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いびきと脂肪肝の関係は?MASLD合併リスクと同時治療の重要性

「健康診断で肝臓の数値(ALT/AST)が高いと指摘されたけれど、お酒はあまり飲まない」

「最近、家族からいびきがひどいと言われるし、日中も眠い」

もし、この2つの悩みが重なっているなら、それは単なる偶然ではないかもしれません。

近年、肝臓の病気である脂肪肝(MASLD)と、睡眠の病気である睡眠時無呼吸症候群(SAS)には、密接な相互関係があることが医学的に明らかになってきました。

これらは互いに影響し合い、放置すると全身の健康を脅かす「負の連鎖」を引き起こします。

この記事では、消化器・肝臓専門医の視点から、いびきと肝臓の意外なつながりと、そのリスクについて解説します。

目次

睡眠時無呼吸症候群(SAS)と脂肪肝(MASLD)の意外な関係

「呼吸をする肺」と「代謝を司る肝臓」。離れた場所にあるこの2つの臓器は、実は血管と自律神経を通じて深くつながっています。

従来、お酒を飲まない人の脂肪肝は「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」と呼ばれていましたが、近年の国際的な定義変更により、代謝異常を伴うものは「MASLD(代謝機能障害関連脂肪肝疾患)」と呼ばれるようになりました。このMASLDの進行に、睡眠中の呼吸状態が大きく関与しています。

単なる肥満だけではない?病態の重複

一般的に、SASも脂肪肝も「肥満」が共通の最大リスク因子であることは間違いありません。しかし、研究データによると、肥満がない(BMIが正常範囲の)SAS患者さんであっても、肝機能障害が見られるケースが少なくないことが分かっています。

これは、睡眠時の呼吸停止が引き起こす「低酸素」そのものが、肝臓に対して直接的なストレスを与えているためと考えられています。つまり、体重を落とすだけでは解決しきれない「病態の重複」がそこには存在するのです。


【悪循環】放置すると進行する「負の連鎖」メカニズム

SASとMASLDが合併している場合、最も恐れるべきは、両者が互いを悪化させ合う「相互作用(悪循環)」です。

睡眠中の酸欠が肝臓を攻撃する

睡眠時無呼吸症候群の特徴は、寝ている間に何度も呼吸が止まり、体内の酸素濃度が低下することです。これを医学的に「間欠的低酸素血症」と呼びます。

この低酸素状態となると、肝臓の細胞は酸欠に苦しみ、「酸化ストレス」と呼ばれるダメージを受けます。すると、本来エネルギーとして使われるはずの脂肪が肝臓に蓄積しやすくなり、炎症を引き起こす物質(サイトカイン)が放出され、脂肪肝が悪化してしまうのです。

肝臓の炎症が睡眠の質をさらに下げる

逆に、MASLD(脂肪肝)によって肝臓で炎症が起きると、インスリン抵抗性(血糖値を下げるホルモンが効きにくくなる状態)が悪化したり、脂肪組織から分泌されるホルモンバランスが崩れたりします。

これにより、首回りの脂肪沈着が進んだり、呼吸をコントロールする神経系に影響が出たりして、結果としてSASの無呼吸発作をさらに重症化させることがあります。

このスパイラルを断ち切るためには、片方だけでなく両面からのアプローチが不可欠です。

睡眠時無呼吸症候群による低酸素と脂肪肝の炎症が悪循環を起こしている図解

恐ろしい合併症リスク:全身性炎症と動脈硬化

いびきと肝機能異常を「よくあること」と放置してはいけない理由は、これらが単なる局所の病気にとどまらず、「全身性炎症」の引き金となるからです。

沈黙の臓器で進む線維化とNASH

MASLD(脂肪肝)の一部は、炎症が慢性化することで肝細胞が壊れ、線維化(肝臓が硬くなること)が進行します。これはMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎、旧NASH)と呼ばれる状態で、放置すれば肝硬変や肝がんへと進行するリスクを含んでいます。

特にSASを合併している患者さんは、夜間の低酸素ダメージが毎晩加わるため、この線維化の進行スピードが速まる可能性が指摘されています。

全身の血管ボロボロに?心筋梗塞・脳卒中の危機

SASによる交感神経の緊張と、MASLDによる炎症物質の放出は、血管の内皮細胞を傷つけ、動脈硬化を急速に進行させます。

【重要】

研究によると、SASと脂肪肝を合併している患者さんは、どちらか一方だけの患者さんに比べて、動脈硬化がより悪いという研究もあり、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患(CVD)を発症するリスクが高くなることが懸念されています。

将来の大きな病気を防ぐためにも、早期にこの「炎症の火種」を消し止める必要があります。


脂肪肝と無呼吸症候群が原因で心臓や脳血管へ悪影響が及ぶリスクを示した人体図

同時に治す!専門医が提案する治療戦略

「肝臓の治療」と「いびきの治療」を別々に考える必要はありません。両者は原因が共通していることが多く、適切な治療を行えば**「一石二鳥」の改善効果**が期待できるからです。

当院のような消化器・肝臓専門医が推奨する、SAS合併脂肪肝(MASLD)の治療戦略は以下の3本柱です。

CPAP療法が肝機能データも改善させる

睡眠時無呼吸症候群の標準治療であるCPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)は、単に眠気を取るだけではありません。

CPAPによって夜間の無呼吸がなくなり、酸素が十分に体に行き渡るようになると、肝臓への「低酸素ストレス」が軽減されます。

実際に、CPAP治療を適切に行うことで、肝臓の炎症を示す数値(ALT/AST)や、肝臓の硬さ(線維化マーカー)が改善したという研究報告が複数存在します。「良い睡眠」こそが、肝臓を休ませる最強の薬と言えるでしょう。

肝臓をいたわる食事と運動の相乗効果

SASと脂肪肝、どちらの治療においても最も重要なのは「体重の適正化」です。

日本消化器病学会のガイドラインでは、肥満を伴う脂肪肝の場合、現体重の7%以上の減量が推奨されています。

  • 食事: 糖質(炭水化物・果物)と脂質の過剰摂取を控え、肝臓の修復に必要なタンパク質を意識する。
  • 運動: 有酸素運動は内臓脂肪を減らし、首回りの脂肪も減少させるため、気道の閉塞も改善します。
CPAP療法と食事運動療法のバランスが肝臓といびきの治療に重要であることを示すイメージ図

早期受診の目安:こんな症状があれば専門医へ

「たかがいびき」「少し数値が高いだけ」と自己判断せず、以下のサインがある場合は早めの受診をお勧めします。

「いびき」+「倦怠感・数値異常」はイエローカード

以下の項目のうち、2つ以上当てはまる方は、すでに「負の連鎖」が始まっている可能性があります。

  • 家族から「寝ている間に呼吸が止まっている」と言われた。
  • 日中、強い眠気や集中力の低下を感じる。
  • 健康診断でALT(GPT)、AST(GOT)、γ-GTPのいずれかが高い。
  • 朝起きた時に口が渇いている、または頭痛がする。

消化器内科と呼吸器の連携の重要性

脂肪肝(MASLD)は消化器内科、睡眠時無呼吸症候群(SAS)は呼吸器内科や耳鼻科が専門領域ですが、合併している場合は全身を診る視点が必要です。

当院のように、肝臓の専門医でありながら、生活習慣病全体を管理できる「かかりつけ医」に相談することが、早期発見・早期治療への近道です。

よくある質問(Q&A)

Q1. 痩せ型なのに脂肪肝といびきを指摘されました。なぜですか?

A. 日本人特有の遺伝的体質と「隠れ肥満」が原因かもしれません。

日本人は欧米人に比べて、皮下脂肪よりも「内臓脂肪」がつきやすく、少ない体重増加でも脂肪肝やSASを発症しやすい傾向があります(非肥満型NAFLD/MASLD)。見た目が痩せていても、アゴが小さい骨格(小顎症)などがSASの原因となり、低酸素血症が肝臓に負担をかけている可能性があります。

Q2. CPAPを使えば、脂肪肝は完全に治りますか?

A. CPAPは強力なサポーターですが、根本治療には生活習慣の改善も必要です。

CPAPは夜間の酸欠を防ぎ、肝臓の炎症を抑える効果が期待できます。しかし、肝臓に蓄積した脂肪そのものを燃焼させるには、食事療法と運動療法による減量が不可欠です。CPAPで睡眠の質を上げ、日中の活動量を増やすことで、より効率的に脂肪肝を改善できます。

まとめ:いびきと数値異常は「体からのSOS」です

睡眠時無呼吸症候群(SAS)と脂肪肝(MASLD)は、別々の病気ではなく、「酸素不足」と「代謝異常」で結ばれた双子の病です。

  • いびきによる酸欠が、肝臓を傷つける。
  • 肝臓の不調が、さらに代謝を悪化させる。

この悪循環を断ち切るために、まずは一度、専門的な検査を受けてみませんか?

「いびきが治ったら、肝臓の数値も良くなった」という患者さんは少なくありません。将来の心筋梗塞や肝硬変を防ぐため、気になる症状がある方は、ぜひお早めにご相談ください。


参考文献

NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)

  • 著者: 日本消化器病学会・日本肝臓学会 編
  • 掲載誌: 南江堂, 2020年

A multi-society Delphi consensus statement on new fatty liver disease nomenclature

  • 著者: Rinella ME, et al.
  • 掲載誌: Journal of Hepatology, 2023

The impact of obstructive sleep apnea on nonalcoholic fatty liver disease

  • 著者: H Tang, et al.
  • 掲載誌: Frontiers in Endocrinology, 2023

Association of obstructive sleep apnea with nonalcoholic fatty liver disease: Evidence, mechanism, and treatment

  • 著者: Wang L, et al.
  • 掲載誌: Nature and Science of Sleep, 2024

Obstructive Sleep Apnea, Hypoxia, and Nonalcoholic Fatty Liver Disease.

  • 著者: Mesarwi OA, et al.
  • 掲載誌: Am J Respir Crit Care Med, 2019

この記事の監修者

医療法人社団心匡会 理事長 中村 文保

  • 日本内科学会 総合内科専門医
  • 日本消化器病学会 消化器病専門医
  • 日本消化器内視鏡学会 専門医
  • 日本肝臓学会 肝臓専門医

当院は、金沢・野々市・白山市の皆様に信頼される「地域のかかりつけ医」として、専門性の高い医療を提供しています。

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この記事を書いた人

Dr.中村文保のアバター Dr.中村文保 医療法人社団心匡会 理事長

金沢消化器内科・内視鏡クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医
日本肝臓学会 肝臓専門医

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