胃カメラで睡眠時無呼吸の兆候?
「胃カメラ(内視鏡)の検査を受けたあと、医師から『のどが狭くなっている』『睡眠時無呼吸症候群の気があるかもしれない』と言われた」
消化器の検査をしたはずなのに、なぜ呼吸や睡眠の話が出るのかと驚かれた方も多いのではないでしょうか。実は、胃や食道の状態と、睡眠時の呼吸には密接な関係があります。
特に「逆流性食道炎」と「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」は、互いに症状を悪化させ合う「負のスパイラル」に陥りやすい病気です。
この記事では、なぜ胃カメラで無呼吸のリスクがわかるのか、その医学的なメカニズムと、放置した場合のリスクについて、消化器内科専門医の視点で分かりやすく解説します。
なぜ胃カメラで「睡眠時無呼吸症候群」の疑いがわかるのか?
胃カメラは本来、食道・胃・十二指腸の粘膜を観察し、炎症やがん、潰瘍などを見つけるための検査です。しかし、検査中に通過する「のど(咽頭)」の形状や状態から、睡眠時無呼吸症候群(SAS)のリスクとなる所見を認めることがあります。

直接的な診断はできないが「状況証拠」が見つかる
まず大前提として、胃カメラだけで睡眠時無呼吸症候群を「確定診断」することはできません。 正確な診断には、睡眠中の脳波や呼吸状態を測る専用の検査(PSG検査など)が必要です。
しかし、胃カメラはSAS患者さんに特有の「喉や食道の変化(状況証拠)」を鮮明に捉えることができることがあります。これが、消化器内科医が「一度、睡眠の検査も受けたほうが良いかもしれません」とアドバイスをする根拠となります。
医師がチェックしている2つのポイント
内視鏡医は、主に以下の2点に注目して観察しています。
- 解剖学的特徴(物理的な狭さ) カメラを挿入する際、のどの奥(中咽頭)が脂肪で狭くなっていたり、舌の付け根(舌根)が落ち込んでいたり、口蓋垂(のどちんこ)が肥大・延長している所見が見られることがあります。これらは、仰向けで寝た際に気道を塞ぎやすい特徴です。
- 合併症のサイン(粘膜の荒れ) 詳しくは後述しますが、SASの患者さんは高い確率で「逆流性食道炎」を合併しています。食道の入り口やのど周辺に強い炎症が見られる場合、「夜間に無呼吸になり、胃酸が逆流しているのではないか?」と推測します。
【重要】 胃カメラでの指摘は、体が発している「隠れた酸欠サイン」を見つける重要なきっかけです。単なる「のどの形」の問題だと放置せず、真剣に受け止める必要があります。
【負のスパイラル】逆流性食道炎と睡眠時無呼吸の深い関係
「胸焼けがする(逆流性食道炎)」と「いびきをかく(睡眠時無呼吸)」。一見無関係に見えるこの2つの病気は、実は互いに原因となり、症状を悪化させる悪循環(負のスパイラル)を形成しうる関係にあります。
医学的にも、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の患者さんの多くに、胃食道逆流症(GERD)が見られることが多数報告されています。

胃酸が「のど」を攻撃するメカニズム
なぜ、無呼吸になると胃酸が逆流するのでしょうか? 要因として「胸腔内圧(きょうくうないあつ)の変化」が考えられます。
睡眠中に気道が塞がると、体は空気を吸い込もうとして必死に胸を広げようとします(強いいびきやあえぎ呼吸の状態)。すると、胸の中の圧力(陰圧)が極端に高まります。 この強い吸引力が、ストローでジュースを吸い上げるように、胃の中にある胃酸を食道やのどまで無理やり吸い上げてしまうのです。
炎症がさらなる「無呼吸」を招く
逆流した胃酸は強力な酸性であるため、食道やのどの粘膜を焼き、炎症(むくみ)を引き起こします。
- 胃酸逆流 → のどが炎症で腫れぼったくなる(浮腫)。
- 気道閉塞 → 腫れた粘膜が空気の通り道をさらに狭くする。
- 無呼吸悪化 → さらに強くいびきをかき、胃酸を吸い上げる。
このように、消化器と呼吸器の間で「炎症と閉塞の悪循環」が形成される可能性が指摘されています。
胃カメラ画像で見る「注意すべき異常所見」とは
では、実際に胃カメラでどのような所見が見つかった場合に、睡眠時無呼吸との関連を疑うべきなのでしょうか。医師が診断レポートに記載するキーワードとともに解説します。
逆流性食道炎(びらん・潰瘍)
最も一般的な所見です。食道と胃のつなぎ目(食道胃接合部)に、胃酸による縦方向の「ただれ(びらん)」や白っぽい苔のような変化が見られます。 重症度は「ロサンゼルス分類(Grade A〜D)」などで判定されますが、軽度であっても慢性的に続いている場合は注意が必要です。
バレット食道
逆流性食道炎が長期間続き、食道の粘膜が胃の粘膜のような性質に変化してしまった状態です。 これは「がん化(食道腺がん)」のリスクがある状態とされています。毎晩のように胃酸逆流が起きていると、このバレット食道が進行してしまうリスクがあります。
咽頭の浮腫・発赤(LPR所見)
食道だけでなく、もっと上の「のど(咽頭・喉頭)」にまで炎症が及んでいる状態です。 通常、胃酸は食道で止まることが多いのですが、無呼吸による強い吸引圧がかかると、のどまで酸が到達します。
- 披裂(ひれつ)部の発赤・腫脹: 声帯の後ろ側が赤く腫れている。
- 敷石状変化: 喉の奥がボコボコと石畳のように荒れている。
これらの所見がある方は、「朝起きた時に口が苦い」「声が枯れる」「喉に違和感がある」といった症状を伴うことが多く、睡眠の質も低下している可能性が高いと言えます。
放置は危険!消化器と呼吸器の二重リスク
「たかが胸焼け」「いつものいびき」と軽く考えてはいけません。消化器(食道)と呼吸器(睡眠)の異常を同時に放置することは、将来的に重大な疾患を招く「二重のリスク」を抱えることを意味します。
食道がん・咽頭がんのリスク上昇
最も警戒すべきは、粘膜の「がん化」です。 胃酸が常に食道に逆流し続けると、食道の粘膜が防御反応として変質し「バレット食道」になります。これは食道腺がんの前がん病変(がんになる一歩手前の状態)として知られています。
また、胃酸がのど(咽頭)まで達している場合、咽頭がんのリスク因子となる可能性が指摘されています。
なお、睡眠時無呼吸による低酸素状態は、基礎研究では、間欠的低酸素が腫瘍増殖や転移を促進しうることが示されており、SASとがんリスク・予後悪化の関連を示唆する観察研究もありますので、早期の対策が必要です。
心血管疾患(高血圧・心不全)への影響
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、寝ている間に何度も呼吸が止まるため、体は慢性の酸欠状態になります。これを補うために心臓は無理に働こうとし、血圧が上昇します。 ここに逆流性食道炎による「夜間の不快感・中途覚醒」が加わると、交感神経が休まらず、高血圧、不整脈、心不全、脳卒中などの心血管イベントのリスクが跳ね上がります。
指摘されたらどうする?確定診断と治療のステップ
胃カメラで「無呼吸の疑い」や「逆流性食道炎」を指摘された場合、どのような手順で検査・治療を進めればよいのでしょうか。消化器内科と睡眠医療の連携による「根本治療」のステップを解説します。
まずは簡易検査(パルスオキシメーター)とPSG検査
胃カメラはあくまで「粘膜の異常」を見つける検査であり、睡眠の状態を測るものではありません。 そのため、まずは自宅で指先にセンサーをつける簡易検査(パルスオキシメーター)を行い、血液中の酸素濃度や脈拍の変動をチェックします。 さらに詳しい解析が必要な場合は、専門医療機関に一泊して脳波や呼吸状態を精密に調べるPSG検査(ポリソムノグラフィー)を行います。これにより、無呼吸の重症度(AHI:無呼吸低呼吸指数)が確定します。
消化器内科での治療(PPI内服など)
まずは胃酸を抑える薬(PPI:プロトンポンプ阻害薬やP-CAB)を服用します。 胃酸の分泌を強力に抑えることで、食道の炎症を治し、夜間の胸焼けによる覚醒を防ぎます。しかし、これはあくまで「酸を減らす」対症療法であり、物理的に気道が塞がる「無呼吸」そのものを治すわけではありません。
CPAP療法による逆流症状の改善
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の標準治療であるCPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)は、鼻から空気を送り込んで気道を広げる治療法です。 実は、CPAPには「胃酸逆流を改善する」という副次的な効果があることが、多くの研究で証明されています。
- 気道が開く → 呼吸努力(強い吸い込み)がなくなる。
- 胸腔内圧が安定する → 胃から食道への「吸い上げ」が止まる。
つまり、CPAP治療を行うことは、睡眠の質を高めるだけでなく、薬でも治りきらなかった逆流性食道炎を改善する「一石二鳥」の治療法となる可能性があるのです。
まとめ:自己判断せず専門医に相談を
胃カメラ検査で医師が「喉の狭さ」や「無呼吸の可能性」に言及していたら、それは将来の重大な病気を未然に防ぐためのアドバイスです。
- 逆流性食道炎がなかなか治らない
- 家族にいびきや無呼吸を指摘される
- 日中の眠気が強い
これらの症状が重なる場合は、消化器内科で胃カメラを受けるだけでなく、睡眠時無呼吸の検査も可能なクリニックに相談することを強くお勧めします。 「胃」と「睡眠」の両面からアプローチすることで、驚くほど体調が改善するケースは少なくありません。
よくある質問(Q&A)
Q1. 市販の胃薬を飲んでいれば、無呼吸も良くなりますか?
A. いいえ、胃薬だけでは無呼吸は改善しません。 胃薬は「酸」を抑えて食道の炎症を和らげる効果はありますが、物理的に塞がっている「気道(のど)」を広げる効果はありません。根本的な解決には、体重管理やCPAP療法など、無呼吸そのものへの治療が必要です。
Q2. 睡眠時無呼吸症候群があると、胃カメラは苦しいですか?
A. 鎮静剤を使用する場合、注意が必要です。 無呼吸症候群の方は、鎮静剤(眠くなる薬)を使用すると舌がのどの奥に落ち込みやすく、呼吸状態が悪化するリスクがあります。検査前に必ず医師に「いびきをかく」「無呼吸の疑いがある」と伝えてください。医師は呼吸モニタリングを強化したり、薬の量を調整したりして安全に検査を行います。
参考文献
本記事は以下の医学的エビデンスに基づき作成されています。
- ACG Clinical Guideline for the Diagnosis and Management of Gastroesophageal Reflux Disease
- 著者: Katz PO, Dunbar KB, Schnoll-Sussman F, et al.
- 掲載誌: The American Journal of Gastroenterology, 2022
- URL: https://journals.lww.com/ajg/Fulltext/2022/01000/ACG_Clinical_Guideline_for_the_Diagnosis_and.14.aspx
- 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 2021(改訂第3版)
- 編集: 日本消化器病学会
- 発行: 南江堂, 2021
- Effect of continuous positive airway pressure on gastroesophageal reflux in patients with obstructive sleep apnea: a meta-analysis
- 著者: C Li, et al.
- 掲載誌: Sleep and Breathing, 2020
- Association Between Obstructive Sleep Apnea and Reflux Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis
- 著者: NEH Chehade, et al.
- 掲載誌: J Gastroenterol Hepatol, 2023
- Association of Barrett’s esophagus with obstructive sleep apnea syndrome: a bidirectional analysis of Mendelian randomization
- 著者: W Tan, et al.
- 掲載誌: Frontiers in Genetics / PMC, 2024
