。最後まで読んでいただければ、ご自身の症状を客観的に見つめ直すきっかけになるはずです。
「太ってない・いびきがない」のに眠い…それは”隠れSAS”かもしれません
睡眠時無呼吸症候群は肥満の病気ではない
睡眠時無呼吸症候群(SAS)というと、「肥満」「大きないびき」「中年男性」というイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。確かに、首回りに脂肪がつくことで気道が狭くなり、無呼吸を引き起こすタイプ(肥満型)は存在します。
しかし、日本人においては事情が異なります。ある調査では、重症の睡眠時無呼吸症候群と診断された日本人の約30%が正常体型であったと報告されています。
これは、日本人を含むアジア人に比較的多い骨格的特徴が関係しています。「下顎が小さい」「顔の奥行きがない」「首が短い」といった頭蓋顔面形態を持つ方は、痩せていても気道が狭くなりやすい傾向があるとされています。
「非肥満型SAS」が見逃される理由
非肥満型SASの方は、以下のような理由から発見が遅れがちです。
- 「太っていないから無呼吸ではない」と本人も医療者も思い込みやすい
- いびきが大きくない、または周囲に指摘されにくい
- 典型的な「呼吸が止まる」症状より、「眠れない」「疲れが取れない」といった症状が前面に出る
【重要】痩せ型でも、下顎が小さい方、小顔の方、首が短い方、扁桃腺が大きい方は、睡眠時無呼吸症候群のリスクがあります。体型だけで判断しないことが大切です。

なぜ更年期から睡眠時無呼吸が増えるのか?女性ホルモンと気道の関係
閉経後、SASリスクは約3倍に
女性の睡眠時無呼吸症候群には、大きな特徴があります。それは、閉経を境に発症リスクが急上昇するということです。
Wisconsin Sleep Cohort Studyの研究では、閉経後の女性は閉経前と比較して睡眠時無呼吸症候群の頻度が約3.5倍になることが報告されています。また、ホルモン補充療法を受けている女性と受けていない女性を比較すると、受けていない女性のSAS有病率が約5倍高かったというデータもあります。
エストロゲン・プロゲステロン減少が気道に与える影響
では、なぜ閉経後に睡眠時無呼吸が増えるのでしょうか。その背景には、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの変化があると考えられています。
特にプロゲステロンには、換気(呼吸ドライブ)を促進する作用があることが知られています。閉経に伴いこれらのホルモン分泌が減少すると、以下のような変化が起こる可能性があります。
- 上気道の筋肉の緊張が変化し、睡眠中に気道が閉塞しやすくなる
- 体の脂肪分布が変化し、内臓脂肪や上気道周囲への脂肪沈着が増える
- 呼吸調節への影響により、無呼吸が起こりやすくなる
更年期以降の女性は、体重が増えていなくても、ホルモンの変化や体組成の変化によって睡眠時無呼吸のリスクが高まる可能性があります。

女性のSASはなぜ見逃されやすい?男性とは異なる症状の特徴
女性のSASは「非典型的」
睡眠時無呼吸症候群の典型的な症状といえば、「大きないびき」「呼吸停止を指摘される」「強烈な日中の眠気」です。しかし、女性の場合は、これらの典型的症状が目立たないことが多いのです。
女性のSASでよくみられる症状は、以下のようなものです。
- 眠れない、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒を伴う不眠症様の症状)
- 体力が低下している、疲れが取れない
- 精神症状(うつ、不安感、イライラ感)
- 動悸、悪夢、朝方の頭痛
- 集中力・記憶力の低下
男性SASと女性SASの症状比較
| 項目 | 男性に多い症状 | 女性に多い症状 |
|---|---|---|
| いびき | 大きく激しい | 軽度または目立たない |
| 無呼吸の自覚 | 家族に指摘されやすい | 気づかれにくい |
| 日中の眠気 | 強烈で突発的 | 慢性的な疲労感として現れる |
| 精神症状 | 比較的少ない | うつ、不安、イライラが多い |
| 不眠 | 少ない | 中途覚醒・入眠困難が多い |
| 好発年齢 | 40〜50歳代 | 50〜60歳代(閉経後に増加し、年齢とともに男女差は縮小) |
よくある相談パターン
パターン1:「更年期だと思っていました」 50代後半の女性。2年前から夜中に何度も目が覚めるようになり、日中のだるさが取れない。婦人科で更年期障害と診断されホルモン補充療法を受けたが改善せず。家族に「最近いびきをかくようになった」と言われ、睡眠外来を受診したところSASが判明。
パターン2:「うつ病の薬を飲んでも良くならない」 48歳女性。集中力の低下、無気力感、朝起きられないといった症状で心療内科を受診。抗うつ薬を処方されたが効果がなく、別の医師の勧めで睡眠検査を受けた結果、中等度のSASと診断。
パターン3:「太っていないから関係ないと思っていた」 55歳、BMI 21の痩せ型女性。慢性的な倦怠感と頭痛に悩み、様々な検査を受けたが異常なし。「まさか」と思いつつ睡眠検査を受けたところ、骨格要因による非肥満型SASと判明。

更年期障害?うつ?甲状腺?似た症状を呈する疾患との見分け方
女性SASは「他の病気」と間違われやすい
女性の睡眠時無呼吸症候群が見逃される大きな理由の一つが、更年期障害やうつ病、甲状腺機能低下症と症状が非常に似ていることです。
これらの疾患に共通する症状として、以下のようなものがあります。
- 倦怠感、疲労感
- 日中の眠気
- 集中力・記憶力の低下
- 気分の落ち込み、意欲低下
- 不眠(入眠困難・中途覚醒)
特に甲状腺機能低下症は注意が必要です。甲状腺機能低下症は女性に多く(男女比1:10〜30)、橋本病(慢性甲状腺炎)が原因となることが多い疾患です。顕性(明らかな)甲状腺機能低下症の有病率は女性で数‰〜1%程度とされますが、潜在性(軽度)を含めるとより多くなります。この疾患は睡眠時無呼吸症候群を合併しやすいことが分かっています。
甲状腺機能低下症とSASの深い関係
甲状腺ホルモンが減少すると、以下のような変化が気道に影響を与える可能性があります。
- ムコ多糖類(水分を保持する物質)が蓄積し、気道粘膜が浮腫む
- 舌が腫大する(巨大舌)
- 咽頭開大筋の筋力が低下する
- 代謝機能の低下により脳の呼吸中枢からのシグナルが変化する
つまり、甲状腺機能低下症が睡眠時無呼吸を引き起こしたり、増悪させたりすることがあるのです。逆に言えば、甲状腺ホルモンの補充療法によってSASが改善する可能性もあります。
鑑別のためのセルフチェック
以下の表は、似た症状を呈する疾患の特徴をまとめたものです。あくまで参考であり、正確な診断は医師の診察が必要です。
| 項目 | 睡眠時無呼吸症候群 | 更年期障害 | うつ病 | 甲状腺機能低下症 |
|---|---|---|---|---|
| いびき・無呼吸 | あり(女性は軽度のことも) | なし | なし | あり(気道浮腫による) |
| ホットフラッシュ | なし | あり | なし | なし(寒がりが多い) |
| 体重変化 | 変化なし〜増加 | 変化なし | 減少〜増加 | 増加(食欲低下なのに) |
| 皮膚・髪 | 変化なし | 乾燥傾向 | 変化なし | 乾燥、脱毛、眉毛が薄くなる |
| むくみ | 顔のみ(朝) | なし〜軽度 | なし | 全身性(押しても戻りにくい) |
| 便通 | 変化なし | 変化なし | 便秘または下痢 | 便秘 |
| 首の腫れ | なし | なし | なし | あり(甲状腺腫大の場合) |
【重要】 上記の症状が複数当てはまる場合や、治療を受けても改善しない場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性も含めて医師に相談することをお勧めします。

女性でも受けやすい自宅検査キット|SASの診断方法
「検査が大変そう」は過去の話
「睡眠の検査」というと、病院に泊まって体中にセンサーをつける大がかりなもの…というイメージをお持ちかもしれません。かつてはそのような精密検査(ポリソムノグラフィー:PSG)が主流でしたが、現在は自宅で手軽にできる簡易検査が普及しています。
自宅でできる簡易検査の流れ
ステップ1:医療機関を受診 内科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、睡眠外来などを受診し、問診を受けます。金沢・野々市・白山市エリアでも、簡易検査に対応している医療機関があります。
ステップ2:検査機器を自宅に持ち帰る 小型の検査機器(アプノモニター)を借りて、自宅に持ち帰ります。
ステップ3:就寝時に装着 就寝前に以下のセンサーを装着します。実臨床で用いられる簡易検査では、複数のセンサーを組み合わせて測定するのが一般的です。
- 手首または腹部に本体を固定
- 指先にパルスオキシメーター:血液中の酸素飽和度(SpO2)と脈拍を測定
- 鼻の下にカニューレ(鼻腔通気センサー):気流やいびき音を測定し、無呼吸・低呼吸の有無を判定
- 機器によっては胸部の動きを感知するセンサーが追加される場合もあります
これらのデータを総合的に解析することで、睡眠中の呼吸状態を評価します。痛みはなく、装着も比較的簡単です。普段通りに眠るだけで、睡眠中のデータが自動的に記録されます。
ステップ4:機器を返却し、結果説明 1〜2週間程度で結果が判明し、医師から説明を受けます。
検査費用の目安
簡易検査は健康保険が適用されます。
- 簡易検査:3割負担で約2,000〜3,000円程度(別途診察代)
- 精密検査(自宅):3割負担で約12,000円程度
- 精密検査(入院):3割負担で約30,000円程度
※負担割合や算定内容により変動します。詳しくは受診する医療機関にお問い合わせください。
まとめ|「隠れSAS」を放置しないために
女性の睡眠時無呼吸症候群は、「太っていない」「いびきをかかない」という理由で見逃されやすい疾患です。特に更年期以降は、ホルモンの変化により発症リスクが高まりますが、その症状は更年期障害やうつ病、甲状腺機能低下症と似ているため、適切な診断に至らないケースも少なくありません。
この記事のポイント
- 日本人を含むアジア人は骨格の特性から、痩せ型でも睡眠時無呼吸症候群になりやすい傾向がある
- 閉経後はエストロゲン・プロゲステロンの減少により、SASリスクが約3倍に上昇するという報告がある
- 女性のSASは「不眠」「疲労感」「精神症状」が前面に出やすく、見逃されやすい
- 甲状腺機能低下症はSASを合併・増悪させることがあり、両方の可能性を考慮することが大切
- 自宅でできる簡易検査があり、保険適用で手軽に受けられる
以下のような症状が続く場合は、一度医療機関への相談をご検討ください。
- しっかり寝ているはずなのに、日中の強い眠気が続く
- 夜中に何度も目が覚める
- 朝起きたときに頭痛やだるさがある
- 以前より疲れやすくなった
- 集中力や記憶力の低下を感じる
- 家族にいびきや呼吸の乱れを指摘された
症状が長引いている場合や、更年期障害やうつ病の治療を受けても改善しない場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性も含めて相談されることをお勧めします。「まさか自分が」と思わず、気になる症状があれば早めに専門家に相談してみてください。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の総合ガイドはこちら
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の記事一覧へ(カテゴリトップ)
- 痩せているのに睡眠時無呼吸症候群になることはありますか?
-
あります。日本人を含むアジア人は骨格の特性から、下顎が小さい方や小顔の方は痩せていても気道が狭くなりやすく、睡眠時無呼吸症候群を発症することがあります。重症患者の約30%が正常体型という報告もあり、体型だけで判断しないことが大切です。
- 女性の睡眠時無呼吸症候群は男性とどう違いますか?
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女性は大きないびきより「不眠」「疲労感」「うつ症状」が目立ちやすいのが特徴です。また、発症年齢が男性より遅く、閉経後に増加します。年齢とともに男女差は縮小しますが、女性は更年期障害やうつ病と間違われやすい傾向があります。
- 更年期障害と睡眠時無呼吸症候群の見分け方は?
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ホットフラッシュ(のぼせ・発汗)があれば更年期障害の可能性が高いですが、両方が合併していることもあります。家族にいびきや呼吸の乱れを指摘されている場合は、睡眠検査を受けることで区別できます。
- 甲状腺機能低下症と睡眠時無呼吸症候群は関係がありますか?
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関係があります。甲状腺機能低下症では気道粘膜の浮腫や舌の腫大が起こり、睡眠時無呼吸を引き起こしたり増悪させたりすることがあります。また、倦怠感や眠気など症状も似ているため、両方の可能性を考慮した検査が重要です。
- 睡眠時無呼吸症候群の検査は自宅でできますか?
-
はい、自宅でできる簡易検査があります。指先のパルスオキシメーターや鼻のカニューレなど複数のセンサーを装着して普段通り眠るだけで、睡眠中の呼吸状態を測定できます。健康保険が適用され、3割負担で約2,000〜3,000円程度です。
- いびきをかいていなくても睡眠時無呼吸症候群の可能性はありますか?
-
あります。女性の睡眠時無呼吸症候群では、いびきが軽度または目立たないケースが多いです。また、中枢性睡眠時無呼吸症候群(脳の呼吸中枢の問題)では、いびきを伴わないこともあります。
- 睡眠時無呼吸症候群を放置するとどうなりますか?
-
放置すると、高血圧、心疾患、脳卒中、糖尿病などのリスクが高まる可能性があります。また、日中の眠気による交通事故や労働災害の危険性も増加します。早期発見・早期治療が大切です。
参考文献(貼り付け用|2020年以降中心・最新版ガイドライン優先)
- 日本呼吸器学会(監修).睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020.2020.ISBN:978-4-524-24533-8
- 日本循環器学会.2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン.2023.
- 厚生労働省.健康づくりのための睡眠ガイド2023
- 日本女性医学学会(監修・編集).ホルモン補充療法ガイドライン 2025年度版.金原出版,2025.ISBN:978-4-307-30158-9
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