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睡眠時無呼吸症候群と逆流性食道炎の「負の連鎖」|原因と治療法

「夜中、酸っぱいものがこみ上げてきて目が覚める」

「家族から『いびきがひどいし、時々息が止まっている』と指摘された」

もしあなたがこのような「胸焼け」と「いびき」の二重の悩みを抱えているなら、それは決して偶然ではありません。実は、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)胃食道逆流症(GERD)は、互いに症状を悪化させ合う「負の連鎖」に陥りやすい病気なのです。

この記事では、呼吸器内科と消化器内科、両方の視点からこの「負の連鎖」が起こるメカニズムと、それを断ち切るための治療法について、専門医の監修のもと分かりやすく解説します。正しい知識を持ち、適切なケアを行えば、安らかな眠りを取り戻すことは可能です。

胸焼けといびきの二重苦…睡眠時無呼吸症候群と逆流性食道炎の関係

睡眠時無呼吸症候群(SAS)、特に気道が塞がってしまう閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の患者さんにおいて、胃食道逆流症(GERD)の合併頻度は非常に高いことが知られています。

【重要】

研究によると、閉塞性睡眠時無呼吸の患者さんの約半数以上に、逆流性食道炎の症状が見られるというデータもあります。

これら2つの病気は、それぞれ独立して存在しているのではなくお互い関連しながら存在していることが、多くの研究で指摘されています。

「いびき」は気道が狭くなっているサインであり、そこに「胃酸の逆流」が加わることで、睡眠の質はさらに低下してしまいます。単なる「食べ過ぎ」や「疲れ」で片付けず、2つの病気が重なり合っている可能性を理解することが、治療の第一歩です。


【画像生成プロンプト】

  • テーマ: 悩める患者のイメージ(胸焼けといびきの苦しみ)
  • プロンプト(英語): Photorealistic image of a middle-aged Japanese man lying in bed at night, looking distressed. He is clutching his chest due to heartburn and has a pained expression. A semi-transparent overlay shows a visual representation of snoring sound waves coming from his mouth, symbolizing the dual suffering of sleep apnea and acid reflux. The room is dimly lit, emphasizing a restless night. Aspect ratio 16:9.
  • Alt属性(日本語): 夜中に胸焼けといびきの両方で苦しみ、胸を押さえて眠れない男性の様子

なぜ「負の連鎖」は起きるのか?呼吸と胃酸のメカニズム

では、なぜ「息が止まること」と「胃酸が上がってくること」が関係しているのでしょうか?

その鍵を握るのが、呼吸をする時の胸の中の圧力、胸腔内陰圧(きょうくうないいんあつ)の変化と、胃の入り口を締める筋肉である下部食道括約筋の働きです。

呼吸停止が生む「吸引力」

通常、私たちは息を吸うとき、横隔膜を下げて胸の中を少しだけ「陰圧(空気が薄い状態)」にし、肺に空気を引き込みます。

しかし、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の患者さんは、気道が塞がっているにもかかわらず、無理やり息を吸おうと激しく呼吸運動を行います(努力呼吸)。すると、胸の中は**強烈な陰圧(真空に近い状態)**になります。

イメージしてください

詰まったストローを力いっぱい吸い込むような状態です。この強い「吸い込む力」が、胃の中にある胃酸まで食道の方へ強力に吸い上げてしまうのです。

胃の入り口が緩む原因

さらに、無呼吸から呼吸が再開する際の一時的な覚醒(脳が起きること)や、呼吸努力による自律神経の乱れは、胃と食道のつなぎ目を締めている下部食道括約筋を緩みやすくさせると考えられています。

本来なら胃酸の逆流を防ぐはずの「フタ」が緩んでしまい、そこに先ほどの「強烈な吸引力」が加わるため、容易に胃酸が食道へと逆流してしまうのです。


閉塞性睡眠時無呼吸による強い吸い込み(陰圧)が、注射器のように胃酸を食道へ吸い上げるメカニズムの図解

SASとGERDを放置するリスクと「負のスパイラル」

この2つの病気の恐ろしい点は、一方が他方を悪化させる「負のスパイラル(悪循環)」を形成することです。

酸による炎症がさらに気道を狭くする

胃酸が食道の高い位置まで逆流すると、その酸刺激によって喉や気道の粘膜に炎症や**むくみ(浮腫)**が生じます。

むくんだ気道はさらに狭くなりやすいため、いびきや無呼吸の症状を悪化させます。すると、より強い呼吸努力が必要となり、さらに強い力で胃酸を吸い上げてしまう……という悪循環に陥るのです。

睡眠の質の低下と生活習慣病リスク

このスパイラルを放置すると、以下のようなリスクが高まります。

  • 睡眠の分断: 胸焼けや無呼吸による覚醒で、深い睡眠がとれない。
  • 生活習慣病の悪化: 高血圧、糖尿病、心疾患のリスク上昇。
  • QOL(生活の質)の低下: 日中の強い眠気、集中力の低下。

「たかが胸焼け」「たかがいびき」と放置せず、この連鎖をどこかで断ち切る必要があります。

睡眠時無呼吸症候群と逆流性食道炎が互いに悪化させ合う「負のスパイラル」を示す相関図

負の連鎖を断ち切るための治療アプローチ

この「負の連鎖」を断ち切るためには、どちらか一方だけでなく、両方の疾患に対して同時にアプローチすることが重要です。

CPAP治療による気道確保と逆流防止効果

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の標準治療であるCPAP(持続陽圧呼吸療法)は、気道に空気を送り込み続けることで「気道の塞がり」を解消します。

実は、このCPAPには「逆流性食道炎」に対しても一石二鳥の効果があることが、近年の研究で明らかになっています。

  1. 吸引力の解消: 気道が開通することで、無理な呼吸努力がなくなり、胃酸を吸い上げる「胸腔内陰圧」が発生しなくなります。
  2. 物理的な壁: 胸の中に陽圧(空気の圧力)がかかることで、物理的に胃酸が食道へ上がりにくくなる「圧の壁」が作られます。

【重要】

実際に、CPAP治療を適切に行うことで、逆流性食道炎の症状スコアや、食道内の酸暴露時間(酸にさらされる時間)が有意に改善したというデータも報告されています。

ただし、CPAPの設定圧が高すぎたり、空気を飲み込んでしまう(呑気症)と、逆にお腹が張って苦しくなることがあります。

生活習慣の改善(減量・寝姿勢)

薬や機器だけでなく、日々の習慣を変えることも強力な治療になります。

  • 減量(Weight Loss):内臓脂肪が減ると、物理的に胃を圧迫する力が弱まり、逆流が減ります。同時に、首回りの脂肪も減るため気道が広がりやすくなります。
  • 左側臥位(左向き)で寝る:胃の形状(袋状のカーブ)の関係上、**「左側を下」**にして寝ると、胃酸が食道へ流れ込みにくくなります。逆に「右側を下」にすると逆流しやすくなることが分かっています。

症状が重なる場合の医師への相談目安

「ただの胸焼け」「いつものいびき」と自己判断せず、以下のようなサインがあれば、早めに医療機関を受診してください。

こんな時は専門医へ

  • 市販の胃薬を飲んでも胸焼けや呑酸(酸っぱいげっぷ)が治らない。
  • 睡眠時間は足りているはずなのに、日中の眠気が強い。
  • 朝起きた時、口の中が苦い、喉がイガイガする。
  • 高血圧の薬を飲んでいるのに、血圧が下がりにくい(治療抵抗性高血圧)。

何科を受診すべき?

理想は、呼吸器内科と消化器内科の両方に対応しているクリニック、または連携がスムーズな総合病院です。

まずは、ご自身の最もつらい症状に合わせて選んでください。

  • 「いびき・無呼吸」が主訴 → 呼吸器内科(睡眠外来)
  • 「胸焼け・胃痛」が主訴 → 消化器内科(内視鏡検査)

当院では、内視鏡検査で食道の炎症(逆流性食道炎)を確認した際に、喉の形状から「隠れ無呼吸」の可能性を指摘し、早期発見につなげるケースも増えています。

まとめ:負の連鎖を断ち切り、安眠を取り戻そう

睡眠時無呼吸症候群と逆流性食道炎は、単なる「いびき」と「胸焼け」ではありません。互いに悪さをし合う「負の連鎖」こそが、あなたの不調の根本原因かもしれません。

しかし、このメカニズムさえ理解していれば、対策は可能です。

CPAP治療で呼吸を整えることは、胃を守ることにも繋がります。逆に、胃のケアをすることは、快眠への近道でもあります。

「もしかして?」と思ったら、一人で悩まず専門医に相談してください。その一歩が、心身の健康と爽快な朝を取り戻す鍵となります。

よくある質問(Q&A)

Q. 逆流性食道炎の薬(胃酸を抑える薬)を飲めば、いびきも治りますか?

A. 胃酸による喉の腫れが原因でいびきが悪化している場合、多少の改善は見込めますが、無呼吸の根本原因(気道の閉塞)は治りません。やはりCPAP等の無呼吸治療の併用が推奨されます。

Q. CPAPを使うと、逆にお腹が張って苦しいのですが…。

A. それは空気を飲み込んでしまう「呑気(どんき)」の可能性があります。CPAPの圧力を調整したり、マスクの種類を変えることで改善できる場合が多いので、主治医に必ず相談してください。

Q. 痩せれば両方とも治りますか?

A. 肥満は両方の病気の最大の共通リスクですので、減量は非常に効果的です。ただし、顎の形(小顎症)などが原因の場合は痩せても無呼吸が残ることがあるため、医師の判断が必要です。


参考文献

本記事の執筆にあたり、以下の医学的エビデンスを参照・引用しました。

  1. Impact of Continuous Positive Airway Pressure Therapy on Gastroesophageal Reflux Disease in Patients With Obstructive Sleep Apnea: A Prospective Cohort Study
    • 著者: S Saha, et al.
    • 掲載誌: Cureus, 2025
  2. Association Between Obstructive Sleep Apnea and Reflux Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis
    • 著者: X Zeng et al.
    • 掲載誌: Nature and Science of Sleep, 2025
  3. Causal association of gastroesophageal reflux disease with obstructive sleep apnea and sleep-related phenotypes: a bidirectional two-sample Mendelian randomization study
    • 著者: S Qin, et al.
    • 掲載誌: Frontiers in Neurology, 2023
  4. Bidirectional correlation between gastroesophageal reflux disease and sleep problems: a systematic review and meta-analysis
    • 著者: X Tan, et al.
    • 掲載誌: PeerJ, 2024
  5. Relationship between gastroesophageal reflux disease and objective sleep quality
    • 著者: P Gurges, et al.
    • 掲載誌: Journal of Clinical Sleep Medicine, 2022

この記事の監修者

医療法人社団心匡会 理事長 中村 文保

  • 日本内科学会 総合内科専門医
  • 日本消化器病学会 消化器病専門医
  • 日本消化器内視鏡学会 専門医
  • 日本肝臓学会 肝臓専門医

当院は、金沢・野々市・白山市の皆様に信頼される「地域のかかりつけ医」として、専門性の高い医療を提供しています。

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この記事を書いた人

Dr.中村文保のアバター Dr.中村文保 医療法人社団心匡会 理事長

金沢消化器内科・内視鏡クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医
日本肝臓学会 肝臓専門医

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